幸せのあり方(お持ち帰りは出来ません)
「近いうちに、オマエの事攫いに行くから。」
高校を卒業した日、竜がくれた言葉。
吃驚したけど、素直に嬉しくて忘れられない日になった。
そして、自分は専門学校へ進み
竜は父親についてカナダへ留学した。
しばらく離れ離れな日々が続いたけど、寂しくはなかった。
エアメール?も届いたし、国際電話もくれたから。
それに、隼人達も遊びに来てくれたし。
それでも、竜の事を想わない日はなかった。
早く帰国してくれる事を、願わずにはいられない。
竜がカナダに行って、半年くらい経ったある日。
持ち歩いてたケータイが、けたたましく鳴った。
着信音は、竜専用の『花』。
ドキドキと嬉しさが同時に押し寄せて、声を聞いた時には
思わず泣きそうになった。
耳朶に響く、竜の低い声。
ずっと聞きたかったこの声、じんわりと体に沁み入る。
泣きそうなのを堪える私に、竜は告げた。
「明日帰れそうだから、オマエ迎えに行くから。」
思わず聞き直しそうになったけど、その言葉はしっかり聞こえた。
竜が後で言ってたけど、カナダに行ったのは
海外で式を挙げさせたい彼の父親の希望。
そっちに住むかは、私達で決めていいと言ってるらしい。
流石町一番の権力者・・・お金もあるんだね。
海外に住むのは憧れるかもしれないが
私も竜も、日本を離れるつもりはなく
式だけカナダの式場で挙げる事とした。
式は、涼しい秋に行った。
ヤンクミや隼人達・(一応)教頭とかが参列。
私の両親と、竜の両親も勿論式には参加。
真ん中の通路を分けた左右に、座る。
初めての海外に、隼人達はとてもはしゃいでた。
式が始まると、私達以上にヤンクミが大泣きしてた(笑)
指輪の交換、神父の祝詞。
そして・・・誓いの口づけ。
とても幸せで、華やかな式は終わり
皆とワイワイ海外の夜を過ごし、二泊くらいして
私達は日本に建てた新居へ帰って来た。
新居は、二階建ての(かなり)立派な家。
玄関は吹き抜けだし、リビングは広いし
全室床暖房に冷暖房完備!
お風呂は一階と二階に、二つずつあるし!!
今までの生活じゃ、考えられない位豪華。
は天井の高いリビングに入り、ずっと部屋を見渡しながら
手に持ってる荷物をソファーの傍へ置く。
「うーん、新居の匂いvv」
「当たり前だろ、建てたばかりだぜ?」
「相変わらず夢がないなぁ〜まあいいや、それが竜だし。」
「夢がないなぁって何だよ・・・しかも一人で納得してるし。」
一通り見てから、はソファーへ座る。
向かいのソファーに座った竜を見つめて、ニコニコ笑うと言った。
「結婚式、すっごく良かったね。」
「ああ」
「ヤンクミなんて、私達以上に泣いてたし。」
「あれは泣き過ぎだろ」
「でもさ、隼人達も相変わらずだったね元気そうで良かったけど。」
「アイツ等はバカだからな」
淡白な答え、ヤンクミには冷静に突っ込み
隼人達の事には『バカだから』の一言。
流石にそれはないだろう、と竜を見ればそこには笑顔があった。
仲間の事になると、実はこんなに柔らかい顔をするんだね。
口じゃ冷たく言ってるけど、本当は嬉しいんだ。
の心も、自然と温かくなる。
竜は仲間をとても大事にする奴だって、ずっと前から知ってた。
自分の結婚式に、その仲間が来てくれて嬉しくない訳ない。
「ねえねえ、私のドレス姿はどうだった?」
「・・・まあ、良かったんじゃねぇ?」
「何それ、それだけ??隼人は似合うって言ってくれたよ?」
「ちっとオマエ、此処座れ。」
隼人の名を出すと、さっきとは違ってムッとなる竜。
ムッとしたいのはこっちだって!
一生に一回の、花嫁姿なんだからもうちょっと反応してよ。
とかブツブツ思いながら、は竜の隣に座る。
面と向かって文句でも言われるのか?と思ったが全く違った。
なんと、竜は腰掛けた私の膝の上に頭を乗せて
ソファーに横になったのだ。
これには免疫がなく、怒ってた顔も照れ顔になってしまう。
下からあの目に見つめられてる、そう思うと更に意識して照れる。
横になった竜は、照れてるのが分かり綺麗に笑うと
片手を伸ばし、真っ赤に染まったの頬に触れた。
「やっと俺のモンになったんだから、あんま隼人隼人言うな。」
ドキドキして、その手に触れられる事に任せてると
下から聞こえた声は、明らかに妬いてる感じだった。
言葉にして言われると凄く照れる。
二日前私は、小田切 になった。
これからは、毎日この人を見ていられる。
この人の傍にいられるんだね。
妬いてもらえるのが嬉しくて、幸せでいっぱいになった。
とてもヤキモチ焼きな旦那様にもう言わないと約束。
私がそう言うと、眼下の竜は安心したような顔をした。
その表情に、ドキリとさせられる。
前の竜なら、こんな風に柔らかい顔はしなかった。
こんな風に・・人を安心させる顔をしなかった。
何が竜を変えたんだろう。
それでも竜がとても愛しい事に、変わりはない。
どんな竜でも、私が好きになった事は事実だから。
「よく笑うようになったね」
そう言っては笑った。
いい加減鈍いな、誰が俺をそうさせてると思ってんだ?
それに、自分がどれだけモテてたか知らねぇだろ。
誰かに持って行かれないようにして、やっと手に入れた人。
コイツの笑顔や存在で、どれだけ俺が救われたか。
まあ・・その事はもう少ししてから、じっくり話してやるよ。
「オマエがそうさせたんだろ」
「私が?じゃあ、最近雰囲気が優しくなったのも?」
「それはオマエ限定・・・俺がそうしたいのはだけだから。」
「・・・竜、真顔で恥ずかしい事言わないで。」
「笑って言えってのか?」
「だって・・・!!」
だって!そんなカッコイイ声と顔で言われたら
絶対照れるし、顔が赤くなるから恥ずかしいんだって!
自分が喋るのをずっと見つめる下からの視線。
それに耐えかねて、両手で顔を隠せば
そっと手首を掴まれ、ゆっくり外される。
骨ばった手が、優しく自分の頬に触れて
それからその手がグッと、私の頭を寄せた。
「ともかく、俺を変えたのはオマエだし 責任取って傍にいろ。」
「ん・・・」
全身に響く竜の甘い声。
それに囚われながら、目を閉じた。
唇に付いた炎が燃え上がり、初めての夜が2人を包む。