『此処熊野のイベントだよ、姫君の世界と逆になるんだ。
渡す物も 甘い食べ物から花に変わる。』
一ヶ月前のあの日、ヒノエ君が私にそう教えた。
私の世界では、今日が男の子からのお返しがある日。
けれど、ヒノエ君いる熊野では
私がヒノエ君にお返しをする事になる。
接吻
どうしようかな〜お返しは楽しみなんだけど
自分も何かあげなくちゃならないってなると・・・
でも、食べ物じゃなくて 花になるんだから
そんなに悩む必要もないんだろうけど。
ヒノエ君に似合う花とは、どんな物だろう。
私には寒牡丹をくれた。
あの花は、大事に熊野の屋敷の庭に植え替えた。
何故熊野なのかと言うと、全ての旅が終わってから
私は元の世界には返らず この世界に残った。
それで・・旅の間言えなかった想いを、ヒノエ君に告げた。
彼はとっても喜んでくれて、熊野へと招待してくれた。
それからだ、熊野水軍の頭領であるヒノエ君の屋敷。
其処からあまり離れていない所に、屋敷を建ててくれた。
「イメージ的には、緋焔だから・・紅花だけど
あれって夏咲く花だし・・困った。」
私の欲しい花は夏の花・・他に似合う花ってある?
夏の太陽のように情熱的で、頭領として熱い心を持ってる。
ヒノエ君の姿に、私は何時だって支えられてた。
結局決まらないまま、私の足はヒノエ君のいる屋敷で止まった。
やだねぇ・・勝手に来ちゃってる。
「自然とそうなっちゃうのかもね。」
「何がだい?」
あははと笑っていると、耳にかかる温かい息。
同時に低くて甘い声が直接響き、ボッと顔が赤くなった。
「ヒノエ君!?何時からいたの??」
「今し方さ、可愛らしい姫君の声がしたから来てみたら」
こんな所で考え込んでるのを見つけたって訳。
と ご丁寧に説明してくれる。
細められる目線が、何ともやらしい。
とても同い年だなんて思えない色気・・・
「ヒノエ君は、どうして此処に?」
「ああ、丁度この前のお返しを届けに行こうと思ってたんだ。」
「そっか・・・」
お返しの言葉に、意識してないのに顔が曇る。
自分は準備出来ないままその日を迎えてしまったから
何となく顔向け出来ない気がして。
俯いていると、スッと指が顎に添えられて上を向かされた。
「理由は分からないけど、そんな顔はには似合わない。」
そう言ってとても艶やかに微笑む。
下手な女の子よりも、美人じゃない?
悔しいなぁ・・・
「そう?でも言う、私まだヒノエ君にあげる花が用意出来てないの」
「花?ああ・・別に構わないよ、今から貰うから。」
貰うって一体何を?と聞くと、ヒノエ君は何処からともなく
一つの小箱を取り出した。
不思議そうな顔をする私に、彼はそれを差し出す。
だから私も、その小箱を受け取ろうとした・・んだけど。
突然ヒョイッと小箱を引っ込ませたヒノエ君。
「あれ?どうして?」
「そんな顔すると、食べちゃうよ?まず聞きたい事があるんだ」
食べちゃうよ・・なんて貴方・・・・
そんな顔ってどんな顔してたのよ、私。
まあそれはともかく、悪戯っ子のように微笑むと
私に質問を出してきた。
でもそれは、ヒノエ君の企み。
「お返しは取り寄せた飴、姫君は口移しと自分で食べるの
どっちがいい?俺としては、口移しで食べさせてあげたいんだけど」
「は?・・くっ・・口移し!?」
「ああ」
意外な言葉というか、彼なら言い出しそうな発言だけど
不覚にも真っ赤になって、どもってしまう私。
その様子をとても満足気に眺めるヒノエ君。
して欲しいようなして欲しくないような・・・
けど こんな表で口移しなんて、恥ずかし過ぎる!!
「じ・・自分で食べます。」
意を決して何とか答えると、ヒノエ君の笑みは深さを増し
とっても楽しそうに笑ってサラッと言ってくれました。
「フフツ 駄目だよ、今日は男がお返しをする日。
残念ながら 姫君の願いでも聞けないな。」
ってちょっと!!男の子がお返しをする日と
口移しに何の関係があるのよ〜!!
叫びたい、叫びたかったけど・・それは軽く阻止される。
気づくとヒノエ君の腕が、私を抱き寄せていて
目の前で小箱から出した飴を含む。
その仕草の色っぽい事!!誘ってるとしか思えない!
「おまえは俺に任せてればいい、おいで食べさせてやるよ。」
何てそんな近くで言わないで!!
拒否権は私にはなく、近づいて来る顔を止められず・・・
そっと唇が重なった。
「う・・んっ」
ピチャ・・と耳元で滴るやらしい音。
重なった唇の間から、ヒノエ君の口の中にあった飴が
唾液と一緒に私の口の中へと移動する。
飴の甘さと、キスの甘さで眩暈がした。
ヒノエ君は、しばらく私の唇を味わうかのようにしていたが
やっと唇を離してくれた。
その際に、チュッと軽く唇にキスを落として。
「どう?甘美な味だと思わない?」
そんな濃厚なキスの後で、平然と聞かないでよ・・・
でもこの飴は、私の為に取り寄せてくれたんだよね。
そう思えば、この恥ずかしさはとても贅沢で
幸せなんだと思えて来た。
「ちょっと強引だったけど・・ヒノエ君の気持ち、伝わったよ。」
顔を赤らめて言うその姿、堪らない程愛しいね。
この花は永遠に愛でていたいと思うよ。
「それは良かった、これからのバレンタインデーとやらも
俺にとってはとても待ち遠しい物になったよ。姫君。」
おまえがくれる物なら、どんな物でも俺は嬉しいんだけどね。
どんな顔で、どんな想いで作ってくれるのか
今度はその想いも、おまえの口から聞かせてくれ。
俺がこんなにもおまえに恋焦がれるようになったのは・・
誰でもない、という花のせいなんだからな。