September act.5



♪~、と鳴り響いたコール音。

💚「バリニーズ、電話鳴ってるから出られる?」
🧡「はいはーい」

既に第二部の営業中の店内で交わされたやり取り。
バリニーズと呼んだ相手に頼み、店内に出て行くのは
仕立ての良いスーツに身を包んだプレイヤー。

鳴っていたコール音の出元は店内の事務所だ。
その対応を頼まれたのは人当たりの良い関西出身の青年。
軽快な足取りで事務所に走り込み、鳴り響いてる電話を取る。

🧡「もしもし、こちら『SnowDream』です、今宵も素敵な夢を見させますよ~」
🖤『康二お前な、そんなふざけた宣伝文句で電話に出んなよ』
🧡「またまたそんな事言って、この仕事はお客様第一やで?ってボンベイ?」
🖤『お前の話は今どうでもいいんだわ、阿部ちゃん居ないの?』
🧡「つれないなあ、生憎と今接客しに出て行ったばかりやな」

どないしたん?今日は同伴やろ?と電話口で聞いてくる康二。
今はどちらかと言うと幹部の誰かに出て貰いたかったと思ったのは内緒だ。

取り敢えず営業中にコール音に気づいて貰えただけでも幸運としよう。
気を取り直し、康二に分かるかは心配だが用件を伝えた。

今夜同伴以来のお客と待ち合わせたが、時間を過ぎても現れない。
若しかすると間違えて店舗の方に行ってないかを確認して欲しいと。
出来れば店舗の方に行っちゃってました、の方が良いけどな・・。

と、何事もない方が良いなと願いつつ
電話口の康二が店内を確認しに行った結果を待った。

もし店内にいないとなると、いよいよトラブルに巻き込まれた線も濃くなる。
そうなったら俺1人の判断で動く訳にはいかないな・・・。
一応あっちにも連絡とって貰うしかないか。


そして同時刻、タピオカ屋に居たこの人にも連絡が届いた。
先ずコール音がしたのは塩顔イケメンの方。

🖤『もしもし俺、ボンベイっす今良いですか?』
💙「なんだ目黒か吃驚した、知らない番号かと思って無視するとこだったわ」
🖤『それはごめんなさい、ちょっと聞きたい事がありまして』
💙「聞きたい事?てか今同伴中だろ?」

時間的に一旦室内のどこかに移動しようか考えていた時の着信だった。
樹はまたに話しかけに行っていて近くには居ない。
取り出したiPhone画面に表示されたのは登録されてない番号。

一体誰だ?と不審に感じたが、間違い電話の可能性もあるからと出てみた所
電話口の声は新人ホストのボンベイ、つまり目黒だった。

話ながら腕時計を見ると21時30分近い時刻。
本来なら今目黒は結莉と合流して何処かの店に寄ってる筈。

なのに電話を、しかも業務用じゃないiPhoneからして来た事に違和感を覚える。
客を待たせてまで電話をかけて来たとなれば、注意しなくてはならない。
同伴中は客の事だけに集中し、次回に繋げる必要があるから。

そう言えば、電話口の目黒が用件を話し始める。
聞こえる声は少し困惑してるように思えた。

🖤『それがその、結莉さん待ち合わせ時間過ぎても来ないんです』
💙「――は?マジかよ、ドタキャン?」
🖤『一応店にも確認して貰ってます、けど、ドタキャンする子には見えなかったから』

ふうむ。

💙「分かった、俺今ちゃんの店来てるから聞いてみる」
🖤『え、そうなんすか?はい、じゃあお願いします』
💙「ん」

簡潔に話を終わらせ、ポケットにiPhoneを入れてから歩き出す。
確か目黒は結莉ちゃんと面識あったもんな。

それもまあ3ヶ月前だけども。
あいつ人間力あるからなー、短い時間だけど結莉ちゃんの事理解してるっぽかった。
それは兎も角店のカウンターに行き着き、声を掛ける。

💙「ねえちゃん今ちょっと聞けるかな」
🦢「はい、どうしました?」
🦁「そういやさっき電話来てたみたいだなしょっぴー」
💙「うん、それも含めて確認したいんだけど」

カウンターに居た樹も俺に気づいて体を傾けて来る。
お客も今は人数が落ち着いてるのもあって、顔を覗かせてくれたちゃん。

実はさ、と口を動かしかけた時
は結莉が店に行く事は知らないんだという事を思い出した。
結莉がに対し、何らかの理由があって黙ったままホストクラブに行った。

その本来の意図はも勿論、自分達も知らない。
だからここでホストクラブに行ってる、と伝えて良いのかを悩んだ。

しかし目黒はいつもと違う感じだったし、
約束をすっぽかしてドタキャンする子じゃないと言い切っていた。
それに渡辺自身も先月少しだけ話をした間柄、決して知らない仲ではない。
目黒の人を見る目は確かだしな、今回は信じてやらないと。

🦢「渡辺さん?どうしました?」
💙「いや、大丈夫。その確認したいのは君の友人の事なんだわ」
🦢「私の?ああ、結莉の事ですね?・・結莉がどうかしたんですか?」

実はね、とまさに切り出した瞬間
隣にいる樹のケータイもコール音を響かせた為、意識がそっちに行く。

🦁「もしもし?おん、今出先だけど どした?」

つい内容が無性に気になってへの質問も止まる。
最初は軽い感じで電話を受けていた樹、
会話の全部は聞こえないが、店からの連絡だってのはすぐ分かった。

俺が話すのを中断してしまったから、
ちゃんは今来店した客の接客に移っている。
ごめんちょっと待ってて、と顔の前で片手を合わせるようにすれば
大丈夫ですよ、と意図を理解してくれた。

その傍ら、シフトか何かを聞かれてるのか隣の樹の顔が険しい。
受け答えも次第に熱が入ってるのか、荒くなり始める。

そして見守る事数分後、樹は更に険しい顔で電話から耳を離し
カウンターで接客を終えたへ凄い勢いで言葉を投げた。

🦁「ちゃん!今結莉ちゃん『Rough.TrackONE』に来てるって知ってた?」
🦢「えっ?そこって京本さんの店ですよね、いえ・・聞いてません」
💙「ちょっ樹、それマジか?」
🦁「大マジ!てかヤバい事になってるらしいから俺戻るわ!ちゃん頼んだぞ」
💙「マジかよ・・」
🦢「渡辺さん、今の話、どういう事なんですか?結莉、どうかしたんですか?」
💙「・・・・ちゃん、落ち着いて聞いて」

身を乗り出しかねない勢いで来店を知ってたかの有無を問われ、
今の今まで知らなかったと伝えると、真剣な眼差しになった樹は
口早にここを任せた、と渡辺に言うや風のように立ち去った。

突然の急展開について行けないに向き直り、
渡辺は今起きてる出来事を順を追って説明した。

先ず今夜、結莉はボンベイを指名して同伴の来店予約を入れていた事。
ここまでは私も左程驚かずに聞いていた。
結莉はイケメンに弱いしホストクラブとホストが大好物。

だから別に彼女が今夜同伴でホストクラブに来店していようがいつも通りの事。
しかし、次第に胸騒ぎを感じ始めたのは渡辺さんの推察から。

同伴での来店をする前に、ボンベイと待ち合わせ
何処かに寄ってから来店するのが同伴なのだが
待ち合わせ時間を15分近く過ぎても結莉が現れず

ボンベイは『SnowDream』に間違って結莉が来ていないかも確認したらしい。
だが店の方には行っていない、となると交通機関のトラブルか?
だとしたら結莉はきちんとボンベイに連絡を入れている筈。
ああ見えて結莉の生家は大邸宅だ、勿論育ちもいいから不義理な事はしないだろう。

だがボンベイには連絡も入っていない。
そこで教育係の渡辺に電話し、結莉を知る私に聞くよう頼んだ。
が、私は今夜結莉がホストクラブに同伴で行く事自体を聞いていなかった。

そこへ届いた『Rough.TrackONE』からの電話。
気になるのは樹が言い残した”ヤバい事になってるらしい”である。

💙「考えたくはないけどその、結莉ちゃん、
  待ち合わせる前にあっちに寄ってて、
  なんかのトラブルに巻き込まれた可能性が」

あの店には『犬』扱いの元凶クソ男が居る。

何故、と思うのは愚問だが、
結莉は前々から『Rough.TrackONE』に行きたがっていた。

それに結莉には元凶クソ男があの店に勤めてる事は話してない。
まあそれは先月知られてしまったが、でも、なんで行ったりしたの??

🦢「あの店にはシャトランジが居る・・・そこでトラブルに巻き込まれたとか――」
👨‍🍳「あっ、ちゃん?!」
🦢「店長私急用が出来たんで今回だけ早退させて下さい!」
👨‍🍳「えっ急用って、ちゃん??」
💙「俺が追います!」

瞬間的にカウンターから引っ込んだは早く、
一瞬気後れした渡辺と店長。

制服を乱暴に脱ぎ捨てに行くはロッカーに消えた。
それから間髪入れずに裏口から飛び出して来たを追いつつ
ポカーンとした顔で見送る店長に声を掛けてから渡辺も走り出した。

ヤバイヤバイ、マジでヤバい事になった!

必死に前を走るを見失わないようにしながら
器用にiPhoneを取り出し、走りながら電話帳の一番上に居た名前をタップ。
このケータイは業務用だから、店に勤める人間の名前しか登録されていない。

誰に繋がるか分からないまま渡辺は走った。
取り敢えず走り出したは『Rough.TrackONE』に向かっている。
それは間違いない、だが多分焦りと怒りで頭に血が上ってそう。

冷静に考えれば自ら元凶男の所に乗り込み、
自分こそが5年前アンタに家族をメチャクチャにされた本人よ!
とケンカを売りに行ってるのだと気づくのだが、その様子も見れない。
彼女の正体はアイツにバレちゃダメだから止めないと!

ただその一心で走る渡辺、そのコール音が不意に途切れた。
一瞬乱れる電子音、どうやら相手が出たらしい。
取り敢えず夢中で渡辺は電話に出た相手に訴えた。


夜の21時半が過ぎる頃、鎮まった部屋に響いたコール音。
衣類が散乱した中、中央に置かれてるベッドの影が動き
手探りでベッドサイドに置いたケータイを取る。

暗がりに煌々と燈る液晶画面。
そこに表示されたのは渡辺翔太という名前。

ついでに時間にも気づいた。
今頃店では第二部の営業が真っただ中な頃。
確か翔太も出勤になってたよな?と訝しんだ後通話をタップ

💛「んー?こんな時間にどした?今営業中――」
💙『どうしよう照!今エライ事になってて俺どうしたらいいか』
💛「は?え?何がどうした、ちょっと落ち着いて話せ」
👒「・・・ひかる、どうしたの?」
💛「ん?大丈夫、お前は心配しないで休んでな?」
👒「うん・・」

電話に出た瞬間飛び込んで来た翔太の慌てた声に
微睡んでた頭は一気に醒め、ベッドから飛び起きる。

ガバッと起きたせいで布団が引っ張られ、隣で寝ていた女が目覚めた。
さすがにこの話は聞かせる訳にもいかず
体を捻り、寝かしつけるみたいに女の髪を撫でてやる。

その女とは勿論契約相手の華純だ。
岩本は女に貸した自分の部屋を尋ねる姿を
結莉に見られてた事は気付いていない。

それは兎も角、今は電話口の翔太が気になっていた。
店用のケータイから掛けて来てる事から、
用件は店絡みの事だろうとは予想もつく。

が、気掛かりなのは慌てた様子というより切羽詰まった感じを受け
気もそぞろにベッドから出てシャワー室に向かう。

言わなくても分かる状況だが敢えて言おう、岩本は結莉に見られた後
自分が借りているこの一室に住まわせた契約相手、華純を抱いた。
翔太からの電話はまさにその情事の後にかかってきたのである。

💛「んで翔太どういう事?ちゃんと説明して」

脱衣所に入り、着替えを用意してから改めて聞く。
翔太の慌てようからして多分自分が赴く事になるだろうから
身支度は整えなければ、と無意識に感じた上での行動だ。

💙『だからっ、今までちゃんとこ樹と居た時に目黒から電話が来て』
💛「目黒から?そういや同伴するんだったっけアイツ」

改めて聞かれた翔太は走ってるのか知らんが息が乱れている。
その他に雑踏と騒音も聞こえる事から、店内ではないと察せられた。

一体翔太のやつ、何してんだ?
と疑問が沸く俺の耳にハッとなる言葉が聞こえた。

💙『やっと追いついた、ちょっ、ちゃん落ち着いて俺と行こ?』
💛「――は・・?何だって???」
🦢『あっ渡辺さん・・・でも早く行かないと結莉がっ』
💙『兎に角1人で乗り込んだらマズいし危ないっての』
💛「おい翔太、聞けって、何でそこに居るんだよ」
💙『それは説明するから待って・・あ!ちゃん!!』

耳に飛び込んだ名前は
外の何処かを走る翔太に追いつかれ、止められたってのは分かった。
しかし何故まで何処かを走ってるのかが解せない。

この時間は未だバイト中のはずだろ?
兎に角状況が分からない、風呂場に入りながら翔太をせっつけば
パニックパニックな翔太からの喚くような声が返って来る。

しかもどうやら引き止めていた
その隙を突いてまた走り出してしまったらしい。

💙『もおお照のせいでちゃん行っちゃったじゃん!』

いやそれを言われてもこっちだって訳が分かんねーんだが。
内心突っ込みを入れつつシャワーの水圧を弱くして浴びる。

💛「それは謝っから兎に角状況を説明しろっての」
💙『あーもう・・そのさ、ちゃんの友達覚えてる?』
💛「あー、結莉ちゃんね?彼女がどうかしたん?」

と軽い返しで聞いた後、シャワーを浴びる手が止まる事になった。