急く心



まさかのタイマン話を聞いてしまった
知らぬ存ぜんを貫くか否かをグルグルと考えた。

久美子に知らせるとしても何処でタイマンをするのかが分からない。
越して来たばかりのに、付近の地理は全くなかった。
それとから見ればあまりにも無意味な争いのような気しかしない。

しかし何処かトップを取る事に人一倍拘りのある緒方からしたら
このタイマンはかなり重要な意味を持つのだろう。
そう告げて止める事が今は叶わず、ただ彼らを見送るしか出来なかった。
あれだけ相容れまいと決めてた自分がこんな風に思うなんてね、と自嘲の笑みすら浮かぶ。

結局迷ってるだけで時間は過ぎ、誰も居なくなった教室からも帰路へ着いた。
タイマンの結果を不思議なくらい気にしてしまってる自分に驚きながら。
後門まで来た所、誰かが門の近くで待っている姿を見つける。

待ち伏せされる覚えはない・・・はず。
赤紫の空が夕暮れを知らせる空の下、佇むように立つ人影。
ドキドキと不安からくる早鐘を打つ胸を抑えつつ、少しずつその影へ近づいてみる。
近づくに気付いたその影は、くるりと振り向くと柔らかく笑った。

「おせぇよ やっと来たか」
「(!?)」

何と門の外で佇んでいたのはを久美子の下へ避難させた従兄、竜だったのである。
現れたが一人だと分かると、久美子の行方を問うた。
缶蹴りを宣言して校庭に行ったまま多分帰宅したと思う、と答えるとあからさまな溜息を竜はついた。

何かと缶蹴りをさせたがる所は3年前と全く変わってないらしい。
呆れ半分で残りは懐かしさで苦笑。

しかし任せろ と言っておきながら、を忘れて一人で先に帰宅するとは・・・
寄ってみて良かったな全く・・・・。

「それでどう?上手くやれてんの?」

取り敢えず一番気になってる事をへ聞いた。
あの日は兎に角閉じ篭らせたら駄目だって気持ちの一心で、赤銅へ通うよう勧めた。
けど翌々考えたらは異性恐怖症になってしまってて、男子校なんか心身的に無謀だったのでは?と少し悔いていたから。

竜からの率直な問いを受け、少し考えながらメール画面に返答を打ち込む。
勿論恐いし吐きそうになるしで大変なんてもんじゃない、と。
けれど嫌悪してやまない彼らは自分に好意的で、困っているとさり気なく助けてくれたりしたとも打ち込んだ。

その事が何よりの驚きであり、彼らの人間性を垣間見れた出来事だった。
少し彼らに対する見方を変えるべきではないかと思うようになってる自身の驚きも竜へ伝えた。

の返答には、竜も意外だなと感じ いい傾向じゃないか?と感じ取る。
結論を急ぎすぎて却って心身によくなかったかと心配していただけに
自身の心の変化を知れる返答にホッと出来た。
このまま心が安定していけば、近いうちに声が出るようになるかもしれない。

「なら良かった それじゃ帰るか、皆心配してるかもしんないし」
「(うん)」

ふわりと大きな竜の手が頭を撫でていく。
昔から竜はが1つずつ成長する毎に、頭を撫でるのだ。
悩んで立ち止まっても、必ず前へ進もうとするその姿勢を竜は好んでいる。

その心根のまま行く事で越えられない壁も越えられるだろう。
そして出来るなら、を傍で支えてくれる相手が現れてくれたら・・・
いつでも自分の役目をその相手に託すつもりでいた。





学校から無事大江戸一家へ帰宅した
竜は門の前まで送ると、バイクに跨り帰って行った。

初めは萎縮した外観もすっかり慣れた物で、自分の家のように迷わず玄関から入る。
すると居間の方から久美子と龍一郎らの話す声が聞こえてきた。
話の中心は、喧嘩でしか一番になれないから・・という発言について。

何となくだが久美子は彼らのタイマン現場に行ったのかもしれない。
そして議題になってるその発言を、彼らのうち誰かが言ったのだ。
その発言をしたのは、理由はないが緒方の気がした
放課後での様子を見ていれば自ずと予想が出来るという物。

強さを誇示する事でしか、己の存在価値を見出せずにいるのだとしたら?
それはそれで虚しい行為でしかない気がする。
そう思う事しか出来なくなった理由、不思議と知りたい気持ちになった。

自分だけでなく、彼らも心にそれぞれの葛藤や悩みを抱えてるのかもしれない。
明日から、もっと彼らを見てみようと意識するまでもなく自然と思った。


各々がそれぞれに思い耽る夜は明け、新しく一日が始まりを迎える。
また目覚ましがなる前に目を覚ましたは、テキパキと仕度を終えて眠りこける煉を揺り起こす。
今日はきちんと目を覚ますまで待たず、掛け布団だけ剥ぎ取って部屋を出た。

もっときちんと彼らを見ると決めたら何故かソワソワ。
あんなにも億劫だったのに、一体私はどうしてしまったんだろうね。

「お、随分と早起きだな」
「・・・ぁ・・」
「少し掠れてるが、いい傾向みてぇだな。」
「・・りが・・・と・・ま・・・」
「顔色も来た初日に比べりゃあ随分良くなってるよ、そのままゆっくり慣れていきゃあいいさ」
「・・・は・・い」

急く心に押されるようにして早歩きで居間に入るを迎えたのは
この家の主にして3代目の龍一郎だ。
突然話しかけられ、一瞬心臓が跳ねたがそれきりで気持ち悪くならない。

自分に危害を加える人ではない、と分かると気持ち悪さも嫌悪感も生まれないと最近気づいた。
と言うと・・風間や市村に倉木達に対しても、この基準が当て嵌まる訳か・・・?
まだ不意に話しかけられたり 距離を詰められるのは恐いと感じるけど、そのくらいだ。
龍一郎の優しくも時に厳しい言葉は、の励みにもなっていた。

もし自分の家族が久美子の家族のようだったら・・・・ああはなってなかったのかな・・
反面 もしかしたらそれは関係なく辿る結果が同じだった可能性もあるかもしれないね。

ふと浮んだ暗い考えを払うように用意されていた朝食を食べ
居間に現れた久美子と入れ違うようにしては学校へと出発した。
数日前とは比べ物にならない自主的に一人で登校して行く背中を、久美子も龍一郎も嬉しそうに見つめた。

いそいそと出発してみたものの、まだ人の多いバスは慣れない。
混む前にと早起きした狙いもある。
朝の早いうちなら 車内も混んでなくて座れる確率が高いのだ。
その狙い通り窓側の座席を確保したは、ホッとしながらその席に座り赤銅前でバスを下車。

二日前より格段違う足取りで校門を潜り、3D専用の下駄箱で靴を脱ぐ。
昨日みたいに入り口前でボウリングしてませんように、と祈りながら教室への角を恐る恐る曲がった。

・・・・よかった、誰も居ない。

そっと覗いた先には人一人居らず、教室の中から喧騒が聞こえるだけだった。
一人その場で胸を撫で下ろすとまだ慣れなくてギクシャクした動きをしつつ戸を横へスライドさせた。
ガラッと戸を開けると、入り口に近い生徒達がチラッとへ視線を寄越し その数人が手をヒラヒラさせる。

風間達の事を気にして遠慮がちな挨拶に留めたのだろう。
手をヒラヒラさせて挨拶した彼らに、臆する事なくも会釈で挨拶を返した。

よし、挨拶はクリアしたわ。
後は自分の席までの過程である。
昨日のようにいつも彼らが付き添ってくれる訳ではないのだ。
一人で席くらい行けるようにならないと、此処でやって行けるはずはない。

若干早歩きで通路を抜けると、無事自分の机に到着した。
鞄を置いて椅子に座り、改めて後方の席が静かな事に気付く。
大抵は席に着くと市村や倉木が話しかけてくるし、風間も視線は合わさないが声をかけてくれたりする。

よく見ると対立してるはずの緒方の姿もなかった。
今いるのは緒方と行動してる神谷と本城のみ。
他の三人の姿がない・・・・何故か胸が早鐘を鳴らした・・其処へ。

「おっは ちゃん!」
「自分顔色悪いで?具合でも悪いんちゃうか?」
「――・・く・・・らきく・・、いち・・・らくん」
「・・っ・・・ちゃんちょっと喋ったで!!!」
「何やメッチャ声可愛いやん!」
「(え えと)」

嫌な事を考えそうになった時、入り口の戸がスライドして
いつも聞こえていた二人の声が考え込む自分を呼んだ。

まだつっかえつっかえだが、二人には聞こえたらしく
どっとわいて嬉しそうに興奮している。
そんな些細な事なのにあまりにも二人が嬉しそうだから、自然とも照れた。

面白くなさそうな神谷と本城の視線も注がれる中
もう1つ疑問に思った事があり、ケータイを開くと其処へ文字を打ち込み
前のめりがちな市村と倉木にそれを見せた。

「えー何々?『緒方君と風間君は?』」
「あー・・・あいつらの事は気にせんでええんよ」

途端歯切れの悪くなる二人の返答。
これは何か隠してるな・・・?
そう察したは、再び嫌な予感が生まれるのを感じた。
あれだけ決着を着ける事に拘っていた緒方の事だ、決着がついていないままで終わる筈はない。

市村と倉木のぎこちなく焦ったような返答。
悪い予感が当たってるとするなら・・・二人は決着を着けようとしてる。
久美子に知らせるべきじゃないかとは感じた。

登校して数十分が経過しても緒方と風間は教室に現れなかった。
更にそれから数十分、廊下へ続く戸がスライドして入って来たのは担任の久美子。
元気良く入って来た久美子に知らせようにも呼びかける事は不可。
メールを送ろうにも止められてしまいそうな予感がして躊躇う。

だがが何かする前に久美子の方から緒方と風間の不在に気付いた。
声を張り上げてクラスメイト達に問い掛けるが、神谷も本城も茶化すようにはぐらかすだけ。

「緒方と風間は?」
「さあ?」
「サボリなんじゃね?」
「誰か、何か聞いてないか?」
「聞いてませ〜ん」
「まあ聞いてても先公なんかに教えるか」

自然に見える態度も、久美子には解せなかったのだろう。
一人何か察したような顔をするのがからも見えた。
久美子が訝しむとなれば、やはりただの欠席やサボリではない事は明白。

「お ちゃん?」

クラスに一人残りたくなかった訳じゃないが、何となく体が動いていてスムーズに彼らの間を抜け久美子の方へ。
歩いて行くに気付いた市村が声を掛けるのを振り切った。

久美子とクラスメイト達が一斉に歩み出て来たに気付く。
顔色の悪さは変わらない・・けど、明らかに違うのは瞳に宿った意思。

「まさか、一緒に行くつもりか?

つかつかと傍へ歩み寄ったの表情を見て浮んだ疑問を向けてみる。
すると眉目秀麗な目の前の女子高生は、1つ頭を縦に動かした。

不良も男も大人も嫌いだけど、信用出来そうな部分が1つでもあるなら・・ましてや久美子は彼らを信じている。
自分達姉妹を躊躇いもせず住まわせてくれた久美子の信じる彼らを自分も信じてみたい。
これだけじゃ同行する理由にはならない?と口をゆっくり動かして意思を伝える。

ジッと久美子はを見つめた。
日本人形を彷彿とさせる整った目鼻立ち、視線は逸らされず
の口許は意思の固さを現すようにきつく閉じられている。
どうやら本気でついて来ようとしているらしいな・・・

まああいつ等を捜させるだけなら問題はないか。
それに最近少しずつだが考え方も変わってきてるみたいだしな。

「よし分かった、ついてくるのはいいが・・辛くなったら言うんだぞ?」
「・・は・・・い」

何となく賑やかさが戻ってしまった為、後方にいる市村らに久美子との会話は聞き取れなかった。
こんな風に気になるのはきっと久美子の生徒さん達だからだろうとは思う事にした。
お世話になってる久美子の為にあの6人を何とかしなきゃって、うん、きっとそうよ。

自分の中の変化を認めたくなくて必死には発想の転換をした。
久美子の為だと言い聞かせる事で自分の心を偽る。
そうしたままは久美子と共に教室を飛び出し、恐らく何処かでタイマンを開始しようとしている緒方と風間の元へ急いだ。





兎に角更新( ´ー`)納得行かないと思ったら直すと思います。
今朝は高木君の夢見たけれど内容忘れた・・・ま それは兎も角、色々と更新頑張りますφ(・ω・ )かきかき
ヒロインと同じように管理人も迷いながら書いてまs)`ν°)・;'.、
集中して書かないとすぐ駄作に、いや、駄作が更に駄作になってしまうので集中して頑張ります(。・ρ・)ノ