世界で一番 9



お兄ちゃん達の計らいで選んだアンコールの曲は
あたしが作詞した物になった。
驚きと一緒に極まった感情、自然と涙が頬を伝った。

これで全部の謎は解けたね。
あのルーズリーフは、この時の為に持って行かれた物で
たっつーは曲を付ける為に、あたしをピアノ室に呼んだんだって。

全て・・・あたしを喜ばせる為に。

皆優しすぎ、それに何より嬉しかったのは
アンコールが終わって、皆が言った言葉。
あの言葉で、あたしの居場所は決まった。
そう・・ずっと皆の傍にいる事。

彼らがそれを望んでくれたから、だからあたしは傍にいれる。
胸を張って、彼らの仲間だって言えるんだ。

アンコールが終わって、ライトが消え 皆が出てこなくなっても
の涙が止まる事はなかった。

お兄ちゃん達の、夏の集大成は終わりを告げた。


照明が付くと、あたしはすぐさま席を立って出口へと走った。
それは勿論、皆にお礼と挨拶をする為。

皆の温かい笑顔に迎えられたい。
何よりも・・・亀ちゃんに。
――何で・・そう思うんだろう。

でもこの答えは、既に出かかってた。
分かったんだ、コンサートの時に。

分かり始めたのは、居場所がなくなるって思った時から。
変わっていく幼馴染、それでも変わらず接してくれる。
いつもあたしの変化に気づいてくれて、心配してくれた。
その背が逞しく、大きくなって行くにつれて不安は増した。

名前を呼ばれる度に、胸が高鳴って声の低さとか
部屋に入られた時の至近距離、アレで肩幅の広さとかにドキドキした。

『ただの妹のくせに』

傍にいられるのは妹だから、今まではそう思って負い目もあった。
けど・・今もそう思ってる?
お兄ちゃんの妹だから、優しくしてくれたの?

確かめたい・・あたしの胸に芽生えた気持ちと一緒に。

会場で上から呼ばれた時も、不思議と貴方の声だけは届いた。
それは、亀ちゃんをしっかり意識してる証拠だと思う。
『Warmth you』を亀ちゃんが歌ってくれて嬉しかったな。

早く逢いたくて、は必死に走った。
しかし、ただでさえ広いアリーナ。
気がつけば、バッチリ迷ってました。
館内図とかさえ、何処にあるのか・・

「うわー参ったなぁ・・あたしって方向音痴?」

我ながら情けない。
立ち止まって周りを見渡してから、深く溜息を吐く。
この歳で迷子なんて、かなり恥ずかしいよ。

あーあ・・・心配してるかな。
フツーに歩いても、こんな方は来ないだろ・・・

がいるのは、会場からかなり離れたトコ。
会場の入り口すら見えない。
ヤバイ・・ココって何処??
今どの辺歩いてるの?夢中で走ってたから分からなくなっちゃった。

硝子貼りの窓から、は途方に暮れて外を眺めた。

さてその頃、アリーナの楽屋では。
メンバーがそれぞれ、コンサートの感想を言い合っていた。

「ラストは盛り上がったよな!皆のノリも良かったし」
「だよな、初日はちょっとテンション低かったけど」
「きっと初日は皆緊張もしてたし、お客さんに初めての子が多かったんだよ。」
「上田は冷静だなぁ〜ま、MCの時チャック開いてたけどね。」
「・・・あんまりしつこいと、田口。」←妖しく微笑む
「初日の子でも、アリーナ席と3階席は盛り上がってくれてたぜ?」
「それもそうだけど、1階席だって盛り上がってる子もいたって。」

なんて具合に、一斉に喋ってる。
聞き手に回ってるのは誰一人としていない。
皆自分の意見を言いたくて、まとまってない。
――のはいつもの事か。

一番先に意見を言った和也は、その後傍観に徹し
今の事を内心で思った。
そしてふと、幼馴染を思う。

ずっと自分達をサポートしてくれてた
俺達が用意してたプレゼント、喜んでくれたかな。
客席の方にクレーンで行ったけど、はすぐ見つかった。

1人で観てる姿が、何処か寂しそうで思わず上から呼んだら
アイツはすぐに顔を上げて、俺を見つけて笑ったんだ。
その顔がとても綺麗で、想いの外見惚れそうになった。
何かしてやりたくて、もっと笑顔が見たくて色紙を投げてた俺。

気づかないフリをしてた訳じゃないけど、こんなにも気になってた。
少しの変化も分かってしまう程に。
上田程じゃないけどさ。

にしても・・遅くない?
時計を見れば、午後9時半。
アンコールが終わって、もう30分は過ぎてる。
何やってんだ?のヤツ・・・

考え始めれば、どうしても気になってしまう。
それに、その事に気づいてるのは自分だけみたいだし。

姿が見えないと気になる、声がしないと不安になる。
ちゃんとどれだけ一緒にいるの?』
鈍い俺と仁に、上田が言った言葉が脳裏に甦る。

気がつけば、隣にいた
幼馴染として、いつも兄貴の仁にくっついてた。
俺にとっても可愛い妹みたいで・・・
『詩が上手く作れたらどうするの?』

駄目だ、妹みたいなんて気持ちじゃない。
それだけで一緒にいた訳じゃない。
守りたくて、傍で守りたくていたんだ。

「ちょっと俺出てくる」
「え?」

決意の固まった和也は、その勢いで立ち上がると
短い一言だけ残し、止める間もなく楽屋を出て行った。
後には、首を傾げる5人が残された。