世界で一番 7
春に行われたコンサートの集大成。
その千秋楽に相応しい再追加コンサート、当日。
新横浜の駅は、彼等を観に来た女の子で溢れ返っている。
好きな担当の写真を貼り付けたバッグを持ち
頬を高揚させ、雑談を楽しむ者もいれば
ケータイ片手に友達を待つ者もいる。
今日何の日かなんて、知らない人達にすれば
この人の数に圧倒されるだろう。
同時に、これが彼等の人気の象徴とも言える。
因みに今日が、再追加コンサートの最終日の二部。
26・27日も行ったけど、最終日が一番混むし盛り上がってる。
だって、初日の一部なんて ちっとも盛り上がってなかった。
ファンの反応も今一だったし、お兄ちゃん達が楽しめてるか心配だった。
2日目になると、ファンの子のテンションも上がってきたみたいで
一体感も高まりお兄ちゃん達も楽しそうだった。
そしてもう最終日。
練習の成果も出てたし、皆のソロも良かった。
新曲ラッシュで、レベルのアップを突きつけられたし。
しかし・・・亀ちゃん、幼馴染として思うけど
あの生脱ぎは、お子様には刺激が強いと思われますが・・
不覚にもドキッとしちゃったけどさ。
とても同い年には見えないわ。
じゅんのは、ドラマの衣装でソロ曲を歌って
お兄ちゃん達も、ボートを漕いで参加。
お客さんも楽しそうに見れてたし、あたしも楽しく観れた。
勿論観てたのは、特別な場所よ。
よく芸能人とか、その身内だけが入れるBipな席。
その席は壁が競りあがってて、他の席からは見え難い。
その代わり、ステージが遠いけどね。
アリーナに入る時も、裏口みたいなトコ?から入った。
いわば、関係者以外立ち入り禁止って書いてありそうなトコから。
アリーナに入ったが向かうのは、楽屋。
沢山ある楽屋の中から、彼等の楽屋を探す。
探す事数分、やっとお兄ちゃん達のグループ名が書かれたドアを発見。
コンコン
軽く2・3回ノックすると、はいとゆうしっかりとした声が応え
の目の前に在ったドアが、ゆっくり手前に引かれた。
「あれ?か、客席に行ってなかったんだな。」
衣装に身を包んだ兄・仁が顔を覗かせた。
名前を口にした途端、仁の周りに他メンバーが群がる。
暑苦しいんですけど・・・・
の前に現れた皆は、黄色いコートのような衣装を着ている。
明るい色だって見事に着こなしてる6人。
普段着とは違う6人に、つい見惚れる。
「ちゃんと客席で観ろよ?吃驚させてやっから。」
「観るけど、何?何かするの?」
の視線を受けたうち、仁が『隼人』ピースをして意味深に言う。
すぐに聞き返そうとしたら、ガシッと肩を掴まれて楽屋の中に連行された。
強い力の前になす術もなく、引きずり込まれる。
「ちょっと痛いって!」
「急がなくても、ちゃんと分かるから騒ぐな。」
「騒ぐなってねぇ・・!」
ちょっとでも間違えれば、誘拐だぞ!?
あたしの肩を掴んで、楽屋の中に引き込んだのは亀ちゃん。
落ち着いた口調に、腹が立ち言い返そうとしたが
本番前ってのもあり、仕方なく大人しくした。
後で分かるって言ってるし、内緒にはしないでくれるならいっか。
そう納得し、ステージ衣装に着替えた兄達を見上げて一言。
「そこまで言うなら、楽しみに待ってるからね。」
「おう」
「絶対驚かしてやるから、楽しみにしてろよ?」
「コンサート、楽しんでってねちゃん。」
「観て損はさせないよ」
「当たり前だろ上田、俺達のコンサートでつまらねぇなんて言わせネェよ。」
「また後でね、ちゃん。」
楽屋から出るに、全員が答えて見送った。
緊張は見られない、実にリラックスしたいい表情。
これなら安心だね、後はステージで見守るだけかな。
あたしは、手を振る兄達に応えてから
楽屋の並ぶ通路を抜けて、観客席とは違う階段を上った。
皆が用意した、とっておきのドッキリなど知らずに。
一部を観た人達が去り、二部を観に来た女の子達で溢れる場内。
会場は異様な程の盛り上がりを見せている。
Bip席に座った、2階席の端に設けられた席だが
ステージの全貌はよく見えた。
端と言っても、アリーナ席のある階だ。
皆の姿は、右斜めに見える。
眼下には、光るペンライトの群れ。
三階席にも人が溢れ、ざわめきが場内を埋め尽くしている。
じきにこのざわめきが、悲鳴の嵐に変わるのだ。
何だか自分までも緊張してきた。
ステージに立つ訳じゃないのにね。
さて、午後6時・・ステージが暗転し最終公演が始まった。
ステージ中央のスモークの中から、ゆっくり登場する影。
パッと照明が明るくなった時には、6人の姿が其処に在る。
一斉に悲鳴が上がり、聖くんのセリフからスタート。
セリフあけと共に、お兄ちゃんの叫び声。
そして6人の華麗でセクシーなダンスが始まった。
『SHE SAID・・・』からのスタート。
それからも更なる盛り上がりを見せた。
元気にステージを走り回る姿や、ファンの子に手を振ったりしてる。
観てる側も、踊りだしそうな勢い。
遠い三階席には、メンバーがクレーンに乗ったり
前回のコンサートと同じく、乗り物に乗って現れる。
あたしがいるBip席にも、クレーンで来てくれた。
いつも家で会ったり、話したりしてるのに
やっぱり遠く感じて、切なくなって同時に胸がキュンとした。
先の二日間と同じく、たっつーのソロが終わった。
『カキゴオリ』と名づけられた、彼の経験を元に書かれた詩。
メロディと歌詞がマッチしていて、あたしは涙が浮かんだ。
前回の『Love in snow』も好きだけど、こっちもいい!
感激しつつも、次はTEN-G-の登場だねと構えていた。
ここまでの流れは、同じだからそうなると思ってた。
そしたら、ステージに現れたのは亀ちゃん。
あれれ?今までの流れと違う。
やっぱラストだから、また違う事をするのかな?
きゃーっと上がる悲鳴の中、現れた亀ちゃんが口を開く。
皆の言葉通り、あたしは後に続いた言葉で驚くしかなかった。
「えー、ラストなのもありココからは予定を変えて行きます。
俺達が大切にしている仲間がって言うのは仁の妹デス。
ソイツは俺の幼馴染で、すっげぇ上手い詩を書いてました。」
なんですと?亀ちゃん、今・・なんつった?
あたしの詩ってゆうか、書いてたのなんで知ってるの!?
まさか・・無くなったのって、亀ちゃんが持ってたから?
Bip席から思わず立ち上がり、ステージにいる亀ちゃんを凝視。
「そこで、いつも世話になってる礼を込めて
俺と仁がその詩を歌います。曲は上田が付けてくれました。」
曲!?一昨日たっつーがあたしに聞かせたのは
自分達の唄でも何でもなく、あたしの詩に付けた曲だったわけ!?
もう吃驚し過ぎて、言葉も出ないよ!
どうしてこう、驚かせてくれるのかなぁ・・。
ステージに立つ亀ちゃんが、とても眩しく見えた。
形だけしかなかった詩に、彼等が命を吹き込んでくれた。
それが何よりも嬉しくて・・視界が滲む。
「聞いて下さい『Warmth you』・・・」
曲紹介と暗転、石垣君のピアノが・・じゃなくて
ステージでピアノを弾き始めたのは、なんとたっつー。
マジ?嬉しすぎじゃん、てゆうかあの見られたくない詩じゃないの!
よりにもよって・・・やるなぁ、油断出来ないわ。
そうは思ってても、曲が付けられた事は何よりも嬉しい事だった。
亀ちゃんの声で、切なくもしっとり歌い上げられる自分の詩。
たっつーの付けた曲も合っていて、才能の集大成を感じた。
それと共に気になったのは、ファンの子達の反応。
亀ちゃんの紹介がマズイって、大切にしている仲間って。
反応が怖い・・でも、不思議とやっかみとか
暴言とかは聞こえてこなくて、寧ろ静まり返っていた。
曲が終わった時は、割れんばかりの拍手が送られた。
皆の顔を見てみると、信じられないけど笑ってて
しかも目が潤んでる子も見られた。
あたしの書いた詩で、皆笑ってくれてる。
涙を浮かべて、共感してくれてる。
そうさせてくれたのは、皆のおかげ。
「・・有り難う、皆。」
感謝の言葉と一緒に、自分の頬を涙が一筋流れた。
唄い終わった亀ちゃんが、気のせいかもしれないけど
あたしのいる席を、見上げたような気がした。
それからTEN-G-が現れ、楽しいステージの再開。
唐草文様の風呂敷を羽織、色分けされた天狗の仮面。
会場からは、可愛いと叫ぶ声が響く。
それはも同感で、1人で皆の名前を叫んだ。
その後は、雄くんと石垣くん聖くんのコラボ。
相変わらず雄くんのボイパには、圧倒される。
聖くんのラップも、日々上達してるね。
それから、亀ちゃんはもう一曲ソロを唄った。
しっとりと唄い上げて、ダンスなしのも良かった。
会場が静まり、皆が亀ちゃんの声に酔いしれた後は。
お兄ちゃんが登場しました。
もうこれには、お兄ちゃんのファンが色めきだす。
今度は何だろうって、思ったあたしの前で
妙に淡い笑みを浮かべ、優しい目をしたお兄ちゃんが
ゆっくりと口を開いた。
「えっと、さっき亀が言ってた俺の大切な妹が作ったもう1つの詩
それを兄ちゃんの俺が唄いたいと思います。
これも上田が曲を付けました・・『Stay with me』」
題名は付けてなかったから、すぐには気づかなかった。
でもね、お兄ちゃんが唄い始めた途端 これも恥ずかしい詩で
見られないようにしまっといたハズの詩だった。
あたしが、皆に置いて行かれるような気持ちを
その詩に込めて書いたモノ。
恥ずかしいけど、あたしはそのメロディと
お兄ちゃんの綺麗で色っぽい声に、耳を澄ませた。
幸せいっぱいと、嬉しさで・・またも泣いてしまいました。