世界で一番 6
聖くんと、雄くんに置いて行かれた。
結局1人でこの本の山を、外に運ぶ羽目となった。
それでも口許が緩んでしまうのは
落ちそうになったのを、2人が助けてくれたのが嬉しかったから。
フツーの事なんだろうけど、嬉しかった。
それに関しては、礼保お兄ちゃんに感謝しとくか。
感謝するのはそこだけだけど。
「ただいま〜・・・!?」
前が見えない状態で、玄関のドアを開けようとした途端。
先にドアが引かれて行き、元気のいい声が近づいて来た。
家族だから、声だけでそれが仁お兄ちゃんだと分かる。
が、がお帰りなさいを言うより早く
そっちを振り向こうとしたの抱える本の山と
玄関に入って来た仁が鉢合わせた。
勿論 視界に本が迫ってきた仁は、笑顔が引きつる。
「わわっ!?」
フラフラしてたあたしは、止まる事が出来なかったから
見事に本を抱えたまま、お兄ちゃんへと激突。
反動で倒れそうになったのを、お兄ちゃんが支えてくれた。
しかし、ぶつかった勢いのまま抱えてる本で顔を強打。
痛い・・・これ、かなり痛いよ〜!?
鼻っ柱をぶつけた痛みで、悶絶してると両手が軽くなった。
急に視界が開けたと思ったら、片手で本を持つお兄ちゃんの姿。
それ・・重くないんですか??
こっちなんか、両手で持つのさえやっとなのに。
本を自分が持ってから、目の前のお兄ちゃんがあたしへ言う。
「オマエ、こんなん1人で持ってんなよ。」
「だって・・・礼保お兄ちゃんが持ってげって。」
「ったく、無理なら無理って言えばいいのに。」
「亀ちゃんも一緒だったの?」
「俺もいるよ〜」
「俺も」
1人で持つなって、好きで持ったんじゃないよ。
2番目の兄の名前を出せば、仁お兄ちゃんが溜息つくと共に
幼馴染の亀ちゃんが、そう言いながら入って来た。
そんな簡単に言わないで欲しいなぁ・・・
なんか礼保お兄ちゃんはね、逆らうのを許さないオーラがあるのよ。
突然現れた亀ちゃんに、聞くとああと頷いた。
口を開いたのはそれだけで、さっさと玄関から上がって行く。
なんやねん!あの人!と思ったあたしの耳に、2つの声。
振り向くと、仁お兄ちゃんから本の山を手渡されたじゅんのとたっつー。
じゅんのの笑顔は、自然と癒される〜
和むよね、和むって♪
「帰りは一緒だったの?」
「まあな、リハとかの打ち合わせだったし。」
「そうそう、いい感じにまとまったよね。」
「そっか、何か飲む?」
じゅんのの笑顔で和んだトコで、会話を始めたあたし。
問いかけに上から兄の声が答え、支えてた手を外す。
帰りが一緒になったのは、4日後に迫ったコンサートのリハと打ち合わせの為。
もう4日経てば、本番を迎えるんだね〜。
早いなぁとか感慨しく思いながら、いつも通りの質問を投げかける。
「今日は俺がやるからいいよ」
「え?亀ちゃんが?めっずらしいぃ〜〜。腕あたしより細そうだけど平気?」
「失礼だな、オマエ・・・大体その台詞は俺だっつーの。」
「ムカッ・・」
「まあまあちゃん その代わり、俺について来てくれない?」
どっかに消えたと思ってた亀ちゃんが、キッチン方面から顔を出し
飲み物の用意は自分がすると言った。
滅多にない事過ぎて、疑いの目を向けてると
後ろにいたたっつーが、あたしに用があるって言ってきた。
一体何の用だろう、ドキドキしてきたよ。
ま 取り敢えずたっつーの言葉に頷き、お兄ちゃんを振り返る。
「行ってこい、部屋に行ってるから。」
「うん」
「コレは外に置けばいいの?」
「あ!ごめんねじゅんの、持たせっぱなしで。」
「いいよ、あんま無理しないでね女の子なんだから。」
華麗なじゅんのスマイル。
それと、お兄ちゃんの笑顔に見送られ あたしはたっつーについて行った。
向かう先に見えて来たのは、ピアノが置いてある部屋。
たっつーはピアノ弾けるんだよね?
もしかして、何か弾いてくれるのかな!
でもそれだけなら、あたしだけを呼ぶ必要ってないんじゃ・・・
前を歩くたっつーの背中を、あたしは不思議そうに眺める。
何か隠してるような言動じゃなかった。
裏がある訳でもないみたいだし・・益々分からない(汗)。
「ちょっと二曲くらい弾いてみせるから、そこに座って。」
「あ、うん。」
部屋に入ると、ピアノの前に座ったたっつーにそう指示された。
言われた通りに、たっつーの斜め後ろの椅子に腰掛ける。
それを合図に、たっつーは譜面を取り出すと
慣れた手つきで鍵盤を叩き始めた。
たっつーの細長い指から、奏でられるメロディ。
最初の曲は、出だしから切ないメロディで思わず聞き入った。
サビへの転調、そこから終盤へ向かう流れるような指先。
ラストは消え入るように、音が吸い込まれる感じで終わった。
思わず拍手しそうになったが、休む間もなくたっつーは二曲目を弾き始めた。
二曲目は、少しテンポが速いけど切ないメロディで
涙が滲むような、そんな気持ちにさせた。
「凄い!これコンサートで弾くの?たっつーのソロ??」
「有り難う、けど俺が唄うんじゃないよ。」
曲が終わると同時に、あたしはたっつーへ拍手を送った。
すると、ちょっと照れた顔を見せたたっつー。
可愛い・・・!おっといけない、意識がズレた。
お礼を言ったたっつーは、譜面を折りたたむようにしてから
椅子に腰掛けたまま、あたしの方を振り向く。
それからたっつーが言ったのは、自分の曲じゃないって事。
じゃあ何であたしに聞かせたの?もしかしていつものチェックかな。
「それは残念、でもいい曲だった!心に迫るモノがあったよ。」
「ホント?ちゃんのお墨付きなら、間違いないね。」
何も知らないあたしは、普通に曲の感想をたっつーに言った。
するとたっつーはニコッと笑い、意味深な言葉を囁く。
間違いないって・・何の事だろう。
たっつーは最後まで、何の曲なのか教えないまま
部屋の出口へと、あたしを向かわせた。
その微笑の裏では、何を企んでいるのか・・一番分からん。
あ、でも ホントに分からないのはじゅんのかな。
とか考えながら部屋を出ようとしたら、ドアの段差に躓いた。
いきなりで声も出なかったが、手際よく後ろからたっつーに手を引かれて
たっつーの胸元へと寄りかかる感じで止まった。
「ちゃん、怪我はない?」
「あ、はい!ごっごめんなさい・・」
頭上から注がれる、たっつーの美声。
カツンの皆は、全員が美声と歌唱力の高さを持っている。
なだけに、近くで聞くとすっごくヤバイ。
魂持って行かれそうって感じさ。
キョドった感じで返事したを、クスッと笑ったたっつーは
「足元、よく見て。ちゃんってそそっかしいんだね。」
しっかりと床に立たせた後、そう言って微笑んだ。
美青年の微笑みが、かなり眩しい←アホ。
たっつーに寄りかかっちゃった!
細いのに筋肉ついてるし、近くで見ると更に綺麗だし
声はイイし、とてつもなくイイ匂いもした。
それから2人で、ピアノの部屋を出て
皆が待つ、仁お兄ちゃんの部屋に向かった。
あの曲に歌詞がついたら、凄くいい物に仕上がるんだろうなぁ。
聞かせてもらえるのは、4日後のコンサートかな?
「そうだ、一応聞くけど・・やっぱいいや。」
「何?言いかけて止められると、かなり気になるんだけど。」
「大した事じゃないから、ただ無くなった物があっただけ。」
歩きながら、俺に聞いてきて止めてしまったちゃん。
『無くなった物』と聞いて、すぐにピンと来た。
一昨日亀梨が、俺達に見せたルーズリーフの事だろ。
ちゃんの困った顔を見るのは忍びないけど、計画実現の為だ。
今は辛いけど、明後日には吃驚してるけど嬉しそうなちゃんの顔が見たい。
きっとコレは、俺達からちゃんへの感謝の贈り物になる。
喜んでくれると思う、だからもうちょっと待っててね。
竜也は、から見えないように淡く微笑んだ。
と別れ、1人仁の部屋に戻った竜也。
それぞれに騒がしかった仲間が、一斉に自分を振り返る。
その反応を、面白いと受け止めた竜也に まず、仁が問いかけた。
「どうだった?の反応。」
「バッチリ、絶賛してくれたよ。」
「よっしゃーそれならファンの子達の反応もバッチリだろ!!」
「実際やってみないと分からないんじゃない〜?」
「田口は固いなぁ〜大丈夫でしょ!ちゃんのお墨付きだし♪」
心配そうに聞いて来た仁に、ニッと笑って報告。
それを聞いたメンバーが、一斉にまくし立てた。
バッチリだろ!!とガッツポーズした聖。
その聖に駄目だしをかますじゅんの。
念には念をタイプな田口に、オマエは固いと言う雄一。
何はともあれ、全体的に浮かれモードな面々へ
黙って聞いていた和也は、決心新たに言った。
「よし、準備は揃ったな。本番に向けて頑張ろうぜ!」
「だな!が書いた詩、ちゃんと歌い上げて盛り上がろうぜ!」
「俺も頑張っちゃうぞ〜皆も気を抜かないようにネ!」
「田口には言われたくねぇな、とにかく成功あるのみ!」
「おうおう!胸張って暴れてこようぜ!」
「・・・胸張って暴れんの?まいっか、いいステージ・造ろうな。」
全ての支度は整った、後は4日後に控える本番を迎えるのみ。
皆 決意も新たに、抱負を宣言すると互いにハイタッチ。
雄一のコメントに若干、竜也が突っ込んだが敢えて流して同意。
コンサートは楽しんで、盛り上がって暴れる場所だ。
自分達が楽しまないで、お客さんを楽しませられはしない。
6人の暑い夏は、最後の盛り上がりを見せていた。
たった1人の、大切な者の為に。