世界で一番 5



兄達の計画を知らない
今日も普段通り、昼間は家の手伝いをしたり
部屋を掃除したりしてた。

長男の兄、仁はコンサートも近い為
打ち合わせとか、練習があるらしく家にはいない。

他の家族も仕事とかで、家にはあたし1人。
別に夏休みはいつもこんなだし、1人ぼっちは慣れてる。
ホントは寂しいけど、もう19だし甘えてはいられない。

昔は寂しくて、泣いてばかりだった。
その分、皆が帰ってくると嬉しかったな。

昔から懐いてたのは、仁お兄ちゃんの方で
よくレッスンとか見に行ってたよね。
お兄ちゃんと一緒にいられる他の人達に嫉妬したりさ。
グループが結成される頃には、亀ちゃんもレッスンに加わって
近くには、メンバーが集結しつつあった。

「最近は1人ぼっち、多いよね。」

なんて1人で呟いてみる。
って言っても、誰もいないから突っ込みは帰ってこない。
寧ろその方がいいんだけどさ。

夏休みも後少しで終わる、その前にメインイベントが待ってる。
そう・・再追加コンサートだ。

部屋の中を整理整頓し、テーブルの上のノートとかも整頓・・・
しようとして、あたしは何か足りない事に気づいた。
置かれてるノートとか、プリントとかを持ち上げて探す。

「ない!どして!?一昨日まで此処にあったのに!」

亀ちゃんとたっつーが来た時、飲み物を届けて詩の事で
勝手に飛び出してから・・・書きしたためた詩。
結構いい出来だったのに〜誰か持ってったの?

ちょっと半泣き状態で探し続ける
テーブルの下とか、ベッドの下とか色々見てるのに何処にもない。

一旦探すのを止めて、ルーズリーフの数を確認。
無くなったのは、二枚。
一番出来がよかったヤツと、ちょっと見つかると恥ずかしいヤツ。

あ゛――――もう!!掃除どこじゃないっつーの!

「さっきから何やってんの?」
「え゛?」

しゃがんだり、床に這いつくばったりしてると
ドアの方からかなり呆れた声が聞こえた。
ハッと振り返ると、いつからいたのか礼保お兄ちゃんの姿。

つーか自分、ドア閉めてなかったのね(汗)。
慌てて起き上がって、ドアの前に行き閉めようとした。

「閉める前にさ、コレ下に持ってっといて。」
「え〜!だってコレいらない雑誌じゃん!!重いよ!」
「これくらいなら持てるだろ?ずっと家にいるんだから少しくらい動きなさい。」

動きなさいってアンタは先生か?
人使いが荒いって!礼保お兄ちゃんが持って来たのは
辞書とか、図鑑とかのいらない雑誌。
いや・・雑誌っつー表現じゃないかも。

いつも家にいるんだから、少しは動けだって。
動いてるじゃん!!掃除したり家事したりさ!
図書館にだって通ってんだよ??

しかも言いたいだけ言ったら帰りやがったー!
これ何キロあるだろう・・持ち上げるだけでも大変だよ。

「はぁ・・仁お兄ちゃんがいれば手伝ってくれたのに。」

雑用を言ってくるのは、大体さっきの礼保お兄ちゃんで。
それに気づいて、手伝ってくれるのは仁お兄ちゃん。
っゆうか、あたし頼りまくってたんだね。

今は丁度いないし、これを機に自立しようかなぁ。
って思うけど・・・とにかく重い!

両手で持ち上げても、あまりの重さに足がふらつくし
背筋を伸ばすのさえ大変。
しかも此処は2階、あたしに落ちろって言いたいのか。

とにかく、下ろさない事には煩そうだから
ヨロヨロと移動して、ゆっくりと階段を下り始めた。

はぁ・・あたしがこんな事してる時も、皆は頑張ってるんだよね。
おっと!考え事は危険だ、バランス崩しそうになる。
考え事は下りてからにしよう。

危うく踏み外しそうになって、体に緊張が走る。
積み上げられた本のバランスも気にしながらの下降。
階段は全部で14段、気も許せない状態。
今驚いたりしたら、絶対落ちる!そう思いながら中段に差し掛かった時・・

ガチャッ!と玄関が開いて、誰かが入って来た。
生憎だけど、誰が来たのかを見には行けない。
今はとにかく階段を下りたい!

体の向きは横向き、カニさん歩きで下りてます。
見られるとキツイかも?誰が来たのかな?声しないけど。

「仁お兄ちゃん?それとも亀ちゃん?」

階段の中段で止まったまま、声を張り上げる。
返事はない、じゃあ誰が来たの?
鍵が開いてたから、ど・・泥棒!?

そっそれはマズイって!この体勢の時に入られたら・・!!
本を抱えたまま、硬直状態に陥る。
逃げるにも素早く動けないし、動きその物が無理。

近づく足音に、覚悟を決めた時だ。
聞き覚えのある声が、あたしの名前を呼んだ。

ちゃん!?何してんの?」

吃驚した声を上げたのは、お兄ちゃんでも亀ちゃんでもなく
聖くんと雄くんだった。
声がしないから、泥棒かと思ったよ〜

まず、聖くんが面白い驚き方をして
雄くんがそれに便乗するように、驚いてみせる。
まあ驚くか、横向きの体勢で本抱えてるの見れば。

「ちょっとそこで動かないで!手伝うから!」
「え?いいよ、あと少しで下りれるし・・」
「んな事言って、落ちたら大変だろ!!」
「いや、ココ狭いから・・!!」

雄くんが階段を上り、聖くんも上ろうとした。
2人で来ると、凄い狭い階段。
あたしがちょっと、向きを変えようとしたら。

片足が階段をズリ落ちた。
グラッと体の向きが傾く、視界がグルッと回る。

「きゃあっ!」

全身を襲う浮遊感に、あたしは目を瞑った。
一方下では、中丸と聖が当時に駆け出す。
降ってくる本には構わず、を受け止める事を優先。
受け止める為に走った聖の脳裏に、ふとこんな事が巡った。

だって女の子だし、怪我でもしたらマジ大変。
それに、ちゃんに何かあったら仁と亀に殺される。

踏み外した位置が、中段だったのもあり
受け止めた2人も大した怪我を負う事なく
3人で階下へ落下。

落下というより、お尻を強か打ちました。
ドスンという音に、あたしはおそろおそろ目を開けて吃驚。
だって、てっきり落ちたかと思ったのに
あたしは雄くんと聖くんに抱えられてて、2人の膝の上に座らされてた。

「だっ大丈夫!?どうしよう、あたしのせいだ!ごめんなさい!」

明後日はコンサートの本番だってのに!
2人に怪我させて、コンサートに影響したらどうしよう!
折角頑張って来たのに、あたしがそれを無駄にしちゃったら・・

もう少し気をつけて下りれば良かったよ〜
腰とか痛めてたら?捻挫とかしてたらどうしよう!!

「怪我してない?どっか痛いトコある!?」
「大丈夫だから、まず落ち着いてちゃん」
「マジ平気だから、俺等男で頑丈だしさ。」
「ホントにホント!?」

膝の上から下りて、2人に向かって交互に聞く。
聞かれた2人は、普通に笑顔で答えると
大丈夫だと言ってくれた。

それだけで安心出来ないから、捲れるトコは捲って
確認出来るトコは、確認した。

確かに・・目立った怪我は見つからない。
その事実で、ホッと胸を撫で下ろす。
ホント良かった!
それにしても、2人とも男の子だね〜

しっかり受け止めてくれたし、体格もガッチリしてるし。
細く見えるのに、不思議だなぁ。

「なぁ、聖。」
「あ?」
「女の子ってさ、柔らかいんだな・・」
「・・・変態」
「聖!俺は真面目に言ってんだけど。」

怪我がない事に安堵した
立ち上がった俺等に安心したのか、本を拾いに行った。
それを眺めてた中丸が、顔を赤らめて俺に言ってきた。

純情・・・?からかったら剥れたけど。
確かに、俺等とは違ってすっげぇ柔らかいんよ。
硬いヤローの肌の感触と違うし、プニプニしてる。
うわー恥ずかしい!!女の子って皆こうなんか??

中丸に便乗して、自分まで恥ずかしくなってきた。
平静を保つべく、自分も落ちた本を拾いに向かう。
この顔を中丸には見せらんねぇもん。

「にしても、何であんな荷物持ってたんだ?」
「礼保お兄ちゃんに頼まれたの」

聞いて来た聖に、本を拾い終えたが答える。
ずっと家にいるんだから、偶には動けとか何とか言われたと
唇を尖らせては説明。
それを聞いた聖と雄一は、突然立ち上がり礼保の部屋へ

理由を聞こうとしたには、危うく怪我しそうになったんだ
それに、女の子にこんな重いモン持たせるたぁ!男じゃねぇ!
ってゆうのが2人の理由・・・慌しいってゆうか、賑やかになった。

1人だった空間は、あの2人のおかげで賑やかになり
自然と口許には笑みが零れる。

やっぱり人がいるのっていいね、それに聖くんと雄くんは
あたしのお兄ちゃんが大切にしている仲間だし。
仁お兄ちゃんが、お兄ちゃんで良かった。

こうなった今があるからじゃない。
そんなの関係ない、亀ちゃんも幼馴染で良かった。
皆がいるから、今のあたしがいる。
1つでも欠けてたら、この瞬間はなかっただろう。

早く帰って来ないかな、聖くん達が来たんだから帰って来るよね?
そんな気持ちで、あたしは玄関のドアを見つめた。