世界で一番 4



互いに早足で進む二階の廊下。
途中、あたしは自分の部屋からお菓子を取りに入った。

お盆を持たせた亀ちゃんには、廊下で待っててもらう。
先に行っててくれてもいいんだけど、行ってくれないし。
真剣な目は止めて欲しいなぁ・・だって照れる。

カッカと熱くなる顔、それはそのままにテーブルの上のお菓子を取る。
目的を果たしたので戻ろうとしたら、後ろに亀ちゃんがいた。

「わぁっ!!何入って来てんのよ!」

あまりの至近距離に、つい大声が喉から出る。
驚かれた本人は、至って冷静に人の部屋を見渡してる。
ぎゃーーー!!そんなにジロジロ見ないでよ!!

声にならない悲鳴、あたしは懸命に亀ちゃんの体をドアへ押す。
しかし男の子は力が強い、両足で踏ん張られたらちっとも動かない。

「早く出てったら!皆待ってるでしょ!!」
「いいじゃん、少しくらい。」
「どしてよ」
「としても、オマエさあんま強がんなよ?心配かけて悪かった。」
「え?」
「それから、いつも詩とかチェックしてくれてサンキュ。」

部屋の入り口まで何とか押した時、上から降ってきた声。
意外なくらい優しい響きの声に、パッと顔を上げる。
顔を上げれば、淡い笑みを浮かべた亀ちゃんと目が合う。

思いも寄らない感謝の言葉が、心に沁み込む。
もう必要ないって言われるのだけが怖かった。
あたしがいなくても、大丈夫だからって言われるのも怖かった。
けど 目の前の亀ちゃんは、そんな言葉じゃなくてお礼を言ってる。

無理するな・・って、心配かけてるのはあたしの方なのに。
ヤバイ、泣きそう・・・駄目だ泣いたら心配させちゃう。

「ううん、嬉しいよ?役に立ててるなら。」
「当然。オマエさ、才能あると思う。」
「才能?何の?」
「だから詩とかの才能だよ、いつも助かってるんだぜ?」
「ホント?」
「当たり前、これからもアドバイス頼むぜ」

胸板に両手を当てて押してた体勢、顔を上げたあたしに降り注ぐ声。
結構近い距離での会話、亀ちゃんは才能があるって言った。
詩を書く事に対する才能があるって。
聞き返したあたしに、亀ちゃんは力強く頷いてみせた。

それからが、視線を外して考え込むと
テーブルの上に置いてある、数枚の紙を見つけた。
遠目でも、文字が書き連ねてあるのが分かる。

「ちょっと先行ってろよ、俺トイレ借りる。」
「ん?分かった、場所はもう知ってるよね。」
「当たり前の事聞くな、何年一緒にいると思ってんの?」
「そ・・そうだね、分かった先行ってる。」

何処か照れた様子で、自分の言葉に頷き
俺の手からお盆を受け取ると、仁達のいる部屋へ向かって行った。

その姿を最後まで見送ると、行動開始。
静かに音を立てないようにして、の部屋に入る。
それから、テーブルの近くへと歩み寄った。

そして、気になってたルーズリーフを覗き込む。
枚数は一枚じゃなくて、結構な数が置かれてた。

「これって・・の書いた詩?」

手に取って、目を通して行くうちに気づく。
ざっと読んだ感じでも、完成度の高い詩だった。
詩に込められた、の気持ちが垣間見える。

切ない詩や、恋愛を書いた詩に片思いの詩。
それから、明るい感じの詩もあった。
数ある中から、どうも気になる詩を俺は見つけた。

『Warmth you』

意味は分からないけど、詩の内容は凄く分かる物だった。
これさ・・・曲付けたらすっげぇいいんじゃない?
後は『Stay with me』とか?

やっぱ才能あるって!仁達にも見せてやらないと。
そう思った俺は、気に入った詩の書かれたルーズリーフを持ち
平然とトイレから出たフリをしてから、皆と合流した。

なんつーか、ファンの子達にも聞いて貰いたいって思った。

「トイレサンキュ」
「うん、和也はペプシとコーラどっちがいい?」

俺がルーズリーフを拝借した事など知らない
部屋に入って来た俺を、笑顔で出迎えた。
手にはさっきお盆に乗ってたペットボトル。

取り敢えず、コップにはペプシを注いでもらった。
自分がいない間、またしてもにソロ曲の詩を見て貰ってたらしい。

聖のラップとかもチェックしてるみたいだけど・・・
そう思うと、益々俺はって凄いんだなって思う。
ラップの詩まで携われてるなんてさ、マジすげぇよ。

仁の妹だなんて思えないな〜
こんなに助けられてるんだし、やっぱ曲付けてやりたい。

その話は後でするとして、俺達はコンサートの再確認をした。
曲順の確認と、振り付けの復習とか。
それをわざわざ仁のウチでするのは、ファンの意見代表として
の意見も参考にしたいから。

だって俺達聞いてたモン、が俺達のファン一号だって言ってるの。
マジで嬉しかった、その感謝も含めて皆に聞かせたい。

「ちょっと皆いい?解散の前に提案があるんだけど。」

に見送られ、玄関を出た門のトコで俺は皆を呼び止めた。
仁にも付いて来てもらってたから、近くに呼ぶ。
帰りかけてた面々も、何だよ・とか言いつつ傍に集まる。

仁達の視線を浴びながら、俺は入手しといた紙を取り出す。
視線が集中するその紙をゆっくり開いて見せた。

「コレ、何だと思う?」
「え?コレ・・・詩みたいじゃん、亀書いたの?」
「亀の字じゃねぇよ、女の子の字ッポイし。」
「そうだね、亀梨はこんなに字 上手くないし。」
「上田・・(怒)」

妹の字くらい覚えとけよ、と仁に突っ込みを入れつつ
皆の反応を得意げに見る。
俺の字か聞いて来た仁に対して、即座に否定したのは聖。
極めつけは上田の一言、失礼じゃねぇかー?

まあ当たってるから、強くは言えないけど←駄目じゃん。

それに続いて、田口と中丸が覗き込んでくる。
しげしげと眺めてる田口と、目を通してる中丸。
しばらくすると、田口がポンっと手を叩いて俺に言った。

「分かった!これって、ちゃんの字でしょ?」
「ご名答!」
「「マジで〜!?」」
「でも 何でオマエが持ってるんだよ。」

見事正解した田口に、パチンと指を鳴らした俺。
流石よく見てるな〜って感心した横で、大袈裟に驚いてる中丸と聖。
驚く2人と違って、怪訝そうな顔で聞いて来たのは仁。

まあ・・気になるのは、上田も同じみたいだし教えますか。
俺としては、その質問を待ってたし。

「アイツの部屋で見つけた、菓子取り行った時な。」
「へぇ〜俺さえも入ってないの部屋にな?」
「わりぃわりぃ!とにかく、どう思うこの詩。」
「うーん・・いいんじゃないかな、気持ちが伝わるし。」
「俺も田口と同じかな、完成度は高いと思う。」
「どっちの詩も、ちゃんらしい感じだよね。」
「曲付けてみろよ、上田とかピアノでさ!」

バラバラと感想を言う中、閃いた聖が竜也を指差して言う。
ちょっと羨ましそうな目の仁は放っといて(笑)盛り上げる。
切ない系の2つの詩に、満場一致でピアノの伴奏が決まった。

考える事は、皆同じのようだ。
には感謝してるし、詩の才能だって見抜いてる。
兄貴として、仁も張り切って意見を出し始めてた。
妹を認めてもらえて、嬉しくない兄貴はいない。

「どの曲の後にする?」
「『Warmth you』は俺の後くらいがいいと思うけど。」
「上田の曲も切ない系だったよな、繋ぎとしてもいいんじゃない?」

メロディが決まったトコで、順番について聞くと
すぐ提案したのは上田、珍しく異論もなく仁が同意して決定。

もう1つの『Stay with me』は、俺の曲の後に仁が唄う事になった。
『Warmth you』の方は、勿論俺が唄う。
あの唄は、どうしても自分が唄いたかったんだ。

こうして、の知らない所で別の計画が動き始めていた。