世界で一番 3
振り向いた先にいたのは、遭遇するのを避けてた部類の子達。
つまり、あたしがあの赤西仁の妹って知ってる子達だ。
はぁ〜目立たないように裏通り来たのに、あのコンビニ表だったんだ。
今更それを悔いても仕方がない、腹を括るしかないか。
その人達に見えないよう、小さく溜息を吐き顔を彼女達に向けた。
「仁君の妹さんだよね?あたし達、お願いがあるんだけど」
(どうせ家に連れてってってでしょ?)
「そうですけど・・・」
「今日家にいる?いたらちょっとでいいから会せてくれる?」
(予想的中)
会う人会う人全てが、このお願いをしてくる。
正直 あたしとしては、うんざりだ。
会わせろ会わせろって、お兄ちゃんの都合も関係なく言ってくる。
アイドルだから当然だとか思ってんのか?
今が大事な時だとかも分かって言ってるの?
「兄は家にはいません、知ってますよね?再追加の事。」
「えーいないの?それは知ってるけどさ、ちょっとくらいいいでしょ?」
「仁君だってファンの子が来れば嬉しいと思うし〜」
何だそりゃ?それはアンタらの都合のいい考え方でしょ?
知ってるんだったら、少しは考えたらどうなのさ!
忙しいのに無理してるの知らないの?
辛いのに笑顔で、ファンと接してるあの人達の気持ち
少しはファンなら理解してやってよ!!
「ふざけないで!アンタ達には労わる気持ちとかないの?
毎日忙しくて休みもロクに取らないで頑張ってるんだよ?
辛くても笑ってるんだよ?今体調崩したら、あの人達は貴方達ファンに会えない事を責めるんだよ?
それをファンの貴方達がさせてもいいってーの!?」
プチッと爆発した怒り、往来の場所ってのも忘れて
あたしはその子達へ怒鳴った。
こんな無神経な人達の為に、頑張ってる彼等を思うと
言わずにはいられなかった。
何よりも、彼等の頑張りが伝わってない事が悲しかった。
「何よ!知った風な事言わないでくれる!?」
「エラソーに、ただの妹のくせに独り占めしないでくれる?」
あたしの言葉で怒った子達は、声を荒上げて
1人の子が胸倉を掴み上げた。
グイッと引き寄せられるが、怯まずにあたしは言葉を続ける。
「ただの妹だよ?でもね、あたしだってお兄ちゃん達のファンだもん!!
元気にステージの上で笑って欲しいよ!」
たとえ、一緒にいられる時間が少なくても
「誰よりも、皆の事心配してんだから!!
誰一人欠ける事無く、上を目指して欲しいわよ!」
存在意義が、ただの詩のチェックだけだとしても。
「ファン一号はあたしなんだから!」
彼等の進む先に、あたしの居場所がなくても。
それでもいいから、支えになりたい。
彼女達は、あたしの言葉の波にしばらく呆然としてた。
啖呵を切ったあたしは、少し肩で息を整える。
言いたい事は全て吐き捨てた。
兄妹なんて・・幼馴染なんて・・・見かけは良いけど
一番壁を感じる関係なんだよ?
お兄ちゃんも亀ちゃんも、たっつーも雄くんや聖くんじゅんのも
段々あたしから離れてって、あたし以外の皆の物になる。
人気が出て来て、沢山の人に受け入れられて行くのは嬉しい。
けれど・・・同時に、置いて行かれた寂しさが残る。
「何よそれ、贅沢すぎよ!仁君の傍にいられるんだから!」
「そうよ!あたし達は一緒になんていられないんだよ?」
「だからって、大好きな人達の体の事とか考えなくていいの!?」
ずっと黙って聞いていた彼女達が、漸く口を開き
大好きな芸能人といられる事の羨ましさを言ってきた。
そう思いたい気持ちは分かる、凄い贅沢な事だとも分かってる。
だからこそ、今の事を考えて欲しいのに。
どうして伝わらないんだろう。
やっぱりあたしは、役立たずなのかな。
もうあたしなんていなくても・・・
「それ以上、の事悪く言うのは止めてくんない?」
「同じく、コイツはさ俺達の一番の理解者だし。」
「ちゃんは一番、君達ファンの事も分かってると思うけど?」
目尻に溜まった涙が、今にも零れ落ちそうな時
後ろの方から聞きなれた3人の声が聞こえてきた。
声の感じからして、明らかに怒ってる感じ。
振り向こうとしたら、大きな手が額に回されて
勢いよく後ろへ引き寄せられた。
「か・・亀ちゃん!?」
「何1人でこんなトコいんだよ、探したじゃん。」
「え?え?」
「仕事は一通り終わったの、皆で来たらオマエいねぇからさ。」
探してくれたの?息切らしてまで?
コンサート前の大事な時なのに?
皆の優しさが、キュッと胸を締め付ける。
あたしに怒鳴ってた彼女達は、生カツンの出現に顔を真っ赤にしてる。
そうなのだ、3人だけかと思ってたのに6人で来てくれてたの。
「俺達さ、ちゃんと常識のある子が好きなんだけど。」
「君達もさ、元気な俺達に会いたいよね?」
「俺達も、サイコーに元気な自分達を見てもらいたいし。」
お兄ちゃん達の後ろから、雄くんと聖くんにじゅんのが出て来る。
次々に現れるメンバーに、ファンの子達も言葉を無くしてしまう。
さっきとは態度がガラリと変わって、凄い聞き分けのいい子になった。
3人の言葉に頷き、それから本命なのか
お兄ちゃんと亀ちゃんを見て、ごめんなさいと謝ると足早に立ち去った。
ねぇちょっと・・来てくれたのは嬉しいけど
いいの!?こんなトコに全員集合しちゃってさ。
豪華だ〜ホントに、あの子達の言った通りだよね。
あたしってかなりの贅沢者だ。
こんな凄い人達に囲まれて、寂しいだなんて思っちゃ駄目だよね。
だって他の子達は、そんな事いつだって思ってるはず。
暇さえあれば会えるあたしとは違うんだ。
いつでも逢えるんだから・・・我慢もしないとだよね。
「迎えに来てくれてありがと、皆にご飯買ったから帰ろ。」
「マジで〜?俺の好きなコロッケある??」
「俺は肉!肉!」
「あるよ?サンドイッチだけどいい?」
に餌付けされた二名は、袋を持つの傍に来る。
袋を開けづらそうだったから、和也は額から手を離す。
後ろからその背中を見つめた。
無理してる、付き合いが長いからこそ分かる。
悔しいが上田の指摘通り、今までの何処を見てきたのか 俺は考えさせられた。
いつからだろう、無理して笑うのが増えたのって。
俺達がジャニーズに入ってからか?
そういやぁ・・・結構助けられてたかもしんない。
レッスンに通いたがらなかった俺を叱咤したり
飽きっぽい俺に、踊る事の面白さをは教えてくれた。
『亀ちゃんは出来るよ、運動神経いいじゃん?
野球だけに費やすのは勿体無いよ?もっとチャレンジしてみたら?
あたしも見たい、亀ちゃんがテレビで輝く姿が』
それからは、俺の色々な面を見つけてくれた。
ドラマの挿入歌で詩を書く事になった時も、遅くまで付き合ってくれたしアドバイスもくれた。
あんなに近くにいたのに、気づくの遅すぎだよな。
「俺もっと女心、勉強しよっかな・・」
皆に囲まれて笑うの姿を見て、1人呟いた和也。
その言葉を聞いたのは、傍観してた竜也のみだった。
赤西家に帰ってくると、出迎えたのは次男の礼保。
全員揃っての帰宅に、少し嬉しそうに笑った。
「お帰り、 皆に心配かけんなよ?」
「礼保お兄ちゃん・・うん、ごめんなさい。」
「それじゃあ、ごゆっくり。」
「サンキュー礼保」
凄くフレンドリーに、亀ちゃんが答えて
出迎えた礼保お兄ちゃんを見送った。
そんなに遠くまで行ってないのにって思ったけど
心配してくれる人がいるのは、凄くいい事だよね。
あたしは小さい声で、礼保お兄ちゃんに有り難うと言った。
「じゃあお昼にしよう?コレ持ってといて」
「おう・・は?」
「飲み物用意するからさ、先に行っててよ。」
「「サンキュー♪俺達コーラがいいな」」
「はいはい」
元気よく挙手した、雄一と聖に笑って答える。
いつもと変わらずに任して立ち去る面々。
唯1人を除いて。
全員が騒がしく立ち去った後、キッチンに向かう。
脳裏では、あの人達との事を考えてた。
「はぁ・・贅沢すぎよ、か。」
「オマエが?」
「そうなんだって、まあ確かにそうかもだけど」
「ふーん・・考えすぎじゃねぇ?」
「そんな事ないもん、本当の事だよ・・・って亀ちゃん!?」
キッチンに向かいながら続いた会話。
ポンポンと続いたキャッチボール。
途中までは、礼保お兄ちゃんかと思ってて冷蔵庫を開けてから気づいた。
皆と一緒に行ったと思ってただけに、驚きも大きい。
危ない危ない、勢いで本音を言っちゃうトコだった。
冷蔵庫から、コーラとかペプシとかを取り出しながら
隣に来てた亀ちゃんを見やる。
真剣な目であたしを見てる、照れるってゆうかドキドキ。
「さっきのは聞き流してよ」
「何でだよ、何で話してくんないの?」
俺はオマエの力になりたいんだよ。
つーか、オマエが笑ってないと嫌なんだよ。
どうせなら、笑ってくれてた方がいいじゃん。
キッチンから二階へ向かおうとするの、少し後ろから言う。
まさか和也がそう思ってるとは知らないは
動揺を隠して、必死に二階へと急いだ。
成長して、低くなった幼馴染の声。
全ての女の子達を魅了するその声を、近くで聞きながら。