世界で一番 2



「全然・・よくないじゃん、書き直したら?」

離されて広がる距離と、存在意義に不安を感じたあたしは
気づくと、そんな心にもない言葉を亀ちゃんに言ってた。
吃驚した顔があたしに向けられる。

そんな事を言われたのに、亀ちゃんはドコが悪いのと聞いて来る。
信じすぎ!なんか惨めじゃん、あたし。

綺麗な心で接してくれる3人。
そんな3人と比べると、なんてあたしは醜いの?
傍にいられるだけで贅沢なのにさ。

「うーー!何でもない!直すトコなんてないよ!」
「おい?!?」

惨めで恥ずかしくて、訳も分からず泣きそうになって
そんなの見られたくないから、あたしは部屋を飛び出した。
お兄ちゃんの声がしたけど、立ち止まりたくなかった。

誰も来ないうちに、自分の部屋に入って鍵を掛ける。
ドアにもたれて座り込み、膝に顔を埋めた。

なんであんな事言っちゃったの?
お兄ちゃん達は、これからもっと羽ばたいて行く人達なのに
あたしのつまらない気持ちで、引き止めちゃいけないのに。
身内として、そんな姿を見守らなきゃ。

なのに・・なんで寂しいって思うちゃうんだろう。
なんて、あたしはズルイんだろう。

?兄ちゃん達、何かしちゃったか?」
「お、お兄ちゃん・・ううんホントに大丈夫。」
「ならいいけど、なんかあったら兄ちゃん達に言えよ?」
「・・・うん、有り難う。」

流れた涙を拭おうとして、ドアの外から聞こえた声に気づいた。
聞こえたのはお兄ちゃんの声、吃驚したけど平気だって言った。
あたしは、お兄ちゃんの声が好き。

聞いてるととっても安心するし、心地良いから。
我侭で強引で、自己中な部分もあるけど
あたしにとっては、大好きなお兄ちゃんの1人。
余計な心配を掛けるのは、避けたかった。

お兄ちゃんも、ドア越しに言い残すと部屋に戻って行った。
こんなにも、お兄ちゃんも皆も優しい。

あたしはドアの前から立ち、テーブルの前へ座った。
それからふと考えると、ルーズリーフとシャーペンを手に取り
ルーズリーフへ向かって、何かを書き始めた。

その頃、仁も戻った自室では・・・
緊急会議が始まっていた(笑)

「なぁ・・仁、俺なんかした?」
「亀のせいでも俺達のせいでもないってさ。」
「書き直せって言ったの顔、なんか泣きそうだった気がした。」

帰って来た仁に、振り向き様にそう聞いた和也。
1人座椅子へ座りながら答えた仁。
の様子がおかしいのは、この部屋に来た時から気づいてた。

兄として、妹の変化には昔から気を張ってた仁。
たった1人の妹、ずっと守るべく存在だった。
それは勿論、弟の礼保も同じ。
長男の俺が守らなきゃならない存在。

仁の言葉に、一点を見つめたまま言い切った和也。
和也の言葉に頷きかけた仁、其処へ冷静な竜也の声が掛けられた。

「そこまで分かってんのに、その先には気づかないの?」

ハッと竜也を振り向けば、妙に真剣な顔。
何か理由でも知ってるのか、分かりきったような感じの言葉。
気づかないの?と言う言葉が胸に響く。

その先って何だよ・・・オマエ、何知ってんだ?

自分達に分からない事を、竜也は知っている。
なんか知らないけど、胸がムカムカして来た。

「上田は知ってんのかよ」
「大体はね、でもちゃんは俺の口から言われるのを望んでない」
「うわ・・なんかすっげぇムカつく。」

身内の自分でさえ分からないのに、他人のコイツが知ってるのは
何だか兄として、腹立たしいっつーかムカつく。

兄貴っつー生き物はな、妹が何よりも可愛くて大切なんだよ。
女姉妹なら分かる物も、性別が違ってしまえば
簡単に分かり合える事がなくなってしまう。

改まって話し合うのもしなくなるから余計だ。
それなのに、上田はの気持ちを見抜きやがった。

「じゃあ、は何に悩んでるのか分かってんか?」
「無神経」
「は?」
「揃いも揃って、ちゃんと何年一緒にいるの?」

亀がイラついたように聞けば、上田は淡白にそれだけ口にした。
勿論意味の分からない俺と亀は、怪訝そうに見返すだけ。

無神経って何だよ、何が無神経なのか説明しろって。
ほぼ同時に同じ突っ込みを心の中でした、俺と亀。
『無神経』の次には何年一緒にいるの?って上田は聞いて来た。

「俺はが生まれた時からずっとだよ」
「俺だって、物心ついた時からずっとだ。」

互いにエッヘンと胸を張って答えれば、上田は深々と溜息をつくのだった。
それから顔を俺等に向けて、最初と同じ事を口にする。
それだけ長くいるのに、その先には気づかないのか?と。
上田は何が言いたいんだ?

「じゃあ聞くけど、2人はちゃんを何でココに呼ぶの?」

次々と淡白な問いかけは続く。
なんで?と問われた時、何となく分かり始めた和也。

いつも嫌々ながらも、詩の方に目を通してくれた
何らかの形で、コンサートに携わってくれてた幼馴染。
もしかして――和也は、気づいた事を上田に問うた。

「アイツ・・俺等に付き合うのが嫌だったとか?」
「亀・・オマエって、分かってないな。」
「上田、俺等が呼ぶのは詩のチェックだろ?アイツ才能あるし。」
「まあね、じゃあさ もし詩の出来が良かったらどうする?」

和也の閃き発言を、呆れ顔で受け流し
次に投げかけられた仁からの問いかけに、一旦同意するが
次の問いかけを竜也は投げかけた。

詩の出来が良かったらどうするかって。
見てもらう必要がないならどうするかって事か?

そうなれば、俺達はを呼ぶ事はなくなる。
それは、満足の行く物が出来れば出来るほど・・
との距離は広くなって、そのうち関わりさえもなくなる。

の悩みはそれか?」
「流石兄貴、気づいたみたいだね。」

だからは詩を書き直したら?って言ったのか。
俺等との繋がりを無くしたくなくて・・・
唯一関われる事を終わらせたくなくて。

詩を書き直せば、次家に来た時にまた関われる。
寂しさを感じさせちまってたんだな。
俺達も、そうやってしかと接してなかった。

やべー・・・兄貴(幼馴染)失格じゃん。

似たような顔つきで、考え込んだ2人を見て
立って腕組みしていた竜也も、小さく微笑んだ。

「それとちゃんさ、迷ってると思う。」
「迷ってる?が?」
「うん このまま一緒に関わっていられるのかとか。」
「俺としては、関わって欲しいんだけど。」

これはホントの気持ち、だってさアイツが指摘した通りに直すと
詩全体がすっげぇ良くなるし、完成度も高くなるんだ。
それだけの才能が、にはある。

いい物を作る為には、の才能が不可欠なんだ。
その事は、俺を始めとした皆も気づいてるはず。
メンバーからも、のチェックした詩の評判はいい。
仁だってそれは認めてるし、兄貴として嬉しいだろうと思う。

俺だって、が幼馴染で良かったって思ってる。
面と向かっては言えないけど。

「上田ってスゲーな、何でそんなに気づけるの?」
ちゃんをちゃんと見てるから」
「なに!?狙いか!?お付き合いは交換日記からにしろ!」

いやオニーサン?交換日記って、かなり古くない?
キランと白い歯を見せて笑った上田に、焦った仁がそう叫んでた。

兄貴として気になるのは分かる気もする。
俺に妹がいたら、同じくらいヤローの選別とかしてただろうし。
自分が認めた相手としか付き合わせない、とかね。

「ジョーダンはともかく、ちゃんは1人で抱えてる物多いと思うよ?環境が環境だしね。」

賑やかになった室内に、再び意味深な竜也の言葉が響く。
1人で抱えてる物が多いって、コイツは何処まで見抜いてんだ?

目を細めて見てる仁に、竜也が気づき妖しく笑った。
その態度がまたしてもイラつかせる。
見かけが女ッポイだけに、女心が分かるのか!?
つーかさっきのはジョーダンだったのかよ(怒)

そのままその日は終わり、月日は巡って再追加コンサートの四日前。
忙しくなって来たせいか兄達とは、会えない日が増えていた。

皆あれから元気かなぁ・・・詩とか出来上がったかなぁ。
気になる、すっごく気になる。
今までそれが当たり前だっただけに、来なくなると寂しい。
あたしって我侭だなぁ〜お兄ちゃんに似てるかも。

こんな所で兄妹としての繋がりを感じるとは。
血は争えないね。

そんな事を考えながら、あたしは図書館帰りの道を歩いてる。
学生なあたしは長い夏休みの最中で、図書館へは資料探しに行った。
大学に通い、教科を専攻している為 レポートが沢山出た。

大人気の兄と兄妹だって知らない人が多いから
町に出ても、そんなに騒がれない。
知ってるとしたら、同じ地区の子とかくらいだ。
そうゆうのがいない図書館に行ったから、レポートに集中出来たよ。

いたら絶対、レポートと処じゃなくなっちゃうわ。
何か冷たいモノでも買って帰ろうか・・
などと思いながら、コンビニへ向かう。

仁お兄ちゃんは、甘いものがとてつもなく好きだから
杏仁豆腐でも買う?いや・・それともプリン?
あ、でもコンサート前だし 力の付く物の方がいいか。
じゃあ亀ちゃんは?アイツは何でも食べるし、パンでもあげるか。

たっつーは・・・絶対体力付く物の方がいい。
辛い物とかどうよ?
じゅんのは大食いだから、量の多いハヤシライス!

雄くんは〜カニクリームコロッケサンド。
聖くんは・・・肉好きだし、焼きそばでいっか。

「あらら、無意識にお兄ちゃん達のばっか買ってるじゃん。」

ハッとして籠を見れば、自分のよりもお兄ちゃん達の分の方が多かった。
無意識って恐ろしい・・ってゆうか、慣れって怖い。
いつもそうやって、皆のお昼とか買ってたから習慣付いてた。

結局買ってしまった。
だって心配だもん、あんなに頑張ってるのに途中で体調崩したら。
成功してもらいたいもん・・・力になりたいよ。
役に立ちたい・・・必要とされたい。

「赤西さんだよね?」

そんな時だ、数人の足音と共に自分の姓を呼ばれた。
若い子の声・・・すっごく嫌な予感がしたけど
呼ばれたからには顔を上げて、その先を見た。

あたしの予感は、バッチリ的中して避けたかった部類と鉢合った。