聖夜のキス



後一週間で今年が終わる。
その前のメインイベント、それは恋人達の為のような物で
盛大なイベントとして、親しまれている。

聖夜・クリスマスイヴ。

この日の過ごし方は、人それぞれ。
家族で楽しんでもいいし、友達と飲み明かすのも悪くない。

でもやっぱり、一番大切な人と過ごすのが一番だね。

東京でも初雪を記録した今年のイヴ。
あたしもやっと、イヴを一緒に過ごせる人と出逢った。
彼と出逢えたのが未だに信じられない。

今年大ブレイクしたグループ、KAT―TUNの一員。
上田竜也その人なのだ。

ホント、女の子みたいに可愛くて
最初は吃驚したものさ、付き合う事になった決定打ってのは
ちょっと忘れちゃったけど、一緒にいるうちに色々分かったの。

やっぱり男の子なんだなって思う事もあったり
気まぐれで、偶に何を考えてるのか分からない時もあるけど


全部それをひっくるめたのがたっちゃんだから。


そんで今日は、たっちゃんに言われて町に出た。
『18時に渋谷の大画面の前で、待ってて』

なんて言って、たっちゃんはあたしの家から帰って行った。
言うだけ言って帰っちゃったよ。
全く・・・強引ってゆうか、まあイヤじゃないけど。

あんな目立つトコで待ち合わせて大丈夫なのかな。
しかもクリスマスイヴ、でもその方がいいかな?
逆に目立たないかも。

ってな訳で、言われるままは渋谷に向かった。

一方、を呼び出した本人の竜也。
渋谷の大画面を眺め、妖しげな笑みを覗かせる。

渋谷までは、スタッフと一緒に車で来た。
後、こぞってついて来たメンバーが2人いる。

「全く上田も派手な事考えるよな」

「まあ、上田らしいと言えばそうなんじゃねぇの?」

車から降りた竜也の背に向けて、囁き合う2人。
それは、赤西仁と中丸雄一。

ついて来た2人に、文句も言わずに同行を赦した竜也。
一体何を考えてるのか・・・それは本人にしか分からない。

「アイツの彼女になったちゃんも、大変だよな〜」

中丸がそう言いながら、大画面のある建物へと足を向ける。
本人から何も聞かされてないが、気になる。

中丸は上田の彼女を見た事があるらしい。
残念ながら、俺はまだなんだけどさ。

「中丸、赤西、まだそこに突っ立ってんの?早く手伝ってってば」
「・・・オマエ、俺等を使う為に連れてきたんだな・・」
「今更気づいたの?」

ムカッ・・!何ですかあの人(怒)←雄&仁

目立たないように顔は隠しているが、いつまでも入り口付近にいたらバレてしまう。
それを心配してか、再度現れた竜也が2人を急かす。

再度現れて、開口一番に言ったのは手伝っての一言。
結局その為に連れて来るのに、文句を言わなかったと気づいた仁。
確信を持って聞いた仁に、いけしゃあしゃあと竜也は言った。

サラッと言ってのけた姿が少しカチンと来た2人だったが
飾らない言い回しだったから、逆に自然と手伝いを快諾出来た。


18時前に自宅を出た、地元が横浜なので
渋谷へは、車で1時間以上はかかる。
電車でもいいんだけど、人混みが苦手だからさ〜

クリスマスイヴだから、あたしとしては家でゆっくりしたかったけど
お忍びデートってのも・・・ドキドキして悪くないかもね。

渋谷駅が車の窓から見え始め、帰宅ラッシュで混み始める頃。
は無事、車を駐車場へ停めて大画面を目指す。

今日はクリスマスイヴ、想像以上に町は賑やか。
これなら、たっちゃんがいてもバレる心配はないよね。
は大画面の前にある噴水(多分ないかも)の淵へ座り

腕時計を眺めながら、竜也が来るのを待った。
腑に落ちない点は、どうしてココが待ち合わせ場所なのか。
それと、待ち合わせ場所がココの意味は?

コートで凍える体を包み、白い息を虚空へ吐く。
どんなに考えても、体が冷えて行くだけで解は出なかった。


そして時計の針が18時を差す頃。
辺りを見渡してみたけど、竜也が現れる気配はない。
え・・・?すっぽかし??

この寒空の下、素直に来たあたしってなに?

ふ・・ふざけんなー!!
たっちゃんがココがいいって言うから(言ってない)来たのに!

『メリークリスマス、上田竜也が送る聖なる記念日。』

立腹したが、立ち上がろうとした途端。
大画面に変化が起きた。

画面に現れたのはココに呼び出した本人の竜也。
これには唖然としてしまった

だって、待ち合わせに呼んだ本人が図ったかのように画面に現れるなんて。

の近くにいる人達も、知ってる人はざわめく。
彼方此方から俄かに黄色い声が聞こえる。

『今 この場にいる、全ての人にメリークリスマス。』

頭の上では、どうやらCMなのか
機械を通した竜也の声が流れ続けている。

『大切な人には、いつも傍にいて欲しい。』

こうして画面越しに見るたっちゃんは、遠く感じた。
やっぱ、芸能人なんだなぁって・・・。

『その大切な人と過ごす、特別な日。』

画面を見上げるの目の前が、突然暗くなる。
影が出来た事で、誰かが立ったのが分かった。

「『これからもずっと、一緒にいられるように』」

に送るよ、俺からのクリスマスプレゼント。」
「え?え?たっちゃん・・・!?」

顔を上げたタイミングと、画面のたっちゃんと
目の前にいるたっちゃんの声が重なったのが一致。
名前を口にしかけたを、自分の唇に人差し指を添えて止める。

現れたたっちゃんは、ファーのついた黒いコートを身に付け
頭からフードを被っていた。

吃驚したは、目の前のたっちゃんと画面とを見比べる。
画面のたっちゃんは、同じ台詞をもう一度囁き
その映像は終わった。

周りの人達が、この場にいる本人に気づく事はなく。

「どう?驚いた?」
「当たり前でしょっ、待ち合わせ場所にはいないでいきなりメッセージが流れたりするんだもん。」

口を尖らせたを見て、作戦成功だと満足そうに微笑む。
その笑顔は、悪戯を成功させた子供みたいだ。

けれど、とても愛しく見えた。

「全く・・人を驚かすのと、虐めるのが好きなんだから。」
「そう?でも、はこんな俺でも好きでいてくれてるんでしょ?」

・・・・この自信家め。
だからと言って、反論はしない。
だって、本当の事だから。

いい面も悪い面も、それが在ってこその竜也。
どれか1つでも欠ければ、あたしの好きな竜也じゃなくなる。

分かってるくせにわざわざ聞いて、言わせる所がSだよね・・・。

惚れた弱味なのか、嫌いにはなれない。
あたしの心を捉えて離さないのは、その竜也だから。

「言いたくない、けど分かってるでしょ?」
「当然、そんなトコも可愛いから俺は好きだよ」
「(ぐはっ!)」

余りの恥ずかしさに、吐血しそうになった。
あたしが照れてるのも気づいてる、知ってて竜也はそうする。

待ちぼうけをしてたあたしに、竜也は思わぬプレゼントをくれた。

結構人気な、ブランド。
ある漫画と映画がきっかけで流行りだしたヤツ。
勿論 竜也も身につけてる物。

ヴィヴィアン・ウエストウッド。

それを、あたしの前に立って首につけてくれた。
それから強引ではない動きで、噴水の淵へ座らせる。

「ねぇ、は俺が芸能人だとしても 傍にいてくれる?」
「今更聞くかなぁ、ソレ。」
「あはは、お願い・・の口からの声でもう一回聞きたい。」

たっちゃんがクサイ台詞連発してますー!

細長くて、綺麗な竜也の指がの頬に触れる。
スッと頬を撫でられ、ビクッと体が震えた。

怖いんじゃなくて、ドキドキして緊張し始めたから。
何て綺麗で色っぽいんだ、この子は。
女として羨ましいわい。

「傍にいるよ、どんな時もずっと。」
「ありがと、なら俺はをずっと守るよ。」

囁くように聞こえた声。
竜也はロングコートの袷を持つと、そのままの顔に
添える手と同じように持ち上げ、隠すようにすると・・

寒さで冷えたの唇に、自分の唇を重ねた。


「見て見て、アソコ。」
「うわー、マジ大胆だな〜上田。」

雪の舞い始めた噴水を、建物の中から覗いた2人の会話。
彼女へのプレゼント作戦に、手を貸すハメとなった仁と雄一。
2人の眼下では、若い恋人達が口づけを交わす姿。

大胆だな、と言いつつも口許や目元は笑顔で緩んでる仁。
突然上田がメッセージを流させて欲しい、という無茶なお願いの
交渉人として、参加させられた2人。

堂々と、(変装はしてっけど)人々の前へ出て行き
彼女の為に、あんな企画を思いつき実行した上田。

ちょっとすげぇって思ってしまった仁。
幸せそうに微笑み合う2人を見ていると、少し羨ましかった。