聖なる夜に
それは昨日の出来事だった。
街中で見つけた思わぬ人。
サングラスを掛け、ニット帽を被り
足早に街を歩く姿。
それを、あたしは見た事があった。
雑誌と・・・・・テレビの中で。
「ってゆうか、あたしの幼馴染」
誰に言うでもなくブラウン管の中にいるソイツにぼやく。
それは先週発売した最新のライヴDVD。
幼馴染のよしみであたしはそれを買った。
幼馴染であるソイツを、どうしてテレビとか雑誌で見るのかと言うと
ソイツの名前は亀梨和也。
大人気のアイドルグループ、KAT-TUNのメンバーなのだ。
頭文字がグループ名で、和也君はKの担当。
冒頭で言った見つけた人ってのは、その幼馴染の和也君。
昨日はクリスマスイヴだった。
何処かに行く感じだったから・・・・デートの約束とかしてたのかな。
まあ・・ただの幼馴染のあたしには関係ないけどね。
と思いながら少し心を寂しさが駆け抜けた。
ただの幼馴染、子供の頃は少し遊んだ事があるけど
今は・・・あんまり関わりが無くなってしまってる。
まあしょうがないけどね、向こうはアイドルだし。
ファン皆の物になった日から、関わりは皆無になった。
それでも時折和也君の家からは賑やかな声が聞こえたりする。
友達とか家族との声とかがよく聞こえて
それだけで、同じ場所にいる事実を実感出来た。
「勝手に片思いして勝手に気にして、虚しいなあ」
「何が虚しいの?」
・・・・・・・・・・・うん?
ポツリと窓から外を見て呟いた言葉。
なのにその呟きに応える声が聞こえた。
ハッとなって振り向く。
けれど其処には誰もいない。
空耳だったのかと思い、前を向き直った時にまた聞こえた。
今度は窓の下から。
「ちょっと、何処見てるんだよ」
「何処・・って・・・・え!?」
「やほー」
「かっ和也君?何で此処に?しかも凄い久し振りだし」
「まあ確かに久し振りだよな」
視線を向けて吃驚、心臓が強く跳ねた。
下にいて、あたしを呼んでたのは
その・・・・24年片思いしてる相手、和也君その人だった。
生KAT-TUN・・・じゃなくて生和也君。
問い掛けに受け応えする様とか、昔からの癖とかを見てると懐かしさに駆られる。
同時に、とても胸が痛くなった。
昨日の光景が思い起こされる。
真剣な顔で、店を回り・・何処かへ向かっていた和也君。
物凄く聞いてしまいたい。
彼女とかいたら、冷やかしてやるんだって・・・・思うけども
絶対それ聞けない・・・。
「?どうした?」
「・・・・あ、うん。何でもないよ。ってゆうか・・今日はオフなの?」
「そ、久し振りのオフ・・って言うか休みを入れてもらった感じ」
「・・へぇ。何処か行く途中とか?」
「まあね、お前暇?」
「暇・・・・じゃないよ」
「それって、恋人とかの用事?」
「そうだよ?あたし達もう24じゃん、そのくらいいるって!」
咄嗟についた嘘。
いる訳ないのに、ずっと和也君しか好きじゃないのに。
離れてて良かった。これが面と向かってだったら絶対バレてる。
今は二階と一階なら遠いし顔も見られない。
和也君の顔が見られなかった。
どんな顔して聞いてるかとか、見たくなかった。
答えたっきり俯いてると、黙って聞いてた和也君の声がする。
「そっか、お前にも彼氏出来たんだな。」
「・・・・っ・・そっちは?」
「俺?予想してみてよ」
「いるんじゃないの?可愛い彼女」
昨日の事を思い出しながら視線も合わさずに言う。
照れたようにいるよ、と認める声がすると思ってた。
でも、それは違った。
「――いないよ、俺さ・・・・好きな子いるから」
強い衝撃が駆け抜ける。
瞬間、呼吸さえも出来なくなった。
「今日の20時に、ツリーの前に来れる?」
「ツリー・・・?」
「ん、付き合って欲しい処があるから」
「行けないかもしれないよ?」
「別にいいよ、取り敢えず待ってるからさ」
動揺を悟られないように何とか答える。
好きな子がいる、たったそれだけの言葉なのに
あたしに与える衝撃にしては、威力満点で・・・・・立ち去る背を見る視界が涙で滲んだ。
□□□
19時
『今日の20時に、ツリーの前に来れる?』
突然の待ち合わせ。
残り1時間をきった。
彼氏がいる、咄嗟についた嘘だけど・・・
何で誘って来たんだろう。
和也君だって、好きな子いるって言ったくせに。
何を考えてるんだろうか、その考えが読めない。
どうしよう。
行くべき?
好きな子いるけど、あたしを誘うってのは
単に幼馴染として?
・・・・・きっとそうだ。
幼馴染として、好きな子のプレゼントとか選ぶの手伝えとかだよね。
それ以外の用事なんて先ずないよ。
思って自分で切なくなった←
ふと見た窓の外。
部屋にいるから分からないけど、大分外は冷え込んでた。
「―――雪だ・・・・」
街灯に照らされた何かが、降ってる。
窓を開けてみて顔が綻ぶ。
開けた窓からは、澄んだ空気が入り込む。
凛と冷えた空気は、澱んだ空から舞い落ちる現象を招く。
言うまでもなくそれは雪。
『待ってるから』
脳裏に浮かぶ和也君の言葉。
雪が降って来たけど・・・・・まさか待ってたりしないよね?
空を見上げてふと思う。
こんな日に外になんていたら間違いなく風邪を引く。
頑固そうな和也君、とても気になって思わずコートを羽織って街へ駈け出した。