急ぐ心



一足先に川原へ向かった
其処へ遅れる事数分、バタバタと駆けつける複数の足音。

勿論それは隼人達だ。
昨日の一件以来、学校に来なくなってしまったタケ。
その足取りを探るべく、隼人達は先ずこの店へ来た。

取り敢えずココはのバイト先でもあるし
タケがココに来たかの確認だって取れるから。

そんな思いを胸に、入り口への階段を上がっていると
ドアのトコに見慣れた者の背中を見つけた。
近づいた隼人が、後ろからその背中に声をかける。

「オマエ何してんの?」

店のドアへ寄りかかるように問いかけると
パッと反応したヤンクミが、目を丸くして言い返した。

「何って、オマエ等こそ」
「タケ・・来てるんじゃねぇかって」
「・・・オマエ等、ダチ思いだな――」
「うるせぇよ」

ヤンクミの問いかけに答えたのはつっちー。
タケを気にかけた答えに、嬉しくなったヤンクミだが
それを遮るように詰めたい竜の声が割り込み

言葉を飲み込んだ様子のヤンクミから視線を外すと
取り敢えず中見てみようぜ、と仲間を促し店内へ。
慌てたヤンクミも、急いで最後尾に付くと中へ入った。

しかし、入った店内にタケの姿もなく
先に午前中だけバイトしてるはずのの姿もなかった。

「いないみたいだな」
「ああ」

店内を見ながら歩くヤンクミがそう漏らし
竜が静かに同意する。
目は変わらず店内を見ていた。

お昼までは、まだ十分あるのにも関わらず
の姿は店内の何処にも見つけられなかった。

ヤンクミから、午前だけバイトしてくる事を聞かされていた隼人達も表情が曇る。
何処に行ったんだ?、まだバイトしてるハズだろ?
湧き上がる疑問、店内の中央付近で止まった隼人の脳裏に浮かんだ。

それは皆思ったらしく、腑に落ちない表情を浮かべている。
そんな時だ、2階の席から楽しげに話す男等の声が聞こえた。

「昨日の高校生バカだよな〜」
「奥寺とタイマンなんて、在り得ねぇだろ」
「5分でKOだね。」
「1分でしょ」

彼等の会話に、隼人達の表情は一気に変わった。
ゆっくり振り向いて、2階を仰げば
テーブルを囲って話しに華を咲かせている大学生らしき者達。

「けどあのガキ、よっぽど真希ちゃんに惚れてんだな」
「にしてもさ、あのウェイターも奥寺の知り合いなんか?」
「結構、キレーな顔した奴だったよな」
「タイマンの場所なんか聞いてどうすんだろ」
「助けるにしても、無理じゃねぇ?あはははっ」

ピクッ・・・
これを聞いた全員のコメカミがひくつく。

も行ったのか?アイツ・・・!!
無茶しなきゃいいけど・・
キレーな顔とかてめぇらが言うなよ(怒)。

怒りに溢れた隼人を先頭に、全員は2階へと向かった。
なんつーか、ムカついたって感じ。

2階へ行って数分後、大学生達から俺達は話を聞いた。
タケと奥寺がタイマンする話を、は奥寺から聞いたらしい。
ワザと聞かせた気がすんだよな・・・。

勿論仲間のタケを放っておけないの事だから
案の定場所を聞き出して、川原に行っちまったらしい。
ったく、1人で突っ走るなっつたのによ。

ムスッとした顔で、走りながら愚痴る隼人。
隣からその顔を見た竜は、自分も同じ事を思ってた。

仲間の為なら平気で無茶をする、気が気でならない。
初対面の時みたいに、人を庇って怪我とかしてなきゃいいけど。
でもアイツの事だ、やりかねねぇな・・・。
考えれば考える程、不安が募る。

自分達が着くまで、何も起きてない事を祈った。

自分が心配の種だとは知らないは、奥寺の言った川原へ着いていた。
土手を走って下り、石だらけの川原を走る。
転びそうになるのも構わず、は走った。

走るの視界に、見えたのだ。
立ち向かうタケの姿が・・・
奥寺は強い、それは自分が一番知ってる。
その奥寺に、喧嘩の弱いタケが何度も立ち向かっていた。

「タケ・・・」

駆けつけたい、助けてやりたい。
でもそれは、タケの為にならねぇ。
タケは自分で選んだんだ、立ち向かって真希ちゃんを開放する事を。

誰の助けも請わず、自分1人の力だけで挑んでる。
タケが俺達の助けを必要としないなら、手出しは出来ない。
けど・・辛いよ・・・
目を背けたい位、一方的なタイマン。

もうタケの足取りは弱々しく、覚束ない。
勝敗は目に見えてる。
それでもタケは、諦めようとはしなかった。

倒れても倒れても、殴られてもそれでも
タケは立ち上がって当たりもしない拳を繰り出す。

奥寺の拳が、タケの顔にヒット。
タケの顔はボコボコになってて、目を背けてしまった。
悔しげなタケの声に反し、遊び程度に相手をしてる奥寺の声が重なる。

「そんなんで俺に勝てると思ってんのか?」
「うるせぇ!」

ボクサーポーズを構え、おちょくるように言う奥寺に
ヨロヨロっとだが立ち上がったタケが懸命に殴りかかる。
だが、差は歴然としてて 簡単に避けられてしまう。

笑みさえ浮かべた奥寺の拳が、タケの腹に食い込む。
遠くで見ていた俺にも、タケの漏らす苦痛の声が聞こえた。

「タケ・・っ」

もう見てられなくて、はその場から駆け出す。
丁度そのタイミングで、後から駆けつけた隼人達が到着。

川へと走る隼人の目に、見慣れた小さい背を発見。
確認するまでもなく、それがだと気づくと
ヤンクミに知らせるように、隼人は声を張り上げた。

「山口!あそこ!」
「アレは、嘩柳院か?」

隼人の声に、ヤンクミも竜達もその先を見た。
其処には、川原の石に足を取られつつも
懸命に走るの姿があった。

が走る先には、タイマンをするタケと奥寺。
マズイ、今あそこに突っ込むのはやべぇだろ!

「チッ・・!」

苦々しく舌打ちした隼人、ヤンクミ達より走る速度を上げ
危なっかしい走り方をしてるへ、アッと言う間に追いつくと
細い腕を掴んで止めた。

「行くな!」
「――隼人・・・!?」
「タケの戦いなんだろ、今行ってもタケは喜ばねぇよ。」
「けど・・けど・・・」

荒々しい声に止められたは、弾かれたように顔を上げ俺を見上げた。
落ち着かせようと両肩に手を置いて言い聞かせる。
俺を見上げる顔は、不安に満ちてた。

けど・・と繰り返し、目は憂いを帯びてる。
こんな時に思うのはマズイけど、抱きしめてやりたくなった。

「嘩柳院、駆けつけてやりたいのはオマエだけじゃねぇ」
「ヤンクミ・・皆」
「オマエだって分かってるはずだ、これは武田が選んだ事だって」
「分かってるよ、タケが助けを必要としてねぇ事だって・・・」

でもこのまま見てるなんて、出来ねぇ・・。
ヤンクミの問いかけに、そう言って視線を落とす

その背は、とても辛そうに見えた。
タケの気持ちを分かってやれなかったと、自分を責めた
きっと今も、迷ってる自分に苛立ったりしてんだろう。

隼人も何とも言えない気持ちになったが
タケに視線を向けてから、そっとの頭に手を乗せた。

俺は、その隼人の手の暖かさに
少しだけれどドキドキして、それから安心してる。
こんな時に不謹慎だけど、そう思う気持ちは偽れなかった。