前触れも何もない
それは本当にいきなりだった。
あの時路地を通らなければ出遭わなかったのかも?!
§始まりの始まり§
20XX年 春
この春私は無事進級を果たした
最上級生として迎えた新学期。
と言っても、クラスメイトは変わらない。
二年生からコース別のクラスになる為
三年になっても同じクラスのまま進級するのだ。
だから何も変わらない。
このクラスで最後の高校生活を送る。
変わらない『はず』だった。
あの路地を通るまでは――
++++
「〜」
校長の挨拶も終わり
体育館から教室へ戻った
今日は授業もない為
早々と帰宅の準備をしていた背中に
クラスメイトの声がかけられた
「何?」
「帰りに買い物して行かない?」
「本屋寄るなら行く」
「残念だけど寄らないわ」
「え〜・・じゃあ一人で帰る」
ふわふわの巻き毛を揺らし
に声を掛けてきたクラスメイト
買い物の誘いだったが
目的地が違う為、断った。
クラスメイトだけど趣味が全く違った。
巻き毛の百合枝はショッピングにお洒落。
はお洒落より読書。
正反対の二人だが、付き合いは長く
家も近所で子供の頃からよく遊んでいた。
高校に入ってからは会話はするが
遊ぶ事は少なくなった。
趣味の違いも要因の1つだろう
「は本当に本が好きだねぇ」
「お母さんの影響もあるけど好きだよ」
「まあは小母さん似で美人だからそのままでもいいけどさ」
「ないない〜」
「分かってないなあ」
誘いを断ってからも百合枝は立ち去らず
暫く何気ない会話を交わす。
本人に自覚はないが、実は結構な美人。
本以外に無頓着なのも手伝って
自身に焦がれる視線には気付いていない。
気取らない性格が
の地位を確立させていた。
やっかみも受けず
苛めも受けない
興味があるのは読書のみ
そう知らしめておけば
いらぬやっかみは受けない物
それを理解してくれる百合枝
はそんな彼女が大好きだった
「そろそろ行くね」
「そう?じゃあ玄関まで行こうか」
「OK〜」
支度を整え、鞄の紐に指を掛けながら百合枝を見ると
自然な流れで彼女も鞄を持つ。
玄関へ向かいながらも何気ない会話が続き
この日最後の語らいを終えた。
またね、と手を振り
友人にサヨナラを――
また明日も、百合枝の変わらぬ笑顔に迎えられると
信じて何も疑わず
当たり前の日常は終わりに近づいた。
校門で百合枝と別れ
一人書店へ向かう。
書店へ寄る目的は1つ
新刊の文庫を買う事。
それから古本屋へ
其処では修繕を頼むのだ。
この辺で一件の古本屋兼修繕屋
好きな本は繰り返し読むのが習慣のは
本の綴じられてる部分がよく解れる。
古くなった愛読書は何処にも売られてなく
解れる度に修繕し、原型を保たせていた。
其処へは近道だと路地を利用している。
だから今日もその路地を
何ら躊躇いもなく通っていた。
『――――ダヨ』
路地を歩むの耳に飛び込んだ声
聞き取れなかったが、思わず足を止める
見渡す視界には、路地と両側の建物のみ
声の主は誰一人いなかった。
気のせいかと思い、再び歩き出す。
『限界、ダヨ――』
その耳にまた飛び込む声。
今度はより大きく聞こえた。
え?何が限界なの?
脈絡のない言葉に再び足を止める。
・・・やはり誰もいない。
何が限界なんだ
面倒だから直接顔見せて言いやがれ←
ハッキリしない展開に毒づく。
そんな心境を読んだのか
何ら前触れもなく視界が開け
飛び込んで来たのは
「―――・・架空、亭?」
見た事もない建物だった。
いつ建てられた?
ってか寧ろ建物自体が架空なのか?
それとも店の名前がまだ未定で
決まるまでって意味の架空なのか?
突っ込み所は満載だ。
気になる
無駄に気になるわこの名前。
ぬおおーーー
好奇心とか言う心理現象が!
私にこの店入れよと囁く!!
怪しいけど気になるなら
入っちゃえYO
入ってみれば何の店か分かるって
とか囁いてるぅううう
(寧ろラッパーじゃまいk)
修繕屋行きたいし本買いたい
しかしそれ以上にこの店気になる。
ええい!ままよ!!入っちゃえ!
と言う訳で、は自ら扉を開くのでした。
ようこそ
いらっしゃいませお客様