再見



あの二人に出会ったのが決め手となり
あたしのすべき事が見つかった。

すべき事ってゆうか、したい事かな。
芸能の仕事を、本当に楽しそうにやってるのを見て
自分もそう思える事を見つけたい。
そう決めてから早速、あたしはとあるオーディションを受けた。

女優を目指す事にしたあたしの第一歩。
このオーディションに受かり、晴れて女優デビューも確実。
受けたオーディションは、2002年に第一弾が放送され
大ヒットとなった『ごくせん』のセカンドドラマ。
ちまたでは『ごくせん 2』と宣伝されるた物。

募集要項は、ヒロイン役。
ヤロウばかりの黒銀学園で、ただ一人の女生徒。
でも 実は男装したヒロイン。
すっごく面白そうじゃない?手応えを感じられそう。

「片瀬さん、こっちよ」

早速撮影前の挨拶にと、スタジオを訪れたあたし。
そのあたしを呼んだのは、マネージャーの矢尻 仁美さん。
歳も近くて、お姉さんっぽいからすぐに仲良くなれた。

「オハヨウございます、仁美さん!」
「今日も元気がいいわね その意気よ。」
「これが取柄なんで」
「ふふ、じゃあ出演者さんと監督の所に行きましょう。」

いよいよ監督さんに顔合わせだ、緊張するなぁ。
スタジオの中は、広々としていて独特の雰囲気が流れてる。
これは何のセットなのか、観察しながら仁美さんについて歩く。
見た感じ学校のようだ、でも壁がすっごく落書きだらけ。

「監督は加藤正俊さんといって、プロデューサーも兼ねてるのよ」
「へぇ〜どんな人かなぁ」
「話し易い人よ、そんなに緊張する必要はないわ。」

あたしの心配を他所に、仁美さんは小さく笑った。
それにしても、自分 すっかり芸能人の仲間入りかぁ
衝撃的なあの出逢いから、軽く一週間は経ってる。
コンサートから帰ってすぐオーディションの事を知ったんだよね。

感慨深くなってると、前を歩く仁美さんが止まった。
後ろから覗くあたしの目に、一つの扉が映る。
どうやら、この中に監督兼プロデューサーの加藤さんがいるようだ。

仁美さんは扉を軽くノックし、中から応えた声に
ゆっくりと前にあった扉を開いた。

「ようこそ、君がヒロイン役を勝ち取った子だね?」
「はい、片瀬と申します!」
「元気がいい子だね、いきなりだけど役の事は聞いてるかい?」
「はい!訳あって男装して通う事になったヒロインだと」

明朗快活に答えるを、ニコニコと見る加藤。
満足そうに頷き、手にしていた台本を持ち口を開く。
「その通り、後は台本を見て貰えればいいよ。
一つ聞くけど、それが呑めないなら役は降りて貰う。」

え?何か条件があるの?

あたしを試すような、伺うような目をした加藤さん。
ゴクリと唾を飲み込んで、その条件とやらを待つ。

「条件は、髪の毛を短くしてもらう事。
一応男の子として通う設定だから、男の子っぽくしないとだから」
「髪の毛をですか」
「女の子として通うのは、一日だけだからその時はウイッグ使用。」

あたしの髪の毛は、肩より長い。
芸能界入りするまで普通の生活してたから、色も茶髪。
ただ長いんじゃなくて、カットの仕方は今風。
量が多いから梳いてもらった。

ウイッグ被るんだ〜初体験だから楽しみかも。
黙った様子に、加藤さんはノーだと思ったらしく
あたしのマネージャーと話を始めた。

「やります、この役是非あたしにやらせて下さい!」
「いいんだね?サラシとかも巻くんだよ?」
「それが嫌で女優は務まりません」
「・・・・いい心意気だね、よし 改めて宜しく頼むよ。」
「はい!」

あたしの決意を、プロデューサーの加藤さんは快く受け入れ
二人して固く握手を交わした。
これから三ヶ月、長いようで短い付き合いが始まる。

拠点となるスタジオの楽屋に、あたしは案内された。
荷物とかを置いたら、主な生徒役の人達と顔合わせがある。
どんな人が選ばれたんだろうと思うと、ワクワクが止まらない。
その人達とも、仲良くなれたらいいな。

☆☆

ヒロイン役の少女がスタジオ入りした事は
全てのスタッフと役者達に知らされた。
この楽屋にいる二人にも、それは伝えられている。

「仁〜ヒロイン役の子、スタジオに来たみたいだぜ?」
「へぇ〜どんな子がヒロイン役なんだろな。」
「さぁな、まだ見てねぇし・・わかんねぇよ」
「だよな〜そのうち顔合わせあんだろ?」

配布された飲み物や食べ物に手を伸ばしつつ
鏡の前で髪の毛をセットしてる仁に、亀梨は言う。
この二人は、記憶に新しい正月コンサートで
が会った本人。

偶然にも、同じドラマの共演者として決まっていた。
まだお互い その事は知らない。

鏡を見ながら、仁はあの記憶に想いを馳せる。
雪の積もった会場前で、一人待っていた少女。
歳は自分と同じくらいだと思う。
強い意志の宿った瞳、シャープな美人系。
顔に似合わないハスキーな声。

あの子、名前はと言っていた。
その子は夢中になれる何かを探してて
俺達のコンサートを見て、それを見つけたって言ってた。
ファンの子には平等に応えるべきなのに、コンサート中

俺の視線はを探してた。
俺達KAT−TUNを知らない子。
それを聞いて、という少女に俺は興味を持っちまった。

マズイって・・この先どうすりゃいいんだ?
今だって、に逢いたいって思ってるし。
集中しろ自分!これからドラマの顔合わせだろ!
の事よりも、目先の事に集中しないと。

「仁?鏡の前で百面相すんの止めろよ。」
「うっさいぞ、亀。」

相棒の突っ込みをビシッと制し、ドアへと向かう。
呼びに来る前に、自分から行こうと思った為。
スタスタとドアを開け、出て行く仁を追う亀梨。

ヒロイン役がならいいのに、と思ってる自分に苦笑。
それこそ大変だし、まずないだろうと思って廊下を歩く。
服は役柄で着る学ラン。
亀も『竜』になってるから、気分も『隼人』へなって行く。
どんな撮影になるかが、今からとても楽しみ。

「仁、和也オハヨ〜。」
「いよいよ顔合わせだね、すっごく楽しみだよ。」
「俺達も行くから一緒に行こうぜ。」

進行方向に現れた三つの人影。
先に声を掛けてきたのは、日向浩介役の小出恵介。
次は本人も可愛い、武田啓太役 小池徹平。
最後は長身が目立つ 土屋光役の速水もこみち。

そこに仁と亀梨が入った5人が、3Dのメイン。
此処に男装のヒロインが加わる。

この3人とは、仁達もすぐに仲良くなれた。
5人で和気藹々と監督のいる部屋へと向かう。
多分その部屋で、全員の顔合わせが行われるだろうから。

まだ見ぬヒロイン役を、5人はそれぞれ心待ちにしていた。

☆☆

その頃も、マネージャーの仁美に促され
もう一度監督兼プロデューサーの部屋へと入る。
聞けば 今、メインの生徒役達が 此処に向かってるらしい。
次第に心臓がドキドキと早鐘を打つ。

ホントに怖い人達だったらやだなぁ・・。
台本をざっと読んだら、隼人役の人とのキスシーンが・・
デビュー作で初めてのキスシーンだよ?
不細工な人とだったらどうしよう。
他にも、竜役の人と結構接近するシーンもあったし。

でも不満は言ってられないよね、自分で決心したんだし。
後は鴇というヒロインを、演じ切るのみ!

コンコン。

あたしが決意し終えたのと同時に、正面の扉が叩かれた。
いよいよだ、メインの生徒役さんとの顔合わせ。
あたしのドキドキも、頂点に達した。

「失礼します」

そう響いた声、この声・・聞き覚えが・・・・
普通に喋ってても色気の漂うこの声は!
でも、まさかっ・・いる訳ないよ。
けどそれは現実の物でした。

「片瀬さん、紹介するよ彼等がメインの生徒役。」
「矢吹隼人役の赤西仁で・・・す、って!?」
「うそっ!本人??」

加藤さんの声に、顔を上げればあら吃驚。
あたしに負けじと吃驚した顔の、仁君がいた。
その傍らには、あの時一緒にいたグループの人もいる。
うそ〜メインの生徒役で、また二人に逢えるなんて!

この偶然を、仁も亀梨も驚き 居合わせた全ての人が
あたしと仁の反応に、驚いていた。