再会
初めて味わった。
あんな事だけで、熱を帯びた体。
触れられた箇所が熱い。
忘れられない出逢いは
すぐに再会を用意していた。
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抱き止められて香った甘い香り。
私を受け止めてくれた人は
やはり綺麗に整った顔をしていて、見惚れる。
あの声が耳朶に染み付いて残った。
「ごめんね、怪我はない?」
「はい、有難うございました」
「良かった、でも僕が通るかもとか思わなかったの?」
「え・・はい。急だったもので」
「ふーん、次からは気をつけてね」
お互い頭を下げて謝る、けど二の句は戸惑った。
優しいけど少し棘のある言葉だったから。
確かにもう少し注意してればぶつからなかったかな・・・と思う事にした。
心なしか目が冷たかった、始めに感じたのは気のせいじゃなく
彼の目に宿る何かが私にそう思わせたんだろう。
少し見えた胸板、着物に包まれているけど何処か色香を感じさせ
見慣れた世界に居るくせに、どうしてか照れて目を逸らしてしまった。
棘のある事は言われたけどそうかもしれないと思ってしまえばそれまでで
お詫びと何かお礼がしたかったが
青年は丁寧に断ると、店から出て行った。
自分から離れた温もりと
甘い残り香が、暫く私に先程の事を忘れさせないでいた。
ぶつかって、傾く体を引き戻し抱き留めた。
その体は小さく細く、自分の中にすっぽり収まった。それが無性に可愛く感じてしまう。
そんな感情は気のせいだと思いたくて
互いに謝った後、僕は辛辣な言葉を少しオブラートに包んで彼女へ告げ
お礼とお詫びを・・と言い掛けた言葉を断り店を出た、今は夕方に差し掛かっている。
他の漆器店を回ってるであろう左之さん達と合流すべく市中を移動
・・・けどね、店で会った女性の感触が肌や手を離れないのが一番困ったかな。
どうしてなのかは、この時全く気にしていないまま――
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困った事に、あの青年の触れた感触が中々離れないまま
女郎屋へと帰還。
「お帰り、太夫」
「ただいま戻りました」
出迎えた女将と話す時には
普段の自分に戻っていた。
いつまで引き摺っても、もう逢う事も叶わない。
きっともう逢えない。
どうしてこんな、哀しい気持ちになるの?
あれきりの事だと忘れてしまえばいいのに・・・
根付いた気持ちは、根を張るには十分だった。
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苦しい。
胸が痛いなあ・・・
あの女の人、ちゃんと帰ったかな・・・
トクン、トクン・・
歩きながら触れた胸。
特に異常とかはない。
・・・目に見えないだけって事だったりしてね。
「総司、どうかしたのか?」
「どうして?」
「さっきから真面目なツラして胸なんか摩ってるからだろ」
「平気だよ」
左之さんに問われてギクッとなった自分がいた。
まただ・・何故か胸が痛むね
けれどこの痛みは、酷く甘い痛み――
あれきりの事で?
そんなの、らしくない・・・
あれきりで、こんなにも忘れられなくなるなんて。
―女郎屋―
胸を刺す甘い痛みを抱えたまま、私は準備を見守っていた。
今夜の客は二人連れ。
しかも、訳ありな客らしい
だから一番奥の客間に食器を運んでいる。
その中に伊万里焼の皿が並ぶ。
瞬間――
『ごめん、大丈夫?』
ダメだ、食器を見てると思い出してしまう。
あの声は凄く心地よくて、体に染み込んでしまった。
結構棘のある言葉も言われたのに・・・
簡単に離れない。
簡単に離れないばかりか、思い出す度 体が熱を持つ。
また逢えたら、理由も分かっただろうか。
逢えたら、この熱は治まるのだろうか。
答えをくれる人は、此処にはいなかった。
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夜。
あれから何とか似たような漆器皿を見つけて
仕方ないから何両か出し合ってそれを買い
近藤さんにバレる前に部屋へ戻せた。
夕餉で少しお酒の入った近藤さんは、一度割れたとも知らずに
僕達が間に合わせたお皿を見せながら、市で見つけた掘り出し物だと自慢してた(
「よし今夜は飲むぞー!」
「って言うか何でまた僕まで?」
「いいじゃんそんなの気にすんなって」
「そうだぞ総司、今回は土方さんの奢りだしな」
「しっかし意外だったよな、あの土方さんが酒代出してくれるなんてさ」
そう・・折角の非番を潰された僕は、どうしてか吉原に連行されてる
何か土方さんも少し悪く思ってたみたいで、(鞘の直撃を食らった)平助君へのお詫びと
左之さん達へのお礼?を兼ねて飲んで来いって飲み代くれたんだよね。
いや勿論騒動の元は僕だし、僕には何のお詫びもなかったんだけど
え?当然だって?
ふーん?(ニヤリ)何か気を良くした新八さん達が僕も来いって部屋に来てさ。
こういう事態になった訳で
意気揚々と歩く新八さん達を横目に、今一乗り気じゃない僕。
まあ奢りならいいか、と吉原の賑わいに足を踏み入れた。
下が騒がしい。
大体の客が着いたのだろう。
気は進まないが、支度を済ませ向かう。
***
いらっしゃいましー・・とか言って数人の花魁さんが現れる。
うっすらと灯りに照らされた白い首筋が目に入った。
僕はそんなので喜ばないけど、新八さん達は大いに盛り上がってる。
女の人よりも僕は斬り合いの方が好きだからね。
まあ今夜は奢りだから付き合っておくけど、と思いながら座敷へ通される。
通された部屋には1人の女の人がいた。
漆器屋での光景と重なる。
頭を下げていた花魁が顔を上げた途端。
僕達は互いに目を見開いた。