まず歩きます、貴方と二人
どんなにつまらない事だとお思いになりますでしょうが
ただ貴方と歩く、それが私の夢なんです。
今思い出してしまっても悲しくなるだけなのに
思い出すのを避けていた事が、意に反して私を追い詰める。
虹色の旋律 十六章
「おい?」
「ああはい!」
「迎え来たってよ」
「はいっ」
過去に囚われかけた。
割り切れたはずなのに私ったら・・・
戦死した継信さんは英霊扱いをされて
葬儀も立派に行ってもらった。
でも、戦地で亡くなられたから
継信さんの遺体は戻って来なかった。
遺体としてですら・・帰って来れなかったから
私を過去から呼び起こしたのは亀梨さんの声。
少し震える膝を何とか立たせて車へ乗り込む。
だから、形として戻って来なかったから・・・
もうこの写真でしか、貴方に逢う事は出来ないのです。
未来に飛んでしまった今、貴方との距離はもっと広がってしまいましたね・・
+++++++++
車は定刻前に無事現場に到着。
四月一日さんは、此処はテレビ局だと説明。
此処で彼らはテレビ番組の打ち合わせがあるとか。
銀幕世界の裏側が見られるのですね!
落ち込んでる場合ではありません、気持ちを切り替えなくては。
「ああ、君。明日は午前から記者会見あるから」
「記者会見?」
「ほら君がKAT-TUNの新メンバーだって言う公開。」
「でも・・・・」
「赤西君と田中君が反対してるのは分かってるけど社長が決めた事だからね」
「そうですか・・それと、あの・・・私はこれから何処に寝泊りすればいいのでしょう?」
「それはね、彼らと一緒の家だよ」
「( ゚Д゚)」←注:ヒロイン
「大丈夫、個室もあるし。」
そう言う問題ではないような?
記者会見は何となく理解しましたけど、住む場所が皆さんと同じ家とは一体?
四月一日さん、私が女だと知っているのにそれでも一緒に住めと!?
ナンテコッタ←
殿方と過ごす事も、目を合わして同等に会話する事から赦されなかった時分。
その時代から来た私に、殿方と・・・・・( ゚Д゚)!!!
むっ無理です!そんな事無理です!!未婚の殿方が六人もいらっしゃる家にですよ!??
「・・・うん、何が言いたいか手に取るように分かるから落ち着いて」
「でっでも万が一バレてしまったらどうするんですかっ」
「まあそしたらそしたで、話し合いは設けるよ。」
「ええええ?」
「取り敢えず君はまだ控え室にいてね、発表するのは明日だから」
「・・・・・・はい・・」
四月一日さーん・・・薄情です・・・・・orz
亀梨さんは私の頭をくしゃりと撫で
赤西さんはわざとらしく溜息を吐くと、現場へと向かって行かれました・・
本当・・・・綺麗な殿方達ですね〜・・・
六人とも個性がしっかりしていて、誰とも被っていないです。
は四月一日と共に控え室へ。
テレビ局では様々な人と擦れ違う。
まあには誰がどの職で、誰が芸能人なのかはサッパリだ。
何となく礼儀として擦れ違う人々に挨拶をしながら進む。
局の人間達も初めて見る顔に挨拶をし返す。
自分がした挨拶に反応が返って来るのがとても嬉しいと感じる。
皆活き活きとしていて、それぞれの思いを抱きながら生きている。
人はそのような人と関わりながら生きていく。
私もそうやって生きて行かなくちゃならない。
思い出だけにしがみ付いていても前に進めません・・・そんな事、分かってます。
でも6年経ってもまだ辛いのです。
心の奥底に根強く残ってる・・・・
あの時の絶望感はまだ完全に忘れられていない。
だって遺体もないのよ?
爆撃で吹っ飛んで、肉片すら残らなかった。
未だにあの人は生きてるんじゃないかとすら思える。
もういい加減前に進まなきゃならないのに・・・
通された控え室。
其処には先に来ていたメンバーの姿があった。
「おーっ来たね、今日の打ち合わせは俺らも軽く出るだけだからすぐ終わると思う」(上
「はい、来ました!あ、そうなんですか?」
「そ、宣伝に来ただけだし。それだけでも打ち合わせが必要だったりする」(亀
「スタッフさんや司会の人達がちゃんと作り上げてる番組だからね」(淳
「は見学か?」(中
「いいえ、此処で待っているように言われました」
「ふーんそうなんだ、まあいい子で待ってるようにね」(上
「おー揃ってるな?リハがあるから出てくれ」
振り向いて出迎えてくれる上田さん。
何も知らない私に丁寧に説明してくれる亀梨さんと田口さん。
田中さんと赤西さんは少し離れた椅子でヘアセット中。
入ったばかりの私を気にして中丸さんが声をかけてくれた。
見学もしてみたいけども、一気に頭に詰め込みすぎて少し頭を休ませたかったし
少し一人で考えたい事もあったから此処で待つように言われたのは丁度良かった。
中丸の問いに答えたに優しい笑みを向けた上田が頭を撫でる。
何やら皆さん、私の頭を撫でるのが習慣になられているようです・・・・
だからどうも慣れてしまいました←
すると其処へ四月一日が現れ、スタンバイをするように言ってくる。
皆を連れて控え室を出て行く。
出て行きながら赤西の視線がを捉えるが、控え室を出て行った。
車を待つ間、の様子が変だった。
双眸に深い悲しみを湛え、今にも泣きそうな顔をして
ギュッと胸の辺りの服を握り締めて、懸命に何かに耐えてた。
何であんなツラしてたのかは分かんね。
けど其処に、が此処に残ろうとする目的のような理由があるような気がした。
アイツ・・・・あんなんでこの先平気なのか?
ふと感じた疑惑、それを感じながら赤西は打ち合わせに臨むのであった。
は誰にも気付かれぬように、此処へ来てしまった戸惑いと
許婚を失った喪失感に耐えていた。
新しい環境に慣れるようにしないと、と言う気持ちを前面に出す事でそれらを心に仕舞い込んだ。
いつか溢れてしまう不安を隣り合わせに潜ませて。
その無理な対処の仕方は、少しずつの心を蝕んで行く。
「自虐的すぎ・・」
「何か言った?」
「はあ・・・別に・・・・・・」
「って顔してねぇよお前」
「ちょっと俺何で苛々すんのか分かったかも」
「おお、一歩前進?」
「あの野郎てめぇの感情殺して目の前の事、躊躇いなく受け入れてやがるからだ」
控え室を出る前にの顔を見ていた赤西が小声でぼやいたのを聞きつける亀梨。
聞き返してみると、一旦は誤魔化す為に横を向いた赤西だったが
いつも通り隠しきれてない赤西に突っ込みを入れる。
すると今回は珍しく早々に抵抗を止めた赤西が口を開いた。
そしてその口から出たのはスッキリしたような感じの声。
それが誰の事を指すのかがすぐに分かった亀梨が感心したように反応を返すと
赤西なりに出した苛立ちの理由を舌に乗せる。
持て囃された訳でもない。
持ち上げられた訳でもない。
顔合わせした時にはそれらは感じられなかった。
選んだのはの意思だったかもしれないが
赤西には違うように見えていた。
流れ込むような仕事の数、立て続けに起きるスケジュールの追加。
それらをは戸惑いはするが、戸惑うだけで断ったり不満を言わない。
流れに任せるまま逆らわずに受け入れていく。
戸惑ってるならマネとかジャニーさんに聞けば済む話だ。
分からないなら、納得が出来ないなら断ってもいいのにはそれをしない。
そんな様はロボットか人形のようだ。
後、何らかの事情があるんじゃないかと赤西は睨んでいる。
才能はホンモンだと思う。あんな声、初めて聞いたし・・・・
辛い顔もしねぇし、無理も平気でやるし・・兎に角一生懸命で努力家だと・・・思いますハイ。
全てをすんなり受け入れ、事務所の望むままに動かされている。不安すら口にしない。
それを見ていて、意思がないのか、感情はないのか?と赤西は苛立っていた。
の何でもかんでも受け入れてしまう所を、顔合わせの時に無意識に赤西は悟っていたのかもしれない。
そのまっさらな様が、一度も否を唱えない様が苛立ったのだ・・と。
「好き好んでやってんのか?アレは」
「いや、それはないだろ」
「普通何か抵抗とかあんじゃん。いきなりスカウト?されてもさ、其処にてめぇの意思あるだろ?」
「んー・・まあなぁ」
「けどはそれすらしねぇし、言われるまま求められるまま受け入れて感情殺して・・・あれじゃただの人形だろ」
「この世界に慣れてないだけって訳でもなさそうだしな」
「あんな歌うめぇのに・・・・勿体ねぇじゃんか・・」
「仁・・・・お前・・」
「んだよ」
「可愛い〜」
「あ゛ぁ!?ばっ、てめ、抱き着くなっ」
何やらいい方向に向かっているような物を感じた亀梨。
ただ単純に突っ撥ねてる訳じゃなかったんだな。
ちゃんとその苛立ちの理由に気付いた赤西。
だからあんなに怒鳴ってたんだろうか。
ストイックに練習に打ち込み、音を上げない故には倒れてしまったから。
はこういう世界に入ると無理し易い性格かもなー・・・・
誰かが傍で見てないと必要以上に無茶をしそうだ。
亀梨は意外とよく見ていた赤西の性格、何やら嬉しくなって肩を組みつつハグしてやった。