乱闘事件
その日の放課後、俺達はつっちーが証明写真を撮るのを付き添った。
無事撮り終わった後、いつもの店に寄って談笑。
「ガン飛ばしてどうすんだよ」
「舐められたくねぇかんな」
「・・・証明写真でガン飛ばして、舐める舐めないもあるか」
「つめてぇなぁ」
「気持ちは分かるけどさ・・・」
「分かっちゃった」
履歴書に貼られた写真を見て、すぐさま隼人が突っ込む。
言われて見れば見事なガンくれ・・・・
理由は舐められたくないからと来たもんだ。
アホかぁああああっ!!と叫びたいのを堪え、何とかそれだけ言うと
冗談ぽくつっちーと浩介にそう言われる。
しかも竜は分かるけどさ、とか言ってるし。
誰よりもちゃんとしてるっぽく見える竜でも、そう思うのか〜何か意外。
何て思って見てたら、竜と目が合ってどうした?って顔をされる。
「だったらさ、コレ貼っちゃいなよ」
目が合って何か照れて、取り敢えず何でもないと意思表示。
写真で揉める(?)俺達の前に、タケが可愛く取り出したのは
いつ撮ったのか自分とつっちーのツーショットのプリクラ。
思わず竜が斜め前で、そりゃ無理だろ・・と呟いたのを当たり前だよ・・・と思ったのは他でもない。
兎も角、と竜にあれこれ言われ
ぼやくつっちーを連れて、日の暮れた繁華街を歩きもう一度証明写真を撮りに行った。
ΨΨΨΨΨΨ
証明写真機から出来上がった写真が出てきて、それを取ったつっちー。
写真も撮ったし、履歴書も書いたしとか言って盛り上がり始めてる。
何でそんな些細な事で盛り上がれるんだろうか。
まあ其処がコイツ等のいい所でもあるけどな。
「面接の前祝なんか普通やんねぇだろ」
「いいんだよ、何も怖い事はないぞ」
「じゃあ・・カラオケとか行っちゃう?」
「おーしヨシヨシ、行っちゃおう」
「割り勘だよ?」
「逆だ逆」
お約束で竜が突っ込みを入れるけど、隼人達はノリノリで止まらず
主役のつっちーよりも先に歩き始める。
つっちーは、写真の出来に満足したらしくずっと見ながらだ。
もその隣に行って、頑張って覗き込む。
ふむ・・・さっきの写真よりか全然マシかな。
若干睨みが残ってる気もするけどさ。
「写りいいなぁ〜おい」
「まあ中々いいんじゃね?」
物凄く満足したつっちー、ご機嫌で鞄に入れようとした。
だが勢い余って開けた弾みで、履歴書と写真が地面に落ちてしまった。
それをつっちーとほぼ同時に拾おうとした時、誰かの足がその履歴書と写真の上に乗せられる。
そんな事をされて、怒らない人はいないだろう。
現に俺もつっちーも僅かな怒りを覚えて体勢を起こした。
「黒銀の奴等じゃねぇか」
「轟の田辺か」
「?」
「新しくつるんでる奴か?弱そうじゃねぇか」
ムカッとしたが、爆発するまででもないけど。
けれど、履歴書を踏まれた事に対する怒りは消えない。
田辺って奴の目が俺を見た瞬間、分からない程度の動きでつっちーが俺を背後に移動させる。
睨み合うつっちーと田辺、喧嘩はマズイと俺は思った。
小声でつっちーに喧嘩はマズイって言う前に、先を歩いていた隼人達が気づいて戻ってきた。
竜と隼人が俺を庇うように横に立って、浩介とタケがつっちーの隣に来る。
今のタケは、自分が喧嘩が余り強くない事など気にしてない。
「お前等でも就職すんのか?」
「あ?」
「文句あんのかよ」
「卒業したら、真面目にお仕事ですか?」
「関係ねぇだろ」
この雰囲気はマズイ、此処で喧嘩して誰かに見られでもしたら・・
今の隼人達は聞き入れてくれなさそうだ。
完全に頭に血が昇っちゃってるよ。
止めようと試みるが、そんなの気持ちとは裏腹に
田辺は拾い上げた履歴書と写真を、目の前で破り捨ててしまった。
これには隼人も我慢の限界に達したらしく、田辺の胸倉を掴み上げる。
「働くなんてバカじゃねぇの?」
「てめぇ・・いい加減にしろよ?」
「やめとけって、こんな奴相手にすんなよ」
「・・・こんな奴だと?」
「てめぇら舐めてくれんじゃねぇかよ!」
「隼人止めろ!」
「それはてめぇらの方だろ!」
咄嗟に止めに入った竜だったが、反ってその言葉が轟の奴等を煽る形になり
胸倉を掴まれた隼人の怒りが高まり、制止も虚しく彼は相手を殴りつけてしまった。
しかもそれが火蓋になって、乱闘が始まってしまう。
竜は頭に血の昇った面々の代わりに、防戦を繰り広げつつ俺を庇ってくれた。
護られてばかりじゃなく、俺も竜を殴りに来ようとするのを防いだりもして防戦に徹する。
タケは相手の背中に乗っかって、拳を防ぎひたすら頭を叩いてるし
浩介は鞄を盗られて懸命に取り返そうとしてる。
つっちーはつっちーで、殴りこそしてないが相手を突き飛ばしたりと激しくぶつかっている。
この乱闘事件が、後に大きく関わってくるとは誰も思っていなかった。
ΨΨΨΨΨΨ
暗い気持ちで学校へ向った。
教室に入ると、隼人達も沈んだ顔で席についていた。
皆知ったのか、いつもの賑わいがない。
つっちー達は面接すらしてもらえなかったと言っていた。
昨日のあの場所に、運悪くジョイフル産業の社員が居合わせ喧嘩を見られていた。
しかも面接官の1人だったって。
これは落ち込むざるを得ない、俺達のせいで大森達も同じと見られ面接すらしてもらえなかった。
何て謝ったらいいんだろう、きっとヤンクミも知らされてる。
重い気持ちでヤンクミが教室に現れ、やがてつっちー達も戻って来た。
「まさか昨日の喧嘩、あん時の面接官に見られてたとはな・・ついてねぇよ」
「そうゆう事じゃないだろう」
「わりぃ」
「わりぃじゃねぇよ、折角の面接駄目にしやがって。世の中舐めんのもいい加減にしやがれ!」
これに意見したのが隼人、俺等の何処がわりぃんだよと。
タケも浩介も反論した、だけど俺と竜は何も言えずに黙ってた。
何を言っても、どう説明しても自分達が悪い事に変わりはない。
ヤンクミの怒りも当然の事で、黙って聞いてるしかなく
ここぞって時の我慢、それが出来なかったと隼人は開き直った。
「今までは、どんなヘマしても親が尻拭いしてくれたかもしれねぇ・・でもこれからは」
「てめぇの尻拭いは、自分でしろって事だろ?」
「それだけじゃない、自分の行動に責任を持つ事。自分の行動が他人を巻き込んだり悲しませたりする場合もある。
お前等はその重さを、まだ分かっちゃいねぇ」
自分の行動が他人に及ぼす影響。
それを俺は分かっていなかったんだと思う。
何処かで俺は、あの事件を招いていたのかもしれない。
自分に甘さと隙があったから、絡まれた。
あの子の代わりとして生きろ言われて、頭に来て家を出た。
勝手だったと思う、今の隼人達と同じ。
絡まれて頭に来たから喧嘩した。
否定されて頭に来たから、家を飛び出した。
始めっから無理だと決め付けて、親とも話し合わずに来た。
でも今更だ、歩み寄れない溝が出来てしまってる。
あの件の後処理なんて、勘当されただけだし。
「理事長」
ふと開いたドア、入って来た人物の姿に呟いたヤンクミの声。
パッと顔を上げた先にいたのは、理事長と教頭に金魚の糞・・・
教壇に向って歩く猿渡が、放った言葉は達を否定するような言葉だった。
今後一切、就職活動なんかしなくていい。
恥さらしだと罵った、嘩柳院家の恥だと言った父親と重なる言葉。
やっぱり大人なんて信じらんない、どいつもこいつも異端視したらずっと否定し続けるんだ。
ずっとそんな目でしか見れない眼鏡を掛けてやがる。
「今後何か問題があったら、厳しい処罰をしなくてはなりません」
「厳しい処罰・・・退学って事ですか?」
「はい、厳しい態度で臨む事が 我が校のイメージアップに繋がりますからね」
「馬鹿馬鹿しい・・・」
「何がイメージアップだよ」
思わずそう呟いてた俺に続いて、隼人も苛立ちを込めて立ち上がった。
これに続けと、つっちーもふざけんなと吐き捨てて
クラスメイト全員が立ち上がって理事長らに抗議し始めた。
竜だけが参加しない中、ヤンクミの怒号が教室へ響いた。