聞こえないはずの声
それが突如 俺に聞こえた。

その声は、子供で・・誰かを探してるみたいだった。
でもなんで、俺に聞こえたのかは分からない。
だって、何だか放っておけない声だったから。

見つけてやらなきゃ、駄目な気がしたんだ。


第一章 俺を呼ぶ声



ハッと辺りを見渡すと、見慣れた教室が映った。
そっか、此処は3Dの教室だ。
さっきの声は何だったんだろう。
とても・・危機迫る物を感じた。

凄く必死で、聞いてるこっちがハラハラするような。
でも きっと夢だ。

だって、目を開けても普段と変わらない風景が其処にある。
楽しそうに騒ぐクラスメイト達。
自分の周りで、ダーツゲームをする隼人達。

何にも変わらない、いつも通りの平和な生活が在る。
なのに、何でだ?
あの声が気になって仕方ない。
あの声を聞いた時、俺はどうしようもなく不安を覚えた。

この先に起こり得る何かに対しての。
明日も明後日も明々後日も・・当たり前の平和が続く。
そう確信はあるのに、不安が拭い切れない。

疲れてんのかなぁ。
そう俺が思った時、パコッと頭が叩かれた。

「何ボケーッとしてんの?」
「・・・何だ、竜か。」
「何白けてんだよ、なんかあったのか?」

頭を叩いたのは竜で、クールな目線を俺に注いでる。
ちなみに、俺の名前は
訳あって男装して黒銀に通ってる。
この事を知ってんのは、センコーだけ。

仲良くなったこいつ等には、まだ話してない。
信頼出来る奴等、他の不良とは違うって最近分かって来たし
もう少し、心を開けるきっかけが出来るまで黙ってる。

それに、自分から過去の事をペラペラ話したくない。
だから今は、軽い付き合い程度。

なんだけど・・こいつ等は、どんどん俺の仲に入って来て
マイナス思考な俺を変えようとする。
最近じゃそれさえも、嫌だとは感じない。

変われそうな気もしてきた。
そんな時に芽生えた不安・・・。

「なんもないよ」
「ウソつけ、思い切り顔に出てる。」
「!?」
「やっぱり図星か」

コイツ・・俺が仲良くなった五人組の一人。
3Dの頭の矢吹隼人と、マスコット的存在な
武田啓太とは、小学校からの幼馴染らしい。

名前は小田切竜。
この辺では一番の権力者、小田切家の息子。
竜は、あんま家族と上手く行ってないらしい。
まあ・・人んちの事はあんま、な。

しかもやたらと鋭いんだよ。
人の嘘とか、直ぐ見破るし隠し事は出来ない感じ。

「言いたくねぇなら聞かねぇけど、気になるなら言ってみろよ。」
「いいけど・・多分笑うかもしんないな。」
「笑っちまうような事なのか?」
「さあね、他人にとってはそう取れると思う。」

俺が言った言葉に対し、竜はふーんとだけ言うと
立ってた位置から、隣の席の机に座り
涼しげな目線を俺に送り、で?と先を促した。

どうやら、聞いてくれる気があるらしい。
やっぱ、コイツって変わってるよなぁ。

「ちょっと待て、竜だけずりぃ!」
「俺等にも聞かせてよ」
「抜けガケはよくねぇぜ?」
「そうそう、平等にな。」

仲いいなぁ・・何をするにも一緒だしな、こいつ等。
男の友情は 女とは違った良さがあるんだな。
竜は背中に圧力を感じ、振り向くと詰め寄せた隼人達。

追いやる気力もないのか、単にメンドクサイのか
一瞥しただけで何もせず 皆して俺の言葉を待ってる。

「目ェ開けたまま、夢見てた訳じゃねぇかんな?」
「それ先に言うなよ〜突っ込み甲斐がねぇなぁ」
「・・真面目な話にも突っ込む気だったんかよ」

突っ込みを入れられる前に、先に言っといた
先に言わなかったら突っ込まれてたな。
隼人、自分から突っ込む気だったって言ってるし。
何て分かり易い奴なんだ。

竜が隣で冷たく突っ込んでる。
この2人のやり取りも、見ていて飽きない。

「聞こえたんだ、何処からともなく子供の声が。」
「マジ?どんな風に?」
「うーん・・誰かを探し求めてる感じだった。」
「・・・夢じゃないならさ、幽霊って事はないの?」

真面目に問い返してきた隼人。
すぐさま答えた俺に、横から可愛らしくタケが発案。
案じゃないけど、幽霊って線もなくはない。

そうだとしても・・霊感なんてないし。
否定した、全員しばらく考え込む。
誰も茶化さないなんて、珍しい事もあるんだな。
とか感心してみる。

「声に聞き覚えとか、ねぇの?」
「あっても変わらないって、姿も見えなかったし。」

視線を空中に漂わせてから問いかける隼人。
隼人にしちゃあ、いい質問。
いつもはバカっぽいか、的外れな事しか言わないし←失礼。

じゃあやっぱ幽霊だったんじゃない?と言って
大袈裟に驚いて見せる浩介。
便乗してつっちーも騒ぎ立てる。
・・・真面目だったのは最初だけかよ

「オマエ、その声聞いてどう感じた?」
「どうって?」
「幽霊なら、それ相応の雰囲気とかあるしヤバイ感じだったんか?」

竜だけは確信に迫るような問いかけをしてくる。
やっぱさ、竜が黒銀の隠れ頭だと思うんだよ・・俺。
突っ込みは鋭いし(関係ない)。
発言力は強い方じゃない?

雰囲気ねぇ・・・言われてみれば、怖いとは思わなかったな。
怖いってゆうよりも、温かい感じがした。
安心出来る温かさを持ってるって感じ。

「怖くはなかった、ただ・・・寂しそうだった。」
「寂しそう?その声がか?」

真剣な竜の問いかけ、隼人達も耳を傾ける。
皆の視線を集めたが、うんと頷いた・・その時。
再びあの声が、俺の中に響いた。

―応えて 私の神子・・お願い、この鈴の音を聴いて・・・―

何とも切なそうな声、今にも泣きそうに響くその声。
ハッと顔を上げて、辺りを見渡しても
その声の持ち主の姿はない。
この世の者ならぬ者?でも怖さは感じない。

やっぱりさっきと同じように、言い知れぬ不安に駆られた。
怖い、その声よりも我が身に迫る不安の方が。
周りで騒ぐ、クラスメイトの声が遠くなるように感じた。

!?」

グラリと傾くの体を、咄嗟に竜が支える。
隼人達も俄かに総立ち、竜とへ顔を寄せた。
受け止めた竜も、横からの顔を覗き込む。
その顔は、青ざめて冷や汗が頬を伝っている。

熱はない、だったら何なんだ?
は何に脅かされてる?

これは一体何なの?
あの声よりも、別に感じた不安を理解したら
急に体が重くなった。
受け止めてくれた竜の、腕に掴まってるのが精一杯。

風邪?いや・・絶対違う。
耳鳴りがする、みんなの声がもっと遠くなる。
体が言う事を利かない・・・。

「どしたんだよ!!しっかりしろ!」
「隼人、あんま揺らすな。」
「竜・・なんかオカシイよ、こんだけ騒いでるのに」
「ああ・・・アイツ等、聞こえてねぇみてぇにしてる。」
「何だってーの・・マジで幽霊??」

この期に及んで、まだ幽霊だと思ってる浩介。
の心配をする隼人、ぐったりと竜にもたれる姿に
どうしてか、嫌な感じがした。
隼人を落ち着かせてる竜へ、周りと自分達とに
違和感を覚えたタケが、傍に来ると不安気にその腕を引っ張った。

つっちーの指摘通り、これだけ騒いでるのに
周りにいるクラスメイト達は、平然と過ごしてる。
なんだか、自分達だけ其処から切り離されたかのような。

―やっと見つけた、私の神子。そして・・・―

目を瞑っても聞こえる鈴の音と、少年らしき子供の声。
探してたはずの声が、目的の人物を見つけ喜びに沸く。

その瞬間、突如 その姿が頭の中に現れた。
どうして突然見えたのか、そんなのはちっとも分からない。
見えた姿は、この世の者ざる者。
服からして見かけないし、あの布は何で浮いてんの??

何かに向かって微笑む姿は、普通の子供に見える。
そしてその子供と、不思議な事に目が合った。
と目を合わせた少年は、ニコッと笑ってこう言った。

―半身と私を結ぶ 応龍の神子・・どうか、私の元に。―

誰の事だ?訳が分からない。
でもその目は、明らかに俺を見て言ってる。
じゃあ、俺が女だって見破ったのか!?
応龍の神子って・・・俺の事なのか?

「いやだっ・・俺はそんなトコ行きたくねぇ・・っ!」
「「「「「!」」」」」

がそう呟いた途端、目の前が急に光に溢れ
自分が抱えてるの姿さえも見えなくなる程の光。
怖さはない、頼りなのは抱えてる重さと温もりだけ
だが次第に、その温もりも重さも消えた。

隼人達の気配も遠のき、全ては白光に包まれた。