俺のやり方で
の叫びを聞いていた隼人。
境内で、自分が少し気づいた事は 強ち気のせいではなく。
もしかしたら、それが理由で此処へ来たんじゃないか?
あの涙は の心が流した物。
怒った顔なんて、初めて見た。
笑った顔だって見た事はあるけど、あれは心からじゃねぇ。
必死に作った仮面での笑顔。
の言う言葉は『仲間』と『絆』。
この言葉を言う時は必ず、泣きそうな辛そうな顔をする。
此処へ来る前に、その何かがをそうさせた。
守ってやりたい。
ふと、そんな言葉が浮かぶ。
―失ってからじゃおせぇんだ―
隼人の中に、の言葉が浮かんでは消えて行く。
「違うんだ!」
「タケ!」
の言葉で、タケも真実を話す事を決めた。
黙っていても また誰かが傷つく。
決意して立ち上がったタケに、竜が何も言うなとばかりに制する。
しかし今度はタケも、真実を告げるのを躊躇ったりしない。
自分のせいで、竜を縛り付けてる気がしたから。
「竜は・・悪くねぇんだ。」
「どうゆう事なんだ?」
「あん時の事は、全部俺のせいなんだ。」
止める声も聞かず、久美子も聞き返す中タケは真相を話し始める。
外に立つ隼人も、違う展開に耳だけを傾けた。
「俺 荒校とやり合う事になった時、段々怖くなって
すげぇ逃げたくなって・・でも俺、隼人と竜みたいに、強くねぇし
もしそれで退学でもなったらどうしようって」
タケは母親にガッカリされたくなくて、母親を悲しませない為に
情けない話だが、竜に相談したらしい。
竜は、そんなタケを理解し 任せろと言って ただ一人
荒校の奴等へ頭を下げに行った。
この事には、クラス中黙り 隼人も思わず目を伏せた。
これが、ずっとタケが抱いていた後悔。
これが、クラスと隼人を縛っていた事の真実。
「竜は裏切り者なんかじゃねぇんだ、竜ごめん・・本当にごめん」
「・・・あやまんなよ」
タケは、深々と頭を下げ 竜へ向かって謝った。
俺も それを見て凄く安堵した。
これ以上、こいつ等の溝が広がる事は無い。
隼人が来たら、この事を話さなければ・・・
いや・・俺ではなく、このクラスの連中がきっと話すだろう。
『仲間』を大事に思う こいつ等なら。
「・・・じゃあどうすりゃいいんだ」
「このままじゃ、俺等と荒校の争いはおわらねぇし。」
頭を下げるタケの横を通り、つっちーと浩介が呟く。
真実が分かったが、根本的な争いは解決していない。
だからって、喧嘩して終わらせる事は俺は反対だ。
俺達人間には、大事なもんが多すぎる。
守りたい物なんて、いざって時に守れねぇってのに。
失わないように藻がいても、力がなければ守れない。
失くしそうになった時、俺には何も出来なかった。
理解してくれる大人もセンコーもいなく。
救われた命に縋って、苦しみ生きろと・・・
実の親に言われるとは・・
一方、外でずっと聞いていた隼人は。
境内でやり合った時の、久美子の言葉を繰り返し思い出していた。
『大事な物を守れる強さだけあれば、それでいいんだ。
そのやり方は・・幾らでもあるはずだ。』
そう山口は、俺へ言った。
喧嘩して守りたい物を守るだけでは、何も得られない。
強さなんて、喧嘩じゃきまらねぇ。
違うやり方でだって、俺の守りたいもんは守れる。
『失ってからじゃおせぇんだ』
そうだ・・例えやり合った報復をしても
ケガをしたり、命を危険に晒しても何にもならない。
一生その事を悔いて行かなけりゃならねぇかもしれない。
は、その事を必死に伝えようとしてた。
アイツは・・その思いを既に胸に刻んでる。
だったら・・・そんな気持ちに、二度とさせたくない。
他の奴等にも、そんな思いをさせたくねぇ・・・
仲間だったら・・そんな思いをするのは、俺で十分だ。
「守ってやるよ、俺のやり方で。」
隼人の姿は 窓の外から消えた。
その事に俺達が気づいたのは、前田が隼人の鞄を見つけてから。
アイツ・・・まさかずっと聞いてたんじゃ・・・
久美子もそう思ったのか、外へ出て行く。
俺も急いで席を立ち、廊下へと出た。
「ヤンクミ!」
「嘩柳院!?オマエは戻れ!分かってんのか?オマエは・・」
「俺だって隼人が心配なんだよ!何も出来ないで悔いるのはもう十分だ!
殴られたって構わねぇ、俺も行く!」
あんな思いはあの時でたくさん。
何も出来ず、そんな自分を責め続けるのも・・
ボコボコにされたっていい、『仲間』を助けられるなら。
久美子も、そんな俺を見て諦めたのか溜息を吐き
ポンと俺の肩を叩き、そっと抱き寄せてから言った。
「あんまり無理すんな?オマエは突っ走り過ぎるからな。
男っぽくなって来たから言うが、元は女なんだぞ?」
危なくなったら、私や矢吹達に言え。
そう言って笑ってくれる久美子。
その存在と言葉が、何よりも心に響いた。
俺を心配して言ってくれる人。
今までに無い優しさ、自分を心配してくれる沢山の優しさ。
温かい・・・温かすぎて、辛い。
俺は、何を必要としてるんだろう。
時々それが・・無性に分からなくなる。
その後、タケ達も駆けつけ四人で隼人を探した。
何時も歩いて来た道、通ってきた歩道橋。
その全てを走って回っても、隼人の姿は見つからない。
隼人・・一体何処に行ったんだ?
荒校が集まってそうな所って何処にあんだよ!
このまま、見つけられなくて間に合わなかったら?
俺はまた大切な者を失くすのか?
あの時みたいに、何も出来ない事を悔いるだけなのか?
「・・・そんなの・・絶対イヤだからな・・!」
駆けつける俺達の中に、竜の姿はなかった。
だから、の呟きを聞いた者は誰一人いなかった。
やっとそれらしい倉庫を発見し、中へと駆け込んだ俺達は
床に転がされ、殴る蹴るの攻撃を受ける隼人と
共に殴られている竜の姿を見つけた。
竜には、隼人の考える事が分かってたんだ・・・
だから俺達より早く駆けつけた。
ふっ・・何だかんだ言って、隼人の事が心配だったんだな。
「隼人!竜っ!」
「お前達は手ぇ出すんじゃねぇ」
「んな訳行くかよっ」
「あいつ等の気持ち・・無駄にする気か」
駆けつけたい気持ちは、タケ達も同じで行こうとしたが
久美子がそれを止め、静かな声でそう言った。
二人の気持ち・・それはきっと、俺が大切にする気持ちと同じ。
気づいてくれたんだ・・・面子よりも大事な物に。
「つっちー、タケ・浩介・・」
「・・・分かったよ」
久美子の言葉を逸早く理解したは、飛び出したい衝動を抑え
迷っている三人を見つめる。
渋々承知したつっちー、けどその顔は落ち着いている。
三人は、の叫んだ言葉を覚えていた。
失ってからじゃ遅い、俺みたいになって欲しくねぇんだ・・
そう言って辛そうな顔を見せたを。
久美子はを見て微笑み、ゆっくり歩き出すと
隼人達を暴行している荒校の奴等へ止め
をも予想していなかった強さで、あっという間に黒銀と荒校との争いを決着させてしまった。
久美子の強さにも驚いたが、俺は安堵の方が勝った。
誰も失わずに済んだ事の安堵。