恩師



実の父親により、家族と言うよりは『飼われて』いたと煉(れん)。
そんな生活に終止符を打ったのは伯父と従兄だった。
出際 父親に見つかり、暴力を受けたの額には簡単な応急処置を竜が施した。
従兄の名は小田切 竜・・3年前黒銀学院で有名な不良だった人。

しかしその時担任として赴任して来た女教師との出会いで従兄は変わった。
不仲だった父親とも和解し、高校も無事卒業したのだ。
そんな従兄を変えた女教師は都内のとある筋では知らない者のいない家の孫娘らしい。

妹の煉に従兄の竜が説明していたのをぼんやりとした意識で聞いていた
もうそろそろ到着するようだが、時刻は夜の22時半を回っている。
こんな時間に訪ねるには迷惑なのではないかと聊かの不安を覚えた。
が、不安になるのと同時に達を乗せた車は立派な門構えの前で停車。

 着いたけど、降りれるか?」
「(うん)」

ドライバーの九軒(くのぎ)がドアを開け、先ず竜が降りて外から手を差し出す。
声に出して頷いたつもりだった、同時に向かい合ってる竜も驚いたような目を向けた。
声が出ない、確かに声を出してるはずなのに音にならない。

「親父ちょっと」

目の前の竜が眉宇を顰め、淡々とした素振りで助手席から降りた父親を呼ぶ。
何だ?と此方へ歩いて来た父親にの声が出ない事を説明。

気難しそうな表情を更に険しくし、伯父はの様子を観察・・・
それから竜と本人へ告げたのは、額の怪我と後は精神的なショックからくる一過性の物ではないかという事だ。

今までずっと精神的に追い詰められて来た、それに暴力から来る肉体的なショック。
それら諸々がの精神をすり減らし、その影響で声が出なくなったのでは?
まあ専門医ではない故 本当の原因が何にあるのかは断定出来ない。

当たらずとも遠からずという訳だ。
まだふらつくに手を貸して車から降ろさせ、手荷物を竜や父親に持たせて改めて門の前に立った。

茶色に近い色の壁に囲まれた立派な佇まい。
これぞ日本家屋といった造りの屋敷に近い家の表札には
確かに『大江戸一家』と書かれていた。

ドドン!とかいう効果音が聞こえて来そうな迫力を醸し出している門。
その門を潜り伯父と従兄は躊躇いなく敷地内へ入って行く。
なので門前に突っ立ったまま家全体を見上げていたも舟を漕ぎ始めた煉を背負って中へ進んだ。

これまた立派な玄関へ回り、やはり躊躇わずに伯父はスライド式の戸を開ける。
にしても本当に此処が目的地なのだろうか?
確か自分達は竜兄さんの恩師を訪ねる為に車を走らせていたはず。
こんな見るからに任侠っぽい家にその恩師とやらが住んでる訳ないと思うけど・・・

「夜分遅くにすみません」

疑問符を浮かべるの前で、既に伯父は家人達に向け声を発していた。
伯父の声が少し静かな家内に響き渡るその頃、此方に向かってくる数人の足音が聞こえてきた。

何となく緊張してしまい、自然と横にいる竜の後ろへ身を隠す。
自分の事は別にどうでもいいが背に背負った小さい妹だけは守り抜かねば。
そんな気持ちでこの場に立つを背にした竜らの前に、家人であろう人達が現れた。

出て来た人達の服装や人相に、思わずギョッとした反応をしてしまった
着物はまあいいとして、何だろうこの刺青を模したようなシャツは。
とてもいいとは言えない強面の男性が3人、あと一人は体格のいい人で細身の3人とは違った迫力がある。
ほ、本当にこんな所にその恩師って人がいるの??

ズラリと出て来た強面の四人組は訪問して来た達を訝しげに眺め
その後竜と伯父を見た瞬間態度が一変した。

「小田切さんじゃねぇっすか!」
「どうもお久し振りです、このような夜分に申し訳ない」
「おう兄弟!女の子連れてどしたんだよ、お前のコレか?」
「きょ 兄弟?いえコイツは俺の従妹すよ」
「・・・・・」

パッと砕けた印象に変わるや否、久しそうに伯父と竜へ話しかけ
しかも竜の事は『兄弟』と呼んだ。
竜は困惑したような様子だったが、あっち系の人達に『兄弟』と呼ばれる竜兄さんって・・・・

想像してたのと違う歓迎ぶりに声が出なくて良かったと密かに思う
間違いなく ひっ とか言ってしまってただろうから。
玄関での歓迎っぷりに漸く奥から家主と思しき人と、一人の女の人が現れた。
物凄く雰囲気のある男の人と、凛とした雰囲気を持った女性。

すっと顔を上げ、歩いて来る二人の人物へ視線を向けた竜の表情が不意にパッと変わるのをは見た。
普段見せる表情のどれとも違う・・・懐かしむような誇らしげな感じ。

「小田切じゃないか!それに親父さんも―――・・・あれ?」

歩いて来た女性が近くに来た瞬間、眺めてるだけのにも1つの既視感が。
それは女性の方も同じだったらしく、を見るなり考え込むような訝しげな目をした。
女性とが同時に考え込むような動作をした為、少し沈黙が流れる。

確かどっかで会った事があるような・・・・・
でもメガネはしてないし、髪もお下げじゃないサラサラのストレートヘア。
別人か・・・いや、もしくは双子の姉妹とか・・・・?

うーんうーんと女性と揃って考えてると、背中に背負っていた妹が不意に目を覚まし
の背中の上から寝ぼけ眼で外とは違う光景を眺め、それから正面にいる黒髪の女性を見るとパッと目を輝かせ

「あ!河川敷のお姉さんだ!」
「え?煉、お前ヤンクミの事知ってんのか?」
「ああ思い出した!先々週辺りに会ったね、煉ちゃんのお陰で思い出せたよ」
「うん河川敷にお姉ちゃんと来た時に転んだあたしを起こしてくれたの」
「そうなんだよ、て言うかまさか二人とも小田切の知り合いだったなんてな!」
「久美子 そろそろ」
「あ はい、おじいちゃん」

にも初対面ではない事を思い出させてくれた。
そうだ・・確かに二週間前くらいだったかそこらに、辛くて辛くて家を出て河川敷に行ったあの日。
転んで泣いていた妹の煉を優しく立たせ、その涙も拭ってくれた人。
髪型も印象も違うけど、その凛とした雰囲気は河川敷で会った人と目の前の人も同じだ。

とても強面の人だらけの家に住む人とは思えない柔らかな笑顔を見せる人だった。
卒業してからも元生徒だった竜と気さくに接し、頼みにされる人。
そういえばあの日も高校生っぽい人と一緒にいたな・・・・多分その人は生徒で・・そう・・・この人の生徒っぽい人が羨ましいって思ったんだ。

やがて一際威厳のある人に久美子と呼ばれたその人は私と妹に手を振り、伯父を伴って別の部屋へと移動して行った。
玄関に残されたと煉に竜は体格のいい人に案内されて玄関から左手の廊下を抜けた客間に通される。

竜が救急箱をその人に頼み、持って来てもらう間 既に眠そうだった煉を着替えさせ
用意されていた布団を敷いて寝かせた。

「小田切、救急箱持ってきたぞ」

やがて聞こえて来たのは竜の恩師という先生の声。
竜はあれっという顔はしたが直ぐに中から応え、恩師を客間へ迎える。

襖がスッと横へ滑り、予想通り久美子と呼ばれていた人が中に入って来た。
何か説明でも受けたのだろうか・・・軽蔑されるだろうかが心配で
つい自然と視線で久美子を追ってしまう。

「・・・大変だったな、よく一人で頑張った 偉いよ」
「・・・・」
「声、家から出る時の事が原因で失ってるって聞いた・・安心していいぞ?此処にいる間あたしが絶対守ってやるから」
「・・・う・・」

箱を横に置いてからと向き合うようにして膝を折った久美子。
静かに紡がれる声は不思議との心と気持ちを落ち着かせ、彼女の言葉もしっかりと沁み込んだ。

真摯な言葉は張り詰めていた気持ちを溶かし、自然と涙は溢れて零れ落ちた。
そんな様子を見た久美子の手が優しくの髪を撫で、慰める。
優しい手の動きに亡き母を重ねてしまい、中々涙が止まらなかった。

見かねた竜が隣からハンカチをの手に握らせ、横に寄り添うように移動。
を思いやるその動きを久美子は微笑ましそうに眺めていた。
それから漸く救急箱を開け、消毒液とガーゼを取り出す。

車の中で簡単な手当てしかしてなかったが血は止まっていた。
久美子は傷を見て少し険しい顔を見せた。

女の子の顔に傷をつけるなんて、父親のする事じゃねぇな と文句を言いながら。
その言葉で久美子が伯父から事情を聞いたのだとも判断した。

消毒液を染み込ませたガーゼで傷口を丁寧に拭き、腫れ始めていた場所へ小さめの湿布を貼る。
それから久美子は向こうで話した事を交えながら今後の事を説明した。
先ず現在の久美子の状況、彼女は3年前黒銀を辞任してから沖縄のやんばる高校へ赴任。
しかし其処が廃校になって更に別の高校へ移動したが、現在勤めている高校の教頭直々のスカウトで東京に戻って来た。

いざ勤める事になった高校、赤銅学院では問題児ばかりが集められたクラスを担任。
勿論男子校・・・・そんな所に複雑な事情を抱えるを連れて行けるはずもなく・・
かと言って家庭教師を雇う余裕はない訳で・・・どうしたらいいのかを悩んでるのだ。
と言うかそもそも女の子を男子校に通わせる事が出来るのかも疑問。

しかしその辺の心配はいらないと伯父が久美子に話したらしい。
警察にも顔が利き、教育委員会にも顔が利くとは流石である。

「舞台は整ったが自身が無理なら来る必要はないんだよ?此処でだって勉強する方法はあるだろう」

ただ 此処に閉じこもってばかりより少しでも外に出ていた方がいいとは思うが・・と久美子は言葉をしめた。
まあそれは一理あると思う、竜自身も少々強引な久美子の導きで学校へ戻り
結果仲間とも絆を修復出来たし卒業も出来たのだ。

あのままよくない奴らのところでバーテンをしていたら、今現在の未来は掴めてなかったはず。
の恐れる事も分かるし当然かもしれない、が、18歳ってのは二度と来ないのだ。
恐れて閉じ篭るだけでは何も得る物もないし何も変わらない。

「けれど、自身が外へ出て前へ進めば 何か変わる物もあるだろうさ」
「・・・・・」
「お前はただ進めばいい、立ち止まって迷ったっていい、その為に私や小田切・・小田切の親父さんもいるんだから」
「赤銅行く事になったとしてもヤンクミもついてるし一人じゃねぇよ」
「おうとも、の事はこのあたしがしっかり守ってやるからな、安心していいぞ?」
「相変わらず暑苦しいな(小声)」
「(チラッ)兎に角、赤銅へ行くなら心配はいらねぇって事だ」

さっきも泣いてしまって恥ずかしかったのに、またも泣いてしまいそうになった。
私は一人じゃないんだ と改めて思わせてくれた二人に感謝しなくちゃだなと思った。

同時に二人の気持ちに応えるには行動を起こすべきかもしれない。
女子が男子校に転入と言うのはかなりの異例であり特例だ。

けれど・・閉じ篭ってるだけじゃ何にもならない。
久美子の言うように自身が行動を起こす事で変わる物もあるかもしれない。
その可能性がごく僅かでもあるならば、行動してみるべきだとは思った。

声が出ない今、この決意を伝える為 はケータイを取り出してメモに打ち込むと
その画面を久美子と竜へ見せる事で胸の中の決意を伝えた。





やっと2話(笑)ついこっちを進めてしまった( ゚д゚)胡蝶も進めなきゃな。
とまあごくせん3 漸く方向が決まったので・・まあ頻繁にとまではいかなくても、更新して行けると思います。
次回くらいからメインの彼らが出せるんじゃないかなという予定)`ν°)・;'.、しかしまだ誰相手にするか悩んでると言う感じ・・・
書き進めながらでもいいからそれを決めたいですね( ´ー`)うむ。