おかえりなさい



石川や理事長らの前で、ヤンクミが熱弁を振るい
宮崎さんの口から、つっちーと俺が無実だと証明された。
そのおかげで、ようやく元通りの日常が戻ってきた。

会議室から帰る一行は、ワイワイガヤガヤと騒がしく
皆がつっちーと俺を囲んでいる。

宮崎さんからは、とても可愛らしい言葉が聞けた。
“こんなにいい先輩と先生がいるなら、私黒銀学院を受験しようかな”と。
勿論、タケ達は大歓迎だと大盛り上がり。
流石の石川も、何も言わずただ宮崎さんの肩を叩き

俺の方とヤンクミを交互に見てから、その場を去った。
最後の最後で、石川にヤンクミの言葉が伝わってる事を祈る。

教室に戻って来るなり、宮崎さんを庇ったつっちーの行動を
仲間達は好きなんじゃないのか?とか惚れたのか?
などと騒ぎ立てて、つっちーに事情聴取を取り始める。

ノリノリで聞いてくる(竜と以外)仲間達に
最初は驚いて、ちげーよと叫び続けてたつっちーだが
流石に慣れ、ちょっと開き直ったような笑みを浮かべると
自信満々っぽい感じで、集まってる仲間達に言った。

「中学生なんて、まだガキだろ?俺が好きなのは年上の女!」
「おーーーー!!」←クラス一同。

バッと扇子を広げて、得意げに言い放ったつっちー。
それを聞いた隼人達が、歓声を上げてつっちーを見上げる。
割れんばかりの歓声の中、呆れて何も言えない俺と竜。

鳴り止まない歓声と、口笛の中 たった一人の発言が
その騒がしさを一気に鎮めた。

「年上の女って、私の事か?」

いや・・何処をどう聞いたら、ヤンクミの事だって思うんだ?
何て突っ込みは、の喉へと消えて行く。
誰しも呆れて何も言えない空間に、竜のぼやきが響いた。

「・・・言ってろ」

それから騒がしいホームルームが始まり
失いかけていた仲間を加えた、いつも通りの一日が幕を開ける。
当たり前でいて、中々気づけない事。
失ってみてからじゃ遅い、いつしかが言ってたのを隼人は思い返していた。

隣にいたり、一緒にいるのが当たり前な仲間。
そんな人がふといなくなったりすると
ぽっかりと穴が開いたような、虚しさを味わう。

話しかけても、視線を向けても
いたはずの姿が見えない。
そして人は後悔する、あの時ああしていれば・・と。
そんな気持ちは辛いだけ、そんな思いを誰にもして欲しくない。

このクラスに来たばかりのは、泣きそうな顔で言った。
あんな顔を、もう二度とさせたくない。
誰かが泣くのを見たくない。

そう思ったから、一人で荒校の奴等と向き合えた。
初めて仲間を、心から守りたいと思えた。
それは全て、アイツのおかげ。
アイツが・・・が、一生懸命だったから。

の一生懸命な姿を見て、俺達はまとまったような物。
まあ・・山口が現れたのにも影響はあるけどな。
がこの先も、仲間である俺達を守る為に無茶をしそうになったら

そうなる前に 俺達がさせないと思う。
なんつーか、が守りたいと思う物を俺達が守りたい。

ホント、変わったよな・・・俺達。

なんて隼人がしみじみしながら、視線を自分に送ってる事など
これっぽっちも気づかないは ぼんやりと前を見てる。
気になって視線を辿れば、黒板でも山口でもない方を見てると分かった。

悩み事か?そうだとしても、自分から言うまでは検索しねぇけど。
俺も大人になったよな〜と再びしみじみ。

ぼんやりしているを、左側から竜も眺めていた。
一瞬、を気にしてる隼人と目が合いそうになったが
ギリギリ他所を向く事に成功した為、気づかれずに済んだ。

さて 2人にサイドから気にされてる本人は。
何を考えていると思えば、数日先の事を考えていた。

この先に控えるイベント、といえば14日。
ただの14日ではない、とすると唯一つ。
そう・・世の乙女達がその日ばかりは白熱する日。

セントバレンタインデーである。

女だってバレたし、義理くらい全員にあげるべきか考えてたら
ヤンクミがあの日俺にこっそりと言った。
隼人達以外のクラスメイト達は、複雑な事情しか知らせてないと。

つまり言うと、女だって知ってるのはセンコーと隼人達だけで
過去に色々複雑な事情があり、そのケリをつけた事を知ってるのが
クラス全体・・・って事で、チョコをあげるのは隼人達だけにしろと。
ってゆうか、既に俺が隼人達にあげるって前提になってんのね?

いいのか?この時期にあげて。
俺は隼人と竜に告られてて、しかも両方返事してねぇし。
かえって期待させちまわねぇか?
それは困ると言うか・・・何と言うか・・・・。

あ゛―――――複雑だ!!
何でアイツら、そろいもそろって俺に告るんだよ!
つーかバラさなきゃ良かった!

でもなぁ・・・あの事を話せて良かったのは事実だし。
過去を知っても、仲間として接してくれる奴等。
それを俺が望んだはず、仲間として全部話すって。
うーん・・とにかく、世話になったのは事実だしな。

よし!悩むのは後だ!チョコは感謝の印って事で!(え)
早速バイト終わったら材料買いに行くか。
って訳で、授業もアッと言う間に終わり

予定に入ってたバイト先へ向かうべく、手早く荷物を手にした俺。
ヤンクミが教室を出た途端、ガタッと崩れるクラスメイト達。
気を張ってた訳でもあるまいし・・・・
まあ、授業以外の事でなら 気ィ張ってたかもな。

「じゃあ俺、用があるから先に帰るわ。」
「用?忙しいのかよ」

気の抜けたようなクラスメイト達に、小さく微笑むと
は近くにいる隼人達に目を移し、肩に鞄を乗せながら言う。
立ち去る前に、怪訝そうな隼人の声に止められた。

手とか掴まれてる訳じゃないのに、すぐには動けなかった。
これぞ目力!←アホ
真面目に言えば、目を合わせたのがマズかったらしい。
ジッと見つめられると、危険。

『仲間』から『男』と意識してしまい、勝手に顔が熱くなる。
こうなっちまうのは、隼人と竜に対してのみ。

黒銀のツートップ、顔も良いし喧嘩も強い。
そんな2人から告られるとは・・・桃女を敵に回しそう。
とか言うも、密かにモテてる事を知らない。

「忙しいから・・・か、帰るんだろ!」
「どもるなよ」
「指摘すんな!とにかく、また明日な!」
「オイ ・・・!」

色々と気づかされた事を考えて、動揺が出たのか
問いかけた隼人に答える時、思わず言葉がつっかえた。
聞き逃さない竜に、しっかりと突っ込まれてムッとなる。

追求を逃れるべく、呼びとめられる前に
いそいそと教室を出る事に、何とか成功。

反射的に、伸ばしかけた手。
その手での手を掴む事なく、隼人は虚しく空を掴んだ手を戻した。
疑問符を、隼人や竜・タケ・つっちーが浮かべる中
理由を知る日向のみは、複雑な顔でを見送った。

さてさて、理由を知りたがる仲間達から逃げ切った
去り際に見た、浩介の複雑そうな顔を思い出した。
浩介には見られてたんだよ、バイト情報誌読んでるトコをさ。

よくあの場で何も言わなかったよな。
後でメールでもしとこう。
別にバイトしてる事くらい、話してもいいだろうけど
絶対アイツ等の事だ、ちゃんとやってるか〜とか言って来るに決まってる。

それが勘弁して欲しいから、敢えて話さなかった。
浩介に知られてたし、バレるのは時間の問題かと思ったけど
意外な事に、浩介は隼人達に言ってないみたいだった。

それで、俺がバイトしてるのは喫茶店と・・・夜の仕事。
夜の仕事と言っても、お水とかじゃなくて逆。
俺がホストになって、客を取る状態です。
こんな事がアイツ等に知れてみろ、とんでもない事になる。

その点、喫茶店くらいならバレても多少のウザさを耐えれば
そんなに後々問題にもならない。

そうこうしてるうちに、面接にも無事受かったバイト先が
歩くの視界に映り込んだ。
アメリカンな雰囲気の漂う、お洒落な喫茶店。
店員は皆、カウボーイみたいな服装に身を包んでる。

女の子のウェイトレスや、男の子のウェイターの
カッコ可愛いスタイルが人気を呼んでいる。
初めてのバイトである俺に付いたのは、真希という女の子。

キレイ系だが、ハキハキした物言いをする気の強い子。
けれど、嘘がないから付き合ってて気持ちがいい。
歳も同じせいもあり、すぐに打ち解けた。
女としてバイトに来れてれば、もっと良かったけど。

我侭も言ってられない。
この日から、俺のバイト生活が幕を上げた。
その先に、予想だにしない必然を用意してるとも知らずに。