ハプニングその後
と脱衣場で鉢合わせてから
照はついを目で追うようになっていた。
シェアハウスに来たばかりの頃は異性を慴れ
照達ですら警戒していた。
そんな彼も、今では自分達に心を開いている。
まだ大人の男だけは苦手なようだった。
仕事の時もスタッフは大体が大人の男・・・
その時は頑張って笑顔を見せ、礼儀正しく接している。
でもメンバーだけになると怖さを思い出し
顔色が悪くなって近くの誰かに甘えに行くのだ。
今までならそんな様子も普通に見守れた。
しかし脱衣場での件以来、普通に見守れなくなっていた。
が阿部や翔太にしがみついたりしてるのを見ると胸がムカムカする。
何か俺、変だよな。
無意識にの近くに待機したりと
自分でも不思議なくらい気にしてしまう。
そんな中の移動先はスタジオ。
偶々この現場での仕事は男の多い現場だった
打ち合わせで間近で話さなくてならず
頑張って打ち合わせを乗り切った。
仕事だからとかなりが無理をしてるのは6人全員分かっていた。
近くの椅子に寛いでいた照だが、は気付かず
少し離れた舘さんの方へ行こうとした
そのに照が気付き、無意識に腕を掴んで自分の方に引き戻す。
「ひゃっ・・・!」
突然引き戻され、照さん?と驚くに対し
「今日は俺と居よう?」
と照は口にしてしまう。
無意識に出た言葉に照自身も恥ずかしくなったが、もう取り消せない。
急に下から照に言われ、は照れる前にキョトンとしてしまった。
俺と居ない?っていう言葉の意味とは?
よく分からないけど眼下の照は照れ顔だが
冗談を言ってるようには見えなかった。
なので、腕を掴まれたまま聞いてみる。
「ど、どうしてです・・・?」
理由を聞かれ、確かになと自分で自分が言った言葉の理由が分からず考え込む。
でも今分かるのは、が他のメンバーを頼りに行くのは嫌だなと思った。
これだけは伝えたくて、照は掴んだの手を口許に寄せてから
俺も何でか分からないけど、と口火を切り
「他の奴のとこじゃなくて頼るのは俺だけにしない?」
と、の目を見て照は言っていた。
言ってから自分の言葉を頭の中で繰り返し
どうして面白くないと思ったのかを自問自答
最初に鉢合わせてからずっと変だった自分
目で追ったりの事ばかり考えたりと
気づいたらそうなってたのを踏まえたら
自然と湧き出るようにその感情の名前が浮かんだ。
自分はが好きなんだな、と
今初めて照は自分の気持ちを自覚する。
同性だとかそんなのは気にならなかった。
それから数日後、また脱衣場で鉢合わせる
その数日前、スタジオでの照の発言から
自身も照を気にし始めていた。
答えの出ない疑問と向き合いつつ
はある日メイクが得意なスタッフさんにとある特殊メイクを依頼した。
胃の横辺りに、結構見た目痛そうな傷痕を作って欲しいと。
万が一見せてとか言われた場合を考え
それっぽいのをお願いしといたのだ。
我ながら頭良い!
特殊メイクを依頼したスタッフさんは
ジャニーさんと滝沢さんが紹介した人だ。
信用出来る人だからと。
なのでそのスタッフさんは私が女の子だと知る初めての味方。
しかも特殊メイクの腕も一流で、数々の賞も受賞していた。
スタッフさんは、サラシは解かず
胸の下辺りまで解かせた状態で筆を走らせた
筆や道具を幾つか駆使し、描く事数十分。
の胃の横辺りに見事な傷痕が完成した。
何となくだが盲腸を処置した後みたいに見える。
これは中々に痛々しいな、と感じる出来栄え
私はスタッフさんに感謝とお礼を伝えた。
サラシを巻き直し、メイク室を出る。
室内のスタッフさんに再度頭を下げ
は意気揚々と送迎車に乗り込んだ。
これで鉢合わせても大丈夫ね!
と、謎の自信を胸には帰宅した。
シェアハウスに着いたのは夜の21時過ぎ。
「くんお帰り」
「あ、翔太さん」
玄関を抜けたら丁度リビングから来た人。
3番目の兄、渡辺翔太と鉢合わせた。
部屋着に身を包んだ姿でを見ている。
「メシまだ?」
「いえ、事務所内で済ましました!」
「そか、じゃ俺は行くね」
「はい!おやすみなさい翔太さん」
言葉少な目なやり取りだがいつも通り。
食事の有無を聞くと、翔太は2階へ歩き出した。
その背に声を掛ければ返事の代わりに片手を上げ、階段を上がって行った。
マイペースな翔太らしいやり取りである。
それでも気に掛けてくれるだけで嬉しい。
温かくなる気持ちに満たされ、も自分の個室に向かった。
荷物を置いたらお風呂に入りたいしね。
そうして向かったのは2階の脱衣場。
歩きながら前回の事が自然と頭に浮かぶ。
まさかの照さんと鉢合わせて腕を掴まれた事
あれはホント、近いし裸だったしで
心臓がパンクしそうだったなぁ・・・と。
でも今度は大丈夫、傷痕作って貰ったし。
社長や滝沢さんは不思議そうな顔してたけど
備えあれば憂いなしって言うしね。
とか考えつつ洗面所兼脱衣場前に着き
鍵の有無を確認、そしたら青の無施錠を目視
誰も居ないみたい、と扉を押し開けた
そこには此方に背を向けて立つ兄?
背中だけで誰なのか分かる人が居た。
「!?」
「わああああごめんなさーー」
今度は逆に照が上着を脱いだタイミングで
は扉を開けてしまったらしい。
いきなり開けられた照も目を見開いていた。
瞬間やっちまった!と内心叫んで謝ろうとしたが
バカッと呟いた照により、中へ連れ込まれ
胸元にを引き寄せながら照は鍵を閉めた
万が一誰か駆け付けても入れないように。
そのまま扉に背を向けて立つよう
を抱き寄せたまま位置を入れ替えた。
すると案の定誰かが此方に来る足音が・・・
「照?今の声どうかしたん??」
扉の前に立って声を掛けたのは翔太だ。
さっき2階に行ったばかりだから気付いたんだろう。
「何もないよ、大丈夫」
と背を向けたまま答える照。
落ち着いた声音に信用したのか
ならいいけど、と呟いて翔太は立ち去った。
・・・近い・・・・・・ヤバい・・・
胸板の筋肉凄いんだけど・・・!?
兎に角翔太が立ち去るまでの間
はずっと照に抱き寄せられ密着していた
ある程度足音が遠のいてから
眼下のに視線を向け、照は息を吐いた。
「お前声でけぇわ(笑)」
「ごごごごめんなさい・・・」
「いやどもり過ぎだろ」
一難が無事去り、ふと冷静になる照。
のリアクションに突っ込んでから気付いた。
うわぁ・・・ちっちぇな、すっぽりじゃん
とか思ってしまい、自分が上裸だと気付く。
「あ、悪い」
一応そう言ってからを解放。
この前に引き続きまた鉢合わせるとか
どんな運命の悪戯だっつの(笑)
素直に離れたの耳が赤い。
お前が照れたらこっちも照れるだろが・・・
しかも俺、自覚したばかりなんですけど?
の事、性別関係なく好きだって。
これも何かの試練だとでも?
取り敢えずこの状況はマズい特に俺が。
だって"好きだ"って気付いた相手がだよ?
さっきは夢中だったけど簡単に抱き締められる距離に居てさ?
耳まで赤くされたらこれ意識されてるって思っちゃうじゃん。
ちょっと話変えよう!と思った照は
瞬間的に浮かんだ話を口にした。
「そういやさ、この前傷痕がどうたら言ってたじゃん?」
「!!・・・ああ、うん」
「それどんな傷痕なん?」
「えーと・・・見る?」
「えっ、良いの?」
気まずさから話を変えた照の言葉はまさにタイムリー。
は内心"やっぱ聞かれた!"と吃驚した。
うわ〜・・・マジ私ナイスじゃない?
予感的中とやらである。
予め対抗策を講じていた私に死角は無い!
とばかりに照の前でサラシを胸の下辺りまで解いた。
記憶違いで胃の横でしたと話し
特殊メイクで作った奴を見せる。
過去出来た傷だと話すの白い肌。
そこの胃の横辺りに確かに痛々しい傷痕があった。
何か縫合したような痕が10cmくらいある。
確かにちょっとインパクトはあるかも
傷痕を見つめながら内心思う照。
それも然る事乍ら、の肌の白さが際立つ
ヤバいなコレ、ホントに野郎?
大我でももうちょいガタイあるぞ?
と真面目に感じながら無意識に手を伸ばし
顕になってるの傷痕を指でなぞった。
少しザラついた感触が指に伝わる。
痛そうと言いながら指でなぞる照に
も耐え切れなくなりくすぐったいと訴えたら
悪い、と口にした照がパッと顔を上げた。
かなり距離が近く、顔を上げた照が20センチくらいの距離に在り
一気に顔に熱が集まった。
「ひ、照さん近っ!」
と顔を赤くして言い、双肩を押しやる。
あ、ごめんと照も口にし 離れるが
またも妙な空気になり、サラシを直した
がもう行きますねと脱衣場を出て行った。
遠ざかる足音を聞きながら
改めて自分の行動を振り返り
なぞった肌の柔らかさを思い返しながら
「俺ヤバいな、とまんなくなりそ・・・」
と1人片手で目元を隠しながら呟く照であった
おわり