October act.2



私の住まわせて貰ってる部屋に訪ねて来たラウールくん。
取り敢えず座るよう勧め、冷蔵庫からジュースを出し
来客用のコップに注いでお菓子と一緒にテーブルに運んだ。

🤍「わーいポテトチップスだ!」

テーブルに出されたお菓子を見るなり無邪気に喜ぶラウールくん。
その姿はやはり年相応で子供らしさを感じさせた。

一応クソ男、シャトランジの調査はしているがあまり成果はない。
ラウールくんは5年前の事件すら知らないし、あんまり巻き込みたくないな。
そう本人に言うとムキになって手伝おうとするから言わないでおく。

1つ手掛かりを握ってそうなのは幹部組とボンベイさん。
というか、目黒さんね。

先月の騒動の時私と一緒に『Rough.TrackONE』へ行ってくれた時
シャトランジが目黒さんを強い憎悪の目でこう言っていた。

”っ、てめぇ・・よくも涼しい顔して俺の前に顔出せたなあ?”

これに対して目黒さんも、久し振りに来たかもと答えていたのは覚えてる。
そのやり取りの前の方は意識を飛ばしてたから覚えてない。
でも手掛かりは目黒さんが握ってる気もしたから聞いてみたいと思う。

今は眠ってると思うから起きて来た時にお願いしてみよう。
また怒られるかもしれないけど真実を知る為にはそれも承知で頼まないとね。

ポテチを嬉しそうに食べてるラウールくんを見つつ、
頭の中では今日の予定を整理する事にした。
この一ヶ月間食事の買い物も生活用品の買い物も、
このマンションの経営者、深澤さんが買って来てくれたり蓮くん達が届けてくれた。

が、今日はどうしても自分で買いに行きたいものがある。
まあ通販っていう手もあるが、あれは届けて貰う際応対があるから危ない
とか何とか言って深澤さんに禁止されている。

何処まで過保護なんだ・・・とめちゃくちゃ戸惑いました。
確かにクソ男が動き始めてる心配もあるし、出歩くのは危険なのは分かる。
でも宅配業者だよ??入れ替わるとかしてたらマジドラマだし
流石にこのマンションまでは知られてないと思うんだどな。

それでも深澤さんや岩本さんに反対された。
ありとあらゆる可能性を潰しておきたい、とかなんとかで。
実の兄もここまで心配して来た事は無いよ。

🤍「ちゃんは食べないの?」
🦢「食べる食べる、私が買ったお菓子だもん」
🤍「ぼんやりしてたけど考え事?」
🦢「大した事じゃないよ、ちょっと買い物行きたいなあって」
🤍「買い物か?、皆には頼めない物?」
🦢「うん・・どうしても自分で買いに行きたいものなんだ」
🤍「ふーん?内緒で食べるお菓子でも買うの?(笑)」

まあそんなところかな!下着買いたいなんて恥ずかしくて言えないです。
いや買う事は恥ずかしい訳じゃないのよ、買って貰えないでしょ?(笑)

あのイケメン達が女性の下着コーナーになんて居たら目立って仕方ないわ。
クソ男に情報を与えてしまい兼ねないもんね。

だからラウールくんの言葉に口裏を合わせておいた。
純粋な未成年にお姉さんそんな話は出来ない。
ただまあ、深澤さんか岩本さんには許可を得ておかないとだなあ・・・

深澤さんに言ったらニヤニヤしそうでヤダな(
かと言って岩本さんに言うのは謎に恥ずかしいから無理。

買い物に行きたいから乗せてって下さい!とだけ言ってみるか。
先月から持って来た下着の使い回しにもそろそろ限界が来ている・・・
という訳で早速連絡だけ入れておこうかな。

🦢「そう言えばラウールくん、今日シフトは入ってないの?」
🤍「んー?多分入ってない筈」

多分ってシフト表とかないのか??
高校生だからあんまりシフトに入れないだろうから
若しかすると本人じゃなくて周りの人が管理してるのかもしれないね。

そうラウールくんに言ってみると、何か閃いたらしい。
ポテチを摘まむのをやめ、ポケットからiPhoneを取り出した。
あべちゃんに聞いてみるねーてな感じに番号を呼び出すと通話を開始。

程なくして呼び出し音が途切れ、機械越しに阿部さんの低温が聴こえた。
6月の梅雨の時期に対面して以来久し振りに聞く彼の声。

💚『もしもしラウール?』

どうしたの?と尋ねる声は柔らかくて優しい。
ラウールくんの表情も柔らかくて本当に信頼してる事が窺えた。

🤍「あべちゃんこんにちは!あのね今日のシフトの事聞きたくて電話したの」
💚『こんにちは。今日のラウールのシフトはね、いつも通り夕方から10時まで入ってるよ』
🤍「僕今日シフト入ってたみたい(笑)危うく忘れちゃうところだった」
💚『ん?近くに誰かいるの??』

見守っている私にも漏れ聞こえた阿部さんの返答。
どうやらシフトは入ってたらしい、
それと何故か私に向けて入ってたみたい、なんて言うから焦った。

別に隠す必要もないのに一緒に居るよと伝えられるのがマズイとか思ってしまった。
しかし既に遅く、無邪気なラウールくんがちゃんの部屋に居るよ。
等と阿部さんに伝えてしまっていた。

するとラウールくんからそう聞いた瞬間、不穏な空気に。
一瞬だけだが沈黙した阿部さん。

🤍「あべちゃんどうかした?」
💚『ううん、ラウールは出勤したらちょっとお小言言われるかも(笑)』
🤍「えっ!なんでー」

まあいいから時間に遅れないように来るんだよ、
慌てるラウールくんを他所にそれだけ言うと阿部さんは電話を切った。

お小言かあ・・多分教育的指導入りますね。
未成年だとしても男は男なんだから、軽々しく独身女性の部屋に入らない事。
とかいうのを多分言われるんだと思う。

それ言ったら逆に意識しちゃって遊びに来てくれなくなりそうだなぁ。
私からすればラウールくんは弟みたいで可愛い子、ていう意識しかないからね。

そんなラウールくん、阿部さんに言われたお小言の理由が分からず解せない様子。
分かるよ、まだラウールくんにはピュアで居て欲しいもんね。
生暖かい眼差しでラウールくんを眺めていると今度は私のiPhoneが通知を報せる。
見るとさっき送った要望に対する返事が来ていた。

📩”車出せるけど何買いに行くの”

ていう岩本さんからの返事だ。
うーんうーん・・ぼやかして言うしかない。

取り敢えず無難に着替えの服とかです、と返答。
変に恥ずかしくて下着の替えです、とは打てなかった(笑)
辛うじて残った女としての恥じらいってやつよ!

📩”ふーん?分かった、丁度今近くに居るから向かうわ”

結構な間を要して返答したのに岩本さんからの返事は直ぐ来た。
しかも付近に居るらしい・・・なんで?

若しかして警護に来てたとか?いやまさかね。
ホストクラブの代表取締役の岩本さんがそんな事する筈がない。

🦢「ラウールくん、もう少ししたら人が来るからお部屋に戻って貰っていい?」
🤍「えーっ、この後勉強見て貰おうと思ったのに!」
🦢「ごめんねラウールくん、また今度見てあげるから」
🤍「ぶー・・・絶対だよ?約束したからね?」
🦢「うん。約束する」
🤍「じゃあ帰ってあげる!」

何となくソワソワしてしまい、ポテチを食べ始めたラウールくんにお願いした。
最初は納得行かなさそうだったが、次回の約束を取り付けると
聞き分け良く頷いてくれたラウールくん。

ホント実の弟が出来たみたいな感覚で微笑ましくなった。
せめてものお詫びにと、残りのポテトチップスもラウールくんに持たせ
じゃあまたね、と言うラウールくんを玄関まで見送った。

🤍「しょーがないから戻るけど彼氏さんに宜しくね!」
🦢「うんごめんね・・・って彼氏!?」

帰りがけにとんでもない発言をしたラウールくんが玄関の扉を開けつつ
あれ?違うの?とかニヤニヤして言った。

彼氏なんか居ないよ、生まれてこの方23年間出来た事すらない。
17歳に揶揄われるとかめちゃくちゃ恥ずかしいなあ。
年上なのに誰かと付き合った経験すらなくて、キスすらした事・・・・

キス・・・は、アレをそう呼ぶなら・・した事はある。
でもアレは帰り掛けに契約の証とか言われて掠ったような程度にしか覚えてない。
だからアレは違うな、キスではない。

内心で爆速並みに誰に対してか分からない言い訳と説明をし終えたら
扉を開けたラウールくんが静止していた。

どうかしたのかと覗き込んだ瞬間、息するのを忘れそうになった。
185(設定決めた時の身長で書きます)はあるラウールくん並の長身が
出るのを阻止するみたいに立ちはだかっていた。

しかも上質なスーツ姿で立つその人はめちゃくちゃ画になる。
何て言うか・・・・どこかの組の若頭みたいな?
その人と目を合わせたラウールくん、蛇に睨まれた蛙のように縮こまっていた。

🤍「あ、えっ、なんで??」
💛「何では俺のセリフなんだけど・・・」
🦢「もう着いたんですか?早いですね」
💛「近くに居るって言ったじゃん」
🤍「えっ!ちゃんの彼氏って岩本くん!?」
🦢「は?!ちが、違うよ!?兎に角戻ろうねラウールくんっ」

まさかの鉢合わせに焦ったのはラウールくんだけではない。
他ならぬ私自身もめちゃくちゃ焦った。

またも変な発言をかますラウールくん。
めっちゃ黙らせたくなった(・∀・)焦って何か言う度に誤解を生んでるよ;;

💛「ラウは今夜シフトだろ?こんなとこで油売ってる場合か、早く戻ってろ」
🤍「は、はーい・・ちゃんお邪魔しました、またねっ」
🦢「う、うん、またねラウールくん。」

・・・はあ・・色々掻き回して帰ってったなあ。

嵐が去った後みたいに脱力感に襲われる
チラリと盗み見た岩本の顔はちょっとだけムスッとしてて怖い。
取り敢えず玄関に立たせたままは失礼だからリビングに招いた。

が、あからさまに溜息を吐くとへこう言った。
隙がありすぎ、と。

そうは言われても私から見たらラウールくんはただの可愛い弟なんだよなあ。
寧ろ岩本さんとこうしてる方が緊張するんですよ。
膨れっ面でリビングまで来た岩本さんへそう返せば、瞬時にふにゃっと笑った。

💛「それって俺の事意識してくれてるって事だよね?」
🦢「えっ、えーと・・・・・多分?」
💛「今はまあそれでいいよ、好きにならない程度には意識してて」
🦢「中々に変な注文しますね」
💛「その方が警戒するでしょ、俺らは協力関係だけど男と女でもあるってさ」

まあそれはするけども。
そういうもんなのかな、好きになったらダメだけど異性と居る事は警戒しろって。

よく分からない事を言われたけどまあ警戒する事に越した事は無いなと納得。
そうしてみますと答えれば、微かに眉宇を下げた後
普段見せる笑みに変えて岩本さんは微笑んだ。

本当に不思議な人だ。
関わるなと遠ざけておきながら”俺が関わりたいの”等と言って来たり
近づいたら離れるくせに今もこうして同じ空間に居る。

掴めない人だから会う度に思考掻き回されるのに嫌だとは思わない。
流されまいと必死になのにこの人はそれを許さないみたいに距離を詰めて来る。
でも必要以上に近づこうとはせず、立場的に距離感を守ろうともしてる。
だから逆に気になってしまって、これがホストの手腕なのかと思う事にした。