October act.1
先月の騒動から早くも一ヶ月経過していた。
あれから『Rough.TrackONE』の店は信用回復に努め
偶に此方からも大我の店を勧めたり宣伝したりと
バックアップやらフォローに努めた。
ちゃんは自分のせいだと思い、
落ち込みこそしなかったがシュンとしてたとふっかから聞いた。
ふっかに頼んだまま病院へ行ったからその後は知らなかったが
お節介なふっかがわざわざメールで送って来た。
”彼女は俺が経営するマンションに引っ越させたよ
部屋は717号室、上の階にボンベイ達が居るから安心だろ?
もし心配なら様子見に行ったりしてやれよー?”
てな具合に。
安心ねぇ・・・・・まあ、あの3人なら大丈夫だとは思う。
万が一を考えるなら可能性的に目黒辺りだろうけど
先月のあのやり取りを見てれば間違いを犯す事は無さそう。
・・・って、なんの心配してんだろうな俺は。
ちゃんの気持ちは彼女にしか分かんないのにさ。
どうしてこんなにも気にしてしまうのか。
ホントならふっかのとこじゃなくて、俺の傍に置いておきたい。
大事にしたい子の事くらい自分で守ってやりたいのにな。
そこまで思案した時ふと思った。
大事にしたい子・・・?
💛「・・・・・俺、好きなのか?ちゃんの事」
だからこんな気にしたり、常に考えてたり?
訳の分からない苛立ちを感じたりして、樹にイラついたんか?
え・・マジで?俺より4つくらい下だよ?
今になって急に気づいた自分の気持ちに戸惑った。
20代前半のちゃんと三十路手前の自分。
人を好きになる事に年齢は関係ないとは思う・・が、まさか俺がそうなるとはね。
しかし自分の気持ちに気づいてから今までを振り返ると納得せざるを得ない。
思えば6月のあの頃から既に気持ちは動き始めてたのだ。
自分の知らない所で『SnowDream』に来店した事を知った日から。
もっと言うなら、新緑の季節に甘味処へ誘った瞬間から
運命は彼女に向けて動き始めたんだろう。
ホストとホストクラブを憎み、嫌悪していた彼女。
それ故に簡単に靡かず、確立した自分を保ち、貫いている姿勢。
だからこそ予想出来ない行動を取ったりして驚かされた。
いつの頃からか、その姿を好ましく思うようになり。
先の読めない行動に肝を冷やすようになり、
いつでも助けられるよう自分の目の届く範囲に置いておきたくなった。
出会う知り合い全てがに興味を持ち、好ましく見るようになるのを
何故か腹立たしく思うようになって、関わる事を止めたくなくて?
自分から彼女と関わり続ける為に強引に新たな約束を取り付けた。
その時一緒に言ったのが”俺を好きにならない事”。
言った俺が破ってんじゃん・・・・。
けどそれはあくまでもちゃんが、の場合だ。
彼女は絶対俺を好きにはならない。
だから大丈夫、俺はまだ・・彼女と関われる人間の筈だ。
謎に自分に言い聞かせ、逸る鼓動を落ち着かせた。
いつもなら翻弄させる側だった俺が、今
4つも下の女の子相手に翻弄させられてる。
💛「あいつらに見られたら絶対揶揄われるな」
そう自嘲気味に笑い、
車から降りて歩き始めたのは病院の入り口。
此処には先月運び込まれた契約相手が入院している。
名前は華純、今年の春先に見せに飛び込んで来てから今日まで
自分が相手を務め、彼女の疑似彼氏を演じて来た。
病気で外に出られなくなる前に、嘘でも良いから人並みに恋愛してみたい。
そう華純から頼まれた。
何故それをホストに求めたのかは分からないがある意味正解だったと思う。
ホストってのは女性達に夢を見せる職業だから。
悪く言えば、金さえあれば上質な夢を見せてやれる。
金が無ければ倖せな夢は見せてやれない。
まあ、華純も切羽詰まっていたんだろう。
冷静であればレンタル彼氏なんてものを頼む手もあっただろうに。
彼女の患っている病は『白血病』。
だから激しすぎる性行為はしてやれない。
後はまあ余計な心労を与えないよう見晴らしのいい部屋を与えた。
最後に抱いたのは9月。
シャトランジのクソがデカい騒動を起こしたあの日だ。
容態が急変したのは俺が出て行って騒ぎを治めた後。
部屋を出るまでは華純もいつも通りだった。
多分その後に悪化してしまったんだろう、
衰弱しているから、そろそろ厳しいのかもしれない。
ドナーは探してるみたいだが、難航してるんだろう。
今も眠る華純は集中治療室に寝かされている。
意識が戻らないからだ。
かと言って、ただの契約相手にすぎない相手の為に親身にはなれず・・
ただ見舞いに来ては花瓶の花を入れ替えたり
時々窓を開けて外の風を入れてやったりするくらいだった。
というか・・この女に家族や身内、友人はいるんだろうか?
入院してから一ヶ月経つが、誰かが訪ねて来てる風はない。
岩本自身に肉親と呼べる人間は居るが、この仕事をし始めてからは音信不通。
ホストクラブの代表、なんて肩書は自分の家族には必要無かったんだろう。
しかし既にこの仕事で伸し上って来た身だ、今更他の道は描けなかった。
💛「・・・そろそろ今日は行くな、また来る」
感傷的になるつもりはないと、思考を中断させ椅子から立ち上がる。
眼下の華純の様子は安定してるっぽく、顔色は良さそうだった。
彼女と交わした契約の期限は入院する迄。
つまり、こうなってしまった今、華純との契約は満了した事になる。
なら見舞いに来る必要はない・・・が、多少なりと関わった手前無下には出来なかった。
愛情こそ芽生えなかったが、情は芽生えたのかもなと思い至った。
ドナー・・見つかればいいのにな・・・。
💛「元気になったらその時は・・
本当に心からお前だけを愛してくれるヤツ見つけなよな」
ホストになんか愛を求めたらダメだぞ。
愛を語るのは上手くても、その舌は二枚舌だから。
指名を増やす為ならそんな言葉、幾らでも囁ける。
純粋で真っすぐな女ほどホストにハマったら抜け出せなくなるんだ。
だからホストもそういう女を見つけたら離さないだろう。
自分に金を落としてくれる太客になってくれるのだから。
華純もそういう意味では太客になる可能性が強かった。
病を患うまでの間、恋人も居らず生きる為だけに働き
自分の夢を叶えるために頑張って来たんだと、初めて店に来た時話していた。
真っ直ぐで汚れてなくて、純粋な心を持っていた華純という女性。
ある意味俺らと知り合う事で純粋な花は、艶やかな艶のある華に転身。
病を克服した時、華純はどう生きて行くんだろうか。
もし可能ならほんの少しだけ社会復帰の手助けをしてやりたいとも思った。
始まりこそ華純からだったが、花から華に変えたのは己。
真っ新だったその人生にほんの少し色を付け、変貌させた責を果たそうと感じた。
呟きを残し、最後に契約書へ満了のサインを残して病室を出た岩本。
その足音を聞きながらベッドの中で寝たふりをしていた華純は静かに泣いていた。
+
所変わってその頃のは。
深澤から与えられたマンションでの暮らしにも慣れ
上の階に住む3人のプレイヤーともそれなりに顔見知りになっていた。
📩『今からお邪魔してもいい??』
そんな風にLINEメッセージを送信して来たのはターキッシュ。
もとい、村上真都ラウールくん。
彼はまだ高校生だが、家族に許可を貰い
深澤がこのマンションに連れて来て、保護している。
言い方を変えるなら住み込みでキャッシャーとして店に出てる子。
街中で岩本と深澤を見かけ、スーツカッコイイ的な感じで後を追い
開店前の店まで付いて来てしまい、興味を持ってしまった。
大人びた外見から雇う事も考えたが未成年と判明。
深澤自らが両親を説得、18歳になるまでは夜の営業に出さない事を条件に
このマンションの8Fに住まわせているそうだ。
見かけはチャラそうなのに意外と深澤という男は面倒見がいいらしい。
だから現にも此処へ連れて来られ、居場所を貰えた。
面倒だと思う人間を自ら経営するマンションに住まわせてくれている。
何故こうも親身になってくれるんだろう・・
岩本もそうだが、お人好しの集まりみたいなホストクラブは初めてだ。
家族は崩壊したが・・その代わりに私は良い出会いをしたのかもしれない?
そこまで考えた時呼び出し音、インターホンが鳴り響いた。
あ、多分ラウールくんかな。
ハッと手元のiPhoneを見たら返信をしてなかった。
🤍「返事来ないから勝手に来ちゃった」
🦢「ごめんごめん」
玄関を開ければ案の定ラウールくんが立っていた。
此処に来たばかりの頃、めちゃくちゃ人見知り発動してたのに
今ではよく笑うようになり、暇さえあれば訪ねて来てくれるようになった。
心を開いてくれたんだと思うと何だか嬉しい。
弟が姉弟に居たらこんな感じだったのかな。
康二くんが長男で蓮くんが次男、私が長女でラウールくんが末っ子。
年功序列で康二くんが長男だけど、中身込みで見たら蓮くんが長男だよね。
🤍「今日は何してたの?また調べもの??」
家族想像してたらリビングに到達したラウールくんが私を呼ぶ。
そう言えばテーブルにメモ書きとか出したままだったね。
ラウールくんも私の身の上は知ってるから隠す必要はないから答える。
🦢「まあね、その為に皆と関わった訳だし何もしない訳には行かないよ」
🤍「ちゃん律儀だね、凄いや。」
🦢「そうかな・・して貰った事にはお返しをしたいだけだよ?」
🤍「そこが律儀なの、僕そういう人好きだなー」
🦢「また好きとか言う、あんまり簡単に口にしてると信用されなくなっちゃうよ」
ベネズエラと日本のハーフだからなのか、
それとも本人の性格なのかは分からないが言動が兎に角真っ直ぐ。
この子がホストになりたいのかも分からないけど
もしホストとして店に出たらめちゃくちゃ指名されそうだな。
特にマダム世代にモテそうだよね・・・。
なんて他人の子だけど家族目線でラウールくんを眺めてしまった。
年齢的にまだ幾らでも他の道が選べるし、大学への道もある。
昼夜が逆転するホストなんていう生活に浸かる前に
光の当たる真っ当な仕事も彼は選び放題なのだ。
まあホストが真っ当じゃない訳ではないが、実力社会だし体も壊すと思う。
不特定多数の女性と体を重ねたりする訳だし・・少し昔なら梅毒とか移されそう・・・
昔の遊女や花魁が悩まされた病をホストに当て嵌めるのはおかしいかもしれない。
でも何となく妙に心配してしまった。
🤍「別に良いよ、僕の事は康二くんとめめ・・ちゃんが信じてくれれば良いモン」
なんて事を目の前で囁く17歳に、
やっぱりホストになるのかなあなんて心配した私でした。