懐かしい夢を見た。
其処は中学の教室で、何気ない風景が広がる。
俺は教室にはいなくて・・あの頃よく入り浸ってた屋上にいた。

給湯タンクのある所が屋上で一番高い場所。
よく其処の横に寝転がり、遥か彼方まで広がる空を見るのが好きだった。
何物にも捉われず逆らわず、ただ在るがままの己で居られる感覚。
此処で寝転がっている間は煩わしさからも、煙たがる教師からも解放される。

丁度この頃だったよな・・クラスの奴の財布がなくなった騒ぎがあったのは。
教師もクラスの奴等も、真っ先に疑ったのは俺だった。
犯罪を犯した訳でもないのに、見かけや言葉遣いだけで簡単に他人を疑う。

どんなに否定しても、固定観念が凝り固まってっから聞く耳も持たねぇ。
そんな奴等ばかりがいる学校で、初めて異質だと思える奴に出会った。
学年中から好奇の目で見られていても、逃げずに登校し続けていた一人の女生徒。

女生徒の噂話は別のクラスにいる風間の耳にも入って来ていた。
どんな事で噂になってるのかは興味なかったが、風間はその女生徒の凛とした姿に興味を惹かれた。

下手ないい訳はせずに毅然と振舞う姿から風間は噂と言う物自体が薄っぺらく思え
自分自身の振る舞いを見せる事で噂を払拭しようとしてる様を快く思った。
コイツには・・いい加減な態度で接しちゃいけないような気持ちにさせられた。
たった一人の妹を守る為、いつも感情を露にしなかったアイツが初めて感情を露にしたのは・・・

〜♪

何やら聞いた事のある受信音が響き渡る。
何の受信音だったけ?と考えてるうちに意識が浮上、朧のような夢から目が覚めた。
くっそ誰だよ朝っぱらから!思い出そうとしてる事が受信音に邪魔され霧散してしまった。

ケータイの画面に表示されたメールボックスを開くと『市村』の名が目に入る。
昨日の今日で何事だ?と訝しげに風間は受信したメールを開いた。

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●ixtiiR@docomo.ne.jp
To:廉

本文
廉おっはー!
今日は皆で学校向かおうぜ〜ヽ(・ε・)人(・ε・)ノ
ちゃんにも途中で会えるかもしれへんし(・∀・)
ほならはよ仕度せーよ?悟と押しかけるぜー

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・・・・誰もが来るから行くなんて言ってねぇっつーの
とか思いつつも体は布団を出て、制服に着替えていた。
の名前と似た感じの変わった名前だったんだよな〜・・確か。
それに・・アイツも何か俺に既視感みたいなの感じてんのか?時々考え込んだしてたしな。

確かに似てる感じはするんだよな・・・雰囲気とか・・・・顔立ちとか。
自分に言い訳したりしないし、恐れはしても逃げ出そうとしない強さとか?
ってか俺が強さとか思ったりするのってガラじゃねぇな。

とかまあ思ったりもしつつ、薄い鞄を手に一戸建てのアパートを出た。
同じ頃、久美子の家から学校へ出発した

面倒を見てくれている黒田さんや、舎弟と呼ばれる朝倉さん達と若頭さんに行って来ますを告げ
大江戸一家の門を出る、何だかもう此処が自分の家のような気持ちになっていた。

何故・・自分の家はあんなに凍えきってしまったのだろう。
私にも何か出来る事があったのかもしれない・・・
でも私には何も出来なかった・・ただ怖くて恐ろしくて、かつて父と呼んだ男から逃れる事しか考えてなかった。

でもそうしなきゃ煉を守れなかったんだ。
そう思おうとする事って正当化してるにすぎないのかな。
ならあの頃私はどうしたら良かったの?考えれば考えるほど答えは見えない深みに嵌る。
彼らと出会い、少しずつ変わり始めた気持ち・・これも本当はいけない事なんじゃ?

朝からモヤモヤと思い悩んでしまう、自然と気持ちも沈んでくる。
学校へ向かうはずの足取りも重くなって思うように進まない。
でも・・今あの悪魔はいない、実質的には存在してるけど距離はある・・・簡単には見つからない・・はず。

此処に来て間もないけど今の生活を失いたくない。
久美子さん達も優しいし居心地もいい、それに・・・・学校も・・今では大切な学び舎だ。
皆がいれば、皆がいるあそこにいれば大丈夫だと思う・・・うん。

自分自身に暗示でも掛けるかのように心の中で何度か呟く。
実際近くに居ても近くに来られても、その上自分から触れる事が出来る異性は初めてだ。

よく晴れた日の朝、周りには他校の生徒も歩いている。
久美子より早く家を出た為、学校までは一人での登校だ。
すぐ横を他のクラスの生徒が通る、視界に収めるだけで少しビクッとしてしまう。
でも緒方達6人や赤銅の同じクラスの彼らと擦れ違っても怖さは感じない・・・・変なの。

一度味方だと受け入れた相手の傍になるべく居たがるようになるらしい
(至って本人は無自覚です)

ふと前を歩く見慣れた6人背中を見つけた。
見知った姿を見つけるだけで心が安堵し、自然と歩く速度が速まる。

、お早う!」

急ぎ足になったを後ろから呼ぶ声が振り向かせた。
パッと振り向いた先にいたのは、世話になっている久美子の姿。
どうやら後から出勤したのに先に出た自分に追いついたらしい。

にとっては久美子こそ『今』を生きる為の全てである。
最近ではそのカテゴリの中に前を歩く6人の存在も加わりつつあった。
『今』を守る為に必要不可欠な存在にの中ではなっているのである。
その久美子の傍もとても安心出来る空間だ。

「傷、もう痛んだりしないだろうな?」
「・・あ、はい平気です。その昨日は本当にすみませんでした」
「いやいいよ、そりゃあ心配して怒ったりしたけどの声も出るようになったし万々歳さ」
「はい・・・・これでいいんですよね・・?」
「当たり前だろう?たった一度の青春だ、今この瞬間ってのは二度と来ない・・ただ後悔だけはするなよ」
「はい!」

昨日の事をきちんと叱って道を正してくれる久美子の存在は、母のような姉のような人だ。
真剣な顔をしたと思えば一転、太陽のような笑顔を見せる様はとても無邪気。
返事をした次の瞬間には既に前を歩く6人の方へ走って行ってしまった。

無邪気な久美子の姿を微笑ましそうに眺めてからも彼らの方へ。
わいわいと賑わう彼らはついこの間まで互いに競い合い、クラスの頭を張り合っていたとは思えない。
こういう部分を見ると男の子っていいなと思う・・・。
それ以外は少し・・まだ苦手かな・・・うん。

だから何となく久美子の姿が眩しく見えた。
彼女のような揺るぎない強さを身に付けたいと思った。

6人と何やら言葉を交わす久美子は、緒方と風間の間から元気よく飛び出すと
何やら声を掛け 後方に居るに手を振ってから先に行ってしまった。
久美子が後方の方へ手を振った事で緒方達も第三者の存在に気付き、神谷が先ず後ろを振り向いた。

「あ!」
「え?」

を視界に捉えた神谷、一声叫ぶと人差し指でその姿を指し示す。
怪訝そうな声を出して神谷をチラ見した緒方、気だるそうな視線を後方へ向けて僅かに目を開いた。
その距離はザッと50mくらい、結果後ろを見た6人全員とは視線を交わす。
6人の視線と向き合いながら取り戻した声で先ず確認をとる。

「・・あ、えと!・・・一緒に行っても・・いい?・・・・ですか(小声)」

声を出す事を意識した部分は大きくなるが、後半に行くにつれ迷いが生まれて小さく萎む。
急に馴れ馴れしかったりするかな・・と思ってしまったせいかもしれない。

あれだけあからさまに拒絶してたんだ、簡単には受け入れて貰えないのは承知してる。
それでも分かってしまったから・・・彼らといると心から安心出来るって事に。
けどそれを言葉にして伝えてもいいのかどうか、説明する過程で自分の家の事を話さなくてはならなくなったらどうしようかとか
色んな気持ちと迷いがごちゃ混ぜになって、急に怖くなった。

通学路で一人突っ立ち、俯いて自分の足元に視線が下がってしまった
どのくらいそうしていたか分からないが、少しすると近づく人の気配を感じ
コンクリートだけの視界に12足の靴が映り込んだ。

パッと顔を上げたの視界には、6人それぞれの姿が映る。
視線を交わした後、先ず正面にいる緒方が言葉を発した。

「どした?一緒に行くんだろ?」
「自分から言っといて黙り込むなよ」
「せやでちゃん、寧ろ俺らと一緒でええんか?って思うたわ」
「やな、俺らとおるとちゃんまで好奇の目で見られてまうし」
「・・・いいよそれくらい・・そういう目で見られるの、慣れてるから」
「そうなん?でもまあ、ちゃんみたいに綺麗な子と登校出来るのは正直光栄だよな〜!」
「だよな!こう場が華やぐって言うか、な!大和!」

そう目で見られてもいいから彼らと同じ空間に居たいと感じてるから。
緒方に続きムスッとした顔の風間が続けて言葉を掛け
明るい笑顔の倉木や市村も話しかけ、更に本城が緒方の後ろからを覗き込むようにして嬉しげに話し
本城並に嬉しそうに話す神谷が何故か矛先を緒方に向けた。

彼にその問いパスしていいのか?という感じ。
振られた緒方がどう答えるのかを全員が見守る。

「したいようにしたらいいんじゃねぇか?多分関わるなって言ってもお前関わるだろうし」

ええまあ・・・・見透かされてる・・・。
緒方の返しにぐうの音も出なかったに皆が笑い合う。
彼らの持つこの雰囲気がとても居心地が良かった。

この『今』と言う瞬間を守る為なら、どんな事でも厭わないと私は心に誓う。
わいわいとスッカリ打ち解けて仲の良くなった6人と揃っても学校へ登校したのである。

6人と登校した学校の門を潜ると、何やら賑やかな様子に驚いた。
でも共に歩く緒方達は賑やかな他の生徒達を見る事なく自分達のクラスへと歩いて行く。
しかし転入して来たばかりのにこの賑やかな様子の理由は分からない為
歩いて行ってしまう彼らを追いかけるように先を急いだ。

彼方此方で球技めいたパスの練習をしている光景。
体育の練習とは思い難い・・・て事は?
この疑問は教室に現れる久美子によって明らかになる。

「来週の球技大会ですけどこのクラスは他より人数が少ないからラグビー一本に絞って優勝を狙う事にしました!」

名づけて!と紙に書かれた表題を読み上げ、ひゅーひゅーと一人盛り上がる久美子。
クラス中がポカーンと口を開ける中、倉木が紙に書かれたある部分に突っ込みを入れる。

「て言うかその『ヤンクミ』って何やねん」
「だからあたしのあだ名、皆遠慮しないで呼んでいいぞ?」
「・・ヤンクミ・・・か」
「ちょっと出遅れたけど練習の遅れは取り戻せるからな、今こそ心を1つにして勝利を目指すぞ おーっ!」

赤いペンで書かれた『ヤンクミ』と言うのは久美子のあだ名だったらしい。
此処に来る前の学校で受け持った生徒達も呼んでくれたのだとか。
こっそり呼んでみたいと思った

だが聞き手の生徒達は一切興味を示す事なくリアクションも薄い。
体育祭があるのかあ・・・・だから他の生徒達は朝から練習してたのね。
この高校に来て初めてのイベントだね、前いた学校ではまあ・・色々あったけど愉しんだ思い出はあんまない。
地元の高校だったから門限も厳しかったし、家の事やらなきゃだったから部活をする間もなかった。

悪魔からの束縛めいた異常な執着もあり、友達を作っても遊びに行ったり出来なかったもんね・・・
こんな風にあの悪魔の事を気にしたり家の事を考えたりしなくて済むのって初めてだ。でも彼らからするとどうでもいい事みたい。

「ちょっと、あたしの話聞いてる?」
「だりぃ」
「えっ?」
「どーでもええやんか、球技大会なんて」
「どーでもいいって事ないでしょ、このクラスが1つになる為にも」
「別に1つになんてならなくたっていいし」
「それに俺らが出たって、どーせ勝たれへんで!」
「あのね!やるだけ無駄!」
「その通り!」

緒方が口火を切ると、パラパラと他の5人も興味はないと反論。
何となく残念な気持ちになる
皆と1つの事をするっていい事だと思うんだけどな・・・

気だるそうに椅子に寄りかかる緒方の表情は何となく色気がある。
他校の女生徒にモテそうだな(話が逸れてる)

と、兎に角!私は久美子さんの提案に賛成だぞ〜。
皆をその気にさせるにはどうしたらいいのか私も考えなきゃ。
どーせやっても反則負けよ?と久美子に発言する市村に対し、むくれた久美子が言い返しこの日の授業は終わった。

放課後集まるよう言い残した久美子。
壁際の机でそれを聞いていた、体操着はまだ配布されておらず
制服でもいいのかどうかを聞く為に席を立ち、彼らの緒方達の横を通り過ぎようとした時
不意に肩を掴まれ、軽く後ろへ戻された。

何の構えもしてない油断しきった時の行為。
その感覚が不意に家を出る直前掴まれた悪魔の手の感触を思い出させた。
此処で初めて居合わせた緒方達は、が何かを抱えてるのだと気付かされる事になる。





ぬああ〜・・ネットがしたい( ゚д゚)!!!と思いながら書き進めました←
来週発売するJumpのコンDVDも買いたいw サマリーDVDも欲しい・・・買いたいものばかりで困るぜよ。
ちょっとだけヒロインの心の闇を表現しておこうと思い、書いてみました。
ヒロインには暴力を受けてた設定ともう1つあったのですが、それを込みで進めるとこんな風に彼らと馴染むのは早すぎると思い
前者の設定のみで、後ちょっと付け足した物にしようかなと軌道修正して行こうと思ってます。