温もりの一夜
倉庫に閉じ込められたせいで、俺達は此処で寝る事となった。
特に意識はしてねぇけど、一応俺も元は女だし
少しはドキドキしてる。
何か知らんけど、両サイドを囲まれてる。
川の字!?
右側には隼人、左側には竜。
両手に美男子って感じッスね。
こんなカッコイイ二人に囲まれて、男の格好じゃなきゃ かなり美味しい状況だよな〜〜。
「寒くねぇ?」
「ああ平気だって」
「でもオマエ、すっげぇ寒そうじゃね?」
・・・折角隠してんだから、指摘すんなよ。
緊張感のカケラもない事を考えてた。
優しく俺を心配する隼人に対し、誤魔化そうとしたに 容赦なく竜が突っ込みを入れる。
その突っ込みにドキッとして黙った俺。
どうするべきか迷っていると、突然肩が重くなった。
「取り敢えず掛けてろよ」
「隼人が肩なら、俺はここ。」
ハッして見るといつの間にか、隼人の学ランが掛けられていて
対抗するかのように、竜の学ランが膝に置かれる。
何でこんなに二人は優しいんだ?
俺・・ちゃんと男として振舞えてるよな??
あまりに優しい行為に、は自分の振る舞いを疑いたくなる。
まさか・・竜もそっち系??
特に反論も出来ず、なされるままに座ってる。
「二人共風邪引くなよ?後で俺のせいにすんなよな」
「しないって、俺達丈夫だから」
「そうそう、隼人は特に丈夫だから」
「おい・・どうゆう意味だ?そりゃ」
「そのまんまの意味だけど?」
「喧嘩売ってる?」
「売ってねぇよ、第一そんな元気ねぇ」
「あっそ」
「・・・・」
二人の言い合いが一段落し、ふとが静かな事に気づく。
不思議に思って真ん中を見れば・・
「おい・・コイツ寝てるぜ」
「ああ、見れば分かるって」
「危機感ねぇなぁ〜」
「いや、それ言うなら俺達もじゃねぇ?」
それもそうだな、と隼人はすんなり納得。
しばらく二人で眠るを見つめた。
見るからに華奢な体、男にしては白い肌。
隼人の目は、寝息をたてるの口許へ向けられる。
そういやぁ俺・・コイツにキスしちゃったんだよな。
見てるより、触れると余計実感した。
柔らかくてほんのり赤みのある唇。
「あれ?殴られた痕か?コレ」
唇を見ていて、隼人は其処に痣がある事に気づく。
問いかけるように左の竜へ、伺うような視線を送った。
すると、少しバツが悪げな顔で竜は答える。
「俺が殴られてる前に、またコイツが飛び出した。」
「マジで!?ったく・・・無茶すんなって言ったのにな」
前自分が殴ってしまった所と、同じ所がまた青くなってる。
折角のキレーな顔が台無しだなぁ。
隼人の手は、吸い込まれるように伸ばされ
眠るの痣へと触れた。
「また怪我させちまったな」
「隼人、コイツに惚れてんの?」
「は?・・・わかんねぇ」
「ふーん・・コイツさ、俺達の事はすっげぇ真剣に心配するくせに
自分の事になると 途端に口を閉ざすよな。」
鋭い竜の言葉を、適当に流した隼人。
此処で素直にペラペラと話す気はなかったし。
隼人の答えに、意味深な目を向けると
何事も無かったかのように別の話題を口にした。
その内容は、隼人もずっと思ってた疑問。
どうやら、コイツも同じ事を考えていたようだ。
「確かに・・俺としては、話して欲しいんだけどさ」
「まあな、けどの事信じてるなら待ってればいいんじゃねぇ?」
コイツが自分から話したくなるのをさ。
気持ちを知りたくて、背負ってる物を知りたいと望む隼人へ
竜はやけに悟ったような事を言った。
何か、竜の方が分かってる気がして イラつく。
竜はの姓を聞いた時から、似たような孤独を感じ取っていた。
目覚めたのは、隼人に揺すられたせい。
ガラガラガラ〜とあれだけ開かなかったシャッターが上がり
眠っていた俺と竜は、隼人の声で起こされた。
また閉められるんじゃないか、という気持ちから
俺達三人は、駆け足で倉庫から出た。
久しぶりでもないが、さんさんと照る太陽を見てホッとする。
背伸びをして、歩き始めた様子を隼人と竜は後ろから見つめる。
互いに無言で顔を見合わせてから、自分達も歩き出す。
「あ、隼人・竜。」
「なんだよ」
「・・・」
「上着・・ありがとな」
「・・・おお」
「別に」
ふと前を歩いていたが立ち止まり、隼人と竜を振り返る。
それに習って二人も足を止めた。
こっちを向いたは、照れ臭そうに黙ってから
隼人達に昨日の礼を言った。
突然の言葉に、隼人は反応が遅れたがちゃんと応え
竜も言葉少なく、別にと呟くと微かに笑った。
それから再び歩き出そうとした時・・
突然前からパトカーが現れ、自分達に迫ってきた。
「え??」
「何だよ一体!」
「・・・」
動揺する達、一台だと思ったパトカーは後ろからも現れた。
完全に動きを封じられ、突っ立っていると
後ろから来たパトカーのドアが開き、あまり会いたくない奴が現れる。
「とうとうやってくれたな、おまえ等。」
さんざ自分達に難癖つけて来たあの刑事。
隼人と竜に庇われたの前へ、刑事が不適な笑みを浮かべ立つ。
勿論、俺達にとっては何の事だかサッパリ分からない。
ずっとあの倉庫にいたのに、どうして警察に捕まらなくちゃなんねぇの?
「俺達、察に捕まるような事してねぇけど?」
「ふん・・証拠はあるんだ、大人しく来て貰おうか。」
の前に立つ刑事から、その姿を隠すようにして
隼人は目の前の刑事を睨みつける。
しかし、その目に怯む事なく得意そうに刑事は言った。
証拠?・・・まさか!
「オイ!その証拠って、生徒手帳か!?」
「へぇ?どうしておまえさんがそれを知ってる?
まさか、おまえさんも一味か?」
「はぁ?ふざけんな、俺等はずっと倉庫に閉じ込められてて外になんか一歩も出てねぇよ!」
押収された証拠とやらが、俺は昨日工藤達が持って行った物だと
分かり 刑事に詰め寄れば逆に疑われ
ついには黙っていた隼人も 刑事へ怒鳴る。
どんなに説明しても、聞く耳を持たないこの刑事。
年月は経っても、コイツの考え方はちっとも変わっちゃいねぇ。
「歳を重ねても、その初っから人を疑う捻くれた根性だけは
あの時からちっとも変わっちゃいねぇようだな。」
苛々して、隼人と竜の後ろから進み出ると
嫌味ったらしく、刑事に言ってやった。
俺の言葉に、刑事は口の端で笑っただけだった。
応えてなく余裕の笑みを浮かべる姿に、更なる怒りが募る。
その時、思い出したように腹部が痛む。
そういゃあ・・変えてねぇな、アレ。
付け替えたナプキンは、昨日のまま。
今日で三日目だが、まだ量だってかなり出る。
しかも変えられないまま、朝になっちまったし・・・
「、どうした?」
「いや・・ちょっと、な」
パトカーに乗せられ、考え込んだように黙り
どうするか考えていると、隣から隼人に声を掛けられる。
言葉を濁すを見て、竜が鋭く聞いてきた。
「おまえ、また無理してんだろ・・具合治ってねぇんじゃねぇ?」
どうしてこう、オマエは鋭いんだよ・・。
やっぱ普段から冷静なだけあって、気づくのか?
竜の言葉に、隼人もを見る。
「何でもっと早くいわねぇんだよ」
「カッコわりぃだろ・・此処までよわっちぃと」
「別に?俺達はカッコわりぃとはおもわねぇよ」
髪をかき上げ、座席のシートにもたれながら言う隼人。
それに続いて竜も、窓から外を見つつ言う。
ったくこいつ等って・・・本当に、心根のいい不良だよ。
温かい気持ちで、俺は胸がいっぱいになった。
昨日の倉庫でだって、寒いはずなのに心は温かかった。
それはきっと、二人の優しさに触れたから。
今までじっくり感じれなかった、人の温もりと優しさ。
しかし、過去を引きずる限り それに浸る事は出来ない。