ニセモノ
どんなに衝撃的な事があっても、朝は来る。
一睡も出来なかった。
あの後、気づいたら家の前にいて
部屋に入ってベッドに入っても、隼人の言葉と・・・
唇の感触が頭から離れなくて――
うわーうわー!学校に行けば、嫌でも顔合わすし
まともに顔なんか見られねぇ!!
この時点で、昨日まで悩んでいた事も
刑事に言われた言葉も、スッカリ頭から消えていた。
しかし、悪いタイミングは重なるもので。
静かだったリビングに、コール音が鳴り響いた。
制服には着替え、すぐに出られる格好だった為
受話器までは時間も掛からず、3コール目で取れた。
「はい、もしもし。」
このマンションへ掛けて来る者といえば、久美子か父親だ。
電話に出た俺へ返された声は、後者の方で
相変わらずの傲慢な声に、電話越しに俺は顔を歪める。
二度と聞きたくないと思っていただけに、口調も荒くなった。
『昨夜、刑事さんから報告があってな。
最近どうしようもない連中と、付き合ってるらしいな。』
何の用かと思えば、そんな事かよ。
毒づいてから疑問を覚える。
どうしていないはずの父親が、隼人達の事を知ってる?
刑事からの報告って、どうゆう事だ?
電話越しで考え込んでいる俺に、言いたい事だけ言う父親。
『おまえは忘れてるようだな、自分が何の為に生かされたのか
さんの家族へ償いをする為に 生かされてるんだぞ?』
その事を肝に銘じて生きてるか?と嘲るように問われる。
大体察しがつき、一応聞く事にした。
「俺を見張ってんのか?」
そこまで見限られてるとは思いたくなかったのかもな。
俺も 心の奥底では、優しかった父を信じていたんだ。
だが、そんな僅かな思いも 簡単に裏切られた。
『当たり前だ、おまえは我が家元の汚点。
あの刑事は昔にも世話になったからそっちに派遣したんだよ。
おまえも、スッカリ我が嘩柳院家に相応しくなくなった。
早くに破門して縁を切っておけば良かったよ。』
腐れ外道め・・
これにはも怒り心頭で、思い切り罵声を浴びせてやった。
「だったら今すぐ縁なんか切ってやるよ!二度と電話してくんな!」
相手の言葉など聞かず、ガチャンと激しく受話器を置いた。
生理二日目、まだ出血も多いし頭も腰も体もダルイ。
最悪の朝だ・・余計にあの電話で悪くなった。
何も知りもしねぇくせに、一方的に俺を悪く言う父親。
自分が見て聞いた物しか信じようとしない。
例えそれが、実の娘の事でも。
☆☆
苛々した状態で、俺は学校へ登校。
途中 あの刑事の言葉を思い出したりし、背後を気にしたが
そんな事よりも、やり場のない怒りの方が勝った。
落書きの多い教室へ向かいながらも、あの電話が頭から離れない。
あそこまで父親が変わってしまうとは・・・
同時にショックも大きかった。
破門されても、入学金や生活費を少し送ってくれる所に
父親なりの親としての愛を信じていた。
今の俺には、何も残ってない。
親友も、家族の愛も・・・あの事件で全て失った。
気だるい気分で教室へ入れば、漂う空気が重い。
久美子を中心に、全員が真剣な面持ちで集まっている。
「あ、 無事だったんだ。」
「あの後何もなかったか?」
「え?・・ああ、隼人が送ってくれた・・・」
遠慮気味に入って来たのを、タケと竜が見つけ
近くに来て声を掛けてくれる。
二人に答えつつ、隼人の名を口にすると胸がドクンと波打ち
漂わせた視線の中に、本人を見つけ頬が高揚した。
「あれれ〜?、顔が赤いぜ?」
「もしかして、隼人に変な事されたのか?」
真っ赤になったのをつっちーに指摘され、それを聞いた浩介が
隣から乗り出し、ニヤニヤしながら言う。
へ・・変な事・・・
浩介の言葉に、ボン!と音を立てて昨夜のキスが思い出される。
「怪しい・・・」
「怪しくねぇ!!隼人も落ち着いてねぇで否定しろ!」
「別に〜?まあいいじゃん、今はもっと大変なんだよ」
あの日の事より大変な事ってなんだよ!!
奴は慣れてるな?俺なんか、初めてだったんだぞ?
膨れるをタケが宥め、竜も落ち着けと言いながら肩を叩く。
二人に諭され、静かになった俺を見てから
久美子が話しを続けた。
「てゆう事は、誰かがお前達をハメたって事じゃねぇか?」
「ハメた??」
「そうかも・・・それだ」
突然の事で話が把握出来ない。
隼人が久美子の言葉に納得している。
一体自分が来るまでに、何が話されていたのか。
分からないまま話に参加させられているへ
横から圧力が掛かった。
パッとそっちを見れば、腕に抱きついて俺を見上げるタケ。
円らな瞳が、男とは思えないくらい可愛い。
「俺達が達と別れた後、他校の生徒が五人組に襲われたんだ」
「五人組?」
「ああ、しかもそいつ等は俺達の名を語ってたらしい。」
「マジかよ」
事情を説明してくれるタケ、竜も俺に教えてくれた。
それにしても、隼人達の名を語るとは・・・
度胸があるのか それとも単なるバカか。
どちらにせよ・・野放しには出来ないな。
しかも久美子の思い当たるのはねぇのか?の言葉に
つっちーが荒校の奴等かも、と言ったのを筆頭に
数々の高校の名が挙がって・・・
小橋が挙げた高校名に、俺は過敏な反応をした。
「竜神学園の柴田にも恨み買ってんじゃん」
竜神学園・・・だとぉ?
「?顔がこぇーって」
「あ、あはは・・ちょっとまだ腹痛くてよ」
笑って誤魔化す、タケは首を傾げたが
素直に俺の具合を心配し始める。
純粋な奴だなぁ・・竜は誤魔化し切れたか分かんないけど。
チラッと盗み見れば、やはり納得してなさそうな目をしてる。
鋭いからなぁ〜竜って。あ!
「今更だけど、あの境内の所で情けない面した事・・・」
「他の奴に言うなって言いたいんだろ?分かってる。」
低い声の呟き・・まあコイツは口が堅いだろうし平気だろ。
俺も納得して、竜へ礼を言いバシッと背中を叩いた。
吃驚してを見る竜、既にの意識は久美子達へ向いている。
本当に・・コロコロと表情の変わる奴。
小さく息を吐き、気づかれないように竜は笑った。
沢山の学校名を挙げた生徒達に、おまえ等・・そんなにいたのか
と呆れた様子で久美子は言い 一先ず教室を出て行った。
「俺等の名前語るなんて、ふざけやがって」
「ウチの制服着て、バッチもしてたらしいよ。」
「ナメられたもんだよなぁ〜」
「あーーチキショーバリあったま来た!こうなったら俺等で犯人捕まえてやろうぜ!」
息を吐くように言った隼人。
続けて俺の隣のタケが、バッチを示しながら言い
浩介の言葉が後を続く。
そんな中、頭を掻き毟りながらつっちーがビシッと扇子を出して提案。
しかし一斉に非難の声と、驚きの声が掛かる。
「だってこのまま引き下がれるかよ!」
クラス中の視線を受けながら、つっちーは本当に悔しそうに言う。
まあ、それも一理あるな。
このまま野放しにしとけば、後々面倒な事になり兼ねないし。
濡れ衣を着せられたままってのも、癪に障る。
静まった中、隼人が椅子から立ち何を言うかと思えば・・・
「・・やっちゃう?」
言った顔は悪戯を思いついた子供のよう。
一斉に皆立ち上がり、あれやこれやと意見を出す。
食糧が必要だとか何とかかんとか・・・
俺はついて行けず、何時の間に自分の席に着いたのか
座って隼人達を傍観していた竜の隣に行き
「何か盛り上がってっけど・・いいのか?」
「つーか既に別の方向行ってねぇか?」
ダルさを含め、溜息混じりに言えば竜も同じ風に思ったらしく
呆れた声音で返事が返ってくる。
あーあー・・何やらすっごく楽しそう。
あんな事言って、あんな事した事なんか忘れてるな・・・
一人で恥ずかしがってんのが、バカバカしく思えるよ。
とまあ、異様な盛り上がりの中 俺達自身で犯人探しをする事が決まった。