人魚姫 8



あーーっ、わんのふらぁ!!
ぬーんちあんねーるくとぅ(何であんな事)言っちまっのみぐさぁ〜んやっさー(言っちまったんだ)

何て案の定後悔した。
しかし今更戻れないし戻るつもりもない。
頭に来たのは本当だし、今、を赦せそうにもない上に

永四郎には顔合わせ辛いんばーよ・・・・

が本音である。
キョトンとして戸惑ってたの顔を思い出すと訳もなく苛々。

嘘をついてる自覚がないのか。
それとも、あの事自体を隠したい事だと思っていないのか・・・・だが
隠すつもりがない以前に、隠すような事だと思ってない場合も・・・?

それってどうよ・・・・・・・
やっぱりわんはモヤモヤしたまま帰る事になった。


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『わんは知らん』

困惑し立ったままの脳裏にリフレインする凛の言葉。
その言葉はを呆然とさせるには十分すぎる言葉だった。

心が求めるままに彼等の所に行けたけども
それは間違いだったんじゃないか、折れそうな心はそう思い始めていた。

どうしようか・・・
あのまま凛の家に世話になるつもりではなかったが
今の自分が、うつし世とあの世の狭間を彷徨う存在であるという事は

沖縄にある自分の家には帰れない。
と言うか思い出せないから帰る以前の問題だ。
もし両親が家に居たとしたら、余計に混乱させてしまうだろう。

甲斐に頼むと言う手もあるけども・・・・
女の子の自分が転がり込んでもいいものか悩む・・

そうか・・・
今の私は一人ぼっちなんだ。
何処にも戻れないし、頼れる人もいない。

私・・


「私、何の為に戻って来たんだろう・・・・」


凛の言葉は痛くて深く胸に突き刺さって取れそうにない。
嘘って何の事なんだろう?

もしかして・・・・・?
脳裏に過ぎるある行動。
凛はいなくなったを探し回っていた。

と言う事は、色んな所を探し回ったはず・・・
――――見られてた・・・・??
木手さんといる所を見てしまったとしたら、嘘つきだと言われても当然・・だね。

あんな風に怒られたのはどうしてなんだろう。
私が木手さんと話していたのを見たとしても、怒る事はないはず。

理由があったのだとしても、考えてももう意味がない。
だってもう嫌われちゃったもの。
もう知らない・・って、言われちゃった・・・

これからどうしようかな・・・
凛に、会いたいと望んだ人に拒絶されてしまったら
自分が此処に存在している理由はなくなった。

死を・・引き伸ばしてる意味も、ない。

木手さんに約束したのになぁ・・・・・
彼が突き止めた事実は、私の言葉で私から彼等に話す・・って。

『わんは嘘つく奴は嫌いさー』
『わんはもう知らん』

『やー・・何でわんの名前・・・てゆうか、何で泣いてるんば?』

いっぱい巡る凛の言葉。
戸惑いながらも自分を受け入れ、助けてくれた凛。

突発的に動いた自分の行動が全てをゼロにした。

はらはらと落ちる冷たい物。
それが自分の涙だと気付く頃には、止める事は叶わず
自分の愚かさを悔いて泣く事しか出来なかった。

「う・・うぅ・・・っ」

泣きながら校門を出て行き、その足で向かうのは何処でもない所。
その日は姿を消した。


++++++++++++


ちょっと待て。
わん、置いて行かれた?
って言うよりもは何処に行ったさー?

この辺の地理はあるかもしれないけど、記憶が曖昧なままだろ?
つーかぬぅで凛までいないんば??

考えるより先に裕次郎はケータイを取り出した。
木手と別れて戻ってみれば、先に戻ったはずのもいなければ
そのを探してるはずの凛もいない。

全くもって意味が分からない。
だから先ずは凛に電話をかけた。
待つ事数分、5コール目くらいで凛は電話に出た。

『ぬぅが裕次郎・・・』
「ぬぅがやないやっしー!!」
『ばっ、耳元でデカイ声出さんけ』
はやーと帰ったんか?戻ったらたーもうらんからよー、は記憶もまだ曖昧だろ?
あんくとぅ(アイツ)一人じゃ帰れねーんし、帰るとぅくるもねーんやずあんくとぅ(ないはずだから)」

間延びしたような声、妙にイラッとして怒鳴る。
勿論抗議されたが構う事無く問い掛けを続けた。

さっきからずっと嫌な予感がしてるせいかもしれない。
胸騒ぎがするままにそれを凜にぶつけたら
反対に凜が声を荒上げる側になった。

『ぬーやがって・・・・!?』
「ぬーって、やー・・一緒だったんじゃねーんぬかよ」
『・・・まじゅんあんに(一緒じゃない)・・わん、苛々して・・・先んかい帰っちまっのみぐさぁ〜んさぁ〜(帰っちまったから)。』
「こ、このふらぁ!!!」

流石に呆れた。
何を苛々したのか知らんが、を一人にした事が腹立った。

あんなにも凜に会いたがってて、やっと会えた
残された時間を削ってまで会いに来たというのに・・・・

呆ける凜へ、が何処にも居ないとだけ言うと通話をブチリ。
そのまま履歴から木手へと電話をかけた。
冷静な木手なら何かしら知ってる事があるのではと思ったから。

「・・・・・ぬーがやそれ」

ツーッツーッと鳴るケータイを片手に呆然とする凛。
予想しなかった事態を裕次郎から聞かされた。

まさに青天の霹靂。
だが今更顔を合わせられるか?
自分はついさっき、そのを突き放すような事を言ったばかり。

しかし、あの頼りない様子が思い出される。
会った時から何処か悲しげな目をした彼女・・・
何処か・・・・突然いなくなってしまうような―――

「くそっ」

よく分からないが、かなり甲斐の声は慌てていた。
間違いなく自分の言葉のせいだろう・・
放っておく事も出来ず、ケータイを握り締めて凛は家を飛び出した。

けどわんは、の事を思うよりも分かってなかったんばーよ・・・・
それを悔いるのはもう少し先になる。

駆け出した凛、勿論行く宛てもなく手当たり次第に駆け回る事にした。
が行くような場所なんて知らない。

このまま見つからなかったら?
そんな考えすら容易く浮かぶ・・・・
1つ閃いた、それは最初に出逢った海。

もしかしたら?
そう思って急いでその海へと向かった。
あの海岸で、一人で過ごしてるのではないか?と。


その先に待つ、光景に凍りつく事になるとも知らずに。