人魚姫 5
甲斐達と分かれ、一人職員室へと向かう木手。
その脳裏には彼等の連れて来た一人の少女が浮かぶ。
見慣れない朱色の制服・・・・
不安そうなその瞳は間違いなく俺を見て怯えていましたね・・
恐怖とは違う色・・・彼女も聡い方なのでしょう。
俺に疑われている、そう本能で感じたのでしょうね。
あのニュースと記事に書かれた本人ならば、何故此処に?
それにあの朱色は我が校の制服ではない。
平古場君達が彼女を助けたと言っていましたが、何故わざわざ比嘉中を案内しているんでしょう?
助けられたお礼にしては不可解だ。
テニスが見たい、とでも言わない限り此処へは連れて来ないでしょうし。
何はともあれ全ては職員室で確認すれば分かるだろう。
あそこへならば情報は集められているでしょうから。
+++++++++++++
木手を見送ったわったーは、顧問も部長もいないテニスコートに到着。
其処では部員とレギュラーが打ち合いをしてる。
少しの顔色が悪いのが気になるけど・・・・
「此処がテニスコート、なま(今)打ち合っちょるぬ(うちあってるの)がレギュラーぬ新垣と不知火やさ。」
「・・・・・・」
「?どうかしたのか?」
「あ、何でもないさー」
「しんけんば?きさからいるわっさんぜ?(ほんとうか?さっきからかおいろわるいぜ?)」
「じゅんに大丈夫だから、気んかいしねーんで。(気にしないで)」
そう答えたの顔色は悪いけど、わーじ(それ以上)聞くぬや止めた。
気にかけてくれる二人には申し訳ないが、今私の頭の中は不安で一杯になっていて
テニスよりも職員室へ行った木手さんの事ばかりを気にしていた。
暫くを気にしていた凛だったが、甲斐の提案で打ち合う事に。
あぬままでいても余計モヤモヤするだけやー、てんかいすんれー(テニス)して憂さ晴らしするさー。
と言う訳で、ラケットを取り出すと
甲斐からサーブを打ち、ラリーが始まった。
そんな二人をコートのベンチで眺める。
やっぱりテニスをしてる二人は活き活きとしてるなあ・・・・
キラキラと日の光を弾いて輝く凛の金髪。
ずっとずっと探してて、憧れていた光その物で
何だか遠くに感じた。
目の前にいるのに、キラキラと輝く凛君達が遠くに感じたんだ。
木手さんが、何かに気づいてしまいそうで。何かってのが何なのか分からないのに不安だ。
気が気ではない・・二人には悪いけども、ちょっと抜け出したい。
逸る心を抑えられずに私は駆け出した。
続くラリーの音の中、打ち合いに夢中の凛と甲斐を残して。
同時刻、木手は目的の職員室にいた。
クラス担任には夏休みの自主課題として、過去のニュースを参考にしたいと説明。
あのニュースが報じられたのは二年前。
過去の比嘉新聞(生徒会が発行しているプリント)が纏められたファイルを受け取り
その場でザッと探してみる、二年前自分達は入学したばかりの一年。
うちなーのニュースで報じられ、勿論学校中でも大きな出来事だった。
それが正しければ彼女が此処にいるのはおかしい。
抜け出してきたのだとすると、身内の方も探しているでしょうし・・・・
「木手?ぬぅ(なに)してるんば?」
「・・ああ具志堅君でしたか、自主課題の題材探しですよ。」
「えー(あー)それ過去ぬ、ニュースを纏めた奴やさ。わんが生徒会長した時もやったよ。」
「・・・・・それならば二年前の事も知ってますよね?」
現われたのは生徒会長の具志堅正一。
木手が手にしているファイルを見て、懐かしそうに笑った。
ふと気づいた事があり、具志堅へ聞いてみると
彼は勿論さー、と頷いて答えた。
「あぬん(あの)ニュースや衝撃的だったしな。なま(今)も意識が戻ってねーんじらーやさ(ないらしいぜ)?」
やはりそうでしたか。
となると益々不可解ですね・・・・
具志堅と軽く言葉を交わすと、確信を得た木手は職員室を後にした。
あの様子では、彼女自身も分からないのかもしれませんね。
自分がどうして此処にいるのか、が。
肉体の感触もあるようですし、幽体離脱とは違うんだろうか?
それ程に強い意志を持っているのでしょうね・・・
さて・・どうしますかね・・・・
きっと甲斐君達も知らないでしょうし。
右手で眼鏡の左側を上げ、テニスコートへ歩き出した視界に少女の姿が映った。
息を切らし、此方へと駆けて来る。
その様はまさに生身の人間そのもの・・・
パタパタと駆けて来た少女は俺に気付くと、肩で息をしてから顔を上げた。
その瞳の強い光に、一瞬見惚れる。
「君ですか、どうかしたんですか?」
「木手さん・・っ、その・・・私・・」
ああ、やはりその事ですね。
君のその顔色からして、俺の予感的中ですか。
瞳に宿っていた光は成りを潜め、彼女は口篭ってしまう。
「ええ、俺の予感は的中しましたよ。」
「――あっ」
「・・・幽体離脱ではないようですね・・」
「え・・?」
「・・・・・」
こうして見ると年上には見えませんね。
二人に話さないままどうしたいのでしょう?
近寄った彼女の腕を取り、触れる事を確認。
驚いたような顔、どうやら自覚はないみたいですね・・・・
歩き出しながらどうしたものかと思案。
その木手を、必死には止めた。
理由は分からない、なのに体は無意識に木手を止めようと動く。
それこそ必死で歩き出した木手の前に駆け、通せんぼ宜しくしがみついた。
背の高い木手を女の子の細腕で止めるのは至難の業。
形としてはそれこそ抱き締めるみたいに。
「君、取り敢えず数点伺わせて下さい。」
必死に自分を引き止める様に苦笑し、木手は少し考えてから口火を切る。
自覚のない本人に、聞いてもいい物なのかで躊躇われた。
「君は今『病院』で意識不明のまま入院中なのはご存知ですか?」
「・・・・・・え?私が?」
「これは事実ですよ、たった今確認も出来ましたしね。」
「・・・・」
木手の言葉には不思議と納得出来てしまった。
私が無意識に心の奥底から願ったから
こんな不思議な事が起きた??
でも・・・あの揺ら揺らと揺れる波間みたいなのは何だったんだろう・・
冷たい海の中を漂っているような意識で、それでも願ってた光。
こんな冷たい海の底に、沈んでしまうなら
泡となって消えてしまうなら、最後に・・・・逢いたいなー・・って
病院で眠り続ける体があるのに、今こうして存在出来てるのは何で?
ちゃんと木手さんに触れてるけど。
もし意識が戻らなかったら?
「私・・死んじゃうぬかな」
思わず漏れた不安。
望みは叶ったもの・・・ちゅらさんな彼の姿も見れた。
こう言う場合、やっぱ消えちゃうのかな。
人魚姫みたいに・・海の泡になってさ・・・・
『だな・・ってゆうか、やーの名前教えろよっ』
『私?私はだよ、ちゃんと覚えていてね』
『当たり前やっしー!』
その時は、――・・・・
「消えちゃうぬや(なら)もう少し先がいいな・・、もう少しだけ気付かないフリしててよ。ちゃんと、私の口から二人に話したいから・・・」
「・・・仕方ないですね、頼まれてあげますよ。」
紫色のジャージをしっかり握って、は静かな口調で願った。
見下ろしたの瞳に、再びあの強い光が宿るのを目を細めて眺めた木手。
フッ、と自然な笑みを浮かべてその願いを聞き入れた。
1つの視線が見守る中で。
うちなーぐうちは難しくて愉しい←
いやあ当初の予定よりヒロインちゃんが自由に動いてまs
抱き締めるみたいに止める・・とか萌えません?え?管理人だけですかn)`ν°)・;'.、