根を張る闇



「いやっ」
「――え?」

咄嗟に肩に乗せられた手を振り払い、短く叫んだ
その反応には、呼び止めた側の神谷も焦る。
勿論近くに居た緒方や風間達も驚いたような目をへ向けた。
今までは見せた事のない怯え方に、緒方達も戸惑いを隠せない。

ザワつくクラスの雰囲気に気付いたは、慌てて居住まいを直し神谷に頭を下げた。
驚かせたのは神谷だというのに小さくなり怯えたは懸命に謝っている。
この姿も6人の心に疑問の種を蒔いた。

数分頭を下げ謝ると、は教室を出て行った。
残されたのは驚いたままのクラスメイトと緒方達。
どのくらいの沈黙が続いたか定かではないが、沈黙を破るように呟いたのは緒方。

「神谷お前何かしたのかよ」
「えっ?別に何もしてねぇーよ?」
「だよな、神谷はちゃんの肩ちょっと引き寄せただけだろ?」
「やんな俺も見てたけどそれだけやったで?」

ならあそこまでの怯えようはどうしたというのか。
また1つに対する疑問が芽生えた。

自分達に恐れなく関わろうとする一方、突然触れると強い恐怖心を見せる。
かと言って自らが自分達に接触するのは平気になったっぽかった。
寧ろ望んで傍にいようとするっつーか・・・近くに来ると安心してる顔を見せてただけに・・驚いた。

何となくモヤッとしたままだったが学校を出た6人が向かったのは・・・・・
かつて横にあった黒銀はそのままに隣接している女子高のテニスコートに来ていた。

中でテニスをする女子高生達にがっつく5人は金網に張り付いている。
其処に加わらず背を向けて呆れ返ってるのは緒方一人。

「やっぱ女子のいねぇ球技大会なんて意味ねぇ!!」
「うんうん!俺クラスの半分は女子がいい!」
「うんうん!三分の二でも、いいぞっ!」
「うんうん!三分の三でもいいわ!」
「それは女子高だろ・・つーか女子なら一人――」
「何でウチは男ばっかなんだあああ!!!」

大勢居る女子を目にした彼らに緒方の突っ込みは聞こえてないようだ。
やがて彼らの存在に本城の雄叫びに似た声で気付いた桃ヶ丘女学院の生徒達も気付き
風間達がフェンスの外に出たテニスボールを巡って醜い争いを繰り広げてる隙に
先生に知らせた方がよくない?などと言いながら逃げて行ってしまうのである。

「行こうぜ」

追いかけようにもフェンスを隔てている為、我に返った風間達は逃げ去る背を見送るだけに終わる。
興が冷めた様子の仲間らを呆れつつ促す緒方。

丁度其処へ久美子と話し終えたが合流。
彼らを見つけ安堵はしたがまたも躊躇った。
さっき酷い反応をみせてしまったから・・・・

ひょっとしたら傷つけてしまったかもしれないし・・
歩み寄るのを躊躇っていると倉木が苛立ちに任せて手に持っていたテニスボールを
フェンス越しのテニスコートに投げ返したのを見た・・・・が。

あろう事か投げられたボールはフェンスの一番上に阻まれ
投げられた勢いそのままに跳ね返ってきたのである。

「――!」
「え・・わあっ」

6人は何とかボールを避けたが、考え込んでいたは気付くのが遅れた。
危険を促したのはボールを避け終え、その軌跡を追うように後ろを見た風間。
こっちに来ようとしてたのだろうの姿がボールの飛んで行く先に居たのである。

咄嗟に走り寄り、また怯えられる覚悟で吃驚した顔のの腕を引き
自分の体で守るようにして横へ避けた。
風間とが地面に倒れ込むのと同時に、テニスボールの餌食になった人物の悲鳴が聞こえた。

悲鳴と自転車の倒れる音、身を起こそうとしたの下にはまさかの風間。
その光景がいつかの記憶と重なって既視感を呼び起こした。

3年前の中学生の時、屋上から飛び降りようとしたあの日。
落ちそうになった私を風間君みたいに駆け寄って助けてくれたあの人。
さっきの風間君みたく、真剣な顔で強く引き戻しこの世に留まらせてくれた。
って!この状況は・・・!恥ずかしい!!慌てて上から退き、立ち上がる風間に手を貸して走り去る事に集中。

でも皆でこうして一緒に走ると言うのは初めてで楽しくもあり
すぐに笑顔に戻る事が出来た。
共に走りながら風間もと同じ既視感を感じていたりする。
その既視感に身を任すと、とてつもなく懐かしい気持ちに駆られ・・1つだけ思い出した。

記憶の中の彼女は、妹さんに危害が及ぶのではという時に初めて感情を露にしたのを。

そして日も暮れた夜の街中を、結局も共に歩いていた。
こう言ってはアレだが、彼らの外見で判断する他の人達はおいそれと絡んでは来ない。
擦れ違う学生やら社会人やらがを振り向いたりとかはあったが、共に歩く緒方達に吃驚して声は掛けて来なかった。

「なあ、次は何処行くよ」
「ダーツとかどうよ」
「行っちゃう?」

人で賑わう街中を歩きながら、元気の有り余ってる様子の倉木が皆に問う。
各々にそうだなーと考え、神谷が提案した行き先に盛り上がり始める本城と神谷に倉木。

そんな彼らの前を横切るように歩いて行く数人の学生の姿が目に留まった。
うわー、と大袈裟だが目に入った光景について素直に感想を洩らしたのは本城。
その言葉で市村の横にいたは立ち止まった彼らと共に学生らの出て来た建物を見上げる。

其処に書かれていたのは進教セミナールの文字。
つまり此処は受験生の為の塾と言う事だ。
こういう所に通っていた時期もあったなあ・・確か中学受験の頃だったかも。

ふと其処から出て来た生徒の一人と、端にいたの肩がぶつかった。

「――っ」
「平気かちゃん おいコラ、女の子にぶつかっといて謝りもせぇへんのかてめぇ」
「あ、すいません・・・――」
「平気だから市村く」
「高杉?」
「・・・・市村?」

反動でよろけたを咄嗟に支えた市村。
その声で緒方達も足を止め、市村と呼び止められた学生に視線を向ける。

参考書に夢中になっていた青年、振り向いて視線を合わせた。
この流れだとケンカになってしまうかもと慌てて市村を制止させるべく市村の腕を握った
しかし視線を合わせた彼ら二人は、ケンカに発展するまでもなく互いの名前を呼び合ったのである。
これには唖然としてしまった達、それでもケンカにならなくて良かったと一安心もした。

懐かしげに相手の高校生を高杉と呼んだ市村とは違い
高杉と呼ばれた青年の方は戸惑いの色が濃く、あまり良く思ってない事は明白。
久し振りだな、と笑顔で話す市村に冷たく背を向け 同じ制服を着てる青年達の方へ高杉は去って行った。

その際一瞬の視線がの方も見ていた事は誰も知らない。
緒方達全員が市村と高杉のやり取りに集中していた。

「何 赤銅学院なんかと知り合い?」
「いや、あんな奴知らないよ 行こう」
「!?」

私の目から見ても、二人は知り合いっぽかった。
しかも仲間と合流した際の言葉は聞いてて良い物ではなく、無視されるより辛い仕打ちだった。

思わぬ高杉の言葉に驚きを隠せない様子の市村を気遣い
握ったままだった市村の腕をもう一度握り直した。

「何だアレ、いっちーの知り合いか?」
「・・おお」
「にしてもえらい感じ悪いやっちゃのう」
「お前も平気か?」
「え、あ、うん」

少し戻って市村との方へ来ながら揶揄した風間。
向けられた問いに少し視線を外しながら市村は答えた。
彼の答え方が何となく気になって近い位置にある市村を少し見上げる

面白くなさ気にいう倉木に混ざり、を気遣う問いをして来た緒方。
低い声に問われ、少しドキッとしつつ平気だよと笑みを返した。
それからふと気付いた緒方が続けて言葉を洩らす。
彼が言い当てたのは高杉達の着ていた制服。

青芝じゃね?の言葉には若干焦りを覚えた。

「へぇ〜青芝・・って、青芝!?メチャクチャ頭いいトコじゃんかよ!」
「何でそんな所と知り合いなんだよ」
「いや、だって俺さ 中学青芝やもん」
「ぅえっ!!?」(全員)

まさかのカミングアウト、市村は中学の時高杉らのいる青芝に通っていたのだと言う。
物凄い偶然だ・・・彼らには言ってないが、自身もその学校名と関わりがあったりする。

「いっちーってさ、実は頭良かったんだ?」
「まあね、でも途中で落ちこぼれたから高校には上がれんかったけどね」
「いやいやいや、青芝行っただけでも凄いって!」
「ま 今はその面影も、ないけどね!」
「ないけどね、じゃねっつの」
「ダーツ行こうダーツ」

皆からの問いに笑顔で答える市村を、横では見ていた。
少し無理してるような印象を受けた
根っこの部分では、青芝へ行けなかった事への思いがあるような気がした。

俺はボウリングが〜と言う倉木に神谷や本城はダーツだろと被せて言い合い
その彼らに残る緒方や風間が歩き出す中、市村だけはすぐ歩き出さずに止まったまま。

視線を地面へ落とし、少し複雑そうな顔をした。
気になっていたは市村の横で彼の顔を伺い見る。
やがて気付いた市村がに笑いかけ、いこかと促すまでは黙って傍にいた。
あまり思い悩まないでいいんだよ?と心の中で語りかけながら。



翌日は朝から女の子の日になり、少し遅れて家を出発。
大江戸一家には女性が久美子しか居らぬ為、その手の相談は黒田さん達には出来ない。
向かいながらコンビニに立ち寄って生理用品を購入、そのままトイレを借りて装着してから学校に向かった。

熱っぽくてふわふわするが、痛み止めも飲んだし腹部の痛みやら腰痛は緩和されている。
月経とは病気ではないので何としてでも登校するつもりの
ただ向かう先は男子校・・・・ナプキンは多めの物を買っておいた。
問題はそのナプキンの入った巾着を出してトイレに向かう時のみだろう・・何せ女子トイレは職員室の近くにしかないのである。

何となく憂鬱な気持ちで赤銅の校門を潜り、離れている3-Dへ向かう。
近づくにつれ、教室の中が騒がしい事に気付いた。

声からして牛島先生と教頭・・・っぽい。
肖像画がどうたらこうたら、やってませーんの押し問答。
また彼らが悪戯でもしたのだろうか?始めは怖いとしか思っていなかった彼らも
慣れてしまえば微笑ましいと言うか(え)賑やかで楽しいという感想しか浮ばなくなる。

「この分だと例の事件も!コイツ等の仕業じゃないんですか?」
「何だそりゃあよ!」
「勝手に決めつけんなよコラァ」

例の事件?廊下で中の話を聞いていた、教頭の発言が気になった。
数日過ごして分かったが、この学校の教師・・久美子以外の大人は彼らばかりを目の敵にし過ぎじゃないか?

そりゃあ外見とか言葉は悪いけど、よく接してみれば皆とても優しいし弱者を気遣う心を持ってる。
何故此処の大人達はよく見ようともせずに決め付けてしまうんだろう。
何だかとても、虚しい気持ちになった。

取り敢えず今は中の様子が気になる為、思考を切り替え教頭達のいる側ではない方の戸から中へ。
そっと覗きつつ入ると、クラス全員が教頭と睨みあう形で向き合っていたのである。
誰一人こっそり入って来たに気付く者はおらず
この場のやり取りを聞きながら大回りして後方の席、自分の席へと着いた。

「今こそ教頭の鼻をあかしてやろうじゃないか、全員着替えて校庭に集合だっ」

丁度タイミング的に高らかと久美子の言葉が教室に響く。





ぬおーんまだネットが出来てない キィッ(o`゚皿゚)9!!
更新出来ずに駄作が溜まる一方でしたわ( ´ー`)ほぼ一週間ネットが出来なかった・・・つれぇ。
とりまドラマ沿いで漸く?3話に駒を進めましたよ〜(。・ρ・)いっちー結構好きです←
書き進めたいけどかなり溜まりそう・・・・いや、溜まりました(笑)3話ずつくらいで更新しようかな。