熱の冷まし方



突然だが、隼人が風邪を引いたらしい。
本当に突然・・アイツでも、風邪引くんだなと。
季節は春を過ぎた5月。
世間では、そろそろ五月病がニュースで騒がれる頃。

まさか五月病で?いやいや、隼人に限ってそれはねぇな。
でも風邪かぁ〜一人で平気なんかなぁ。

隼人んちって、お父さんと弟さんだけだって。
母親は中学の頃亡くなったって、竜から聞いた。
男手一つで育てられた隼人、不良気取ってるけど
凄く仲間思いだし、きっとお父さんの人柄もいいんだろうな。

竜達に聞いたら、今家には隼人だけしかいないらしい。
おじさんは、トラックの運転手で遠出中。
弟君は学校の旅行だとか?

うわーメシとか喰ってんのか?
どうせ料理なんて出来やしねぇだろうし・・・

そう考えると、俺はいてもたってもいられなくなった。
上の空になった授業は、早々と切り上げ
竜達にバレないよう教室を出て、学校を抜け出した。

隼人んちに向かう途中、スーパーで体によさげな野菜や
果物を買い込み 更に風邪薬とか買ってから向かった。
甲斐甲斐しくお粥でも作ってやるかと、思ったので。
ちなみに、俺なんて言ってるけど本来は女。

俺だって一人暮らししてるんだ、食い物の作り方くらい知ってる。
隼人も含め、アイツ等には随分救われた。
今度は自分が何かしてやりたい。

そう思って、は隼人の家へ急いだ。

隼人の家は大分前に聞いた、記憶を辿りながらだったが
迷わず到着。
自分の記憶力を褒め称えてやりたいくらい。

矢吹と書かれた表札、その隣くらいの位置にあるインターホン。
紙袋から一旦手を離し、はそれを押した。

ピンポーン
家の付近と、家内に響く音。
ドアが開くのを、何故か緊張して待つ。
目の前のドアはすぐには開かなかった。

一方・・これまでにない高熱で、ベッドへ寝ていた隼人。
寝付けずに浅い眠りの中、鳴り響くインターホンに目を覚ます。

ったく・・・誰だよ、こんな昼間っから。
ただでさえ頭痛もひでぇし、頭もクラクラすんのに。
居留守しちゃおっかな・・・・

しかし、インターホンはもう一度鳴らされた。
我慢する事に慣れてない隼人は、フラつきながら起き
壁を伝いながら玄関へと向かう。
熱で体が熱くて、寝着のボタンは三つくらい開いたまま。

待つ事数分、流石に心配になった俺の前で
ようやく玄関のドアが開けられた。

「オッス、隼人。」
「・・・!?」
「うわ・・顔真っ赤じゃん。」
「ったりめぇだろ・・風邪なんだから、つーか何でいんの?」

顔を出したのは、ヤケに顔が赤い隼人。
ほんのり染まった頬に、ダル気な目。
その目が、一瞬驚きに見開かれるが すぐに戻った。

熱でトロンとした目、汗ばんだ体。
何か・・かなり色っぽくねぇ?
その目に見られてると、かなり恥ずかしい。
俺が来た事に、驚いてる隼人。

「とにかく、ベッドに戻ろうぜ。」
「んあ?連れてって〜ダルイ。」

甘えんなよ・・・(照)
照れたのを見られるのが恥ずかしくて、俺は隼人を後ろへ押し
それから自分も家の中に入った。

思考の回らない隼人の声、次の瞬間には背中へ覆い被られた。
抱きしめられるのとは違った感じだが、一気に赤面。

コラー!てめぇっ人を試してんのかっ!?
男と女じゃ、力の差があるだろ!
俺は乗り掛かられて、膝をつきそうになるのを堪える。

かと言って、振り落とす訳にも行かない。
おばあさんみたいに前屈みになって、何とかベッドまで歩く。

「お粥でも作ってやるから、寝てろ。」
「・・、何でワザワザ来てくれたの?まだ授業中だぜ?」
「別にいいじゃん」
「言わねぇと・・・襲っちゃうよ?」

乱暴だが、ベッドへ隼人を下ろしキッチンへ行きかけた俺の手を
素早い動きで隼人が掴み、色っぽい目で問うて来た。
深い理由なんてないからはぐらかせば、妖しく微笑んで言われる。

襲っちゃうよ?の言葉に、カァーッと顔が熱を持ち
それこそ必死で隼人の手を振り解き、バカ!と叫んで立ち去る。

顔を真っ赤にしたを、嬉しそうに見送った隼人。
言われた通り ベッドへ身を沈めた。
からかってしまうのは、が気になるから。
本音を知りたくて、ついつい意地悪をしてしまう。

キッチンに立った、まだ心臓がドキドキしてる。
何だ?あの男のくせに色っぽい奴は!!
普段から悔しいくらい色気のある隼人。

それが今回の風邪で、更に磨きが掛かりパワーアップしてる。
何て厄介な奴なんだ・・・。

雑念に料理をする手が、何度も止まりかけたが
病人が待ってる為 必死に手を動かした
作り上げたのは、野菜入りの卵粥。
結構な自信作、自分もよく子供の頃母親に作ってもらった。

あんなに嫌いになった家と母親なのに・・
料理の味は未だに覚えてるし、その頃の記憶も残ってる。
料理の味って、結構覚えてるもんだな。

過去の記憶を懐かしむ間もなく、俺は隼人の元へと急いだ。

「出来たけど、無理して喰わなくていいかんな?」
「ふーん・・俺ってラッキー、の手料理喰えるなんてな。」

差し出したお粥を見て、ベッドから上半身を起こした隼人。
お粥を受け取った顔は 赤いけど嬉しそうな顔。
少し得意気に笑う姿も、普段のような感じで俺も安堵した。

結構熱があるくせに、見事完食した隼人。
満足そうにベッドに横になった。

それを見て、安心したけど熱が冷めた訳じゃなかった。
しばらく何もなく時間は流れて、も隼人の横で
転寝し始めた頃。
何処か荒い息に、まどろみから目が覚めた。

「隼人?苦しいのか?・・汗が凄い、熱がまだ下がってねぇ」
「はぁ・・はぁっ」

荒い息は勿論隼人で、額には汗を掻き開いた胸元も汗で濡れている。
色っぽさに照れたがとてもそんな場合じゃない。
急いで箪笥に向かい、隼人の物らしい替えの衣服を掴む。

それから、ありったけの力で隼人の上半身を起こし
自分の肩口に額をもたれさせ、上の寝着を脱がす。

どうする?医者を呼んだ方がいいのか?
あの薬 効かなかったのか?
他にどうしたらいい??

隼人に上の寝着を着せ直しながら、不安に考え込む。
やっぱ竜達にも来て貰えば良かった。

熱は食事の後計ったら、39℃あった。
ヤバくねぇ?まだ39℃あったら・・・
医者まで時間かかったら、着くまでが心配だし。
俺に出来る熱の下げ方って・・!?

「あった・・・恥ずかしいけど、やるっきゃねぇ。」
「ん・・・?」

呼吸の荒い隼人が、熱の篭った声で俺を呼ぶ。
それだけで、胸が締め付けられるみたいに苦しくなった。
この声で呼ばれるだけで、こんなにも・・。

俺は隼人の体をベッドへ寝かせ、それから着ていた学ランを脱ぎ
ランニングシャツ一枚だけになると、ゆっくり隼人に覆い被さり
片手で布団を引き寄せてから、隼人を抱きしめた。

「おい・・?オマエ・・・何やって」
「人肌で熱を吸ってんだよ」
「大胆、風邪じゃなけりゃ大歓迎でその先も・・・」
「黙れ、それ以上言うと叩くぞ。」
「・・・・ごめんなパイ」

の行為に、熱で浮かされてた隼人もハッとした。
火照った素肌に触れる、心地よい冷たさの肌。
自分を抱きしめる細い腕、胸に触れる柔らかい体。
理性を保つのに苦労したが、風邪に感謝したい。

熱を下げる為とは言え、本当は心臓が飛び出しそうな程
俺は緊張してて、もうこっちもどうにかなにそうだった。
抱きしめる隼人の体は火照ってて、胸囲の広さを実感。

胸に顔を寄せ、耳を澄ませば聞こえてくる心臓の音。
トクン・・・トクンと聞こえる一定のリズムが、安心させる。

どのくらいそうしてただろう。
隼人も抱きしめるをそのままに、心地よい時間を過ごした。
両手の置き場に困りつつ、身を任せていたが
ふと聞こえて来た寝息に気づき、上にあるの顔を見て溜息。

「フツーこの状況で寝るか?こっちは耐えてんだぞ?」

安心しきって眠ってしまった、この隙だらけの寝顔。
思わず触れてしまいたくなる。
閉じられた睫毛が、切れ長な目元に影を作り
の魅力を引き立ててる。

恐らく、は俺が仲間だから安心してる。
けどさ・・俺だって、18のオトコ。
好きな奴の無防備な寝顔なんて傍で見せられたらヤバイ。

手で触って触れてみたい、柔らかい唇にキスしたい。
何て事はしょっちゅう考えてる訳よ。

でも今は熱も下がったばかり、それにの気持ちを思えば
まだ自分の気持ちだけを押し付ける事はしたくない。
だから、今はせめて抱きしめさせて。

「俺の気持ちに応えた時は、遠慮なくしちゃうけどね。」

すやすやと眠るを眺めて 穏やかに笑って隼人は呟いた。