熱視線
突然現れた理事長が告げたのは、とっくに気づいてなければならなかった事だった。
そう・・・それは・・・・
「君の父君から送られていた寄付が最近なくなってしまってねぇ」
「だから何なんだよ、俺はもう親父には頼らねぇし縁だって切られたんだ当たり前だろ」
「だがねぇ、そうなると困るのは君だと思うがね。」
「どういう事だ」
焦らして焦らして中々本題を口にしない。
こうしてる間にも遅刻となってしまう。
若干焦りながら早口に問えば、楽しむかのような笑みを浮かべ
「私は少し寛大だからね・・・・君が気づくまで待っていてあげよう」
「っざけんなクソ理事長が!」
あくまでも核心的部分を言わない事にキレた。
理事長へ罵声を浴びせると、背を向けてその場を立ち去った。
導き出される答えを知りたくなかった。
予想通りなら・・・俺はどうすればいいんだろう。
もう誰にも、迷惑なんか掛けたくないのに。
何よりも・・・・あの父親に頭なんか、下げたくなかった。
□□□
気分は最悪だった。
それは全部クソ理事長のせいだな。
親父の事なんか・・・言いやがって・・
そもそもあんな処で揉めてたのが悪い、うん。絶対そうだ。
不機嫌になった理由を、往来の道で揉めていた二人のせいにして
見えてきた黒銀の校門を通る。
もう人影はなく、自分が確実に遅刻した事を認めざるを得なかった。
ヤンクミは容赦ないからなぁ・・・・
初めての遅刻(サボリとか早退はあるけど)を仕方なく認め
ブルーシートへ向かう途中、俺は凄く見てはいけないものを見た。
キンキラキンのトラック。
これさー・・・・もしかして、もしかしたりして?
はっ!?まさか、華道の事言いに来たとか??
いや・・まさかね、そんな事言いにわざわざ此処に来ないって・・・
いやぁな予感に冷や汗をかきながらも、ブルーシートを潜る。
それから廊下を通り、階段を下りながら教室へ向かう。
教室へ近付くと、何やら騒がしい気配を感じる。
そして聞こえてきた声に、血の気が引く音が聞こえた気がした。
「バカ息子を探してるんですが、此処にはいないようだな」
「ハイ、このクラスにバカ息子なんていませんから」
大きな声を張り上げて問いかけている声。
その声は、通学路で嫌と言うほど聞いていた物。
バカ息子って・・・まさか、此処に通ってるとかか?
3Dに来るって事は、俺と同じクラスの奴なんだよな?
けど今の会話だといなかったみたいだし
まさかクラス間違えたとかだったりして?
とか考えてると、突然後ろに人の気配を感じ
振り向くより早く、耳朶にテノールと吐息混じりの声が響いた。
「」
「――っ!!」
すんげぇ色気たっぷりの囁きに、ゾクゾクゥーっと背筋がざわめき
思わず叫びそうになった。
だってだって!耳っ耳!!
驚きで声にならず、口をぱくぱくさせて抗議の目を向ければ
当の本人はケラケラと笑ってくれてる。
くっそぅ・・・絶対俺の反応で遊んでやがる!!
「隼人!てめぇ耳舐めてんじゃねぇーー!!」
「別にいいじゃん、俺らしかいねぇんだし」
「そこは問題じゃねぇだろぉがぁあ」
「つーか何で突っ立ってんだよ、どうせ遅刻だろうけど早く入ろうぜ」
「話を逸らすな!」
舐められた耳を手で押さえながら抗議する俺なんか無視で
教室と廊下を隔てているドアを開けるべく、隼人は持ち手に指を掛けてごく普通にドアを開けた。
何も知らずにドアを開けた隼人。
文句を言い足りない俺も、中には入りたくなかったが
入らなければ遅刻になるので、隼人に続いて中へ入った。
「遅刻しちゃってごめんなパイ」
欠伸をしながらそう言って入って来た隼人へ
予想通り、朝の往来で揉めていたそのトラック運転手がいて
先ずその運転手は隼人を見て、名前を呟くと俺をも見て少し驚いた顔をした。
名前を呼ばれた隼人、少しその運転手をじぃーーっと見ると
寝ぼけ眼だったのが完全に起きたらしく、トラック運転手をこう呼んだ。
「は!?」
「きやがったなこのクソガキがぁ!」
「何でいんだよこのクソジジイ!!」
「あ゛ぁ?!」
「声がでけぇんだよ!」
互いに怒鳴り合い、距離を詰め顔を近づけ
怒鳴り合う様に完全にクラスメイト達はビビッてしまっている。
そして誰しもが、この男の探していた生徒が
隼人であると確信し、同時に隼人の父親だとも悟った。
「親父??」←クラス全員(竜以外
全員が恐らく耳を疑っただろう。
そんな中、俺はハッとした。
似てる・・・ってこのおっさん見て思ったのは、隼人に似てるからだったんだ!
あの揉め方とか、言い回しとか見れば見るほど隼人にそっくりだ。
いや、隼人にじゃなくて・・隼人がそっくりなんだな。
とか納得しつつ、皆の傍へ行く。
隼人は親父さんと睨みあっていて、が近くを通ったのを気づいていない。
それから二人はヤンクミと一緒に教室を出て行った。
だからその後の大騒動は知らない。
どのくらい経ってからだろうか、隼人は不機嫌な顔で戻って来た。
戻ってからはずっと不機嫌で、授業も殆ど寝て過ごしてた。
最初の時みたいにサボらないだけマシか。
にしても・・・・あのおっさんが、隼人の親父さんだったとはねぇ。
流石に竜は知ってたみたいだけどな。
俺の知らない隼人の事情とかも知ってるんだろうな〜・・・
別に羨ましいとか、悔しいとかなんて思ってねぇかんな。
つーか・・俺隼人の親父さんの前で花活けちまったんだったっけ
まさか・・・・話したりしないよな?
学校が終わる頃には、俺の頭から朝覚えた不安は消えていた。
隼人のセクハラと、親父さんの印象が強かったせいだ(
まあいつものメンバーで、いつもの溜まり場へ来るや否
早速隼人が親父さんの事をぼやき始めた。
「マジムカつく、あの野郎」
「うーん・・・・ぶっ」
「・・・・・何だよ(怒)」
「いやぁ、隼人って親父さん似だったんだなぁって」
「完全にな!」
「ぶふっ!」
頭に来ている隼人を他所に、何か言いかけたタケが盛大に噴き出す。
そのタケをギロッと睨む隼人へ、タケが正直に感想を言えば
隼人の後ろで素振りをしていた浩介も面白い口調でキッパリ。
そのやり取りを聞きつつ、朝の出来事とさっきの教室での光景を思い出し
自分もタケと同じ事を思ったせいで、つい皆に聞こえるデカさで噴き出してしまった俺
勿論隼人の鋭い目が向けられる。
思わずハッとして、タケの後ろへ回り込んでみた。
「確実にな」
「確実に似てません、俺は死んだお袋似です。」
「へぇ〜」
「てめぇ信じてねぇな?あ、そうだお前俺のお袋覚えてるよな?」
そのをジロッと見つつ、話の矛先を傍観している竜へ向ける。
何でも竜は隼人のお母さんを知っているらしい。
隼人は普通に何の気のなしに言ったけど、お母さんは亡くなってるんだね・・・・
ちょっと見てみたかったかも・・・・
問われた竜は、くるっと振り向いてサラリと答えた。
「うん、すっげぇ美人だったよな」
「マジ?」
「俺見てみたかったなー・・・」
「俺んち来たら見してやるよ」
それを聞いて頷けた。
なら隼人がこんだけ整った顔してるのは分かるよな〜
お母さん似って事だろうし、いや・・でも
しげしげと隼人を見ながら思うが
次に竜が口許に笑みを作って言った言葉には、思わず笑ってしまった。
「けど隼人は親父さん似だろ、確実に」
「ぶっ!・・・確かに(笑)」
「「「完全にな」」」
「お袋さんに似たのは顔だけだって事だな」
「てめぇ・・笑いながら納得してんじゃねぇ」
タケとつっちー、浩介の台詞がハモる中
思わずポロっと言った言葉を隼人に聞かれ
凄んだ隼人は俺の方に来る。
その目に射抜かれ、逃げるのが遅れた俺ははがいじめにされて
首を腕で締められる真似をされた。
腕に囚われた途端ふわりと香る隼人の匂い。
思わぬ展開に不覚にもドキドキしてしまう。
それを面白くなさそうに見ているのは竜。
俺は竜からの視線に気づかないフリをして、ギブギブーと隼人の腕を叩いた。
竜と隼人の目は、何処か真剣で直視がとてもじゃないけど出来なくなっている俺がいた。