猫
ある雨の日、あたしは一匹の猫を拾った。
拾ったというより、目を逸らせなくなった。
惹きつけられる何かがあったからかもしれない。
黒い毛並みは美しく、憂いを帯びた瞳は何処か妖艶。
体も細くて、スラリと伸びた手足が気位の高さを漂わせる。
その猫の首には、毛並みと同じ黒い首輪が。
雨に濡れながら見つめる視線に、あたしは負けた。
こんなのに出くわして、ほっとける人がいるなら見てみたい。
最初は弱ってて、大人しかった黒猫。
体力が戻ってくると、本来の性格を露にし出した。
「ねぇ、買い物付き合ってよ。」
猫が喋った!?・・ってゆう陳腐なノリは流してっと。
そうです、猫を拾ったとは言ったけど
コレは猫のようでありますが、猫じゃないです。
つーか人間です。
冒頭で紛らわしく言いましたが、あたしは猫のような人を拾った。
姿が猫なんじゃなくて、中身が猫ッポイんだよ。
あんまり構われると、毛を逆立てて怒るくせに
いざほっとかれっぱなしにされると、構って欲しくて擦り寄ってくる。
気まぐれっぽさが、猫を想像させるの。
いつの間にか同居するようになったこの人は
実を言うと、今人気急上昇中のアイドルグループの1人。
KAT-TUNの上田竜也と聞けば、知らない人はいない。
そんな凄いのと、どうして一緒に住んでるのか。
あたしにも分からない。
やっぱ最初の出逢いがマズかったのか?
雨に濡れて佇む様を、あたしは綺麗って思ってしまったから。
彼の一挙一動に、心と目を奪われた。
だから突き放す事も出来ないし、我侭も許してしまう。
惚れた弱味って奴なのか。
「行くの?行かないの?」
腕を組んで考えてるあたしに、玄関からぶっきらぼうな竜也の声。
怒ってるように聞こえるけど、アレはこっちを試してる。
行かないと言えば、ホントに猫みたいに悲しげな目をする。
行くと即答すれば、面白くなさげな顔をするんだ。
だからあたしは悩んでから答える。
でもこの関係って何なの?
時々分からなくなって、不安になる。
だって、竜也はアイドルグループの人で
面白半分であたしと住んでるのかもしれないし。
猫ッポイから、気の迷いか気まぐれかもしれない。
悔しいけど、あたしの方は大分意識し始めて来ちゃってる。
「?」
「・・・・」
「何?拗ねてんの?」
拗ねてるの?だと〜!?誰のせいだと思ってんのよ!
やっと顔を見せたと思ったらコレだ。
やっぱ遊ばれてるのか?あたし。
「何であたしと住んでるの?何で意地悪するの?」
「?」
「そんなに面白い?あたしが慌てたり困ったりするのが」
「何でそんな事言うんだよ」
声を荒上げたあたし、どうしてか竜也の方が困った顔した。
それがズルイってーの、分かっててやってるの?
竜也はあたしにどうして欲しいの?
「竜也が何考えてるのか、あたし分からないよ。」
「・・・」
「人を試すような態度、止めて。」
「は、俺が嫌い?」
まただ、憂い顔。
あたしはその顔に弱い。
知っててやってる?でも何か・・天然?
でも、いつも振り回されてるのはあたし。
ちょっと今回くらい、仕返ししてもいいよね?
「どうだろうね、竜也だって気まぐれで同居してるんじゃないの?」
ムスッと拗ねた顔で、目の前の竜也から目を逸らして言う。
曖昧で本心を見せない言い回し。
これはいつも竜也があたしにしてる態度。
何も答えは返って来ない。
本気に取っただろうか?傷ついた?
間が長いから、そろそろ気になりだす。
どうしたものか、考えてると後ろから呼ばれた。
振り向くと、不安気な顔をした竜也と目が合う。
捨てられる予感に、怯える仔猫のような目。
「俺さ、自分の気持ち 素直に言えないんだ。
だけど、気にして欲しくてヤな態度とか取っちゃう時もある。
俺はが好きだよ?そうじゃなかったら一緒になんて住まない。」
その目が近づいて来たと思ったら、優しく抱きしめられた。
初めての感触に、ドキドキしてるあたしの耳元で竜也が喋る。
低めで甘い声が、至近距離で耳朶に響く。
飾り気のない、ストレートな竜也の気持ちが
あたしの心に入って来た。
つまり、今までのあの態度は あたしに構って欲しかったからで
そうゆう事をするのは、特別な感情を抱いた相手・・・
「ホントにホント?」
「今嘘言ってもしょうがないでしょ」
「ホントの気持ちを言いたい気分だったとか?」
「・・・・・」
「竜也は気まぐれで、気分屋だもんね。」
「だけど本気の本気だからね?手放すつもりないから。」
本心が見えなくて、気まぐれで気分屋の猫が
初めて本当の気持ちを素直に、伝えてくれた日。
あたしにとって、一生の記念になるだろう。
気まぐれで気分屋の猫も、本当は寂しがりやで
人の温もりに飢えているって事が分かったし。
あたしも、その温もりを求めてる。
温もりを知らないなら、2人で知っていけばいい。
不安になるなら、ずっと傍にいてあげるから。
が不安だったように、俺だって不安だった。
だって彼女はいつも生き生きとしてて、眩しくて
キラキラと輝いていた。
仕事に行く途中、いつも擦れ違ってた。
きっとは覚えてないかもね。
だけど、俺はいつもその光に引き寄せられてて
に魅せられて行った。
あの日逢ったのは、偶然じゃない。
が通るのを待ってたんだ。
ずっと声を掛けて欲しくて、俺からも声を掛けたくて。
けれど、ハードな仕事のスケジュールのせいで
体調不良だった俺は、その雨で追い討ちを掛けられ風邪を引いた。
それでも待ちたくて待ってたら、が現れた。
ずっと憧れてた君に逢えて、看病してもらって
俺は益々に惹かれた。
このまま一緒にいたいって、本気で思った。
素直になれない俺は、結果的にを不安にさせちゃったけど。
今はこうして、を腕に抱いてる。
欲しかった光が、俺の傍にいてくれる。
中々素直になれなくて、困らせるかもしれないけど・・・
ずっとこのまま、いつまでも俺の傍にいて下さい。
溢れる想いを、いつでも君に届けられるように・・・