約束したの
必ず帰って私を迎えに来る・・・と。
私も貴方のよき妻になると。
そして戦地へと飛び立ったあの人は・・・・・
二度と私の元へは帰って来ませんでした。
虹色の旋律 序章
大正1914年、第一次世界大戦勃発。
大日本帝国もこれに参戦した。
このお陰か何かで、日本も一時好景気へと発展。
空軍に属していた私― ―の許婚は勿論戦地へ要請された。
激戦地で連合軍を補佐する指令を受けた、佐藤継信さん。
日本の兵隊として誇りを持ち、継信さんは戦地へ飛び立った。
四年続いた戦争、終わりを告げたのは1918年11月11日。
継信さんはその一年前の1917年後半、アレクサンドリアからマルセイユへの大輸送作戦の最中に命を落とした。
それは継信さんと同僚だった兵士の方から、後に聞いた話。
本が好きで、紳士的で・・将来は作家になりたいと話してくれた人。
私も心から継信さんをお慕いしていました。
心から愛した人
その人を失った今、私はどうこれからの人生を歩んだらいいのでしょう。
貴方を失ってからもう、6年が経過し
その時14歳だった私だけど、もう私も20歳を迎えました・・・
天国の暮らしはどうですか?私は今でも貴方だけをお慕い申し上げています・・
もう会えないのに、会いたくて堪りません。
いつの日か、天寿を全うし・・其方へ行く時まで待ってて下さいね。
さあ・・・そろそろ家へ戻らなくては。
夏も過ぎて、季節はこれから秋へと向かう秋晴れの日だった。
時刻は午前11時55分、もう直ぐお昼になろうとしている。
相模湾を望む茅ヶ崎の天気は快晴、薙刀の練習日和だった。
練習の出来を振り返りながら、は馴染みのある本屋へ。
此処には様々な本が置かれていて何時間も平気で居座れる。
帰宅する前のほんの僅かな楽しみ。
女学校に入ってから始めた声楽もそのうちの1つ。
ちょっと合唱には参加させてもらえてないけどね・・・・
私の声は皆と違うみたいで、合わせていても目立ってしまうみたいなのよ。
個性的過ぎると言うか何と言うか?
でも歌は好き・・・気持ちを穏やかにしてくれるから。
これからもゆっくり経過する時の中で、継信さんとの思い出と共に生きるのだろうと信じて疑わなかった。
時計の針が11時58分を刻んだその瞬間。
今まで体験した事のないくらいの強い突き上げるような揺れが、この東京を襲ったのだ。
「じ、地震!??凄い揺れ・・っ、立ってられない・・・!!」
町は逃げ惑う人々の悲鳴と喧騒に包まれる。
本棚の本という本が床に散乱し、次々に倒れていく。
此処にいては下敷きになってしまうと焦り、急いで外へ飛び出す。
もう継信さんから迎えが来てしまうのかしら?と思わずにいられない。
また会えるなら嬉しいけど、今この瞬間命を落とすのは嫌だと感じた。
私は生きて、継信さんの分も生きなくてはならない。
そして、天寿を全うし・・胸を張って其方へ行きたいのに。
お願い継信さん、私をまだ連れて行かないで下さい。
グラグラと地面が揺れる中、は必死に逃げた。
途中何度も転びそうになり逃げ惑う人々にもぶつかったりしたけど構ってられない。
夢中で逃げるだったが、不意に真横の家屋が壁から倒壊した。
その轟音に驚き、10分以上も揺れる地面に足を取られ転倒してしまう。
「きゃあああっ!!」
無情にも転倒した目掛けて、その家屋の残骸が落下して来た。
轟音と悲鳴が響く中、死を覚悟したの意識は其処で途絶えるのだった・・・・
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20XX年東京 4月某日。
茨城を震源にしたM4の地震が起きていた。
その時日本で人気のアイドルグループの面々は各々自宅で体感。
震度は2か3くらいだった東京だが、被害を受けた所もあるだろう。
夕方の帰宅時を襲った揺れ・・・。
メンバーとシェアしてる家でそれを体感したアイドルグループの一人、赤西仁は直ぐにケータイを手に取る。
仲のいい友達らの安否を気にかけ、連絡先を知る数人にはメールを送り
同じグループのメンバーの一人に取り敢えず電話をかける。
まあそんなに酷くはなかったし、心配する必要もないかもしんないけど一応・・
今年の夏に大きなイベントが控えている。
その前に大きな事件は起きて欲しくないからさ。
「おーカメ、そっち揺れた?」
『ああ仁か。まあまあ揺れたけど大した事ないよ』
「そっか一応どうだったかなと思ってさ、何もないならいいよ。明日も練習遅れんなよ?」
『心配してくれたんだ?サンキュー、て言うか遅刻とか俺しないし』
「ははっ言ってろ―――」
電話に出たのは同じグループの亀梨和也。同じ家にいるけど一応な。
他愛ない話を交わし、通話も切ろうかと思った間際
ドスン、と背後で聞こえた音に言葉が途切れる。
何だろう?と物音に後ろを振り向いた俺。
咄嗟に声すら出なかった。
だってだよ?
俺の後ろにはベッドがあんだけど、其処にさ・・・・
時代劇とか連続テレビ小説で見るような服装の女の子が倒れてたんですよ?
「ってか何んですかこれ」
『は?何?どうかした?』
「いや、その亀梨さん。俺の部屋にハイカラさんが降って来たんだけど」
『はぁ?ハイカラさん?何だそれ』
「説明より早いから俺の部屋来い」
通話が繋がったままだったから、怪訝そうなカメの声が聞こえてくる。
その声で我に返った俺、見たままの事を言ったら
カメの声が、お前頭大丈夫か?みたいな響きになった。
俺説明とか苦手だから、すぐそれは丸投げしてカメに部屋に来るよう言って通話を遮断。
ちょっと観察してみたけど・・歳は近そうな感じ。
数分もしないうちに廊下に気配が現れ、それは俺の部屋の前まで来るとガチャッとドアが押し開けられた。
俺の部屋に入って来たカメ、すぐにベッドに倒れている女の子に気付くと
先ずは俺をチラッと見やって質問してきた。
「・・・・・連れ込んだ?」
「アホか」
「じゃあ何で女の子がいるんだよ」
「そんなの俺が聞きたい」
突然目の前に訪れた非現実的な状況に、俺もカメもどうすべきかすぐに思い浮かばなかった。
この後まさか深く関わっていく事になるなんて、この時は少しも思ってなかったな・・