何気ない一言
が柴田の名を出した事で、ざわついた隼人達。
落とし前とか発言しただが、喧嘩をしたのは
自分達が柴田の先輩とやらに、侮辱されたからだとか。
俺達はそんなの気にしてねぇのに、は怒ってくれた。
山口もそうだ、疑われたりしてるのは慣れてるって
俺と竜が言った時も、本気で真剣に怒ってたよな。
も山口も、何でそんなに一生懸命なんだか・・
「はぁ・・」
真希ちゃんが立ち去った後、深々とタケが溜息を吐いた。
タケの溜息で、皆の視線が柵にもたれてるタケに向けられる。
そりゃあ落ち込むよな・・・好きな子の好みが
自分と全くの真逆で、どうやってもその好みになれないってのは。
タケの寂しそうな背中を見つめて、隼人は1人思う。
昔からタケは、喧嘩も強いとは言えないし
心根も座ってないってゆうか、苛められ気質だった。
それで小学校の時は、よく苛められてて
俺と竜がよく助けてたよな。
タケの恋を、応援してねぇっつーんじゃないけど
気の強いあの子じゃなくて、違う子を見つけた方が
タケの為にもなるんじゃねぇの?
隼人は持っていたジュースを置いて、タケを見つめた。
隣の竜も、椅子の背にもたれながら同じ方を見ている。
浩介とつっちーは、バツが悪げな顔で互いに見合い
そっとタケに視線を向けた。
の目から見ても、これはマズイ展開で
フォローをしようにも、こっちは直に体験談まで聞いてるし
言っちまったら、余計タケを落ち込ませそうだからよした。
「タケ、気ィ落とすなよ。なんかそうゆうの分かる気がするし」
「ホントに?でも、俺・・弱いし。」
「好きなんだろ?真希ちゃんの好みの男になりたいんだろ?」
「・・・・」
「好きならやれるトコまでやってみろ、好きな子の為にって気持ち 俺は応援するからさ」
ピクッ・・・
つまり、にも好きな奴がいる・・って事か?
タケに一生懸命声をかけるを見て、ピンと来た隼人達。
好きな奴って、どうせ竜なんだろ?
の顔を見た隼人は、まだ勘違いしたまま。
竜も竜で、は隼人が好きなんだと勘違いしている。
男って・・なんでこうも単純なんだろな。
まあそれはよしとして、に励まされたタケは
黙って立ち上がると、特に言葉もなく店を出て行った。
「あちゃぁ・・アレはマズかったよな。」
「確かに、あの性格じゃあ好みもああなるって」
「タケ、どうするんだろう。」
タケが帰った所で、集まったメンバーから
一斉に深い溜息が吐かれた。
最初に項垂れながら言ったのは、隼人。
それに同意したのは、タケに頼まれて真希ちゃんに質問したつっちー。
肯定する面々の中、1人は扉を見て呟いた。
ああは言ったものの、弱虫気質がいきなり直るとも思えないし。
強くなりたいって思って、簡単にはなれないだろうけど
力じゃない方法にもタケには気づいて欲しい。
俺だって、仲間を守りたい一身で空手を始めた。
いきなりじゃなくていい、ゆっくり一歩ずつ進もうって。
そう言いたかったんだけど、上手く伝えられてなかったと思う。
「オマエが気に病むなよ、それより用があったんじゃねぇの?」
「あ!!そうだった!サンキュー竜!」
「用事あったんだったよな、ま 気ィつけて行けよ?」
「そうそう、また明日な!」
「嘩柳院!・・・しっかりな。」
「ああ、行ってくる。」
それぞれ手を振ってを見送り、ヤンクミだけは
励ますような、力強く背を押すような言葉をくれた。
しっかり、空白の空いてた3年を埋めて来い。
ヤンクミはそう言ってくれた気がした。
それにしても、俺は気づいてなかった。
この時言ったタケへの何気ない一言。
それが原因で、とんでもない事になっちまうとは。
☆☆☆
無事隼人達とは別れ、やっと俺はの待つ病院へ向かった。
ケータイの時計は、まだ午後6時半。
面会時間終了までは、まだまだ時間がある。
タケの事は心配だけど、皆もいるし俺だっているし
失恋したとしても、それは自分磨きの第一歩。
ドーンと背中でも叩いて、喝を入れてやらないとな。
でもな・・・簡単に諦めて欲しくない。
好きな人の為に、努力するってのは凄い事だ。
タケにはあんな分かったような事言ったけど
ホントは、恋なんてよく分からないし誰かの為に努力する間もなかった。
バレたら怒るよな、タケ。
許してくれるかな・・・そうなったらそうなったで頑張るか。
この考えも、甘かったって後々思い知る事となる。
病院へ向かう道は、あの塾のある通りだった。
3年前 親が世間体の為に、俺を通わせてた塾。
ちっともいい思い出のない思い出。
今度は今までで一番いい思い出が作れそう。
それもこれも、恵まれてたからかな。
とか何とか思いながら、俺は近くのケーキ屋へ寄った。
目的は、へのお見舞い。
女の子らしいが、昔から好きだったマロンケーキ。
俺は・・・見るだけでお腹一杯デス。
おじさんやおばさんにも食べてもらうべく
チョコレートケーキとか、ショートケーキ・モンブラン。
チーズケーキ・ビターケーキ(チョコだけど甘くない)を詰める。
「よし!準備完了!・・・ん?」
店を出て、いざ病院へ向かおうとした時
病院とは反対の方向から、見知った姿がこっちへ歩いて来た。
よーく見てみれば、あの制服はこの前学校見学に来たトコ。
しかも、関わり深いとゆうか・・揉めそうになったトコで
極めつけは、歩いて来た子。
三つ編みを左右に揺らし、俯きながら歩く小柄な女の子。
重そうな鞄には、詰め込まれた参考書。
でも 両手には大切そうに、紙袋を持っている。
その子が誰なのか、にはすぐ分かった。
「宮崎さん!」
「・・・嘩柳院先輩!!」
声を張り上げて呼べば、パッと顔を上げると
の姿を見つけるや、可愛らしい顔で更に可愛く笑い
パタパタとの方へと走ってきた。
そう 彼女は、学校見学の時出会った宮崎さんで
彼女を巡り、黒銀3Dはセンコーと険悪ムードになった。
頭の固い石川のせいで、退学にまで追い込まれたつっちーだが
ヤンクミと宮崎さんのおかげで、退学を間逃れたのだ。
彼女の目指す受験校は、有名進学校から
この黒銀学院へと変わっている。
「先輩!また会えて嬉しいです!!何処かに行くんですか?」
「うん、友達のトコに行くんだ。宮崎さんは?」
「お友達の所ですか〜vv私はデスね・・・コレを・・」
恥じらいながら、持っている紙袋を示す宮崎さん。
可愛いなぁ〜と思いながら、紙袋を覗けばチョコレートの材料。
宮崎さんにも好きな人が出来たのね〜vv
恥らう彼女の頭をナデナデし、誰かにあげるの?と聞くと。
「まずは先輩に、あの時とっても救われましたから。」
「救われた?大層な事はしてないよ?」
仰々しい言い方に、笑って否定したに
宮崎さんはいいえ・と言うと、笑顔でに答えた。
「いいえ、先輩は私に勇気をくれました。
素直な感情を出すのを恐れてた私に、前に進む力と
ちゃんと自分の気持ちを伝えるって事 恐れない事を教えてくれました。」
学校見学の時会ったのとは、雰囲気も変わってた。
真っ直ぐに、の目を見て素直な気持ちをくれる。
この子は本当に変わった。
自分の足で、ちゃんと前に進めてる。
強くなろうとしてる、人は変わろうと思えば変われるんだよな。
「じゃあ素直に頂くよ、後は誰にやるんだ?」
小さく笑って、は了承すると一人分にしては
材料の多い荷物について聞くと 宮崎さんの顔が一気に朱に染まる。
これは・・やはり好きな人にか?
ニヤニヤを我慢して待ってるに、小さい声が呟いた。
つ・・・土屋さんに・・・・・と。
消え入りそうな程小さい声だったが、耳を澄ませた為バッチリ。
ほほお〜??あのつっちーにねぇ♪
本人年上が好きとか言ってたけど、まだチャンスはあるはず。
「そっか、いいと思うぜ?頑張れよ、宮崎さん。」
「本当ですか?はい!私、頑張ります!」
元気よく頷いた宮崎さんの肩を叩き、お辞儀する彼女と別れ
は心も足取りも軽く、の元へと急いだ。
なんか、いい話を聞けた気がしたなぁ♪
その後に会えるとあって、の気分も更に上がるのだった。