『仲間』とは?



誰かに見張られてる・そうこの刑事は言った。
此処には長く居たくなかったから
早々に立ち去った為、問い詰める事は出来なかった。

ってゆうか、何で見張られてる事を刑事が知ってる?
てめぇの方こそ、俺の事見張ってんじゃねぇのか?

ただでさえ苛々してるのに、刑事の事を考えると更に苛々する。
歩く度に流れる血。
滴り落ちる感覚が分かるのが時に酷だ。
女ならではの悩みであり、男には関係ない。

どうせ男装してるんだし 本当に男になりたいよ。

警察を出てから、あまり会話をせずに俺達は歩いた。
そして、辿り着いたのは・・・ラーメン屋。

暖簾を潜り、厨房にいる店主へ親しそうに久美子は声を掛けた。
「おう、クマ。遅くに悪いな、注文頼めるか?」
言いながら閉店間際のラーメン屋を経営している店主へ言う。
あまり正直ガラがいいとは言えない感じの店主。

大丈夫なのか、と見ていれば店主は意外にもニッと笑って言った。
「ヤンクミなら大歓迎だぜ?生徒さん達も食べるだろ?」
見かけによらず、優しそうな笑顔。

それに安心したのか、怖ず怖ずとつっちー達もメニューを見る。
も、お腹や腰などは痛いが 食欲はある為ラーメンを頼んだ。

ラーメンを待つ間も何故か会話がない。
何時もは静かにさせるのも大変なくらい、賑やかなのに。
そんなにあの刑事が言った言葉が気になってんの?
他人の事なのに?

「お待ち〜チャーシューはサービスしとくぜ。」
「悪いな、クマ。」

七人分のラーメンを、ゴトゴトとテーブルに並べたクマ。
この人は熊井照夫さんといって、久美子の元生徒さんらしい。
道理で二人共気心知れた仲間みたいだと思った。
礼を言う久美子の周りで、俺達は無言のまま箸を取り
コショウを掛けたりし ラーメンを食べ始める。

黙々と食べるのを見ながら、久美子は先程の刑事について
箸を手にしたまま語り始めた。

「しっかしあの刑事、幾ら刑事だからって
言っていい事と悪い事があるだろう」
納得の行かない様子で言った久美子を見て、クマが苦笑。
相変わらずだなぁヤンクミは・と楽しげに言った。

久美子の言葉に、隼人が淡々と慣れてるからって答える。
チラッと彼を見れば、視線はラーメンに注がれてるが
俺と同じ・・何か諦めが見て取れた。

「でもよ、あれだけ疑ってかかられると
いっその事何かやってやろうって気になるよな〜」

続いてつっちーと浩介が、互いにムッとした顔で言う。
二人が言うと本当にやりそうだな・・。
「ごめんな」
それを聞いていて、元はと言えば自分のせいだと気づき
ラーメンをすくう手を止めて は正面に座っていたつっちー達に謝る。

俺がこんな日に生理になんかならなかったら。
二人が本田君からチャリを借りる(脅し取る)事もなかった。
ニケツする事もなく、あの刑事に会う事もなく帰れたはず。

「バカかおまえ、誰ものせいだって言ってねぇじゃん。」
「そうそう、それにの事がなくったって
こいつ等ならニケツしてたよ。」
「確かに・・」
「オイそこっ!納得してんなよ!」

湿っぽい雰囲気を、隼人の『バカ』という言葉が消し
明るいタケの言葉に 小さく竜が納得。
呆気に取られてる俺と久美子の前で、つっちー達が突っ込み
すっかりその場はコント化してた(笑)。

俺を気遣うような会話。
さり気なくサイドの隼人と竜が、俯いて笑った俺の頭と肩を叩く。
その手が、元気出せ・考え込むなって言ってるようで
温かくて・・・それが痛くて、泣きそうになった。

空気も変わった後は、隼人を筆頭に久美子の椀へ
それぞれがお詫びの意味を込め チャーシューをサービスした。
驚きから嬉しさへと、久美子の顔が変わる。
俺はそれを、何処か遠い出来事のように見ていた。


ラーメンも食べ終わり、熊井さんも出て来て見送ってくれる。
俺も隼人達と並び、歩き始めたが・・・

「嘩柳院、ちょっといいか?」

久美子に呼び止められた。
やっぱ来たか・・性格上、聞き流してくれないとは思ってたが。
が立ち止まった為、隼人達も立ち止まる。
タケが伺うように首を傾げてるのを見て、可愛い奴だなぁと
自然に思い 口許が緩んだ。

「平気だから、隼人達は先に帰ってろよ。」
「そうはいかねぇよ、おまえ察に言われた事忘れた訳?」

チッ・・そんな事覚えてなくていいのに。

先に帰そうとした企みは潰え、強引に押し切られた。
結局俺と一緒に残ったのは、いざって時に強そうな隼人と竜。
つっちー達も残るって言ってくれたが、久美子に言われ
渋々帰路へと着いた。

手を振りながら、明日な!と叫ぶタケに手を振り返し
後ろで待ってる久美子の方へ行く。
俺を待つ顔は、やはり真剣な物。

「単刀直入に聞くが、刑事の言ってた事はどうゆう事?
嘩柳院が誰に見張られてるんだ。」

本当に直球だなぁ、と呆れつつも真正面から偽り無く
直に聞いて来るのが 俺も嫌ではなかった。
場所はラーメン屋ではなく、普通の道を歩きながら。

「俺だって知らない、言われて気づいたんだ。
刑事とのやり取りの事は・・・話したくない。」

嘘ではない、今の今まで見張られてるなんて知らなかった。
誰が何の目的でしてるかなんて知らない。
まだ・・・の事は話す勇気がない。
嫌われるのが怖いんだ、隼人達が離れて行くのが。

それきり口を噤んだを見て、隼人達はすっかり黙り込む。
本人が嫌がってるなら、無理に聞く事でもないだろうし
の傷を広げてしまいそうで・・隼人も無理には聞けなかった。

けど、そんなに俺達って頼りねぇ?
結構一緒にいるけど、まだ腹割って話せねぇの?

時々俺は、の事を遠い存在に思う。
近くにいるのに、遠い・・・
俺は・・の事をもっと知りたいのにな。

「嘩柳院にとっての『仲間』は何だ?
上辺だけの付き合いなのか?一緒にいるこいつ等にさえ
おまえは自分の弱さも見せてやれねぇのか?」

隼人の気持ちを代弁するかのように、久美子がへ言った。
自分の弱みと本当の心?

「おまえなんかに何が分かる」

どれだけ俺が苦しんで来たかもしらねぇで。
何にもしらねぇくせに、分かったような事言うな!

心ん中を表すような、冷たい声音。
久美子は初めてにハッキリと拒絶された気がした。
周りにいた隼人と竜も、冷たい声と顔に言葉を失う。

「だから私はおまえの事をもっと知りたいんだ。
今すぐじゃなくていい、話したくなったら話してくれ。
おまえが抱えてる物を私も理解したいんだ。」
何も言えなくなった久美子達を、諦めた目で見ていたが
再び顔を上げて俺に言った久美子の顔。
熱意・・というか、意志が伝わってきた。

何処までお節介なんだか・・と思ったが
此処まで自分の事を気に掛けてくれるセンコーがいるとは
と意外な気持ちに駆られる。

「あの時に、ヤンクミみたいなセンコーがいたら良かったのに」

誰にも聞こえないように、小声で呟いたの言葉。
もし 久美子があの時いたら、俺とも同じ高校に行けてた。
あんな不良どもなんて、久美子が何とかしれくれただろう。
でも・・俺自身は、何も変わらない気がする。

人任せで、何もしようとしなくて 前にも進めずに
そんなまま過ぎて行ってしまう時間。

無駄に過ごしたと後悔するなら、例え辛くても
自分の頭で考え、行動し 何かをやり遂げられる可能性のある今
そっちの方が・・過ごす価値もあるんじゃないか。

は久美子に 今は放っといてくれと言い
一人 夜道へと歩き出した。