模擬面接
あの騒ぎの後、俺はバイトの先輩 霧十さんに怒られた。
まあ無理もない・・結果的にサボッた訳だし。
だって仕方ないだろ?あの場合放っておいたら人としてどうかと思うしさ。
別にクビになったってのでもないしな。
家賃と生活費の為に頑張らねぇと。
浩介は『ミカエル』を辞めた、が俺は未だ『パピヨン』に通ってる。
今んトコ、誰にもバレてはいない(と思う)。
バレたとしても、辞める気はねぇけどな。
「はよー」
考え事をしてる間に教室に着き、ドアを開けて中に入る。
すると、何やら深刻気に皆が輪になって座っていた。
近づきながら耳を澄ますと、ヤンクミの仕事について話してるようだ。
つっちーと浩介、タケが率先してあーだこうだヤンクミに言っている。
「まあよ、バイトぐらいだったら幾らでも見つかるよ」
「あ、家庭教師とか」
「塾の講師とかもあるし」
何だかんだ言って、ちゃんとした事を言ってる。
感心しながらつっちーの隣に立つ、竜の傍に行く。
気づいた竜は、俺に視線だけ寄こして『はよ』と言い
応えて片手を上げた時、1人バスケットをしていた隼人が爆弾発言をかましてくれた。
まあ・・無意識だったんだと思う。
「つーか家業つぎゃいいじゃん、四代目なんだし。」
「家業!?」(隼人と竜と以外の全員)
瞬間全員の声がハモリ、一斉に視線がヤンクミに集まる。
全てを知っている俺と竜、ヤンクミは鋭い視線で当事者の隼人を睨みつけた。
睨まれてハッと気づいた隼人は、口を押さえバスケットゴールの壁に背をついてヤンクミに手を合わせて謝っている。
やべぇ・・という顔をした姿が何やら可愛い・・・
興味深々なクラスメイト達に、どもった対応しか出来ないヤンクミ。
ごめんと謝る隼人へ、吹き矢を射るマネをし 射抜かれたマネをした隼人。
コントじゃないんだから
「四代目って事は、ワリと続いてんだな」
「何やってんだよ」
「何ってその・・・何だっけな」
「言えねぇような商売なのかよ」
こっちではタケが腕組みして思案し、つっちーもその内容を聞いて来る。
全く!隼人が漏らしたから・・・
隣の竜も、黙ったままだが何か理由を考えてると見た。
漏らした本人の隼人は、質問攻めに遭っているヤンクミの方へやって来て妥当な商売を口にする。
「てめぇらうっせーな、アレだよ・・・蕎麦屋。」
「蕎麦屋?何処でやってんだよ」
隼人が来た時のヤンクミの目、アレはこれ以上余計な事言うな!の目だ。
それに気づいて隼人は蕎麦屋と言ったんだけど、これがまた詮索の好奇心を煽ったらしく
浩介やクラスメイトが色々突っ込んで聞き始めた。
わいわい騒ぎ出し、竜と2人で責めるような目を隼人へ向ける。
そんな時、ついにヤンクミが立ち上がり
凄くつまんない洒落を交えて、こう言った。
「あ、あっちの蕎麦屋ー!」
「あははははは・・・」
洒落に助けられた隼人が、率先して苦しい笑いを発する。
仕方なく俺と竜も、それに合わせて笑う事にした。
全く・・・ヤンクミが喋らなくても隼人がばらしそうだよ・・
ΨΨΨΨΨΨ
ヒヤヒヤしたやり取りのあった次の日。
日が変わっても、しばらくクラスはヤンクミの家業について盛り上がっている。
それもこれも隼人が漏らしたからだ。
なんて思いながら視線を送ってやった。
「わりぃわりぃ」
「別にバレなかったからいいものの、気をつけろよな」
「そうそう、ヒヤッとしたよ」
「ポロッと出ちまったんだよな、ポロッとさ。」
「ポロッとじゃすまねぇだろ、ヤンクミのクビが掛かってんだぞ?」
軽く言って反省してなさそうな隼人に、つい怒鳴ってしまう俺。
その迫力に負けた隼人が、首を縦に動かして慌てて頷いた。
俺と隼人と竜しか知らないヤンクミの実家の秘密。
俺達がボロを出さない限り、多分バレない。
確信が持てないのは、ヤンクミがボロを出す可能性もあるから。
「それよりつっちー達、就職希望の会社どうなったんだろうな」
「ああ・・・確かゲーセンとかの関係だっけ?」
「ゲーセン言うな、面接してもらえるといいな」
「そうだな」
其処まで話した時、再び教室のドアが開いて
出席簿などを抱えたヤンクミが、教室へ入ってくる。
何やらご機嫌に挨拶をした事から、いい事でもあったのだろうか。
何て思いながら視線を送っていると教卓に荷物を置いたヤンクミは
俺達に向って嬉しそうに言った。
「土屋 大森 小島 浜口、喜べ、ジョイフル産業さんが就職の面接をしてくれるそうだ。」
「おいおいマジかよ!」
その途端、つっちーは前のめりになってはしゃぎ
武藤と浜口が共に喜びの声を上げた。
クラスも一丸となって喜んでいる。
「ジョイフル産業ってよ、あのゲーセンの会社だろ?」
「って事は、ゲームやり放題!?」
タケは在り得ない話を展開し、浩介やつっちーと盛り上がっている。
ゲーム会社だからって、やり放題な訳ないだろ・・・
竜がそんな俺の気持ちを代弁するかのように、んな訳ないだろと突っ込んでいる。
その中、小島がふと面接なんて初めてで緊張する〜と言い出した。
まあそれもそうか・・・でも此処入る時、面接したんじゃなかったっけ?
俺は転校だから面接しなかったけど、バイトやる時したしな。
「よし、これから面接の練習をします」
「えーーーー!!」(クラス全員)
小島の言葉を聞きつけたヤンクミが嬉々として提案した面接。
クラスからは一斉にブーイングが沸き起こったが、敢えて無視。
仕方なく面接の練習に付き合わされる事になった。
つっちー達が廊下に出て、久美子と俺達は面接官の机を配置させる。
真ん中にヤンクミ、左隣に竜が座り右隣に俺。
隼人は俺の後ろで浩介が竜の後ろ、タケが俺の隣に座った。
座ったってよりも自由に座ってるから、メチャクチャ緊張感はない。
「それでは、土屋君 大森君 小島君 浜口君どうぞ」
面接官ぽくヤンクミが4人を呼び、いよいよ模擬面接が開始。
先頭切って入って来たつっちー、いつも通り扇子で扇ぎながら登場。
「土屋!扇子で扇ぐなっ」
「あぁ?」
「小島!帽子被ってんじゃねぇよ、大森 最後の奴はドアを閉める」
「あ゛ぁ?」
「ったく、一々うるせぇ奴だなぁ」
「浜口、サングラスはねぇだろサングラスは」
もうやりたい放題とはこの事を言うんだろう。
ヤンクミの注意にも、皆メンチ切ってる。
はぁ・・・真面目にやる気ねぇな・・・こりゃ。
しかも浜口、サングラス取ったら意外と円らな瞳!
いや・・それはどうでもいいってゆうか、あんま関係ない。
何はともあれ、練習は続行。
「土屋君、貴方が我がジョイフル産業を選んだ理由は」
「・・・・ヤンクミに勧められたから?」
チーンと何かが鳴って、後ろの浩介と隣りのタケが同時にコケる。
それを聞いたヤンクミが、理由の例として2つばかし挙げた。
というか・・・これ、集団面接だったら大変かもな・・・・と俺は思った。
周りのクラスメイト達も、つっちー達の面接を見ながら色々思っているようだ。
相も変わらず、4人の珍回答はまだまだ続いた。
「大森君、好きな言葉を教えて下さい。」
「好きな言葉・・・いや、別に・・金?」
「(ガタッ)そうじゃねぇだろ、ことわざとか四文字熟語とか」
「四文字熟語って何だよ!!」
「喧嘩上等!」
「そうじゃねぇって!」
「じゃあ、一攫千金!」
「焼肉定食とか?」
「お前等あたしの事バカにしてんのか!?」
流石にこれはマズイと俺が思った時には既に遅く
ついにヤンクミの堪忍袋の緒が切れた。
机をバン!と叩き、立ち上がってつっちー達に詰め寄る・・・
それを慌てて俺達5人で取り押さえた。
ヤンクミのやる気あんのか!の言葉に、竜がボソッと止めながら嗾けるような言葉を口にした。
「じゃあオマエが手本見せろよ」