戻ってきた日常



クラスメイトの歓迎も終え、皆席に着いた。
隣に座った隼人、俺と隼人の前にはタケと浩介。
ふとは、二人が一枚のチラシを持ってる事に気づく。
後ろから覗き見れば、でかでかとピンクの文字で書かれた文。

「黒銀って共学になんの?」

ダイレクトに飛び込んで来た文字を見て、つい呟いた
すると、タケと浩介が一斉に俺を振り向いた。
え?何?マズかった??

ちょっと不安に思う、だがタケと浩介の目がふにゃっと緩み
それを見ていた隼人が 教卓に立った久美子へ
声を潜め、下から伺い見るように問いかけた。
今日の隼人は 前髪が何時もと違って、上に上げられている。

それだけでも、印象が変わり 大人っぽく感じられた。

「黒銀が、共学になるってのは・・本当か?」
「何だ、お前等もう知ってたのか。」

確かめるような口調に、教卓の久美子はニコッと笑って言った。
否定しないって事は、どうやらその通りらしい。
まあ 嘘だったらこんな派手なチラシを掲示しねぇだろう。
でもさ、大事な事忘れてねぇ?

気づいた事を、隼人に言おうとしたが
浮かれに浮かれた隼人の耳には、届かない。

はぁ・・・と溜息をつき、左隣の竜へそれを言う。
最初の時は、前の席だった竜も何時の間にか
俺の隣に机を持ってきてた。

「なぁ、よく読まなくても気づくけど 共学になっても・・」
「俺達は卒業してる」
「だよな、ふつーは気づくぞ?」
「ホント バカ。」

竜の机に肘を乗せ、寄り掛かるように話しかければ
呆れ顔で 竜もアッサリ答える。
その事にも気づかないくらい、コイツ等は浮かれてるって事だ。

平和だなぁ〜こうして騒いでると、戻ってきたんだって実感。
昨日まで、柴田達と対峙してたのが嘘みてぇ。

「こんなむさ苦しい男だらけの学校に?・・女の子が来る〜!!」

人が感傷に浸ってれば、興奮した様子のタケの嬉々とした声。
余程嬉しいのか、学ランをバッと開いてる。
タケの煽りにクラス中から歓声が。

「何もそんなに盛り上がらなくたっていいだろ
それに、女の子なら此処にもいるじゃないか」
キョトンとして、その様子を眺めていた俺と竜。
そこへ久美子の声が入り、それによって
騒がしかったクラスのテンションが、一気に下がった。

はははは・・確かにそうだけど、彼等の言う女の子とは違う。
白けたクラスに、竜の駄目だしが入った。

「けど、俺等3月で卒業じゃん」
「だから?」
「共学になるのは4月からだろ?」
「・・・擦れ違い」

この落ち込みよう・・かなり悪いけど、笑える。
ポツリと呟いた隼人、その言葉が彼等の切なさを醸し出す。
教壇に立つ久美子も密かに突っ込みを入れてる。
派手に落ち込むクラスメイトを見て、視線をに向け
サラリと竜は呟いた。

「ま、俺はがいれば十分だけど。」
「「は!?」」

一句同音に俺と声をハモらせたのは、隼人。
このやり取りに気づいた者は、偶然誰もいなかった。
それは、後輩がいい思いをする事に対し
口論が繰り広げられていたから。

突然の爆弾発言に、真ん中の席で俺は固まった。
「おい竜・・それ、俺のセリフ。」
「突っ込むトコはそこかっ!」

スパーン!と隼人の頭を平手で叩き、怒鳴る。
何だよ!キスしたくせに!
『遠慮しねぇから』って捨て台詞吐いたのは何処のドイツだ!
人の心かき混ぜるだけ、かき混ぜて!!!

「もうしらねぇ!もう帰る!」

完全に頭に来たは、クラス中に響く声で怒鳴り
吃驚して何も出来ない隼人の横をすり抜け
久美子の手も掻い潜り 教室を飛び出した。

「おい・・誰だ、嘩柳院怒らせたの。」
「オマエのせいだろ」

誰もが呆気に取られ、の出て行ったドアを見つめ
教壇から見送った久美子が、後ろの席を見て言えば
竜が冷静に隼人へ言う。
一方、怒らせるつもりも その訳も分からず
隼人はえ?俺?と言いながら、自分の顔を指差す。

「俺 様子見てくる、オマエ等どうせアレやんだろ?」
「え?ああ、まあ。」

なら決まりだな、と言い 竜は皆の視線を集めてドアへ向かう。
しばらく考え込むように、動きを止めてた隼人。
何かに気づくと ハッと立ち上がり竜へ叫んだ。

「待てよ!竜!・・俺も行く」
「隼人は此処にいろよ、今はコネェ方がいい。」

理由は分からないが、竜の指摘は的を射ていた。
少なくとも、は自分の事で怒ってる。
その本人が行って、をアレ以上刺激するのはマズイ。
かと言って・・と竜を二人きりにしたくないとも思う。

でもまだ、竜の口からハッキリ聞いてない。
もしかしたら、自分の勘違いかもしんねぇし・・・

「・・・任せた」
「おう」

一か八か、隼人はの事を竜に任せた。
一人であのままウロウロされるよりも、竜がいた方が安心。
それでも完全に、不安が拭えた訳ではない。

はぁ・・人を好きになんのって、すっげぇ大変。

今までがどんなに楽だったか、それを身を持って知った。
を好きになった事を、後悔してる訳じゃない。
寧ろ 俺が此処まで他人を好きになれるなんて
この先ないと思ってたし、そうさせた奴に逢えた。

「はぁ〜あ」
「そんな落ち込むなって、隼人!」
「そうそう、の事は竜に任せて明日の事考えようぜ!」
だから竜に任せるのが心配なんだっつーの。

隼人の心の内を知る者は、此処には誰もいない。
ガックシして竜を見送った隼人、そこに元気のいいつっちーと
浩介の声が前方から掛けられた。

その後、ノリに乗った3Dに猿渡と犬塚が現れ
なんやかんやでモメたのを、俺と竜は知らない。

☆☆

教室を出たついでに、学校の門へ向かった
ああも勢い良く飛び出して来たから、戻り難い。
どうせなら、このままに会いに行こうか。
の両親とも、話し合いたいし。

そうするか、と決め 下駄箱を通り抜けようとした。
「嘩柳院さん」
その俺を 聞き覚えがある声が、呼び止めた。

見つかっても仮病で乗り切ろうと思い、後ろを振り向く。
すると其処には、センコーではない人物がいた。

「あれ?狩野?オマエ、授業は?」
「ちょっと抜けた、どうしても直接言いたくて。」
「俺に?」
「ああ、脅されてたとはいえ・・あんな事して悪かった。」

その事か、と内心で納得。
確か ヤンクミが、狩野の事言ってたっけ。
狩野は自分なりのケジメとして、直接言いに来たんだろう。

「別にいいよ、もうあの事はお互い忘れちまおうぜ。」
「そうだな、本当に有り難う。」

もういいって言ったのに、狩野はまた俺に礼を言った。
その様子なら、妹さんの方も大丈夫だったんだろう。
丸く収まったみたいで良かった。

すると、後方から駆け足が近づいてきた。
今度こそセンコーか?
俺は狩野に軽く手を振り、足を進めた・・が
これまた第三者に止められる。

!」
「え?今度は竜?」

駆け足で走ってきたのは、竜だった。
こうして息を切らせてる姿が、違う人物と重なる。

荒校と争ってた頃、一人で帰った俺を案じて
今の竜みたいに、俺を追いかけてきた 隼人。
何かこれじゃあ・・隼人の事、気にしてるようなモンじゃん。

「どうせこのままサボる気だろ?俺も行く。」

呼吸を整えた竜、俺の隣に狩野を見つけ
手を上げて軽く挨拶をした。
気づいた狩野も恐れる事なく、手を上げ返す。

何か・・俺の知らない所で、何時の間に仲良くなってるし・・
男って羨ましい、と首を傾げるに同行を求める竜。
『ま、俺はがいれば十分だけど。』
途端に竜に、教室で言われた言葉が脳内でリフレインする。

真剣に見つめる鋭い目、隼人とは違った逃れられなさを感じ
俺は竜が来る事を了承した。