皆の潤滑油



今日も激しいダンスレッスンが行われていた
10人になりデビューを控えたレッスン。

それぞれが気合い満点で勤しむ中
1人のメンバーの様子だけ気になっていた。

一見すると普通なんだが、特定の振りの時だけ違和感を覚える・・・。
上を向いたり、下を向いたりする時にだけ
いつも以上にぎこちなくなるのだ。

💙「阿部ちゃんいつにも増して硬くない?」

変だな?
と感じたのはどうやら俺だけではなかったらしく
鏡越しに翔太が声を発した。

💚「ふぇ?いや、そうかな」
💗「確かにぎこちないね今日の阿部ちゃん」
💜「首でも寝違えた?」
💚「寝違えては無いよ、ほら(笑)」

翔太を筆頭に阿部の近くで踊る面々が
口々に指摘と可能性の話を始める。
鋭く聞かれたにも関わらず阿部は動じない。

ふっかの問いに対し笑いながら
左右を向いたりして見せた。

「阿部が大丈夫って言うなら信じるよ」
🌕「けど無理はしないでね?」
🤍「うんうんその通りだよ無理は禁物!」
🧡「せやな、具合悪うなったら言うんやで?」
💚「心配性だなあ皆、分かったよ」

笑顔で答える様子に皆心配しつつも
取り敢えずその発言を信じ、レッスンを再開
だが、やっぱりぎこちなさは変わらなかった

一旦振りを確認する事になり休憩を入れる。
勿論確認するのは阿部の振りだ。
何故上下を向いたりする振りだけぎこちないのか。

他のメンバーは思い思いに休憩する中
鏡の前に阿部を呼び寄せる。
確認する振りの歌はCrazyFRESHBeat。
他ならぬ自分が振り付けした楽曲だ。

💛「振り付けは覚えた?」
💚「うん、覚えてるよ」

近くに来た阿部に聞けば直ぐ肯定した。
まあ表情を見た感じ、嘘は言ってなさそう・・・
ただ、目がやたらと泳いでいる。

緊張してる訳でもないだろうに何で?
よく見ればソワソワしてるし落ち着きがない

トイレ我慢してんのか?🤔

だとしたら早めに終わらせるかな・・・
確認が出来れば良いしな。
様子は気にかけつつ、頭から振りを確認開始

💛「取り敢えず最初から通してみ」
💚「う、うん・・・」
💛 (何だこの歯切れの悪さは)
💚「いくよ・・・?」
💛「ん」

阿部を鏡の前に立たせ、自分は横に膝を折り
カウントを取る側に回る。

何人かメンバーが見守る中カウント開始。
頭を少し下に向け、両手を目の辺りで動かす
これはまあ出来てるな。

しかし、頭を回すような振りになると
滑らかに回さずカクカクしたやり方に・・・😶
いや、だから何で??

💛「何でそこ、カクカクすんの?」

思わずカウントを止め、阿部を見上げる。
昨日もこの振りをやったがその時は出来てた

何故それが今日になって急に出来ないのか・・・
もう1回やらせても変わらないし
そればかりか更に雑に?😶

💛「なんなの?踊りたくないのお前」
💚「そうじゃないよ」

やりたいと言った振り付けをメンバーの好意でやらせて貰えたからこそ形にしたい。
そうなるにはメンバーの協力も不可欠。

なのに阿部がこれではバラつきが出てしまう
10人がビシッと揃うからこそ生まれる迫力。
それらが1つ欠けてしまうのは未完成に過ぎないのだ。

だからこそ出てしまったキツイ言葉。
すくっと立ち上がり、阿部の前に立つや
阿部の頭を左右両手で固定。

💛「ならちゃんとやれ」
💚「うぅ・・・い、いくよ・・・っ」
💛「ゆっくり回してみ、円描くみたいに」
💚「おk・・・・・・っ」

なんでそんな緊張感漂ってんの?
と不思議になりながらアドバイスする。

両手で挟んだ阿部の頭を、こんな感じにと言いながら回させて行く。
横から少しずつ上向きにして行った時だった

💚「っ、も・・・うわっ」
💛「ん?・・・阿部?」

阿部の頭が上を向いた瞬間。
表情を苦悶に変えた阿部が呻いたのだ。

吃驚して両手を阿部の頭から離す。
が、今度は目の前に立つ阿部の体が揺らぎ
そのまま後ろへ傾いた。

💛「――阿部っ!」

それを目にしたら無意識に体が動き
阿部が床に叩き付けられる前に腕を引っ張って、腕に抱えた。

咄嗟だったから勢いが殺せず
阿部を庇いつつ背後にある鏡に倒れ込む。

🖤「岩本くん!阿部ちゃん!?」
🌕「照にい亮兄!!」
💙「おい大丈夫か!?」

鏡に背中からぶち当たった音は鈍く
聞き付けたメンバーから声が上がった。

いってぇ~・・・
大丈夫には大丈夫だが背中痛てぇ(笑)
バタバタと駆け付けて来るメンバー達。

腕に抱えた阿部からは反応が無い。
・・・まさか?と不安が胸によぎる。

💛「俺は大丈夫、阿部は?おい阿部?」

肩を掴んで揺すってみるが返事がない。
もしかして俺阿部にケガさせた・・・?
目黒も俺の声に合わせ、阿部を覗き見る。

🖤「阿部ちゃん?阿部ちゃんっ」
💛「まさかケガしてる?」
🖤「大丈夫、岩本くんしっかり守れてます」
💛「・・・っ、良かった」
🌕「照にい!他の皆呼んできたよ!」
💜「おい何があった!?」
💗「阿部ちゃん照大丈夫!?」

不安そうな俺の問いに、ニッと笑い返した目黒
この返答を聞き、心底ホッとした・・・。

阿部にケガさせるとか何かヤダ😶
理由は分かんないけどさせたくない。
とそこへがどこからともなく帰還

次いで現れるふっかに舘さん、佐久間、ラウ
その間も腕に抱えた阿部は反応が無い・・・
流石に心配になり、阿部を見やると
ギュッと力を込めて目を閉じていた。

💛「阿部、大丈夫鏡に突撃は防いだから」
🌕「亮兄・・・大丈夫?」
💚「う・・・大丈夫、照もごめん・・・」
🧡「なんやなんやどういう事?🤔」
「そこ辛いなら椅子に座らせるよ?」
💚「ありがとう、ごめん」
💜「ゆっくりで良いよ、兎に角何がどうした?」

肩に添えた手で数回叩き、回避を伝えれば
漸く顔を浮かし俺らを振り向いた阿部。
それから先ず俺に謝った。

別に阿部は悪くないのに。
寧ろ俺が強引に動かしたのが良くなかった。

座り込んだままの俺らを気遣った舘さんが
休憩スペースにあるパイプ椅子を持って来た
気づいた阿部は同意し、また舘さんに謝る。

椅子に座ろうと動いた阿部を手伝い
腕を掴んでその場に立ち上がらせるふっか。
その隙に自分も立ち上がったタイミングで
歩き出した阿部がまたふらつく。

💛「――っおい、ホントに大丈夫か?」
💚「うん・・・大丈夫だよ照。」
🧡「阿部ちゃんの大丈夫は信用ならんなぁ」
💗「俺も康二に賛成~」
💚「何でだよ(笑)」
🤍「確かに心配だし危ないね・・・」
🌕 (危ないねとは?)

直ぐに気付いて距離を詰め後ろから支えれば
やけに力の無い声で礼を言われた。

💙「うーん、横になってみる?」

阿部を眺めていた翔太からも提案があがり
ふっかも賛同したが、意外な人物が反対した

💚「いや、それは大丈夫・・・」
🖤「けど調子悪そうっすよ?」
💜「折角だから少し横になってみなよ」

反対したのはまさかの阿部。
流石にこれには声が上がった。

明らかに様子がおかしいのに休みたがらない
2回も倒れそうになっておきながら何故寝ようとしないのか。

「・・・照」
💛「ん?」
「阿部を支えれる所に居てくれる?」
💚「?」
💛「おお」

皆が腑に落ちない顔で黙り込んだ時。
思案顔だった舘さんが俺を呼び付けた。
そして頼まれた、阿部を支える役。

言われた通り、阿部の真後ろに待機。
他のメンバーはその周りに立つ。
提案した本人は阿部の正面に立った。

怪しい儀式でも始まるのか?
なんて考えつつ舘さんを見ていると

「ちょっと上向ける?」
💚「う・・・」
「大丈夫、照がちゃんと支えるよ」
💛「ん、ちゃんと後ろにいっから」
💚「わ、分かった・・・っ」

ソフトな声で指示する舘さん。
やはり阿部は身構えた、上向きたくないんかな・・・?

躊躇いを見せたが、後ろには俺が居るから
と示せば安心したらしく、気合いを入れる。
上を向くだけなのにこの気合い・・・。

他メンバーも不思議そうに見守った。
妙に笑いそうになったが本人は真剣😶

阿部は一呼吸ついてから頭を上に向けた。
上を向く姿は後ろからも見える。
別に不思議な様子も無い・・・?
が、阿部が呻いた直後グラッと体が揺らいだ

💚「――うっ・・・!」
💛「っと・・・!」
💗「あぁあっぶない!?」

右に傾いた体を右手で受け止める。
ヒヤリとしたのか佐久間が叫びそうになった

他のメンバーも1歩踏み出していたり
皆流石にヒヤリとしたのだろう。
ただ1人微動だにせず居たが口を開いた。

🌕「もしかしてこれ・・・」
🧡「なんや、知ってるん?」
🌕「うん、前に聞いた事あるかも」
「ふふ・・・流石だね」
💙「いや俺分からんから」
💛「取り敢えず阿部座るか」
💚「うん・・・」

まだ未成年だがは兎に角博識。
阿部と同じ上智大学大学院を卒業した天才だ

専攻こそ違うが、医療系にも詳しい。
記憶力も良いらしく知識量なら阿部以上かも
まあ兎に角は阿部の様子を見て察した。

多分舘さんもと同じ答えが出てるっぽい
舘さんも知ってる症状(軽く失礼)って事は結構知れてるんかな🤔

取り敢えず阿部座らすかな、と思い
右腕で支えてた阿部をきちんと立たせる。
不安なのか、椅子に座りに行く際も阿部の手は俺の服を握り締めていた。

久々に元末っ子を発揮してるんかな
ちょっと可愛いな阿部とか思ってしまった。
椅子に座ってからも離さないので
阿部の隣の椅子に俺も座る事にした😶