水無月の物語
梅雨の晴れ間に兄、阿部亮平に誘われ
男装ではなく本来の女の子として出掛けた私。
17歳。
因みに今は2019年6月。
は6人時代のSnow Man達の末っ子だ。
先の説明でシェアハウス暮らしから3ヶ月目
と話したが、正しくは1年と3ヶ月目になる。
男装して暮らす間の縁で、去年の夏から私はジャニーズ事務所に席を置いている。
本当は女子だというのは勿論伏せて、Snow Man6人の末っ子というのも明かしていない
何の後ろ盾もなく、として入所した
今はバックダンサーとして経験を積ませて貰っている最中である。
まあ、今はただの17歳を満喫中だ。
阿部と別行動になってからは館内を回り
1人での水族館を楽しんだ。
時間は今13時を過ぎた、阿部達の撮影はどうなっただろう?
お昼時は避けたし、そろそろ行ってみるかな
館内のパンフレットを開き、フードコートの位置を確認しつつ周りを見ながら移動。
エスカレーターに乗り、2階へ向かう際何となくザワザワした気配を感じた。
私の後ろからも女の子達が追い抜いて行く。
何だろ?まだ混んでるのかな。
と思いながら到着した2階。
一見すると昼下がりのフードコートなのだが
所々人の集まりみたいなのが見える。
1部のフードコートが混んでるのかなという考えで中を移動して行く。
何となく空いている席に座ると、少しだけ人だかりからの声が聞こえた。
「今日水族館来てよかったよね」
「うん!良かったわ〜」
「Snow Manのふっかと阿部ちゃん間近で見れたしね!」
「――( 'ω')!?」
ちょっとマテお嬢さん方、今なんて?(誰)
もう流石に移動したと思って来たけど・・・
まさか・・・どっちか居る?
・・・・・・まあ、誰も答えないっすね
よし、仕方ない・・・下に戻ろう。
そう決めるとは席から立ち上がり
下り側のエスカレーターを目指す事にした。
因みに反対側に回り込まなきゃならないから
必然的に人だかりの後ろを通り抜けねばだ。
歩きながら聞いた話だと
深澤と阿部が数分前までここに居たらしい。
今何故人だかりが残ってるのかと言うと
2人が撮影の際座っていたからだとか?
居合わせたファン達が、交代に座っては写真を撮ったりしてるとの事。
まあ、気持ちは分からないでも無い。
「――!」
人だかりを見ながら歩いていた視線を前に戻した瞬間
かなり間近に何かが入り込んだ。
気付いた時には既に避けられない近さで
残った肩がその対象とぶつかってしまう。
ドン、と弾かれてよろけた所を咄嗟に伸びた手に腕を掴まれ強い力で引き戻された。
危うく相手に飛び込みそうになるのを堪え
顔を上げた瞬間訳が分からなくなった。
「ごめんなさい、ありがとうございま」
「いや良いよ、俺こそごめんね」
(・∀・)!?
た、TATSUYA.FUKAZAWA!!
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!
メガネ&ハット被ってるけど完全に分かる!
何でまだこの階に居るのですかふっかさん!
の脳内はプチパニックを起こした。
取り敢えず落ち着こう私。
私は今、ただの女子高校生。
水族館にボッチで来たただの女子高校生おk
(この間数秒)
距離を取りながら深澤より離れた。
ただの女子高校生に成りきって深澤にお礼とお辞儀をして歩き出そうとした際
「あれ、あのパンフレット君の?」
そんな問いを背中に掛けられ、足を止め
深澤が示す方を見ると、水族館のパンフレットが落ちていた。
慌てて手元を見れば持ってた筈のパンフレットが消えている・・・
つまり私のヤツだ。
「あっ、私のパンフレットですね;;」
「やっぱりそうか〜」
ほぼ同時に歩き出し、落ちているパンフレットまで歩いて行くと深澤。
パンフレットを見て歩いて来た為気付かない
手に届く位置に来てから伸ばしたら
私の手の上に重なる指が、触れた。
おっきい手だなあ、なんて思ってしまい
急に恥ずかしくなった。
筋張ってて、それは男の人の手だった。
「!!ごめんなさいっ」
「あっ、ごめん」
対する深澤は、小さい手だなーと眺め
不用意に触れてしまった焦りから手を引っ込めつつ、こう申し出た。
「良いよ待って、俺が拾うから」
「え、でも」
「ホラ紙って指が切れやすいじゃん?」
「あ・・・分かりました、もし貴方の指が切れちゃったら私の絆創膏貼ります!」
「――ふはっ(笑)さんきゅ、嬉しいわ」
「どういたしまして?(笑)」
パンフレットに伸ばした手を横から止められ
交代するかのように深澤が落ちたパンフレットを爪で捲ってから器用に拾い上げた。
横向きのふっかさんの耳に揺れる2連のフープピアスと顎のライン。
末っ子として暮らしてるし、幾らでも近くで見てるのに、何故か新鮮に感じ
パンフレットを拾い上げてこっちを向く迄の一連の流れを眺めてしまった。
「はい、どうぞ」
「はわっ」
「どうかした?大丈夫?」
――・・・(;´∀`)ハッ!イカン見惚れてた!!
「あ、いや、大丈夫です!」
「何か君面白いねウチの末っ子に似てる」
「(私がその末っ子ですからねぇ)そ、そうなんですか〜」
何とも際どい会話を交わしつつはぐらかし
改めて兄、深澤辰哉に感謝を伝えた。
にしてもカラコン入れといて良かったわ・・・
まさかこんなハプニングがあるとは!
ありがとうここには居ない亮兄!
と、が内心で阿部に感謝した頃
ハットを少し目深に被り直した深澤が言った
「そしたら俺はもう行くね」
「はい、ありがとうございました!」
「前見て歩くんだぞ、じゃあね」
「それは、はい(笑)」
などと揶揄う様な事を言いながら笑み
片手をヒラヒラさせ、深澤は立ち去った。
幸いファンの女の子達には気付かれていなかった、
見られてたら間違いなくヤバかったね
エスカレーター方面へ、も歩き出す。
そういえば深澤は下には降りず
上り側へと向かって行ったな、と思う。
つまりまだ撮影があるって事?
てか、ふっかさん行っちゃったしご飯食べてっても平気だよね?と気付いた私。
歩きかけた足を戻し、フードコートへ戻った
深澤side
とは知らない深澤は
つい数分前の事を1人振り返っていた。
さっきぶつかっちゃった子、可愛かったなと
見た感じは女子高校生っぽかった。
意図はしてないだろうけど、所々に俺のメンカラ入ってる小物とか靴履いてたよね。
特にあの髪飾り、ヤバかったな〜可愛くて。
「あ!ふっかやっと戻って来たな?」
「お〜なに、待っててくれたんだ阿部」
ニヤニヤ緩みそうな口許を手で隠し
視界に入ったメンバーの阿部をチラ見。
阿部ちゃんも女子な面あるけど
さっきの子のが可愛かったな。
(比較対象とは)
「次のラストショットふっかとだからね」
「あ〜そうだったね、うん」
「ふっかなんか、機嫌良いな?」
「え、分かるの?さすが同期(笑)」
「取り敢えずニヤニヤしてるし」
阿部ちゃんと合流した途端指摘された。
そんな顔に出てたかな俺。
深澤本人は不思議に感じたが
やはり顔に出ていたと判明する。
グループを客観的に見れる阿部や深澤。
それにJr歴も長い故、同期な事も相俟って
互いの変化やメンバーの変化にも気づき易い
そんな阿部だからだろうか、気付けば素直に深澤は今し方の出来事を纏めて表現した。
「まあちょっと理想的な出逢いをね」
「・・・へぇ?」
「寒い目で見んなし(笑)」
「いや、相手の方への同情をね」
「どういう意味だバカヤロウw」
「ふっかは愛情表現とかが薄いからさ、俺以上に冷静でドライじゃん?」
「まあB型ってそんな感じよ?」
少し驚いた目をした阿部。
それからいつも通りの弄りを入れつつ思案する
普段はドライで束縛等もしない深澤。
でも好きな相手には固執し
大事にする男だというのを知って見てきたからこそやっぱり真面目な顔で締めた。
「取り敢えず、慎重にね?」
「まだどうなるのかって決まった訳じゃないよ?」
一応釘を刺しといた阿部。
恋愛は自由だし、止めたりもしない。
が
自分達は一般人じゃない。
舞台中心で活動している芸能人でアイドルだ
気を張り、見られてる事を自覚しなくては・・・
いつスキャンダルだ、
と騒がれるか分からないからね。
もしふっかが本気なら当然表には出せないし
相手の人にも相当な気を遣わせる事になる。
こういう世界に身を置く限り常に見られてるのだと阿部は深澤に悟らせたかった。
そして陽は傾き、斜陽の時間を向かえた。
深澤を分かれた後は着替えを済まし男装にチェンジした足で水族館を退館。
水族館から出発するタクシーが来るのを待っていたそこへ、歩いて来る足音が1つ。
「あれ?!」
妙に吃驚した声音を掛けられ
気を抜いてベンチに座っていたも吃驚。
聞いた声にドキドキしながら見れば
やはりそこには長兄、深澤辰哉が居る。
だっ、大丈夫かなちゃんと今末っ子だよね私
思わず自分の今の服装を目視で確認。
目に映る服装は白と黒の上と、ジーパン。
腰に巻かれた黄色のベルトはアクセントに
靴も勿論履き替えて黒地に黄色なヤツだ。
メイクも落としたから大丈夫、ちゃんと末っ子になってるわね。
「あれ?ふっかさん!」
「はまさか1人で来たの?」
「はい、俺1人なら気楽ですからね」
「まあまだJrの1人だしな」
「ふっかさんは確か仕事でしたね?」
近くまで来た深澤は違和感なく話しかけた。
つい数時間前に話したJKだとは思うまい・・・
さり気なくの隣に座る深澤。
足を組み替えながらつらつらと話し始める。
話し方こそさっきと変わらないが気安さ?は今の方が感じる。
やっぱりそこは身内だからかな。
互いに血の繋がりは無くても養父は同じだからさ、ちゃんと長兄の顔になるんだわ。
距離感もさっきと変わらない?
でもふっかさん基本潔癖だから一応距離感は保ってるかな、不測の事態以外は・・・。
「てかはタクシー待ち?」
「え?ああはい、そうですね」
「・・・どうせなら一緒に帰るか?」
「一緒にですか?」
「うん、久しぶりに兄ちゃんと帰ろ?」
('ω')首を傾げるな深澤辰哉よ
いきなり考え中の所にぶっ込まれた言葉。
パッと顔を見たらやたらニコニコしてる兄。
いや、ぶっ込まれたのは途中からだね。
うーん何か機嫌良い?
まあ断る理由も無いし、良いか。
「はい」
「やったー!」
「ふっかさん大袈裟(笑)」
「何とでも言えっ今日の俺機嫌良いから」
やはり機嫌が良いらしい。
私と分かれてから良い事でもあったのかな?
「よく分かりませんけどふっかさんが楽しそうなのは俺も嬉しいです」
「お前は良いヤツだなあ〜」
でもまあ言った事は素直な感想だ。
言われた側のふっかさんから頭を撫でられる
この些細なスキンシップは末っ子じゃないとして貰えない・・・
そう考えると今の状況はとても貴重なんじゃないか?と思った。
そんな話をしている所に現れるタクシーが1台
気付いて深澤とはベンチを立つ。
タクシーから運転手が降りて来るのを眺めているの前で、車のトランクを開けた運転手。
「お荷物載せますね」
「あ、はい――」
「お願いします」
自分に向けて言ってるのだと遅れて気付くと
ナチュラルに横から荷物が抜き取られ
深澤がの荷物を運転手に渡している。
はやっ!
予備動作すら分からないナチュラルさ・・・
吃驚している私の方を見たふっかさんが笑う
その傍ら手招きされ、先に乗るよう言われる
2人して乗り込むとドアが閉まった。
素早くふっかさんが行き先を告げ、走り出すタクシーの車内。
間を置かず呼ばれた。
「お前なに持って来たん?」
「え?」
「荷物、やたら重かったからさ」
「(ギクッ)水族館初めてだったから大人買いを・・・」
「あ〜なるほどねもまだ子供だなあ」
ふわふわしてる人から急に鋭い事を聞かれ
内心めっちゃドキドキしながら適当に説明。
意外とすんなり納得したのか、頷いている。
実際お土産売り場で買い物はしたから
適当に言ったけど嘘は言ってない。
子供だな、と口にして笑う横顔を盗み見る。
ファンの方々も絶賛するふっかさんの横顔。
その横顔を道路脇の街灯が照らしては行く・・・
見ていたら目が合ってしまった。
「何だよ、俺の顔に見惚れてたか?」
「いや、ルームミラー壊れちゃいますから運転手さん困りますよ」
「映らないようにしてるから大丈夫だよ!(笑)」
「あはは(笑)」
「じゃなくて聞いてよ今日さ〜」
目が合った動揺を気取られないように話を逸らし、いつも通りのツッコミを聞いた後
機嫌の良い深澤から話を始めた。
「今日水族館に俺も仕事で行ってたのよ」
「うん、言ってたね〜」
隣に座りながらフンフンと話を聞く。
「2階で撮影した後にさ俺」
「うんうん」
「理想的な出逢い方しちゃったんだわ〜」
「・・・理想的な出逢い?」
「うんそう」
2階?でピクッと反応しただが
それより気になるワードに首を傾げる。
深澤の言う理想的な出逢いというのが気になる・・・
因みにその答えは過去、雑誌の質問で深澤が答えていた。
運命の人との理想的な出逢い方は?
てな質問に対し、深澤が答えた回答。
『すれ違った時に落とした物を拾おうとして手と手が触れちゃう感じ』
まさにこれのまんまの出逢い方をしたらしい
・・・うん?なんか、既視感のある回答だな。
「どんな人とぶつかったんです?」
「オシャレな子だったよ、紫の髪飾りしてて似合ってたな〜」
むら、紫の髪飾り・・・?
妙なドキドキを感じながら聞いてみたら
合点がいってしまい
ふあああああああああああああああああああああああああああああそれ私!?!?
と叫びたくなった。
マテ落ち着こう私、紫の髪飾りしてる人なんて幾らでも見掛けるから!
「また逢えるかな、どう思う?」
え、それ私に聞きます?
ていうか毎日会ってますよ!?
なんて言えるはずもなく、考える。
¨・・・オシャレな子だったよ¨
だなんて自分の事を褒められるとか照れる!
何でふっかさんこんな私の事気にしてくれてるのかな?そんなインパクト強かった?
至って普通の格好してた自覚しかない。
「そうですねぇ・・・縁があったら?」
「まあそうだよね〜縁あるといいな〜」
とか言って車窓から空を見上げる深澤。
横に座って今ふっかさんと話してるよ?
なんて思いながらも深澤を見やる。
隣で一緒に話してるのに、今兄が会いたがってるのは私であって私じゃない私だ(混乱)
なんか複雑な気持ちがして来たぞ?
上手く言えないが、何故か寂しく感じた。
「そんなに何故気になってるんです?」
勝手に傷付いた感覚にさせられたので
思った事をまんま深澤へ投げた。
そしたら深澤は、空から視線を戻し
と目を合わせながら答えを返した。
「分かんないけどまた逢いたいなって」
「お、お〜・・・逢えると良いですね!」
「お前逢えないとか思ってるな〜?」
「思ってないですよっ(笑)」
答えた深澤の眼差しが真剣味に溢れてて
不思議と全く別人の話を聞いてる感覚になった、深澤が逢いたいのは私ではない他人だと
何故こんなモヤモヤさせられるのか、一向に答えが出ぬままタクシーに揺られ続けた。
水無月の物語.Fin