不思議と気になる響き。
そう告げた男は

耳を疑うような話を始めた


§御言葉使い§


『どうでもいい、じゃ済まない事態』

とやらになってる、と男は言った。
・・・・臭う、臭うわ。
面倒な事が起きる臭いが・・

「始めに言っておく、此処に肉体を持つ者が頻繁に現れる訳じゃねぇ」

んん?・・・つまり?
ってか、肉体を持つ者って何よ

「お前の存在は異質で『特別』だからだ」

異質なのに特別なの?
益々分からないわ

「つまり、此処には己の意思で来られないんだよ。
『普通の人間』にはな。」
「もったいぶらないで」
「ふ・・いいだろう。簡単な事だ、此処に来られるのは」

『御言葉使い』のみ――

面倒事だって予感的中。
何それ何の特権なのさーーーっ

訳の分からん場所に来られる特権とかいらないしーーっ
肉体を持つ者って人間は此処に来られないなら

何でなんちゃら使いってのは来られるのよっ
・・・あれ?・・・・ってかこの人も人間だよね?

おそろおそろ向けた視線に気付いた男の人は
目が合うと、ニヤリと笑った。

何ですかその黒い笑顔。
うわー意味深すぎる!
アナタ人間です、よね?

「それはさておき(置くなよ)
これはいよいよ動き出さなきゃならねぇな」
「は?!ちょっと私全然置いてけぼりなんですけどっ」
「あー・・説明がめんどくせぇ」

はぁあああああっ!!???
何この適当男っ!!

此処に何で来たのかとか
此処はどんな所なのかとか
色々説明する必要があるでしょうがっ

どうやったら帰れるのかとか・・
帰れないから話す必要がないの?

もしかして、私――――

死んじゃったの?

怒りが通り過ぎると
次に訪れたのは不安だった。

本以外興味ないけど
私だってまだ未成年の子供だ
同じ事を繰り返す日常に飽いてたけど

今ほどその日常が何物にも変えがたかったか
この瞬間実感してしまった。

何も変わらない
何も変化しない

そんな退屈な空間に
気の遠くなるほどの長い年月
現れなかった存在が現れた。

しかもいきなり
何ら前触れもなく。

ただの子供
人間、って名前の生き物。
そんな子供が、この空間に変化を齎す。

この空間はある存在が
己の創り出した『世界』を維持する為に創った。
俺もその一人だ、此処ではこの空間をまとめる立場にいる。

今まで何もなかった。
いつも通りに雑務をこなすだけの日々。
ある意味平和と言う名の退屈。

だが、変化を齎す何かが起きた
コイツが現れたのが何よりの証拠・・・・・

混乱してる様が面白い、と久し振りに感じたココロ
反応を見て表情を読みつつ的確な回答を出してやっていたが

これには驚いた。
こういう対処は学んでいない――

俺に噛み付くような勢いだった子供
やけに整ったその造り。
これは『創り手』に愛された証

黒目が潤み、睫毛が影を作る
その瞳から・・・
見た事のない物がキラキラと舞い散った。

これは・・・・・
――――どういった物、だ?

男には、初めて見る物だった。
永遠を生きていても
全く見た事のない物だった。

+++++

男が目を見張ったのを見て
は自分が泣いてしまったと悟る。

ヤバイ、何泣いてるんだろ私。
知らない男の人の前で泣くとか
コレは引かれる。

急いで涙を拭う私を
この人はただ見つめているだけだった。