迷走



迷っていた竜だったが、促す目に気持ちを固めた。
何か、したかったのかもしれない。

黙って親父の言うままに家にいるだけ
気持ちのまま自分を助けに来てくれたアイツらを見て
このままではいけないような、そんな気持ちが背中を押した・・と思う。

けど・・・竜はの目を見れなかった。
俺の親父はの家と付き合いがあったって言ってた。
つまりは、その時のアイツの家の事も知ってたって事・・

知ってて尚、何もしなかった。
の家で起きている事、知ってたくせに・・・・

体裁、世間・・
それらを恐れて、付き合いのある家の事でも他人だからと目を背けたんだ。

俺が・・・・あの時もう少し気にかけてたら
とその友達を助けられたかもしれない。
絡まれてるのを助けられたはずだ。

つまりは俺も親父と同じ。
見てみぬフリをしてたって事・・

何よりも大切な親友と引き裂かれ、実の親からも縁を切られ
己の為でなく、その子の為だけに生きるよう強要されて
それでも真っ直ぐ生き抜いてきた

自分の事よりも他人を思いやって・・・
背負いきれない苦しみと痛みを全て一人で背負って抱えてた。
俺は・・・・一体何してたんだ?

支えられたはずなのに目を背けてて
親に反抗して、全ての事から逃げてきた。

このままでいいんか?
またに助けられてばっかで。

「其処にいるのは誰だ!」
「!?」
「あ、やべっ」
「見つかっちまったか・・・・!」

ベランダから飛び降り、思案しながらも向けられた隼人の笑みに応える。
それからまた考え込んでしまうより早く、闇夜の中自分の顔に明るい光りが当たったのを感じた。

その先にいたのはヘルメットに防弾服みたいなのを纏った警備員。
どうやら隼人達が来た時に、どっかでセンサーが働いたらしい。

逃げようと試みるが、隼人も竜も
全員が易々と大柄な警備員達に取り押さえられてしまう。
捕まったと覚悟した竜だったが、不意に自分を取り押さえている警備員がフッといなくなる。

自体が分からずにいる自分の前で、警備員を引き剥がしたのは隼人だった。
それからつっちーや浩介、タケにが全員掛りで警備員らを羽交い絞めにしている。

「竜逃げろ!」
「え・・?」
「何してンだよいいから逃げろ!」
「此処は俺らに任せてさっ」
、お前もいいから竜と逃げろ」
「は?駄目だよ!俺も隼人といるっ」
「――っ、それは駄目。、お前は竜と居ろ。いいな」
「〜〜〜っ!!わぁーったよっ」

一斉に羽交い絞めにされた警備員らの慌てる声を押さえ込むように隼人らは竜を急かす。
一番端で隼人と警備員を抑えていただったが、そのにも隼人は逃げるように言った。

だが一緒にいると決めたは、それをすぐに断る。
しかし隼人としては、大切な存在のを巻き込みたくないと思っていて逃がそうと言い聞かす。
それと、一人で竜を逃がすのも懸念した為。

無茶とかしねぇと思うけど、念の為って奴?

大の大人を抑えるのには限界がある。
押し問答してたら全員お縄になっちまう、と内心焦る隼人。

ジッとを見つめ、あくまで冷静に言い聞かせると
白旗を揚げたは隼人の傍から離れ、迷っている竜の傍に行く。

懸命に自分を逃がそうとする隼人達を見つめていた竜。
傍に来たを見下ろしてから、再び隼人を見た。
・・・その目が言っている。俺の代わりにを守れ、と。

ちっ←

んな目ェ向けられたら、断れねぇだろ・・・・
は大事な仲間、黒銀で出来た・・かけがえのない・・・

隼人もつっちー達も、かけがえのない仲間だ。
きっと隼人は、俺だからを任せたんだと思う。
同じ奴を好きになった俺だから。

つまり信用してるって事、かもな。
小さく笑い、の細っこい腕を掴み背を向ける。
が俺を選んでくれなくてもいい、そんなの関係ねぇしな。

だから、頼まれてやるよ。

警備員らを取り押さえている隼人へ頷いて見せ
そのまま漆黒の闇の中へ、と共に駆け出した。


□□□


飛び出しても、行く所なんてない。
宛てもないままただ彷徨った。

分かるのは、今、繋いだ手の温もりが在ると言う事。

頼れるのは横にいる竜だけだと言う事で
夜の闇の中・・・その手の温もりだけを頼りに歩いた。

けどどうしよう。
見つかっちゃったら竜は連れ戻されてるだろうし・・
もしかしたら二度と会えなくなるかもしんない。

俺の、住んでるマンションに連れてくって選択肢もあるよなぁ・・・
誰も来ねぇし・・・・
でもそれが隼人達に知れてもめんどくせぇような気が?

それにまだ隼人だけ招いてもいないし・・・・
って!!何かそれも如何わしいような(←理由を考える度にドツボにハマって行くタイプ

繋いだままの手、傍に在る温もり。
がドツボにハマっている間、竜も考えを巡らせていた。

隼人達は大丈夫なのか、この先どうしたらいいのか。
を守れるのだろうかとかを。
いくら黒銀の不良だとしても、身分は未成年の子供だ。

守り抜ける自信が・・・・ある、とは言えない。
今の俺に・・出来るんか?

不安が晴れないまま、夜のアーケードを歩く。
目線は下向きだったのと、無気力で他人の気配に気付き難かった竜。
一緒にいたがそれを知らせようとしたが、既に一人の男と肩が激しくぶつかってしまった。

「ってーな!気をつけろ!!」
「・・・・・・てめぇが気をつけろ」
「何だとコラ!」
「粋がってんじゃねぇぞ!」
「――竜!!」

不安と苛立ち、それが抑え切れなかった竜は
普段なら絶対に買わない挑発を買い、足を止めて相手へ突っかかる。

睨み合う両者を見て、は嫌な予感がした。
だからすぐに間に入ろうと、竜の腕を掴む。

その行動も空しく、止める前に相手の拳が竜の頬を殴りつけた。

後方に飛ばされ倒れ込む竜に、慌てて駆け寄る。
今此処で俺が代わりに奴らの怒りを受ける事も出来る。
こんな状態の竜を喧嘩させたくなかった。

「――待てよ・・・」
「竜?駄目だ、もう止め・・・・」
「ちょっと待てよ!!!」
「あぁ?」
「竜!!」

なのに、俺の声は届かなかった。
の声を打ち消すように叫んだ竜は、足を止めた相手グループの一人に殴りかかる。

強いパンチに男は殴り飛ばされ、更に距離を詰めようとした竜を別の男が止めた。
竜が殴られてしまう、と思った時には俺の体は動いていて
駆け寄ると直ぐに立ち上がった男の方を止めに掛かった。

それでも多勢に無勢。
俺の制止だけじゃこの場はもちそうになかった。