なんかの夢かと思った。
でもなんで俺・・一人なん??
しかも、ココなに!?
ぜってぇ東京じゃないよ!
建物も違うし、どっかの田舎?
俺の学ラン・・・浮いてない?
皆・・・何処だよーーー!!
第四章 迷い子は六波羅
声には出してないけど、タケは内心でそう叫んだ。
目の前に広がるのは、東京じゃ在り得ない景色。
自分の姿を、珍しそうに見ながら歩く人々は
やっぱり東京じゃ絶対にいない服装をしてる。
不安な事にココにいるのは、自分一人。
頼りになる仲間はいない。
ケンカっぱやいけど、強くて頼れる隼人。
頭脳派でケンカも強くて、仲間思いの竜。
優しくて、でも一生懸命で最近可愛い 。
(最近可愛いってのは不純な動機)
賑やかだけど、場を盛り上がらせてくれたつっちー達。
いつも頼ってばかりだっただけに、一人は辛い。
皆がいたら、きっとこれからどうするかとか
黙ってても竜とか、がいい案を言ってくれる。
俺はついて行くだけで良かった。
そう・・今までは。
「皆に頼ってばっかじゃ、駄目だ!」
頼って守られて、甘えて逃げて。
それじゃあ俺は強くなれない。
俺一人でも乗り切んなきゃ、そんで皆に会うんだ!
しばらく、その場で考えてたタケ。
やっと行動を起こす決意をした。
全く知らない土地を、一歩ずつ進み始めたタケ。
そのタケを、物陰から見つめる数人の人影。
ニヤニヤと笑い合い小声で話す姿。
怪しく光る目は、タケの学ランを見ていた。
「見ろよ、アレは売り飛ばせばいい値になるぜ」
「ああ、それにここいらじゃ珍しい格好だしな」
意気投合した男等は、裏道を使うように走り
物陰を幾つか通り抜け、上手くタケの進路先に現れた。
一見は、ただの通行人を装って。
何も知らないタケは、偶々(だと思ってる)現れた男等に
ココの場所を聞こうと、声を掛けて呼び止めた。
「あの、ココは何処か教えてもらえませんか?」
普段じゃ絶対に見られない、礼儀正しいタケの言葉遣い。
ココにヤンクミがいたら、さぞかし感動する事か。
まんまと仕掛けた罠に掛かった獲物。
男達も人相良く笑い、見事な演技で優しくタケに答えた。
「ボウズ迷子か?どっから来たんだ?」
「えっと・・・(確か昔の東京ってまんまだよな)東京です」
「東京?しらねぇなぁ」
「(マジかよ東京もしらねぇの?)じゃあ・・相模。」
「ほぉ〜ボウズ、あないな都会からきちょったんか!」
感心するのとは裏腹に、ニヤッと顔が歪む。
だがその笑みは隠れていて、タケには見えなかった。
相模(神奈川)が通じた事に安堵していたので。
一人がタケの話し相手になってる隙に、2人の男は打ち合わせ。
その姿が怪しまれないよう、上手くタケの気を逸らしている。
「逸れた友達を探してんのか?」
「はい 俺の他に5人来てるはずなんです」
「そうか、じゃあ俺達について来な」
「え?」
「人探しのプロが知り合いなんだ」
やった!俺やるじゃん!こんなラッキーに巡り会えるなんてさ。
この人達の知り合いに頼めば、結構早くに見つかるかも!
そうすれば安心だよな、竜も隼人もいるし!
タケは二つ返事で頷きその知り合いのトコへ行く事になった。
背を向けた男達が、ニヤリと笑ってるのも知らず。
怪しげな男達に連れて行かれる少年。
前を歩く2人の男は、善人の面から悪人面に変わり
少年と話す男の顔も隙が生まれれば、前の男達と目を合わせ
収穫は確実になった喜びの顔をする。
連れられてる少年は、周りの景色に夢中で気づいてない。
全く、これだから六波羅は駄目なんだ。
誰もが隠れ住む場所だけに、職に就いてない奴が溢れてる。
それだけに、ココに迷い込んだ者や子供を
上手い事を言って売り飛ばしたりする者が増えてる。
そして今日も、一人の獲物が奴等の網に掛かっちまった。
にしても・・確かに珍しい格好してやがる。
あの髪の色、薄い茶髪が光に透けると
100年前にこの京を支配しようとした『鬼』の特徴
金の髪のようにも見える。
あーあ、あのまま小屋にはいりゃ終わりだな。
木の上から様子を見る少年の目が細められる。
少年の燃えるような紅い髪が、風に靡く。
同じ色の双眸が、眼下の様子を映し出した。
見てしまった悪事、今一乗り気じゃないが行く事にした。
元々こうゆうのが嫌いな性分。
攫われそうなのがヤローじゃなきゃ一番なんだけどな。
そうも言ってられねぇか。
少年の姿が一瞬で木の上から消えた。
この先のあの小屋に、この人達の知り合いがいる。
その人が人探しのプロで、会えばすぐにでも・・・・
ってさ、何か話が上手すぎねぇ?って竜がいたら言いそう。
でも確かにタイミングよかったよな。
俺が歩き出したタイミングで、この人達が来たし。
フツー、見た事のない世界に来た奴と会ってすぐは受け入れられなくない??
俺・・・このままついてっていいのかなぁ。
タケの中で危険信号が鳴る。
でも本当かもしんないし、でもなぁ・・・
この不安を煽るかのように、周りの景色も寂しくなってくる。
通りすぎる人の姿も、徐々になくなった。
最初はこの人達と歩く俺を、心配そうな目とか
コソコソ話をしながら見ていた人々もいたのに。
「あの俺、やっぱ平気です一人で探してみるんで・・」
「あぁ?そんなナリで取り合ってくれると思ってんのか?」
は?あの〜最初とちがくない?
俺の言葉に、隣にいた男の口調がガラリと変わった。
しかもそれを皮切りに、前にいた2人が振り向く。
うわ・・ヤクザっぽ・・・って、やっぱマズくない!?
その2人の顔も、さっきとはガラリと変わって強面。
やっぱ俺ってアンラッキーじゃん!
そうだよな、こんな格好してて珍しいだろうし・・・
「オマエはこれから売りに出されるんだよ」
「そんな格好してるし、相模から来たとすりゃあ金もあるだろ」
「俺達は礼金貰って懐も潤うってモンだ」
「潤うのはてめぇらのサイフだけだろ!(怒)」
ついにタケは切れた。
竜並みの突っ込みをビシッと3人の男等へぶつけて。
男3人は、大人しかった少年が突然大声を出した事にビビル。
さっきまでは猫を被ってたから大人しかった。
タケは本来、黒銀の頭と共にいる不良。
可愛い顔をしてても、凄めばそれなりの迫力もある。
これには背後から近づいていたもう一人の少年も驚く。
驚いた口許が、楽しげに緩んだ。
一方男達も、何時までも驚いてはいない。
人数の差を活かし、無理矢理にでも連れ込もうとしている。
こうなっては立派な誘拐罪。
それ以前にも偽証罪・詐欺・にも値する。
「つべこべ言わずについて来い!」
「離せよ!」
「うるせぇ!騒ぐな!」
ガツ!
掴まれた腕を振り払ったタケ、すかさず逆の腕を掴まる。
振り払う際荒上げた声に、苛立った男が頬を殴った。
しかし、これで怯む事だけはしない。
弱いと思われたら最後だもんな、ケンカには慣れてる。
俺はあんま活躍出来てねぇけど・・・。
今は一人なんだ、俺が俺の力で乗り越えなくちゃ駄目なんだ!
殴られて血が滲んだ口許を、自分の手の甲で拭う。
決意の固まったタケの目、その色が変わる。
生き抜こうと決意した目に、男達も息を呑んだ。
さっきとは違う、気迫を感じた。
「その辺にしときな、これ以上騒いだら此処にいれなくなるぜ?」
双方が黙った時、背後から聞こえてきた声。
若い感じのこの声、自分の後ろから来てるらしく
その姿は俺には見えない。
けど、向かい合ってる男の顔が 焦ってるのは分かった。
背中から伝わる只ならぬ緊迫感。
簡単に首を動かせない隙のない気配。
「決断は早めがいいんじゃないかい?俺は気が長くないんでね」
「く・・っ!後もう少しだったのによ!」
「勝てないと分かって吼えるのは惨めだぜ?」
「今日の所は止めてやるよ!」
覚えてやがれ!とか叫び、逃げ腰で3人は立ち去った。
何処の世界でも、捨て台詞は同じか。
そう思いながらタケは見送った。
それから隣に立った少年を、ゆっくり見てみる。
またしても、変わった服装だなぁ・・それとも此処じゃ当たり前?
黄と橙色の着物に、茶色の皮防具。
腕には当て具が付いている。
上衣は肩に羽織ってるだけ、胸元には変わった形の装飾物。
耳飾も派手で、羽の飾りだ。
コイツ・・・隼人みてぇ、女の子とか好きそう。
ならなんで俺を助けたんだ?
「ヤローに見つめられても嬉しくないんだけど」
「ムカッ、じゃあ何で助けたんだよ。」
ダル気に視線を逸らされて、素直にムッとしたタケ。
思ってた疑問を、正直に目の前の少年へ向けた。
少年って言っても、見た感じ歳は近そう。
だから余計にその口の利き方に腹が立つ。
人を上から見下すような感じ。
しばらく言葉が途切れたが、沈黙を紅い髪の少年が破った。
「オマエ何処から来たんだ?本当に相模からなのかよ」
「相模は相模でも、こうゆう景色じゃない相模から。」
「はあ?オマエ、俺をからかってんの?」
「からかうも何も、ホントの事言ってんの!」
木の上で聞いてた時、仲間を探してると言ってた。
言ってる事は理解出来ないが、外国人ではないらしい。
よく貿易で関わったりするが・・顔の造りも日本人っぽいな。
此処とは違った相模、ソコから来たコイツと仲間。
是非会ってみたいね、コイツも嘘は言ってる目じゃないし。
「仲間の事は任せてもいいよ、条件があるけど。」
「条件?」
「オマエのいた所の事を俺に話す事、それが条件。」
「なぁ・・そんなんでいいの?金とか取るんじゃ・・・」
態度をガラリと変えた少年に、さっきのような事を疑ったタケ。
上目遣いで見上げ、心配そうに聞く。
子犬のような眼差しに、咄嗟に思った 苦手なタイプだと。
「金なんかいらないさ、此処は物騒だし仲間の連絡は
安全なトコで受けた方がいいだろ?」
「それはまあ、そうだけど・・」
「その間は、身の保障はするぜ?どうだい?」
どうだい?なんて言われてもさ、拒否権なくない?
確かにこの場所は物騒だし、俺には行くあてもない。
それなら一か八か、コイツに賭けてみよっか。
何となくだけど、コイツは悪い感じしないし。
オマエ甘いなぁ〜って、つっちーなら言いそうだけど
今はどんな事でもいいから、行動しなくちゃな。
「分かった、宜しく!俺は武田啓太、タケでいいぜ?」
「姓があるなんて、貴族の残りか?まあいいか
俺はヒノエ、字があるならそっちで呼ばせてもらうよ。」
パッと明るい笑みを浮かべ、タケは少年へ手を差し出す。
その手に気づいた少年、何やら疑問そうな顔をしたが
考えるのを止めて、名乗りながらタケの手を握った。
不思議な響の名前・・・何処か、表すにはピッタリの名だと思った。
この不思議な少年との出会いが、タケに思わぬ再会を用意していた。