流転 二十五話Ψまた後でΨ
城の最上階から、入り口の門を眺め
痣を持つが、玉を持たない青年の姿を視界に捉える。
因みに、が皆を待ってる門は
城への入り口の門じゃなくて、もう少し城に近い第二の門だ。
一番最初の門なんかで待ってら、城からは見えたりしない。
「あの者、名は何と言うのだ?」
「はい、彼はと申す者。」
『』その名を聞いて、義実は再び動きを止めた。
二の姫と同じ字が頭に付いている。
だが、それだけでは別段気に留める必要はないではないか。
少し過敏になっている自身を落ち着かせる。
「伏姫が言うには、彼の生まれはこの安房でどうゆう訳か玉梓の呪いと波長が合い
此処とは違う異世界へ飛ばされ、その際安房で過ごした記憶をなくしまた此方へ呼び戻されたのだとか・・・」
「なんと・・!今その者は齢幾つなのだ?」
長い説明を信乃がした途端、聞き入っていた義実が素早く反応し
信乃に掴みかかりそうな勢いで話の先を急かす。
豹変といっても過言ではない反応に、皆が圧倒される。
圧倒されながらも、信乃は義実の問いに答えた。
「多分私よりは年上かと・・残念ながら詳しく聞いておりませんので。」
「そうか、すまなかった。驚かせてしまって。」
「いえ、何れお会いする時があると思いますから。」
「`大さま!」
義実も落ち着きを取り戻し、話も終わろうとしていた時
階下から、幼い子供の声で`大を呼ぶ声がした。
それと同時に、タンタンタンと軽快に階段を昇る音がする。
皆が音と声のする方に顔を向けたと同時に、活発そうな少年が現れた。
空色の着物に身を包み、長い黒髪を高く結っている。
「`大さま!お帰りなさい!」
階段を昇り切ると、目の前にいた`大に勢い良く頭を下げた。
現れた少年を見て微笑み、`大は少年の傍へ歩み寄る。
`大は、少年を『親兵衛』と呼んだ。
親兵衛は`大をとても慕ってるのが、見ている側にも伝わり
自然と微笑ましく見えて、緊張も解ける。
自分の傍に来た`大に、落ち着かない様子で親兵衛は言う。
「`大さまにお話したい事が沢山あったんです!」
「おお、そうか・・話は後で聞こう」
とても嬉しそうに言葉を紡ぎ、`大に懐いている様子。
そんな親兵衛へ、客人の前だぞ?と義実が諌めるがきついものではない。
義実も、親兵衛を大切にしてるように見えた。
義実に言われ、ハッと我に返った親兵衛は視線を信乃達へ向けて
素直に頭を下げて言う。
「失礼しました、親兵衛と申します。`大さまのお陰で、この城に仕えさせて頂いております。」
「そうしていると、まるで本当の親子のようだな。」
本当の親子ではないが、親兵衛とのやり取りを見て
誰しもがそう思い、義実がその代弁をするかのように2人に言った。
信乃達も、自然と笑顔で挨拶した親兵衛へ一礼し返す。
それから信乃達は階を下り、出かける支度をしに向かった。
親兵衛と共に下りようとしていた`大を呼び止め
義実は未だに気になっている事を問うた。
「大輔、そのとやらをどう思う。」
「覚えていらっしゃいますか?姫さまが姿を消された歳を。」
呼び戻された`大を少し待っていたが、二人で話し始めたのを見て
階段の所で待っていた親兵衛は、気を使い下へ下りて行った。
義実の問いかけに、`大は当時の姫の年齢を問い返した。
「まだ二十歳だったな、姫は。」
「ええ、そして見た所殿も二十歳過ぎです。
しかも、玉梓の呪いを受け自害なされた伏姫と若き日の私達を見ているのです。」
本人から聞いたから、間違いはないだろう。
本人も、その事を不思議に思っていたようだ。
1つの予感が芽生えているが、確信にまで至らない。
原因としては、年齢だ。
あの日から十数年は経過している、もし姫が此処にいるなら三十にはなっている。
だが、何も繋がりがないとは思えなかった。
ΨΨΨΨΨΨ
現八達が、城へ入ってから大体四半刻(30分)。
そろそろ戻って来るだろかな、と思い視線を城へ向けた。
その時まさに、上から自分を見ていた義実と目が合う。
一方で、義実も此方を見たと目が合っていた。
風に靡く結い上げられた髪、薄緑の袴に身を包みスラリと長い身長。
美しく整った顔は、やはり姫や伏姫と似ている。
「――伏姫の加護を受けし、異界の者・・か。」
義実の呟きは、には聞こえないが
自分を見ている事だけは分かった。
あの人が、本当の父なのか?
それも、記憶が戻れば分かるのだろうか。
方法は分かってないけど・・ん?誰かが来るな。
もう出発か?と思って立つと、近づいて来るのは全く知らない男だと気づく。
でも・・何か感じる、そう・・・現八達と同じ清らかな空気。
その男は1頭の馬に跨り、腰には黒くて長い鞘が差されている。
何故かそのまま見送る事が出来ず、男が馬の腹を蹴る前に声を掛けた。
「アンタも犬士なんだろう?何処へ行くんだ?」
「お主は誰だ?ワシが何処へ行こうと関係はないだろう。」
前へ立った事で、男も馬を止める。
その場から動かずに問いかけると、男は鋭い視線をへ向けた。
確かに見ず知らずの関係、呼び止める義理もないが・・・
少し言葉をなくし、考え込むようにしたへ
男の方からその目的を話した。
「ワシは仇討ちに行く、それを果たすまで仲間などいらぬ。」
「仇討ち?何故そんなに拘るのだ?仇討ちとは、そんなに大切な事なのか?」
「当たり前だ、ワシはずっとそれだけの為に生きて来た。」
「恨み憎しみ、それを果たせばそなたの憎しみは終わるのか?
本当にそれが正しい事なのか?」
「何が言いたい・・・ワシには、仇討ち以上に大切な事などない。」
「その為に、アンタの大切な人を巻き込むかもしれないぜ?
それに、恨みや憎しみは何も生まない。生むのは新たな恨みと憎しみだけだ。」
初対面の相手へ、遠慮する事なく本音をぶつける。
その言葉は、直に道節の心へ語りかけてくる。
扇谷定正に主君を殺され、それからは復讐の為だけに生きて来た。
今更それを変えるつもりはないが、この青年の言葉もまた正しい。
初めて会うのに、何故此処まで気にするのか。
真っ直ぐで、綺麗な目をする心の正直な者だと道節に思わせた。
「確かにお主の言葉は正しい、が。ワシはそうにしか生きられん。まあ・・お主には分からぬだろう。」
「ああ、残念だが分からない。俺は感情が欠けているから。」
隠す事もなく、初対面の男にはそう教えた。
分からない事は分からない、正しい事は臆せず言う。
何とも清々しい青年の物言いが不思議と気に入り
道節は青年に名を問うた。
「俺はという、アンタは?」
「ワシは犬山道節忠与、痣は左肩で玉の字は『忠』だ。」
「『忠義』だな、だからアンタは主君の仇を討とうとしてるんだな。」
「お主は変わっているな、まあいい・・・また後で会おう。」
「そうか?1つ言っとく、アンタはその仇をきっと討たない。」
「なに?」
「俺の言葉が正しいって分かったアンタなら、きっと気づく。」
それだけ言うと、道節が問い返す前には馬の腹を蹴り馬を走らせた。
その為道節は手綱を握るしかなく、大きな謎だけを心に残す事となる。
ΨΨΨΨΨΨ
「犬塚殿、そなたの許婚殿こそ 鷹に攫われ行方知れずになっていた里見の三の姫・浜路姫なのです。」
「え?浜路が・・・里見の姫?」
が道節と会っている頃、信乃達も思いがけない話を聞かされていた。
自分の許婚が、実は攫われて行方知れずになっていた里見の姫。
そう聞かされて、驚かない訳がない。
しかし現に、浜路は里見の紋章である牡丹の印がある短刀を持っていた。
三の姫がいなくなった経緯も、聞いた話と酷似している。
否定のしようもなかった。
「そしてもう1人、里見の二の姫の姫も行方知れずだ。」
「貴方方と行動を共にしている殿と、とても似た姫なのです。」
まさかが、その二の姫だと言いたいのだろうか?
しかし、幾ら似ていてもあやつは男じゃろう。
時たまそうには思えん時があるがな。
はなっから否定も出来ん、身内がそう言っているなら余計。
義実から大体の話を聞き終えた現八達は、何とも複雑な気持ちであったが犬士を探すべく城を出た。
信乃の許婚が三の姫、同行しているは二の姫に似ている。
何とも不思議な巡り合わせというか、必然なのか。
馬の元へ行くまで、皆無言で向かった。
門の前で待つも、城から出て来た皆の姿を捉えた。
途端に安心感が胸に湧く、不思議だな・・姿を見ただけなのに。
これで声が聞けて、触れられればまた不思議な気持ちになるんだ。