魔手
洛西へ行くといい、と助言された。
素直に西へと向かった。
道中忘れずに屯所を知らないかと聞くのを忘れずに。
だが聞く度に聞き手の人々が眉を顰めるのが気になった。
どうして屯所の場所を聞くと困ったような、嫌そうな顔をするんだろう。
しかも中には私の方を見てヒソヒソ話もしてるし・・・・
もしかして・・・
私が揚羽の花魁だってバレたのかしら?
間違ってもそうではないと気づいてないのは本人だけだったりする。
はまだ知らなかった。
新選組とはどのような集団なのかを。
彼等がこの京でどう呼ばれているかなども。
洛西へ着く頃には、屯所の場所を聞きまわっている女がいる
と、広まってしまっていた。
そうとも知らずには辺りを見渡しながら歩く。
早く見つけないと日が暮れてしまう。
これはまた誰かに聞かないとかしら・・・
そう思い始めた頃、背後に近づく影があった。
そしてその影はへと手を伸ばし
力のまま腕を掴んで引き止めた。
「おい姉ちゃん」
「―――っ!?」
「ちょっと聞きたい事があるんだ、答えて貰おうか」
「な、何ですか突然・・・・」
あーーーっ!と叫びそうになって寸止める。
私を呼び止めたのは、かなり見た事のある人たちだった。
そう、あの葵屋で自分を組み敷いた挙句
怒れる沖田さんの強烈な蹴りを見舞われた人。
それと取り巻きの二人だった。
何でこうも会ってしまうのかと不思議になったり・・
しかも聞きたい事があると言う。
判断はそれからでもいいと思い、取り敢えず向き直る。
呼び止めた男達も素直に向き直ったに気を良くしたのか
掴んだ腕を離して質問をしてきた。
「随分と新選組の屯所が何処か聞き回ってるみてぇだが姉ちゃん」
「それは」
「もしかして隊士の誰かの女じゃないだろうな」
「違います、私は使いでお客様の忘れ物を届けに行くだけですよ」
「客ぅ?何処の店だ」
「お侍さんも行った事ある店ですよ」
「隠すつもりか誤魔化すつもりかてめぇ」
「違いますってば!!本当ですよっ」
聞かれたのは私が屯所を探し回ってる理由。
それがどうして聞かれるんだろう?
もしかして教えてくれるのかな。
でもそうでもない感じだなあ・・・・・
やたら根掘り葉掘り聞かれるので
流石に不安になってきた。
取り敢えず揚羽の花魁だとバレないように使いの者って言ったけど・・
通行人がいるのも構わずに詰め寄られる
だから自然と視線を集める状況。
どうしたらいいのか悩む、強引に何処かへ連れて行かれるのではないか
そう思い始めた時、またしても声がかかった。
とても低くて色気漂う声が。
「その女は俺の連れだ、手を離してもらおう」
「あ・・・」
「何だと・・・・・!?」
「俺は物分りのいい人間が好みだな」
「くっ・・おい、引き上げるぞ」
「「ああ」」
振り向いて言葉が詰まる。
その人は、何処にいても目立つ人だった。
しかも葵屋でほんの少しだけ言葉も交わしている。
その人が現れると、何故か私を呼び止めた男達までも驚いていた。
鋭い視線を巡らせた途端、歯噛みしつつも任せるように立ち去ってしまう。
あまりにも早い出来事にポカーンとしてしまった。
確かに眼光鋭いけど、綺麗な人だよね。
日に透ける綺麗な金の髪。
黒地に白の着物姿、それは紛れもなく葵屋の闇の中で見た人。
その人が私の目の前にいた。
振り向く様まで綺麗な人だなあ・・・・
と見惚れていると呆れたような声音で問われた。
何か今日は朝から質問されてばかりだわ。
「屯所へ行って何をするつもりだ?太夫」
って、バレてる?
何とその人、普通の着物なのに化粧も薄いのに
私が太夫だと見抜いた。
口ぶりからして何か知ってそうな感じ。
此処は洛西だし、前も会ったことある人だからこの人にも聞いてみよう。
バレてるならいいかと腹をくくり、私は同じ質問をぶつけた。
「新選組の屯所、ご存知でしたら教えて下さいませんか?」
「ほう?臆せず聞くとは面白い・・」
「(いや、面白がられても)」
「意思を貫き強情、ふ・・・父親にそっくりだな」
「・・・・・え・・?」
「その心根に免じて教えてやろう」
「あ、あのっ」
「何だ?」
聞いたら何故か面白がられた←
それはいいとして場所が分かるならと以前、風間千景と名乗った人の答えを待つ。
だが、発せられたのは父親とそっくりだと言う言葉。
この人は・・父を、知っているんだろうか?
私ですら声しか覚えていないのに。
母の事はうっすらと姿を思い出せるのに、父だけは姿が思い出せない。
「貴方は父を・・・・知ってるんですか?」
「・・・そうだと言ったら?」
「知りたい・・です、私は子供時代を覚えてなくて・・・」
「知る事が全ていい事ではなくてもか?」
緊張が走った。
風間さんの言葉一つ一つに、深い思いが込められてる気がして。
過去を知ってみて、いい事ばかりではないと彼は言う。
もしかしたら聞かない方がいいのかもしれない。
それでも私は知る必要がある気がした。
の表情から決意を感じ取った風間。
いいだろう、と呟くと先ず告げた。
「だが此処では話せん、故に今宵この俺の座敷へ来い」
「其処へ行ったらお話ししてくれるのですか?」
「ああ、約束は違えぬ。」
座敷へ来るように言い、場所を書いた地図もくれた。
父を知るか知らないかを話すのに、わざわざ場所を変える程なんだろうか
それから風間さんは、屯所への道も教えてくれた。
どうやら八木邸、と言う所に屯所があるらしい。
気になる事ばかりだが、先ずは屯所へ急いだ。