惑い
俺は、これ以上ない位の温もりを味わえた。
今まで実の母からは与えて貰えなかった愛情。
『抱きしめる』という会話さえ なかった。
それを今、親友のお母さんから貰ってる。
此処に来てよかった、前に進んでよかった。
俺はそっと、遠慮がちにのお母さんの胸に顔を寄せた。
おばさんの温かい手が、躊躇いもせずに俺の頭を撫でる。
とても安心出来て、そのまま目を閉じた。
その様子を、竜は静かに見守った。
「おばさん、おじさん・・本当に有り難うございました。」
「お礼なんていいのよ、私達も会えて良かったわ。」
「本当に、本当の事が知れて良かった。」
涙を拭いながら、は顔を上げ 二人を見る。
おばさん達の目も 僅かに潤んでいた。
「・・また来ても・・・平気ですか?」
少し畏まってから、俺は二人に聞いてみた。
和解は出来ても、そこから先は二人の許可がいる。
心配そうな目で二人を見る、その俺の手が温かみを持った。
吃驚して手を見れば、何時の間にか竜が隣にいて
俺の手を握っていた。
何握ってんの!?という目で見ればしらばっくれられる。
しかも、おばさん達の前で!!解こうにも
見られてると意識すると、気まずくなりそうで出来ない。
くぅーーー!絶対それ見越してやってんな?コイツ!!
それでも、直接伝わる温もりは 悔しいけど安心出来た。
「当たり前の事を聞かないで、私達もそれを望んでるし
もちゃんに会いたいと思うの。」
「そうだな、誤解だったとは言え 辛い思いをさせてしまったし。」
二人共ニコニコして、許可してくれた。
こんなにも・・温かい目をして笑う人達だったんだね。
俺は心がとてもいっぱいになって、泣きそうになったけど
ちゃんと二人にお礼を言って、病院を後にした。
残念だけど、はまだ安静な状態だから
急に刺激するのも悪いと思って 次の機会にした。
竜も それもいいんじゃねぇのって、言ってくれた。
外に出てみて、俺は吃驚した。
スッカリ夕方になってて、人通りも帰宅ラッシュになってる。
気がつかなかったけど、随分長居しちゃったんだな。
それだけ・・・あの空間が居心地が良かったって事か。
「時間が経つのがはぇーな」
「ああ・・わりぃ、こんな時間まで付き合わせちまって。」
夕暮れの空を見上げ、息を吐くように言った竜。
その言葉が、付き合わせちまった引け目を煽り
すかさず竜へ 謝罪の言葉を吐く。
すると竜は、別に と言うとニッと笑って
またしてもの動揺を煽るような言葉を残した。
「の泣き顔がまた見れたし、損はなかったな。」
また??・・・ああ、あの時の事かよ。
柴田達とのケリが着いた時、俺は泣いちゃったんだった。
またしても、そうゆう事はよく覚えてるなぁ・・・。
視線を竜から逸らして 自嘲。
「今まで俺抱きつかれたりしてんの黙って見てたけど
好きだって気づいたし これからは簡単に許さねぇから。」
決意表明。
って、は!?隼人に続いて竜まで何言うんだよ!
抱きつかれたりしてたの、見てたのは知ってるよ?
それを許さない・・って?どうなるんだ?これから。
そのせいで、コイツ等ケンカとかしたりしたら・・
俺が女なんて知れたばかりに、コイツ等の絆が壊れたら
俺 どうすればいい?
「駄目だ!俺の事なんか好きになんな!」
「無理」
壊したくなくて言ってるのに、またしても竜はキッパリと答えた。
人の気持ち無視すんなよ!(怒)
あまりにも考えが伝わらなくて、俺も苛々して来る。
俺を見る竜の瞳は、とっても真剣。
竜が真剣なように、俺だって必死。
だって、いいのか?家から縁切られたんだぞ?
そんな女 好きになってそれでいいのかよ。
隼人も竜も・・・自分の気持ちに真っ直ぐで、拒めない。
先に俺の事好きって言った隼人にだって、まだ答えてないのに。
「だから・・っ」
「とにかく、誰が相手でも俺譲らねぇから。」
「おいっ!」
俺の声なんて無視、どっちも勝手に言うだけ言って帰りやがる。
付き合い長いと此処まで似るもんなんか?
こうなるなら、あのまま男でいれば良かった。
けど・・自分の事打ち明けるべきだったし。
こうなったからこそ、俺達の絆も強くなった。
自分だけの気持ちで動けない。
『オマエこそ、俺達と結んだ絆 勝手に断ち切んなよ。』
柴田とのケリが着いた時、俺の傍に来た竜が言った言葉。
自分が一番分かってる、だって最初の時俺が竜に言ったんだ。
今また自分が言われるとは・・
恋って何だ?俺はした事なんてない。
人を好きになるって、どんな感じ?
隼人も竜も、どっちも魅力的(すぎる)。
でも俺の大切な仲間で、失いたくない人達。
二人共優しいし、仲間思い。
顔はいいし、声もかなり色気が・・ってそれは関係ねぇな。
「はぁ・・女になるのって大変。」
竜の姿も見えなくなり、はぐったりした面持ちで
自分の住むマンションの門を潜った。
☆☆
翌朝、の両親と和解出来た喜びと
竜に言われたセリフの両方を思い出し、笑顔の後 沈んだ顔に戻る。
またしても百面相すんな、とか言われそう。
幸い自宅だからそれはない。
女だと皆に認識され、それで自分自身も女に戻ってしまうのが
男として過ごして来てただけに、受け入れ難い。
二人の男に告白され、動揺したり照れたりしてんのが違和感。
そして今日は、待ち焦がれた見学会。
楽しみにしてるのは、俺と竜以外の奴等。
そう、女は俺がいれば十分と抜かした竜。
あの時 隼人とはケンカっぽくなっちまったんだよな。
でもアレは、隼人が悪いだろ。
俺に告っといて、女なら誰でもいいんか?
そう思うのは・・・隼人を意識してるから?
気づいた事を、俺は認めたくなかった。
中学生達より先に登校した他の生徒。
勿論3Dの連中も、この日ばかりは遅刻者がいなかった。
女に飢え過ぎだって、オマエ等。
中学生達が到着するのを見ようと、3Dは屋上へと移動。
先頭切って駆け出すつっちー。
その姿を呆れ顔で見てる竜。
つっちーに続いて駆け出したのは、浩介とタケ。
ガキだなぁ〜あの三人・・竜と隼人もああだったら楽だったのに。
でも一緒になって騒いでる姿、隼人は想像出来ても竜は無理。
「は?いかねーの?」
特に動く事なく座ってると、隣の隼人が声を掛けて来た。
チラッと見た隼人は、行く気満々で既に席を立ってる。
声を掛けられて、隼人の方を見てる間も
左隣りから、ずっと竜の視線が注がれていた。
「俺?どうしようかな・・行こうかな・・」
「よし、それじゃあ竜は?答えは分かってっけど。」
「分かってんなら聞くな」
その視線が耐え切れず、俺は隼人を必死に見つめ
今は竜と二人になりたくないって気持ちから
屋上に行くと快諾。
少し焦りの色が見えた隼人、それには触れず一応竜へ問いかけた。
竜はの事をジッと見つめたが、特に引きとめはせず
隼人の問いかけに、無表情で答えた。
どうやら、竜は行かないらしい。
それを背中で聞いていた俺、思わずホッと息を吐いてしまった。
病院に来てもらう時は、あんなに安心出来た竜の存在。
どうしても今は怖くて・・一緒にいれなかった。
の態度で分かった竜も、無理に止めはしなかった。
教室を出て、隼人と並んで歩いて屋上へ向かう。
今分かった・・竜は、ずっと気持ちを殺してたんだ。
本当は熱い心を持っていて、一生懸命。
一本気な性格は、真っ直ぐにストレートに気持ちをぶつける。
ハッキリした答えが出せないから、真っ直ぐな竜の目を見れない。
「・・・会えたんか?」
隼人も竜との間に、何か気まずそうな雰囲気を悟り
会話をする事を心がけ、まずは親友の事を聞いた。
ぎこちない気遣い、竜みたいに完璧ってゆうか上手い気遣い方
じゃなかったけど心配してくれてるのは分かった。
「会えたよ、ちゃんとの両親とも分かり合えた。」
「そっか、良かったじゃん。」
言葉にはし切れない穏やかな、はにかむような笑み。
どうしてか、こんな風に思ってしまった。
心が熱を持つような、不思議な感覚。
愛しい・・ってゆうか、ギュッとしたくなるような微笑。
竜の笑顔も、とっても安心出来るけど
ホッと出来る感じじゃなかった。
確かに色んな恥ずかしい姿を見せてるのは竜だけど。
隼人は、何だろう・・上手く言えない。
傍にいると心が熱くなる。
こんな風に思ったのは、初めてだ。