流転 二十四章Ψ待ちぼうけΨ
自分が寝てる間に、目的地に到着していた。
何か・・ダメダメだな、俺。
それにしても、夢で良かった。
俺が自分の手で現八を殺すなんて、間違いでもあって欲しくない。
悪趣味な奴だよ、玉梓。
それだけこの里見を憎んでるって事か。
『憎む』『恨む』なんて言葉は知っていても、意味を知らない。
響き的に知りたいとは思わない感情かな。
「もう大丈夫か?」
「ああ、それも現八の玉のおかげだ。」
「そうか、なら荘助にも礼を言っておけ。」
何故?と問うと、握らせるよう言ったのが荘助だからだそうだ。
詳しく聞けば、苦しむ俺を見ててどうすべきなのかと思った時。
皆が持つ、姉上の数珠が光り
何か意味があるのではないか、と信乃と荘助が思って
荘助が持たせるよう言ったのだとか。
「有り難う、おかげで悪夢は去ったようだ。」
「悪夢?」
小文吾が問い返してきたが、俺としては内容は言えなかった。
見るのも、口にするもの嫌な夢だったから。
もう、忘れてしまいたい。
が口を閉ざしたのを見て、荘助がバシッと小文吾の口を塞ぎ
信乃と現八が小文吾をジロッと睨む。
どうやら、夢については触れてはいけないようだ。
「じゃあ着いた事だし、里見の殿に会おう。」
「そうだな」
話題を変えるべく、信乃が本題を持ち出し
皆もその意図に気づくと、すぐに同意。
御殿へ向かう事とした。
だが、其処に否を唱える者あり。
「すまないが、俺は此処で待ってる。」
そう だ。
此処は玉梓の呪いに満ちた、全ての始まりの地。
外よりも中の方が安全なのだが、不思議と行けない気持ちでいた。
何よりも、本当の父に会える自信というか・・・
まだ会うべきではないと、感じてる。
「決して安全とは言えんのじゃぞ?それでも待つのか?」
「も俺達の仲間だ、共に来てくれないか?」
心配し、身を案じてくれる現八と信乃。
荘助も信乃の言葉に頷き、一緒に行きましょうよと言っている。
小文吾も遠慮する必要はないぜ?との肩を叩いた。
皆の気持ちは嬉しい、けれど今は会わない方がいいと思うから。
「皆、有り難う。でももう決めたんだ、頼む、行って来てくれ。」
微笑みを浮かべたの目には、強い決意の意。
これはもう、何を言っても無駄のようじゃな。
意思の強さに、現八は小さく笑みを浮かべた。
それからの前へ行き、ポンと頭に手を乗せると
重みを感じて顔を上げたに、仕方なさそうに言った。
「分かった・・が、せめて門の中で待て。」
「分かった、有り難う。」
「では、俺達は行って来る。」
「何かあったら、迷わず知らせに来て下さいよ?」
「そうだの、ワシ等は仲間だ。」
現八の言葉に頷くと、皆がに声を掛け
ポンと頭とか、肩などを叩くと入り口の門を開けた。
開いた門を潜り、だけが潜った先に留まり謁見へ向かう仲間を見送った。
しばしの別れ、またすぐに会える。
今の所悪夢はナリを潜めているし、この地には姉上の息吹も残ってると思うから。
ΨΨΨΨΨΨ
さて、門の前に1人を残した一行。
参上した4人を迎えたのは、行徳で会った`大法師。
また再会出来た事にホッとした面々、だが`大は1人ではなかった。
その後ろに、旅の坊さんのような・・・(オイ)
そんな男、信乃と荘助は見覚えがあった。
大塚村を出た街道で、説法をしていた旅の僧の男。
「皆様よくぞ参って下さいました、殿は?」
「はい、は門の傍で待っております。」
`大の問いに、信乃がすぐに答えたが残った事に驚き顔色を変えた。
それを知ったからと言って、迎えに行く事はしない。
現八がは頑固だと言っていたし、無理に連れて来る事もないと思ったから。
今は、八犬士達が5人まで見つかった事を主君に伝えたい。
呪いが掛けられた地だが、見張りもいるし気配なら感じるだろう。
と`大は思い、信乃達を義実の元へ案内した。
城の中は綺麗な青い布がはためき、神秘的というか清らかな感じに溢れている。
その一室には、一枚の着物が掛けられていた。
綺麗な、内掛けだと思った。
木の板が張られた廊下、青い布がはためく中
5人になった犬士達は歩く。
歩く事しばし、5人の犬士達が通された先。
上座に座った1人の男を見つけた。
里見の紋章を着物に付け、家来を従えし者。
――里見義実、その人だった。
皆その姿を認めると、全員義実の前へ座り頭を下げた。
しばらく自分の前へ座った5人を見つめていた義実だが
感嘆の息を吐くと、彼等へ向かって言葉を掛ける。
「面を上げてくれ」
掛けられし声、右端の信乃から荘助・現八・小文吾・道節と
順番に下げていた顔を義実へ向かって上げた。
`大が連れて来た男も、犬の姓を持ち『忠』の玉を持つ犬士だった。
それぞれに若々しく、強い意志を見つけた義実と家臣達。
傍に控える者が嬉しそうに言葉を漏らす。
「よくぞ、参ってくれた。」
「伏姫さまは、こんなに立派な若武者達を・・」
集った家臣達皆が、実に嬉しそうな顔を現八達へ向けている。
そんな現八達に、上座から5人の前へ来て膝を立てると
義実は5人へ仕えて欲しいと、自ら頼み込んだ。
信乃達としては、その気持ちは固まってきている。
しかし、道節だけは聞き入れ難い願いだったようだ。
少し強い口調で、義実に『犬士』の意味を問いかけている。
義実は、その道節に簡略だが説明を施した。
「伏せという字は、人に犬が寄り添っている。
皆犬の姓を持つ者・・そなた達は、伏姫の定めによって結ばれた犬士なのだ。」
義実の言葉に、道節は信じられないと言った顔で
横へ座っている4人の男達を見た。
これを聞いていた現八は、思い切って義実へ1つ問いを向ける。
「義実殿、俺達の他に共に此処まで来た者がおるのじゃが
その者、玉は持たぬが鎖骨に同じ痣を持っておる。」
「なんと・・そのような話は、初めて聞いたな・・・」
現八の発言には、居合わせた全ての者が目を見張ったが
`大だけは先に聞いていた為、驚く事なく会話を見守っている。
そのうち義実の視線が、真意を問いただすかのように自分へ向けられると すぐさま答えた。
「犬飼殿の言葉は真ですよ、現にこの`大も会っています。」
「ほお・・そうか・・・で、その者は今何処に?」
信頼している`大の言葉、義実も目を輝かせ更に問いかける。
他の家臣達も、この話題に興味深々のようだ。
現八達から、まだ会えないと言っていた事を聞いていた`大は
落ち着かない義実へ、冷静に告げる。
その者は外で待っている、まだ会えないと言っていた事も。
「そうか・・・それは残念だが、姿くらいは見れぬか?」
「ならば、城の最上階よりこの地を見せながらが宜しいかと。」
「そうだな、では犬士達よついて来てはくれないか?」
「は」←全員。
断る訳にも行かず、姿を見せる事くらいならいいだろうと思い
現八達は義実へ同行の意を示した。
道節だけはそれに同意せず、下で待つとだけ言うとその場から立ち去った。
呪いに怯えているのか、城内はとても静かで
話し声や人の気配すら薄い。
決して強い呪いではないにしろ、確実に玉梓の呪いは効果を発している。
城の様子を眺めながら階段を昇る事数十分。
やっと上への階段がない階へ着いた。
どうやら最上階へ着いたらしい。
最上階には、1つだけ外が見れる所があった。
其処へ皆で歩み寄り、前列に義実と信乃・荘助と立ち
後列に現八・小文吾が立ち、`大は後方へ控えた。
「この空では、稲も作物も育たんでしょうな・・」
「ああ、以前は南からの風が吹く 穏やかな国じゃったんだ。」
「――玉梓の呪いか・・」
「でも八つの玉が揃えば、きっと・・・」
其処から見えた空は、どんよりと曇り空気も重苦しい。
小文吾が漏らした言葉に、義実も肩を落として言った。
過去の豊かだった頃を懐かしむ口調の義実へ、現八が短く呪いの事を指摘。
その言葉に希望を見出そうと、荘助も言う。
二人の言葉を、義実は様々な気持ちを巡らせながら聞く。
「殿、我等は一刻も早く、残りの犬士達を探しに行って参ります。」
国の事を思い、自らを責めているような義実に
真摯に目を見て、信乃が犬士を探して来ると申し出た。
願ってもない言葉、その言葉に頷きながら義実は
痣を持っているが玉を持たないその者が待っているという門へと視線を巡らせた。
「あの者か?」
「は・・?はい、あの者がお聞かせした者です。」
「立派な刀を持っている、武士か?」
「いえ一息に説明するのは難しいんじゃが、あの刀は名刀と妖刀。」
「刀は使えぬそうですが、刀には伏姫さまのお力が宿っていて俺達を何度か助けてくれました。」
名刀は正国、妖刀は村正。
そう聞いて顔色を変えぬ者などいない、現に義実も`大も目を見張った。
しかも、どちらかの刀に伏姫の力が授けられているとは・・・。
こうして眺めた姿、何処となく義実は誰かの姿に似てる気がしてならなかった。