何だかんだ口じゃ一匹狼気取ってる感じだけど
俺は昔から、親の意思には逆らえず
言う事だけを聞く人形みたいだった。

だから、君の事を危険に晒してしまうって知りつつ
上からの指令だと言い訳して、自分から何もしようとしてなかった。



第十幕 眩しい人



ラシール国地下
カムイと別れ、地下へ戻ったエリック。

ブロックの組まれた床、同じ造りの階段を下りながら思う。
自分がしている事の大きさと、カムイへの裏切り行為。
それと・・を守る立場にいながらの危険行為。

「はぁ・・・カムイとちゃんに恨まれそうだな」

何て自嘲気味に浮かぶ笑み、2人に対する裏切りだと分かってるのに
手を貸してしまってる自分が赦せない。

この国の重臣達は、以前の過ちを繰り返そうとしている。
それに染まりかかっている自分。
それでいいのか?疑問はある。

<扉>のを守るべく、カムイが作ったガーディアン。
カムイは俺を信用している。
裏切りなのは分かってんだよ、それでも俺は意思を示せない。

親の意見に自分の意見を言い返せない。
言いなりのままでいいのか?

「エリック、何処へ行っていた。」
「魔方陣の端に魔力石を置いてあるわ、貴方が力を注ぐだけよ?」
「――父上、母上。遅くなりました、少し自室へ戻っていた物で」

考えがまとまらないまま、地下に着いたらしく
正面から2人の人物が声を掛けてきた。

パッと顔を上げれば、其処には自分の両親の姿が。
黒いローブを着込みスタッフ(杖)を手にしている。
父親の深い目に見られると、どうしても意思を口に出来なくなってしまう。

だが咄嗟に、カムイと会っていた事は伏せた。
無意識だったのかもしれない。
2人に、カムイと話していた事は言わない方がいいと思った。

「すぐに」

母が言葉と共に示した先に、既に書かれた魔方陣と
使われる魔法を補助する役目の魔力石、紅玉(ルビー)が置かれている。

他の魔術師が力を注ぎ終えた証に、紅玉には十分な魔力が蓄積されていた。
それを確認し、エリックは自分の意思とは反する実験に加担している証として
己が持つ魔力を、魔力石へと注いだ。


ΨΨΨΨΨΨ


生徒会室でルイに魔法治療をして貰っていた
至近距離に迫ったルイの美貌に、ドキドキして落ち着かない。

『ソ・治 水波』

十分近くまで引き寄せ、傷の具合を確認。
そうしてから、ルイは片手の人差し指を口の前添え、低い声で呪文を唱えた。

呪文が紡がれ、水気を帯びた魔力が2人を包む。
周りに集った水気を口の前に添えた人差し指に集め
その指をの腕へ当てた。

すると、ルイの指に纏われていた水気は
優しく回転するようにの腕を包み、癒しを与える為腕全体を隈なく巡った。

優しい魔力、まるでルイその物だとは思った。
彼が抱える闇には気づかずに。

「有り難うございます、ルイさん。」
「いいんだよ、ちゃんは私達の大切な子なんだから。」
「ルイさん・・」
「さあ、そろそろ教室にお戻り。」

恥ずかしくて照れるような台詞をサラリと言ってのけるルイ。
正直に照れを露にした、頬を染めるを感情の伺えない顔でルイは見つめていた。

その表情をが見つける前に、サッと優しい笑顔に戻り
教室へ戻るよう、に優しく促す。
言われて初めては授業の合間の休み時間が終わろうとしている事に気づく。

「本当!有り難うルイさん、私急ぎますね!」
「ああ、慌てなくていい。転ばないように気をつけるんだよ?」

自分を心配してくれるルイに、元気よくハイ!と頷くと
危なっかしい走り方ではあるが、教室目指して駆け出して行った。
本当に眩しいくらい、輝いていて真っ直ぐな子。

これは偽善だね、自分の為に彼女を利用し
カムイさえも利用し、ラザート殿下をも欺いて生きている。
いい人の仮面を脱いだ時、ちゃんはどう思うだろう。

拒絶されるかもしれないね。

そう思うと何故か、酷く胸が痛んだ。
だがそれを、ルイは気づかないフリを決め込んだ。


ΨΨΨΨΨΨ


次の鐘が鳴る前に、と廊下を走る
片腕には、ルイに触れられた感触が残っている。
今日のルイさんも、変わらず綺麗でカッコ良かった。

それは別に関係ないんだけど、何か・・少し違う気もした。
空気は優しくて、口調もいつも通りだったんだけど
張り詰めた何かを纏ってた、時折見せる氷のように冷たい顔。

「私の気のせいかな・・」

だってルイさんは凄く優しいし、気も利くし、魔法も凄いし・・
何たって副会長さんだし・・・・

でもコレって、ルイさんの本当の姿なのかな。

「あはは、私ったら何考えてんだか・・」

本当だよね?ルイさん。
貴方は私に何も隠し事してないよね?

そうよ、疑っちゃ駄目だ。
ルイさん達は、私を全力で守ってくれてるんだから。
疑ったりしたら、彼等に失礼よ。

「あれ?ちゃん?」
「え?あ、エリックさん。」

教室へ向かうの前に、何処にいても目立つエリックが現れた。
燃えるような紅色の髪、綺麗な翡翠色の瞳。
180を越える長身、それでいてカッコイイから余計目立つ。

そのエリックさんは、私とは反対の方向から来た。
生徒会の仕事優先とかで、授業免除なのかな?とか思っていた。

「これから授業?」
「はい、エリックさんは?授業は」
「俺は受けないよ、もう単位は足りてるからな。」
「凄いですねぇ〜あれ、その書類凄く難しそうですね・・・」

単位をクリアし、余裕綽々のエリックを羨み
ふと視線を落とした、すぐにエリックの抱える書類に目が行った。

会長のカムイに渡す物だと思ってるは、逆にエリックの慌てぶりと
顔色が瞬時に冷めた事に驚いた。
同時に、凄く触れてはいけない話題だと悟る。

「まぁね、俺じゃ分かんないからカムイに預けようと思ってな」
「そうですか。それじゃあ私、急ぎますね。」

居心地の悪い空気、書類の話から離れたがっている様子のエリック。
耐え切れなくなったは、自然な持って行き方で話題を変え
エリックに一礼し、彼が頷くのを見てから再びは駆け出した。

隠し事をしてるのは、ルイさんじゃなくてエリックさんなのかな。

そう思わずにはいられない、エリックの困ったような顔が頭に過ぎる。
一体何を隠しているんだろう。
疑問に感じても、エリックには聞けないとは思った。

今は知りたくない・・・知ってはいけない、そう何かが警鐘を鳴らす。

「ごめんな、ちゃん」